脳血管センター問題 神奈川新聞社説 (2005.2.16)

 

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216日付

脳血管センター問題

 衛生行政を含む組織的隠ぺい体質が疑われた横浜市立脳血管医療センターの内視鏡手術での医療過誤問題をめぐって、同市は先月、衛生部幹部職員や関与した医療者ら二十五人を処分し、センター幹部級の人事異動を矢継ぎ早に行った。一定の「けじめ」をつけたとの印象を与えたいのだろうが、患者中心の医療へと改善が図られるか、疑問は増すばかりである。
 この医療過誤は、横浜市大医学部出身の脳神経外科医らが引き起こした。隠ぺい体質の背景について、身内(市大出身)同士でのかばい合い構造の影響ではないか、と市会側からも厳しく追及されてきた。改善には、全国から実績を持つ専門医らを招き、市民が信頼できる体制に立て直すことが不可欠であった。にもかかわらず、今回の異動では重要ポストのセンター長、部長級に就いた両医師がいずれも市大出身者で、全体的に市大色を強めた人事になっている。
 しかも、脳疾患専門のセンターにあって、総括安全管理者を置かず、その代行職を兼務する新センター長に、腹部を診る消化器外科の医師が就いた。患者や家族に疑義が生じれば、その医療行為に責任ある説明ができる体制といえるのか。市民の望む改善が軽視されたと指摘されても仕方がない。
 センターでは、内視鏡の医療過誤手術直後にも院内手続きを無視した血管内治療の手術が行われ、米国籍の男性患者が死亡する事故が起きている。事故に関与した術者、助手はいずれも市大出身の医師だった。現在、同事故についての安全管理対策の小委員会が設置されているが、今回の異動で小委メンバーの医師三人はすべて市大出身者で占められた。公正な調査を期待したいところだが、内視鏡事故の公表に至る一連の経緯から、「また隠そうとしていないか」との疑念を持たれかねない。
 二十五人の処分、人事異動のベースになった昨年十二月の「脳血管医療センター問題に関する調査委員会」の報告書では、市側の鈍感さが見て取れる。端的な例は、内視鏡手術での検証である。衛生局長が同門の市大出身の医師にも正式文書で意見書の提出を求めるよう指示したという事実が明らかになったが、報告書は衛生局長の直接介入の妥当性、同門医師への依頼の適否に言及していない。「衛生局は市民の信頼を損ねた」との見方は示したが、市民の信用を損ねた、とはどういうことで、これをどう回復していくべきか、市側は突き詰めて考えたのだろうか。
 厚生労働省は同センターを脳卒中専門病棟を持つ全国の中核的な病院五施設の一つに選んだ。センターの存在は全否定されるべきではなく、病根を的確に取り除くことこそ求められる。処分、人事などの一連の流れからは、市が隠ぺい体質を一掃しようとする「決然たる姿勢」がまるで見えない。