『カメリア通信』第28号:

理学部一楽重雄教授の陳情書

 

 

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横浜市立大学の未来を考える

『カメリア通信』第28

  200499(不定期刊メールマガジン)

Camellia News No. 28, by the Committee for Concerned YCU Scholars

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理学部一楽重雄教授の陳情書

陳 情 書

平成16年9月

理学部 一楽重雄

横浜市会議長

相川 光正殿

        陳情者           住所 225−0011

                   横浜市青葉区あざみ野 ********

                                氏名   一 楽 重 雄                                                                               

   件 名  横浜市立大学改革における数理科学の専攻について

 陳情項目

 1 横浜市立大学に数理科学の専攻を設置,または近い将来の復活を横浜市に要請することを決議すること。                                 

  陳情の理由・経緯等

 横浜市立大学の改革にあたって,横浜市は昨年6月に「決めるのは大学です」という市長メッセージを出し,それに基づき10月29日に大学案が市長に提出されました.その大学案を基本的に尊重するとしながら,コースについては、編成数や内容を大学の案を参考にしながら設置者として更に検討するとし,3月25日に至って,カリキュラムコース案を発表しました.この過程で,大学案にあった国際総合科学部理学府の中の「数理情報コース」が削除されました.これを決めた「カリキュラム等検討プロジェクト部会」は非公開であり,公表された議事概要では議論のなかみをうかがい知ることはまったくできません.

5月末には,この問題で日本数学会森田理事長が市大を訪れ,添付した文書を提出し,横浜市に数理科学の教育を重視するよう要請を行いました.これに対する横浜市の回答の中で,数理情報コースを設けなかった理由として,次のように書かれています.

コース設定にあたっては、横浜市が有する意義のある大学という視点から、横浜市の施策や市民・産業界への寄与並びに国立大学や私立大学が数多く存在する中でどのような分野の教育・研究を担うかという必要性や優先性から決めたものであります。数理情報コースについては、数学の専門家を養成するためのコースの必要性は低いと判断し、専門のコースの設置は見直しました。

しかしながら,これを見ても数理情報コースを設置しない理由は,まったく理解できません.むしろ,市民にとって市大に数理科学の専攻を設置することは,いくつかの点で必須と思われます.まず,第1に数理科学科の入試倍率(16年度8.6倍)が全学の中でもっとも高かった事実があります.これは,市民の需要が高いことを示しています.そして,数学の専攻について地理的な分布を見ると,神奈川県内には数理科学や数学の専攻を持つ国公立大学は市大のみです.私立大学に範囲を広げても,市内では慶応義塾大学があるだけであり,県の北部に東海大学,明治大学,青山学院大学があるのみです.卒業生の就職状況もシステムエンジニアの職種などを中心に大変よい状況が続いています.さらに,これからは段階世代の教員が一気に退職することになり,優秀な中学高校の数学教師を養成することは,横浜市民にとって非常に重要なこととなります.

実際,大学改革案ではいったん「原則廃止」とされた教職課程のうち,数学,理科,英語については「需要が多い」という理由で,議会の議論も踏まえて復活しました.しかし,このまま数理科学を専攻するコースを設置しないとすれば,実際には数学の教職課程を履修する学生は非常に少数になり,設置した意味がほとんどないことになるでしょう.理系の学生は,基本的に数学ではなく理科の免許を取得します.文系の学生で数学の免許を取得する学生は存在するにしてもごくわずかです.すなわち,数学の教職課程を設置してもそれを履修する学生はほとんどいないということが予想されます.

また,これからの時代,情報科学やそれを支える数理科学の重要性は増すことはあっても減少することのないことは誰の目にもあきらかです.

このような中で横浜市は,なぜ「数学の専門家を養成するためのコースの必要性は低いと判断した」のでしょうか.横浜市は少なくとも市民が納得のいく説明をする責任があります.

以前の市議会常任委員会での答弁において,小川学長は基礎科学の重要性について十分な認識していること,それが危うくなるような場合には「死守する」ことを答弁しましたが,先日の委員会では数理科学は教養科目として十分に配置しているが,数理科学の専攻を設置する必要はないと考えたとの趣旨の答弁を行っています.この答弁は大学を代表しているかのように見えますが,実際には,大学において市の作成した「カリキュラムコース案」を承認したことも議論したこともありません.

議員のみなさまにおかれましては,数理情報コースの廃止の決定の責任が,横浜市にあることを十分に認識して頂きたいと思います.数理科学の専攻の廃止は,行政の判断で行ったことであり,それを監視するのは市議会の本来の責務であると考えます.

今回の大学改革では,教育体制の柔軟性をひとつの特色としているようです.であるとすれば,ぜひとも,近い将来に「数理科学の専攻の再設置」を行って頂きたいと考えます.議会におかれましても,横浜市に対して「数理科学の専攻の設置または再設置」の要望を行うようお願いいたします.

なお,私自身は市大の数理科学科に属する人間であり,確かに直接的な利害関係を持っています.しかし,今回の陳情にあたっては,一市民の立場で考えたときにも決して見過ごすことのできない問題であると認識し,陳情という行動を取らせて頂いたものです.もしも,一般の市民が私と同じように事情をよく知ることができれば,私と同じ考えになることは疑いないことと考えています.                        以上

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編集発行人: 矢吹晋(商学部非常勤講師)   連絡先: yabuki@ca2.so-net.ne.jp

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