米長委員・天皇発言に思う

 

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米長委員・天皇発言に思う

2004/11/01


 

 秋の園遊会での天皇の発言が話題になっている。テレビの映像によると、天皇が被招待者一人一人に声をかけてきて、東京都教育委員で棋士の米長邦雄氏のところで「教育委員のお仕事ご苦労さまです」と声をかけたのに対して、米長氏は「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させることが私の仕事でございます」とやや勇んだ調子で応えた。それに対して天皇は「やはり、強制になるというものではないのが望ましい」と応じた。米長氏は「もうもちろんそう、・・・本当にすばらしいお言葉をいただきありがとうございました」と答えた(各言葉の原文は『朝日新聞』による)。

 出鼻をくじかれた感じの米長氏はどう感じたのだろうか。「もうもちろんそう」というところに戸惑いが感じられる。自説を制された感のある天皇の言葉に「すばらしいお言葉を」とは、自分の中でどう納得したのだろうか。東京都の教育委員の立場でありながら「日本中の学校で」とは、また、「斉唱させる」とは、どこまで常識をわきまえているのか疑わしい。

 その後の記者会見で石原東京都知事は「強制ではない」と逃げをうったが、教育現場で監視をつけて摘発、処分するという特高警察まがいの強権がどこまで許されるのか不安に思っている多くの国民に、この天皇の発言は一つの安堵感を与えたのではなかろうか。時計の針を逆回転させるような風潮に、多くの国民が流されることに一時的にせよ立ち止って考えさせる機会を与えてくれたことは確かだろう。

 天皇制の危ういところは特定の勢力に利用され易いことである。米長氏があの場で自説を持ち出したことは決して突発的なことではなく、励ましの言葉を期待して、いわばお墨付きを得ようと周到に練ってきた言葉であることは想像にかたくない。

 あの場でもし天皇が米長氏に対して励ましの言葉を述べたとしたら、それこそ政治的に利用されたことになる。その意味では天皇のあの発言はごく常識的な内容でありながら、きわめて適切なタイミングだったと思う。現天皇が父昭和天皇の過誤を教訓にしていることは同時代を生きた私として充分に理解できるからである。

(
新城宏)