新しい大学運営について

松浦敬紀 横浜市大学改革推進本部 最高経営責任者(副理事長予定者)

 

http://www.yokohama-cu.ac.jp/new/matsuura.html より

 

 

松浦 敬紀 横浜市大学改革推進本部

最高経営責任者(副理事長予定者)

 

新しい大学運営について

 

(資料)

 

ただいまご紹介いただきました松浦敬紀でございます。

8月1日付で 横浜市 大学改革推進本部の最高責任者職についたばかりで、若葉マークをつけて試運転中ですが、よろしくご指導ご支援の程お願い申し上げます。

 

 

1.なぜ大学改革をするのか

2.現代社会の求める人材と育成

3.市大の掲げる21世紀リベラルアーツ教育

4.教育システムの3つの柱

5.教育体制の具体的な変更

 

 

等について述べます。

 

 

1.なぜ大学改革をするのか

 

今日、世界は100年から150年に一度という歴史的な大変革期にあります。

地球規模で市場経済化がすすみ、IT革命がそれに拍車をかけています。少子高齢化、価値観の多様化、相対化、社会の成熟化、ソフト化、サービス化の著しい進展など多様でかつ多次元のさまざまな課題に直面しています。そしていわゆる「パラダイムシフト」が起きています。

 

かつて受験戦争が社会的に深刻な問題として受け止められてきましたが、現状は全く変わりました。全国の大学数は702校、今年4月1日付けで国立大学法人に看板をぬりかえた国立大学は100校、公立大学は76校、私立大学は526校あります。それに短期大学が525校あり、あわせて1227校になります。

 

先頃発表された文部科学省の試算では、志願者と入学者が同数(699千人)になる「大学全入」は2年早まって07年度になるとの見通しです。少子化の影響で志願者が減っているにもかかわらず大学・短大の定員が大きく減らないからです。

 

いまや大学は学生が選ぶのであって、大学が学生を選ぶ時代ではありません。実態はすでに全入時代であり、ごく平均的な私大では合格者の歩留り率は30%程度です。300名を確保するためには900名合格者を出さなければなりません。だから多くの私大は志願者をいかに確保するかに腐心しています。

 

昨年度の入学定員の充足状況を見ますと、未充足大学数は147校、短大数は189校で全体のそれぞれ20.9%、27.8%を占めています。私大に限れば28%、短大は45%が定員割れになっています。もう現状は大学・短大は志願者が集中する学校と定員割れに悩む学校とに二極分化が進んでいます。

 

ことほど左様に世の中が変化しました。

 

日本の2000年の歴史の中で、庶民が豊かさを享受できるようになったのは、戦後たかだか2030年のことです。しかし豊かな社会に生まれてきた今の若者たちは、生きること働くことの必然性を失い、フリーター420万人、ニート70万人が活動の場を見出せないでいます。

 

日本の失業率は5%程度(6月4.6%)ですが、これらの不完全就業者を加えると10%をこえる数字になります。日本もまた西欧先進国並みに若年失業に悩む国に仲間入りしているのですが、日本人にぜんぜん危機感がありません。

 

存在意義の明確化と訴求

 

日本がそうであるように、あらゆる組織が世界に向かってその存在意義、いわゆるレーゾンデートルをアピールしていかなければならない、そういう時代であります。

 

大学は教育サービス業です。お客であり、主人公は学生です。学生の満足度を高め、教育環境の充実なしで大学は存立しえない、ステークホルダーの支持も得られません。

 

私たちの大学が、全国の700校の大学の中でその存在意義を明確に打ち出すために大学改革に取り組んできましたのは、1日の遅れが1年もの遅れを招きかねない、この変化が変化を呼ぶ時代にしっかり土台を築き、学生から選ばれる大学に仲間入りしたい、国立でも私立でもない 横浜市 が有する、国際都市横浜のイメージにマッチした大学を築いていきたいという思いからであります。

 

そして学生にとって市民にとってしっかり学ぶことのできる大学、市民の期待にこたえられる大学にしたいということであります。

 

2.現代社会の求める人材

 

現代社会が求めているのは、

 

「創造力」が豊かで、

かつ「積極的な問題発見、解決能力」があり、

「広い視野と豊かな人間性・倫理観」

 

 

を持っている人材です。

 

私たちはこうした人材を育成し、地元 横浜市 内はもちろん 神奈川県 内の産業・企業はもちろんのこと、世界に送り出していきたい、有能な人材を育てそして社会に貢献していく必要があると考えています。

 

こうした人材を育成していくためには、まずはじめから狭い専門領域の教育ではなく、幅広く知識と教養を深め、自ら立ち、自ら律することのできるアイデンティティの確立された人間を育てること、その上で視野を広げ、大局的にものごとをとらえ、判断できる力を養うと共に専門の幅を広げていくこと。この2つが不可欠な要件であります。

 

私の専門分野の1つは人材論や職業論でありますが、そこでよく言っております事は、穴を深く掘ろうと思えば表面を広く掘らなければならないことはよく経験することですね。そこでT型人間、つまり幅広い知識や教養がなければ専門性は深まりません、というわけです。

 

しかし現代は専門性が1つでは産業構造、技術革新や手法の変化で時代に飲み込まれてしまいます。もう1つの専門があればしっかり自立して自分の世界を築くことができるのではないでしょうか。

 

そこで私はT型人間から鳥居型人間へという考え方を提唱しています。神社の入り口に立っている、あの門のことです。

 

 

 

3.21世紀のリベラルアーツ教育とは

 

私たちの大学が21世紀のリベラルアーツ教育を教育の基本方針とするのはまさにここにあります。

 

単に教養がある、視野が広いというのではなく,それが実践と結びついて専門性を深めていくようにするということです。別のいい方をすると、専門性やプロフェッショナルを深めていく上で必要なプラクティカルなリベラルアーツを身につけてもらうことです。

 

また行動力があればいい、積極的であればいいというのではなく、創造性があり、強い倫理観と豊かな人間性があってはじめて現代社会にふさわしい、世界に通用する人材であるとの考え方であります。

 

倫理はとくに重要です。生命にかかわる仕事をするものは、森羅万象に謙虚でなければなりません。

 

組織や企業経営にたずさわる者もまた、法令とルールに反してはなりません。最近不祥事やスキャンダル、個人情報の流出などを起こしている会社も多々あり、コンプライアンスの重要性が指摘されていますが、どのような組織においてもかかわる人たちは法令とルールを順守することは当然のことです。いつも心に手を当て神に祈るような気持ちで仕事に当たらなければ、どこでどのような重要リスクを犯すことになるかわからない、誠に生きにくい、そういう時代だから一人ひとりの倫理観が求められます。

 

4.教育システムの3つの柱

 

21世紀のリベラルアーツ教育を具体化するのが教育システムの3つの柱であります。

 

第1は教育重視。教員にとっては研究も大切ですが、学生にとって何より大切なのは教育サービスであります。先きにも述べましたように大学は教育サービス業の1つです。教員が教育サービスに尽すのは当然です。教育は教員の熱意と学生の自発的な意志による学びによってはじめて成り立ちます。学生の内発的な学習意欲を引き出していくことが教員の本来の仕事であります。そうした視点からさらにさまざまな形で学生の学習や能力開発を支援していきます。

 

そのためこれまでの商学部、国際文化学部、理学部を統合し、多様な領域にわたる学習機会を提供することにしたのです。

 

専門教養の履修では、主専攻(メジャー)と副専攻(マイナー)というダブル専攻を可能とする仕組みを導入します。アメリカの大学ではあたりまえのシステムですが、日本でこの制度をとる大学は非常に少ないのが現状です。

 

第2は学生を中心とします。入試区分にかかわらず2年進級次にコース選択ができるようにします。低学年から自らのキャリアデザインと将来設計ができるように個人個人に指導すると同時にインターンシップの機会を提供し、職業社会に早くから触れ、体験してもらうようにします。仕事や社会活動を通じて自己成長や自己表現することの重要性を実感してもらうことも重要なことです。

 

海外留学プログラムの充実はもちろんのこと外国人留学生との交流も推進します。

 

一言でいえば、学生は学部の教育によって土台をしっかり築くことができるようにすること、その上に柱をたてるのは大学院であるという認識です。社会人が勤めながら学ぶ社会人大学院もたくさんあり、キャリア転換を目指して学んでいます。今年の4月はロースクールが開校し、来年4月は会計、ファイナンスの専門大学院がいくつも開校されます。今年のロースクールの入学者には、医学部や芸術学部の出身者などじつにバラエティに富んでいます。法律家は法学部出身者の聖域でなくなっています。

 

このようにプロフェッショナルに求められる、専門知識、能力や技術は大学院でというアメリカ型の大学院教育の考え方が日本でも浸透し定着し始めたということです。

 

そのためには人の敷いたルールの上をただ走るのではなく自分でルールを敷きしっかり歩む、自分をよく知り、職業的意識の発達した人間を学部でしっかり育てることが求められます。

 

第3は地域貢献。

 

公立大学の公立大学たる所以は、地域社会に貢献することにあります。国際総合科学科にコース横断的なヨコハマ起業戦略コースを設け、市の産業界と連携しヨコハマの伝統と文化に根ざした起業マインドを持つ人材起業家などの育成をはかることにしています。人材の地域還元はもちろんのこと、産学連携によってたとえば医学部では生命科学、理学部ではナノテク技術、環境ホルモン、生物学研究などの分野で、民間と大学の強みを生かし活動の場を広げていくことは今後の課題の1つです。

 

これまでも多様な生涯学習講座を開催し地域に貢献してきましたが、今後も力を入れていきます。

 

2つの附属病院を持って、これまでも患者サービスに努めてきました。さらに向上を図り地域医療の充実を図っていきます。

 

5.教育体制の具体的な変更

 

こうした教育方針を実現するため、来年4月に独立行政法人化を行い、経営と教育・研究機能を分離します。国立大学法人は学長のリーダーシップと権限を強化し、経営と教育・研究機能を集中させていますが、わが市立大学はそれを分離し、経営は理事側が、教育・研究は教員側が当たるという、多分全国の公立大学でも珍しい画期的な体制をとることにしています。

 

3学部を1つにしたのは学部内の壁をとり払い専門の融合をはかって、学生に高い教育サービスを行います。また、看護短期大学部を4年制にして医学部看護学科を設置し、医師だけではなく看護教育にも本格的に力を注ぐことにしています。

 

質の高い看護師を世に送り出していきます。

 

現代の大学生は大学に何を求めているのでしょうか。1つは良い友人を得ること、2つは幅広い教養を得ること、3つは就職に有利な資格などを得て、よい就職ができること、です。

 

もうだいぶ前になりますが、質の高い大学の学生を対象としたアンケート調査によると、現代の大学生は人間形成の手段として従来の人文的教養ではなく友人との交際を選ぶ傾向が強いとされています。そして友人との交際に熱心な学生が大学を幅広い教養を獲得する場所としてイメージしていることです。大学は良い友人を得る場所、よい就職先に出会えるところという現代の学生の期待にもきちんとこたえていくことも大切です。就職についていえば専任のスタッフをおき、キャリア開発の指導、職業開拓によって、職先の水準を上げると共に、職域を広げ学生の希望にこたえていくことができると自負しています。

 

「大学の常識は世間の非常識」とよく言われます。講義に10分遅れて入り、漫談を10分し、終わりは10分早目に終わる、なんのことはない1時間30分の講義の中味は1時間、それで学生も喜び教員も負担が軽いのでよいとされてきました。私たちはそれはないでしょう。学会だからといって度々休講する、それもないでしょう、と世間の常識が大学の常識でもあり、大学の常識を世間の常識にしたいと考えます。

 

かつてどこの大学を出たかではなく、そこで何を学んだかが大切だといわれてきましたが、大学全入の時代に入って、やっと入学後の中味、学習やその内容が問われるようになりました。私たちは学習内容の充実をはかり、偏差値にとらわれない、ぴかっと光るオンリーワン大学にしていくよう努力してまいります。

 

私はこれから、理事長予定者、教職員や大学改革推進部のスタッフと共にその実現に取り組んでいく所存です。

 

横浜市 立大学はこれから内と外から大きく変身します。イメージも変わるでしょう。どうか横浜市立大の今後の動きに注目していただき、進路選択で考慮すべき大学の1つとして生徒にお勧めしていただきたい。

 

ありがとうございました。