横浜市立大学教員組合、「中期目標の大枠と中期目標を達成するための考え方」について

 

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2004年12月08日

横浜市立大学教員組合、「中期目標の大枠と中期目標を達成するための考え方」について

大学改革日誌(永岑三千輝教授)
 ●最新日誌(2004年12月7日(4))より

公立大学法人横浜市立大学の
「中期目標の大枠と中期目標を達成するための考え方」について

 11月22日、横浜市会大学・教育委員会において、公立大学法人横浜市立大学の「中期目標の大枠と中期目標を達成するための考え方」(以下、「大枠」及び「考え方」)が提示され議論された。「大枠」及び「考え方」について検討すべきことがらは多岐にわたるが、以下では、その内でとりわけ重大な問題点について指摘する。

1 私学並みの学費負担を学生に求める恐れはないか?

○ 「目標」は大学にたいする運営交付金の考え方を示した上で、「学費のあり方について検討する」とし、さらに「考え方」では「学費別授業料の導入」を検討課題としている。学費別授業料を導入するならば、たとえば医学部では現行水準をはるかに上回ることになる。経営上の観点だけからみるなら、医学部及び理系のコストに見合う多額の学費を想定せざるをえない。
 そもそも、医学部を持つ公立大学であり、かつ私学のように大人数の文系学生を入学させるキャパシティを持たず、少人数教育を特徴としてきた横浜市立大学の運営を、経営的観点から現在の多くの私学と同様に扱うことには無理がある。

○ なお、「考え方」では、基準を超える「経過措置」としての運営交付金を、「平成22年度までの解消を目指し」て想定している。国立大学の独立行政法人移行にさいしてすでに多々指摘されているように、移行にともなう不可避の経費増が予想される。たとえば、病院勤務医師の超過勤務手当て不払い問題がいくつかの国立大学について報道されているように、移行にともなって必要な財政措置がとられず、不法状態が生じる恐れがある。移行にともって新たに生じる経費については解消の対象となる経過措置にふくめるべきではない。

○ 先に独立行政法人に移行した国立大学にあっては、すでに、非常勤講師の大幅削減など、法人移行が教育水準の低下を招きかねない事態が報告されている。運営交付金の算定に当たっては、大学の質の向上をめざすとされた独立行政法人化が逆の結果をもたらさぬよう配慮すべきである。

2 「研究費を稼げる研究」だけに目が向けられる恐れはないか?

○ 「考え方」では、「研究は、……原則として外部研究費を獲得して実施」するとしている。市大教員は、研究資金を提供できる機関、団体の動向に注意を払い、その資金獲得に努力するよう求められている。しかし、市民、地域社会にとって重要で有意義な課題でありながら「外部研究費」の出し手がいない分野、領域は数多く、市民活動、市民の要望と結びついた研究課題の多くは、外部研究費に拠らずにすすめざるをえない。研究資金獲得優先の研究体制は、大学の地域貢献を狭め、歪んだものとする。

○ また、「目標」は「大学として重点研究分野を選定」するとし、重点分野に研究費を優先配分するとしている。大学が研究戦略をもつこと自体について否定しないが、言うところの「重点研究分野」が、産業利益など目に見えやすい領域に狭く理解され、かつトップダウン型決定機構のなかで十分な検討と公開性なく決定されるならば、そのようなやり方は大学の研究を一面化し、特定分野以外の研究・研究者を排除する結果となる。
 とくに、研究資金獲得が困難で研究成果の外部効果が単純には測りにくい基礎研究分野や、リベラルアーツ分野は、「戦力外」とみなされかねない。「目標」が自ら掲げている大学像と具体的研究体制とのあいだには、この点で著しいくいちがいが存在している。

3 「公正性・透明性」を掲げる教員人事制度を、教員にたいする条件提示も協議もなしにすすめようとする当局の態度は、教員の流出・転出を促すだけではないか?

○ 「目標」に示されている教員人事の「活性化、適正化」の内容として、「考え方」では、教員評価制度、年俸制、全教員対象の任期制などの導入が挙げられている。これらは、「適正化」と言いながら、教員の就業条件に大きな不利益をもたらす可能性があり、その導入に当たっては教員組合との協議・交渉が不可欠である。そうした公正な手続きなく一方的な導入を謳うのはそもそも承認しがたいが、さらに、現在にいたるも、独立行政法人移行に当たって必要な就業規則、教員にたいする就業条件提示すらなされていない。教員人事制度の「公正性・透明性・客観性」を言うからには、独立行政法人移行後の就業条件、人事制度について情報を示した上で、必要な協議・交渉を行ってゆくべきである。
 間近に迫った独立行政法人への移行を控え、公正さも透明性も欠いた現在のような態度を当局が続けるならば、これまでも続いてきた教員の流出・転出が一層激しくなることはあきらかである。

○ なお、「多様な雇用形態による教員確保」によって「適切な人件費管理を図る」という目標は、専任教員の削減と業務委託等の利用による人件費削減を示すものであるが、教育及び研究領域で掲げられた目標と、こうした財政削減目標とが整合的に検討されているとはみられない。教員任期制の導入もふくめれば、ほとんど専任テニュア教員の存在しない大学で、「目標」の掲げるような教育・研究の推進がはたして可能なのかきわめて疑問である。

2004年12月7日
横浜市立大学教員組合

 

投稿者 管理者 : 20041208 00:27