米追随がもたらす偏向報道 ビル・トッテン (2005.2.21)

 

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題名:No.669 米追随がもたらす偏向報道

 

From : ビル・トッテン

Subject : 米追随がもたらす偏向報道

Number : OW669

Date : 2005221 

 先月、NHKが2001年に放送した番組が政治家の介入によって改変されたという報道が朝日新聞に掲載されてから、メディア機関に対する政治権力の介入や報道の自由に関することが話題になった。

(ビル・トッテン)

 

米追随がもたらす偏向報道

 

 NHKもイギリスのBBC放送でも、公共放送と呼ばれるメディアは予算管理を含めて政府の統制の対象となっているはずだというのが私の持論である。そのため、NHKが放送から削除したという「国際女性戦犯法廷」(2000年)で、元日本兵が証言した太平洋戦争時の性暴力の部分をインターネットで読むことができると知人から聞くまでもなく、「慰安婦」問題など存在しないと言っている国会議員が、当時の様子を説明する証言を放映しないよう圧力をかけることは彼らにとって当然のことだろうと思ったのだ。

 

 さらにNHKでは、一昨年春にもイラク戦争を取材した番組が中止されたという。その番組は、テロを警戒する米兵に銃を向けられるバクダッドのイラク人親子、自由に街を歩けず、戦死して埋められた遺体を掘り起こして行方不明の家族を探す市民などを取材したものだったという。放映中止がNHKトップの判断なのか、それとも政府からの圧力だったかは知らないが、イラク戦争でブッシュ支援を誰よりも早く打ち出した小泉政権が、“戦争がイラク国民にもたらしている現状”を日本国民に知らせたいかどうかを考えれば、政府の介入があったとしてもうなずける。

 

 イラク戦争の報道はほとんどが米国防総省の発表がもとになっている。米国政府は戦争で死んだ米兵の数は公表しても、イラク人戦死者の数は公表どころか数えることもしていない。しかしたとえブッシュにとってイラク人の死が意味を持たないとしても、もし日本人が、戦場となった国で日々恐怖にさらされているその姿を見れば何かを感じずにはいられないはずだ。そしてその地を侵略し、人々に銃を向ける米兵を輸送などで支援するために自衛隊が派兵されているという事実をあわせれば、その映像を見た人は次にどういう行動をとるだろうか。テレビの映像はそれほど強力なのだ。だから日本でも報道規制が早々にしかれた。

 

 最初は大量破壊兵器、そしてサダムフセインという独裁者からイラク国民を自由にしてあげるという名の下で米軍がやっていることは国際法違反そのものだから、兵器を持つ米兵を輸送する自衛隊の姿がテレビに写るほど都合の悪いことはない。国際法であるジュネーブ条約では、明確に軍事行動は軍事目標のみを対象とすると記されている。しかし米軍はファルージャで病院を攻撃し、水道設備も爆破し、道を横切る民間人にも銃口を向けた。殺されたイラク人女性や子供の映像に、米国内で反戦気運が高まらないよう、米国政府はイラクからジャーナリストを締め出した。

 

 ベトナム戦争のときに有名になった、米兵によって火をつけられ裸で逃げ惑う子供たちの写真をご存知だろうか。戦場の現実を目にした人は、もっと爆撃すべきだというよりも、この戦争を止めさせなければと思う人のほうが多かった。だからベトナムの様子が明らかになるにつれて米国では反戦運動が盛んになった。ベトナム戦争に行かなかったブッシュ大統領もチェイニー副大統領もそれを知っていた。

 

 イラク攻撃を行う支配者たちは、口では民間人犠牲者を最小にするよう努力しているというが、行動をみればその言葉はまったく信じるに値しない。最近の侵略戦争でも、米国は多くの民間施設を攻撃している。ユーゴスラビアでは発電所、病院、美術館、教会も爆撃した。アフガニスタンでは民間人の村に爆弾を投下し、結婚式もモスクも対象となった。イラクでも民間人を戦火から守らなければいけないという行動はまったくみられない。それが米国の正義の戦いなのである。

 

 NHKが話題になったが、民間のメディアも同じである。企業の広告費に依存している民放放送局は顧客である企業に支配されている。米軍の攻撃を「電撃作戦」という見出しのもとで鼓舞し、傷ついた米兵やその家族の言葉は決して放映せず一方的なブッシュ大統領の演説だけを何度も放映するニュース番組が戦争支持を主張していることは、よほど鈍感でなければわかるだろう。ニュース番組では、米軍が病院を占領し、水道供給を切断し、経済封鎖で50万人のイラクの子供たちを死に追いやったというような核心について論争されることはない。政府とのコネクションによって、それから目をそらさせることで彼らは大きな利益を得ることができるからだ。

 

 日本の支配者たちが米国に追随することで利益を得ているという構図が変わらない限り、NHKや主流メディアがさまざまな見方、偏らない意見を人々に提供することはないということを知っておくべきである。