「意見広告の会」ニュース269 (2005.4.9)

 

 

「意見広告の会」ニュース269

*ニュースの配布申し込み、投稿は、
  qahoujin@magellan.c.u-tokyo.ac.jp まで、お願い致します。

** 目次 **
1 「つくる会」教科書の流出
 1−1 扶桑社が検定規則違反 中学教科書を合格前配布
           
(共同通信) 46
 1−2 川内博史衆院議員(民主党) 
      正々堂々blogより
 1−3 【主張】教科書問題 驚かされた朝日新聞社説
      産経新聞 2005.04.07 東京朝刊 
 1−4 「朝日新聞」社説 こちらこそ驚いた
      4/8朝刊
 1−5 文部科学省へ「つくる会」検定合格取り消しの声を!!
           
2005年4月7日 琉球大学  高嶋伸欣 関西大学 上杉 聰
2 埼玉県教育委員・高橋史朗氏は?
 2−1 教科書著作者らを公開へ 採択の公正確保を目的に
           
(共同通信) 46
 2−2 教科書採択めぐり市民団体「監修者外して」
           埼玉新聞 2005.4.8
3 【共同アピール】
         
 子どもと教科書全国ネット21ほか15団体


***
1−1 扶桑社が検定規則違反 中学教科書を合格前配布
           
(共同通信) - 46
 文部科学省の銭谷真美初等中等教育局長は6日午前の衆院文部科学委員会で、「新し
い歴史教科書をつくる会」が主導した中学校の教科書をめぐり、出版社の扶桑社が教科
用図書検定規則実施細則に違反し、検定合格前に教職員らに配布していたことを明らか
にした。中山成彬文科相は「ルール違反することは問題だ」と遺憾の意を示した。
 銭谷氏は、扶桑社に対し、配布した検定合格前の「申請本」の回収を命じるとともに
管理を徹底するよう三度にわたって指導したことも明かした。
 中山文科相は「きちっと管理することは当然の前提。指導されること自体おかしい。
自覚を待ちたい」と述べた。
 民主党の川内博史氏への答弁。
     
(共同通信) - 46


1−2 川内博史衆院議員 正々堂々blogより

さらに教科書問題でいただいたコメントの中で、なぜ扶桑社だけを取り上げるのか、と
いう質問がありました。

なぜかというと、埼玉県教育委員会の問題で、文部科学省の教科書課と昨年の12月から
議論させていただく過程の中で、ルール違反をしているのが扶桑社だけだ、という事実
が浮かび上がってからなんですよ。
http://blog.goo.ne.jp/kawauchi-sori/


1−3 【主張】教科書問題 驚かされた朝日新聞社説
     産経新聞 2005.04.07 東京朝刊 

 朝日新聞の六日付社説「こんな教科書でいいのか」を読んで、驚かされた。これでは
、特定の教科書を排除し、自由な言論を封殺するものといえる。

 その朝日新聞社説は、新しい歴史教科書をつくる会のメンバーらが執筆した扶桑社の
歴史・公民教科書だけを取り上げ、「光と影のある近現代史を日本に都合よく見ようと
する歴史観が貫かれている」「中国への侵略、朝鮮半島の植民地支配については後ろ向
きだ」「バランスを欠いている」などと批判している。

 今回、検定合格した中学社会科教科書は、扶桑社の教科書だけではない。全部で八社
である。これから八月末まで五カ月間、全国の教育委員会で、教科書を選定するための
採択に向けた作業が行われる。その時期に、一社だけを狙い撃ちするような社説は、教
育委員に不必要な予断を与えかねない。

 朝日新聞は四年前の前回採択でも、扶桑社を集中攻撃した。平成十三年四月四日付社
説「やはり、ふさわしくない」で、「戦争を日本に都合よく見ようとする偏狭さ」「戦
前の国定教科書と見まがうほどだ」などと批判し、六月二十八日付社説「過去と対話す
る歴史を」でも、「私たちは、この教科書は教室で使うには、ふさわしくないと考えま
す」と扶桑社教科書の不採択運動を助長した。

 新しい歴史教科書をつくる会は、中学教科書に「従軍慰安婦」など極端に自虐的な記
述が増えた平成八年、次代の日本を担う子供たちに正しい歴史を伝えようと集まった人
たちだ。そのメンバーが執筆陣に加わった教科書を、快く思わないからといって、それ
だけを排除しようとする朝日新聞の態度こそ偏狭ではないか。

 検定合格した八社の教科書には、朝日新聞の論調に近い教科書もあれば、そうでない
教科書もある。いろんな教科書があっていいし、また、そうあるべきだ。それらを教育
委員らが読み比べ、子供たちに最も良いと思われる教科書を選ぶのが採択である。

 そのためには、外国の圧力や国内の特定政治勢力の妨害に左右されない静かな環境が
必要である。すでに、中国と韓国が朝日新聞に同調し、扶桑社非難を始めている。両国
の内政干渉こそ、排除されるべきである。


1−4 「朝日新聞」社説 こちらこそ驚いた
      4/8朝刊
 7日の産経新聞は「驚かされた朝日新聞社説」と題して、教科書問題の主張を掲げた
。しかし、それを読んで私たちの方こそ驚かされたというのが、率直な感想である。
 産経社説は、こう主張している。
 「(6日の)朝日新聞社説は、新しい歴史教科書をつくる会メンバーらが執筆した扶
桑社の歴史・公民教科書だけを取り上げ、……『バランスを欠いている』などと批判し
ている」「1社だけを狙い撃ちするような社説は、教育委員会に不必要な予断を与えか
ねない」
 朝日新聞はこれまで「検定はできるだけ控えめにすべきだ」「教科書は多様な方がよ
い」と主張してきた。その考えはいまも変わらない。
 それでも、「つくる会」の歴史教科書を取り上げて批判したのは、やはり教室で使う
にはふさわしくない、と考えざるをえなかったからだ。 
 戦後の日本は、戦争や植民地支配でアジアと日本の民衆に大きな犠牲を強いたことを
反省して出発したはずである。過去にきちんと向き合い、そのうえで周りの国々と未来
を志向した関係を築いてゆく。それが日本のあるべき姿だろう。
 「つくる会」の教科書は、子どもたちが日本に誇りを持てるようにしたいと願うあま
りだろうが、歴史の光の面を強調しすぎて、影の面をおざなりにしている。その落差が
他社の教科書に比べて際立ち、バランスを欠いているのだ。
 だれでも自分の国を大切に思う気持ちに変わりはない。しかし、同時に他国の人たち
に十分目配りをしなくてはならない。そうでなければ、正しい歴史を次の世代に伝える
ことにはならない。私たちが批判したのはそのことである。
 産経新聞が「つくる会」の教科書を後押ししたい気持ちはよく分かる。発行元の扶桑
社は、産経新聞と同じフジサンケイグループに属しているのだ。
 それどころか、産経新聞は98年1月の社説で「新聞社が教科書づくりにかかわるのは
初めての挑戦であるが、『つくる会』ともども、読者及び国民の支援を仰ぎ、また批判
も受けたい」と書いていた。「つくる会」が教科書づくりを始めたころのことだ。
 自らがかかわっている教科書を自社の紙面で宣伝してきたと言われても仕方があるま
い。
 もう一つ驚いたのは、扶桑社の営業担当者が検定中の申請本を各地の教員らに手渡し
していたことだ。同社は3度にわたり文部科学省から回収を指導された。この事実が国
会で明らかになった。
 産経新聞はこれまで、「つくる会」の申請本が外部に流れて報道されたり、批判され
たりするたびに、「検定作業に当たる教科書調査官に先入観を抱かせる」「書かないの
がマスコミの良識」などと批判してきた。
 ほかならぬ扶桑社が流出させていたことについて、産経新聞はどのように考えるのだ
ろうか。


1−5 文部科学省へ「つくる会」検定合格取り消しの声を!!
                                                
 2005年4月7日
                                                琉球大学 高嶋伸欣
 
                                             関西大学 上杉 聰

 本日の朝刊において、「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)による
歴史公民教科書(扶桑社)の白表紙本、つごう70冊にもおよぶ大量の部数が、昨年7
月以降、扶桑社員自らの手によって漏出させられていたことが報じられました(朝日・
共同)。また、衆議院文部科学委員会でこの質問を行った川内議員対し文科省は、それ
以外の出版社は同様の問題を起こしていないことも、別の場で表明したと伝えられます


 国会質問や新聞社に対して文科省は、白表紙本配布の意図を、「扶桑社の担当者は教
員の意見を聞こうと」渡したと答えています。しかし、教科書採択に直接関係する教育
委員会関係者にも渡したことも認めている(朝日)以上、そして教員も、調査員などの
形で採択に関わることを考えれば、その目的が、「つくる会」・扶桑社が4年前に行っ
た場合と同様、「意見を聞く」という名目で自らの教科書を宣伝・普及させようとする
活動であったことは、配布された冊数の多さからみても明らかです。おそらく70冊と
いうのは氷山の一角であり、文科省は徹底した調査をすべきです。

 また報道によると、同省は、この問題につき、三度にわたって(昨年10月、今年1
月、3月)扶桑社を指導したといいます。ところが文科省は、その都度扶桑社が同じこ
とを繰り返したことにたいして、なんらペナルティを科していません。違法行為を正す
よう指導したにもかかわらず、その指導への違反さえ繰り返した出版社に対して、さら
なる有効な行政処分も行わず放置し、結果として検定作業の終了する直前まで配布を続
けさせていたことを意味します。これは、文科省自身、「つくる会」・扶桑社の行為を
容認したことになります。違法行為に対する文科省による不作為の協力です。

 検定は、ほぼ一年間もの長期の作業です。そのあいだ「つくる会」が違法行為を続け
てきた重大さを認識するならば、文科省はただちに検定を中止するか、または不合格の
処置をとるべきでした。今からでも遅くはありません。不合格にすべきです。それが文
科省自身による違法な不作為を解除する唯一の方法です。私たちは、このことを広く世
論に訴え、文科省に必要な処置をとるよう働きかけることを呼びかけます。

 国会議員の方々には、文科省がいかに甘い指導を行ってきたか追及しつつ、厳正な処
置をとるよう国会の場で要求していただきたいと思いますし、教科書問題に関心のある
市民の皆さんには、文部科学大臣に対する検定合格取り消しのファックス、メール等に
よる要請活動をぜひお願いいたします。

 
文部科学省のファックスは0367343739(教科書課)宛名は中山成彬殿
 
               
メールは voice@mext.go.jp で宛名は同様です。
             
 郵送の場合:〒100-8959 東京都千代田区丸の内二丁目五番一号
             
 電話の場合:0367342409(教科書課)
 
 
「つくる会」教科書の内容も大きな問題ですが、違法で不正な方法で教育現場に「あ
ぶない教科書」を浸透させる行為を繰り返していることを阻止するため、心ある方々の
ご協力を要請します。


2 埼玉県教育委員高橋史朗氏は?

2−1 教科書著作者らを公開へ 採択の公正確保を目的に
           
(共同通信) 46
 文部科学省は6日、教科書検定で申請の際に義務付けている「著作編修関係者名簿を
都道府県教育委員会に公開することを決めた。5日に検定に合格した中学教科書から実
施する。
 文科省は「公正な採択を確保するため、教科書の著者、編者などが採択に関与すこと
は望ましくない」と判断。「採択の現場から著作者など関係者の排除を徹底するために
、名簿を活用するのは有効」として、公開に踏み切った。
 名簿は検定を実施する「教科用図書検定調査審議会」の委員に、申請本の著作者らが
含まれていないかなどの確認作業に使われてきた。申請本の作成にかかわったすべての
人の氏名、職業、専門分野のほか「執筆」「監修」「校閲」など担当が明記されている
が、これまでは非公開だった。


2−2 教科書採択めぐり市民団体「監修者外して」 県教育長 文科省の通知待ち
           埼玉新聞 4/5
 教科書採択の公平性確保を求める市民団体「教育と自治・埼玉ネットワーク」(共同
代表・林量俶埼大教授など)は7日、県教育委員の高橋史朗氏が教科書採択に参加しな
いよう、稲葉喜徳教育長に要望した。同ネットは扶桑社の教科書(新しい歴史教科書を
つくる会主導)の監修に高橋氏がかかわったと主張している。

 同ネットによると、6日に開かれた衆院文部科学委員会で文科省側は、監修者などを
明記した著作編集者名簿について、扶桑社の教科書「公民」に関しては昨年12月六日
付で監修者一人を削除したと答えたという。文科省は公平を期すために、書き換え前と
後の名簿を都道府県教委に送るという。

 昨年12月6日は、上田清司知事が高橋氏の教育委員就任を要請したことが明らかに
なった日。同ネットは「教科書の監修に携わっていると就任は難しいとの判断から、削
除したのは高橋氏ではないか」としている。

 高橋氏は2001年に発行された「つくる会」教科書の監修者だったが、埼玉新聞社
の取材に対し「(今回、採択の対象になる)教科書に一切関与していない」と話してい
る。

 同ネットの請願終了後、埼玉新聞社の取材に対し、稲葉喜徳教育長は「検定が終了し
た教科書が届いていないため、(高橋氏が)出席するとかしないとかいう議論にも入れ
ない」と正式に名簿や教科書が届くのを待ってから議論すると話した。

 また「4月から教科書採択に向けての委員会が始まるが、高橋氏は出席する予定か」
という質問に対して、稲葉教育長は「そのつもりです」と答えた。

申請本配布調査を要求  埼玉教組

 「新しい歴史教科書をつくる会」が主導して編集した教科書をめぐり、扶桑社が検定
合格前に「申請本(白表紙本)」を教員らに配布していた問題で、埼玉教職員組合(埼
玉教組、金子彰委員長)は7日、青山孝行県教育委員長あてに県内での配布状況を調査
するよう要請書を提出した。

 埼玉教組は「公正・公平な教科書採択を行うため、調査を実施し、結果を明らかに
してほしい」としている。


3 【共同アピール】
         
子どもと教科書全国ネット21ほか15団体
昨日(5日)、文科省が中学校教科書の2004年度検定の一部公開をしました。
ML
でも情報が流れていますし、昨夜のTV,今朝の新聞にでています。
私たちは16の市民団体、研究団体で共同記者会見を行い、「共同アピール」をだしまし
た。
 記者会見には日本、韓国、中国、アジア、欧米のマスメディアが80名参加しました。
そこで、発表したアピール、附属資料などを3回に分けて掲載します。
 (一部掲載)
【共同アピール】
歴史歪曲・戦争賛美・憲法「改正」・「戦争をする国」をめざし、国際社会での孤立化
の道に踏み出す「あぶない教科書」を子どもたちに渡してはならない

(一)2006年版「つくる会」教科書の「あぶない」内容             
       
 今から4年前の2001年、私たちは新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)が編
集した中学校歴史・公民教科書(扶桑社版)を「子どもたちに渡してはならない」と、
その採択に反対して活動しました。日本国内はもちろんアジアや世界中からの批判によ
って、この教科書は公立中学校の全採択地区で不採択になり、01%にも満たない結果
に終わらせることができました。
 ところが、「つくる会」は2005年の「リベンジ」(復讐)を公言して、教科書を改訂
して検定申請し、これが文部科学大臣の検定に合格して、再び採択に供されることにな
りました。
 今回の改訂によっても、この教科書の全体をつらぬく「あぶない」内容は本質的に変
わっていません。そればかりか、部分的にはより悪質な内容に改訂されているところも
あります。
 第1に、日清・日露戦争以降の日本の戦争を美化・正当化し、アジア太平洋戦争を「
大東亜戦争」とよんで、それが侵略戦争だったことを認めず、日本の防衛戦争、アジア
解放に役立った戦争として美化し肯定する立場がつらぬかれています。韓国併合・植民
地支配への反省はなく、むしろ正当化する内容は現行本と変わりありません。「創氏改
名」については、2000年度の検定で書き加えさせられていました。改訂版の申請図書で
はそれを韓国人が望んだから認めたように記述していましたが、検定によって現行本と
同じ「日本式の姓名を名乗らせる創氏改名などが行われた」に修正しています。「つく
る会」は会報『史』で改訂のポイントとして、「日本を糾弾するために捏造された、『
南京大虐殺』『朝鮮人強制連行』『従軍慰安婦強制連行』などの嘘も一切書かれていま
せん。旧敵国のプロパガンダから全く自由に書かれて」いると主張しています。改訂版
歴史教科書は、日本軍「慰安婦」の事実を無視し、南京大虐殺についても否定論の立場
をあえて記述しています。日本が行った加害についてほとんど触れないだけでなく、日
本人が受けた被害についてもほとんど記述していません。学童疎開1行、東京大空襲1
半、広島・長崎への原爆投下1行半、沖縄戦2行半などで、被害の実態はほとんど書かれ
ていず、原爆による犠牲者数さえ書かれていません。被害を受けたアジアの人々、日本
の人々の悲しみや痛みが伝わる記述は皆無ですその反面、戦争に献身した国民を大いに
たたえる記述を行っています。戦争を賛美し、「日本の戦争は正しかった」と教え、ふ
たたび戦争に命をささげる国民を育てるために、悲惨な被害も加害も無視する教科書で
す。
 第2に、今回の改訂で判型をA5判からB5判に変更して100ページ減らしています。
それにともなって、神話を9ページから3ページに減らしています。しかし、「神武天皇
東征」を大和朝廷成立のところで扱い、実在しない神武を初代天皇とするなど神話をあ
たかも史実であるかのように描いています。「つくる会」は、「皇室・天皇」は「我が
国の歴史の始まりとともに存在した」と主張していますが、これは、神武を実在の天皇
とする歴史の偽造です。さらに、「全国の武士は、究極的には天皇に仕える立場だった
」とまで書いています。
 第3に、今回の改訂で天皇と国家を前面に出し、日本の歴史を天皇の権威が一貫して
存在した「神の国」の歴史として描いています。日本の歴史は、天皇と国家、為政者の
「栄光の歴史」と描き、民衆の歴史、特に女性や子どもについてはほとんど描かれてい
ません。一方で、韓国や中国などアジア諸国の歴史を根拠なく侮蔑的に描き、その上に
立って、国際的に通用しない偏狭な「日本国家への誇り」や「日本人としての自覚」、
歪曲した「歴史に対する愛情」を強制的に植えつけようとしています。他方では、現行
本にある反米色を一掃してアメリカへのすりよりを強めた新たな「脱亜入米」をめざす
教科書といえるでしょう。
 第4に、第2次世界大戦後に廃止・失効となった大日本帝国憲法や教育勅語を礼賛して
います。新訂版公民教科書では、基本的人権の説明より前に「憲法改正」の項をおき、
日本国憲法を「世界最古の憲法」などと誹謗し、憲法「改正」を公然と主張しています
。憲法の主権在民の説明では、まず「国家には主権がある」とまったく別の問題である
国家主権を持ち出しています。公民教科書は、「社会の一体感や共同防衛意識」を強調
し、個人よりも国家が先にあり、その一員として「国益」を優先させ、国家に忠誠を尽
くす帰属意識の育成をねらう内容です。そのために「日の丸・君が代」が随所で強調さ
れています(写真8枚)。
5に、今日のアジアと世界での平和への努力を取り上げて日本国憲法9条を中心とし
た平和主義の意義を説くのではなく、アジア近隣諸国との緊張を過大に描き、自衛隊を
前面に出して(自衛隊の写真は口絵の一番はじめの3枚をはじめ全部で12枚)その役割
を高く評価しています。日本国憲法にはない「国防の義務」をことさらに強調し、日米
安保条約を「東アジア地域の平和と安全の維持に大きな役割を果たしている」などと無
批判に肯定しています。さらに集団的自衛権の行使を容認すべきとの主張を一面的に記
述しています。これらは、政府がすすめている「戦争をする国」を積極的に支え、「お
国のために命を投げ出しても構わないという人間」の育成をめざすものです。基本的人
権をはじめ国民の権利よりも義務を強調し、権利の制限の必要性を繰り返し書いていま
す。
 第6に、ジェンダー・フリーを敵視し、男女共同参画社会を否定的に描き、家族への
帰属意識をことさらに強調しています。「つくる会」は自分たちの教科書は、「『男女
共同参画』の名のもとにジェンダー・フリーという特殊な思想を盛り込んで家族の絆
を断ち切り、日本の文化や人類の文明を根底からひっくりかえす(ような)思想とは一
線を画し」たと宣伝しています。公民教科書は、「行き過ぎた平等意識」を問題視し、
家族の崩壊や家族の絆が断ち切られる原因を女性の社会進出や専業主婦の役割の軽視に
あるかのように描き、「男らしさ・女らしさ」を強調し、性別役割分担論を前提に家族
や社会のあり方を描いています。公民教科書には巻末に「学習資料」として多くの法律
や条約が載っています。他社にあって「つくる会」教科書にないのは、男女共同参画社
会基本法、男女雇用機会均等法、女子差別撤廃条約、子どもの権利条約、老人福祉法、
介護保険法、労働組合法、フランス人権宣言、世界人権宣言、ユネスコ憲章などです。
国際条約で載っているのは、日米安保条約と国連憲章だけです。男女平等や子ども・弱
者の権利や人権を否定する立場でつくられた教科書だといえます。

 戦後の歴史学や歴史教育は、侵略戦争遂行に歴史教育が利用されてきたことへの反省
をふまえ、科学的に明らかにされた歴史事実を何よりも重んじてきました。さらに、今
日ではアジアの平和な共同体をつくりあげる前提として、アジアの人々との歴史認識の
共有が求められています。ところが、「つくる会」教科書は、今日の世界の動向を無視
して、国際緊張を過大に描き出し、歴史事実を捻じ曲げて戦争を美化し、国家への誇り
、国家への奉仕と忠誠、国防の義務を強調しています。「つくる会」は、歴史教科書で
日本の過去の戦争を正しかったと賛美し、公民教科書で現在政府が行っている戦争参加
を正当化し、日本が「戦争をする国」になることを推進しています。これは、子ども・
国民をこれからの戦争に動員することをねらうものです。
 侵略戦争への痛切な反省から生まれた日本国憲法の理念をこのように敵視する教科書
が公教育の場に持ち込まれることは絶対に許されないことです。いま政府・財界
は、戦争をするための有事法制を制定し、アメリカ・ブッシュ政権の不法・不当なイラ
ク侵略戦争に参加し、憲法を「改正」して米軍との集団的自衛権の発動によって、自衛
隊がいつでもどこにでも出かけて行って戦争をする国に日本を変えようとしています。
そのような中で、教育基本法「改正」を先取りし、改憲を推し進めるこの教科書の再度
の検定合格は、21世紀の日本を左右する重大な問題だといえます。

(二)「あぶない教科書」の検定合格は日本政府の国際公約違反
 そもそも日本国憲法は、日本がふたたび侵略戦争をしないという国際的宣言であり、
国際公約でもあることを思い起こす必要があります。また、1982年に教科書検定による
侵略の事実の隠蔽に対しておこったアジア諸国からの抗議を契機に、教科書検定基準に
「近隣のアジア諸国との間の近現代史の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地
から必要な配慮がなされていること」という条項が政府によって付け加えられたことも
、忘れてはなりません。さらに、1995年の村山富市首相談話で、アジア諸国に与えた「
多大の損害と苦痛」にたいしてお詫びと反省を表明しました。1999年の日韓共同宣言で
も、「両国民、特に若い世代が歴史への認識を深めることが重要」と表明しています。
歴史への反省は2002年の日朝ピョンヤン宣言でも引き継がれています。これらの言明は
日本政府の明確な国際公約であり、同時に日本国民への公約でもあります。しかもその
考え方は、侵略戦争を否定し諸民族の平等と平和を重んじてきた第二次世界大戦後の世
界の潮流に照らしても当然のことです。日本政府はこのような国際公約を守る当然の責
任と義務を負っています。
 ところが「つくる会」の教科書は、こうした日本政府がこれまで公式に表明した国際
公約に明らかに違反する内容を含んでいます。特に韓国との関係では、2002年のワール
ドカップ共同開催以降、友好的な交流が発展し、「韓流ブーム」によって1日に1万人が
行き来するほどになり、過去史の清算と平和的な和解の条件が成熟しつつある状況に逆
行する教科書といえるでしょう。こうした重大な問題に関し、諸外国の政府・国民が日
本政府の対応について意見を述べるのは当然であり、政府としても真摯な対応が求めら
れるところです。これを内政干渉ということはできないことは、2001年当時の外務省自
身が国会でも正式に答弁しているところです。
 このような日本国憲法否定・国際公約違反の教科書を再び検定合格させたことについ
ては、日本政府の責任は重大です。
 第1に、教科書検定制度を廃止するならばともかく、文部科学大臣が検定権限をもつ
検定制度を維持している以上、検定合格がその教科書を教室で使用することを公的に承
認する結果となることは、なんびとも否定できないからです。そうである以上、政府の
責任は否定できません。
 第2に、このような教科書を検定に合格させ、採択させるために、「つくる会」など
と連携して全国的な政治活動をこの間展開してきたのは、ほかならぬ政府与党の政治家
です。さらに、与党である自民党は、「つくる会」教科書を採択させるために国会議員
・地方議会議員一体となって活動するように指示を出し、運動方針にまで重点課題とし
て掲げています。また、「つくる会」以外の教科書から日本軍「慰安婦」の記述や「侵
略」「虐殺」などの用語を削除させるべく、さまざまな政治的圧力をかけ、「自主規制
」の名の下に事実上の強制を行ってきたのは、政府・文部科学省であり、現・歴代文部
科学大臣を含む政府与党の政治家です。この点でも政府の責任はなおいっそう重大です
。政府がこのような責任に頬かむりをすることは断じて許されることではありません。
 ところが、政府与党の政治家たちはアジア諸国からの批判を内政干渉などと騒ぎたて
て、事実上、近隣諸国条項の廃止など国際公約破棄を公然と叫んでいます。その先頭に
立っている文部科学大臣や大臣政務官を罷免することもなく、こうしたことを政府が明
確に否定しないのであれば、日本は国際的に孤立の道を歩む過ちを繰り返すことになる
でしょう。私たちはひきつづき、このような政府の責任をきびしく追及する決意です。

(三)「あぶない教科書」を教育現場に持ち込ませない運動を広げよう
 私たちは、歴史を歪曲し、戦争を賛美し、憲法「改正」・「戦争をする国」をめざし
、国際社会での孤立化の道に踏み込む「あぶない教科書」が、子どもたちの手に渡され
ることを許すことはできません。「あぶない教科書」が検定に合格したいま、各地域で
この教科書を採択させないよう声を上げ、関係機関への働きかけを強めましょう。
 20046月、自民党の安倍普三幹事長(当時)が、「歴史教育が国家の将来の根幹に
関わる重要課題である」「歴史教育の問題は憲法改正、教育基本法改正の問題と表裏一
体の重要課題である」と党の都道府県連に通達を出しています。自民党をはじめ「つく
る会」や日本会議などは、「つくる会」教科書の採択と教育基本法・憲法「改正」を連
動させて取り組んでいます。
 いま、教育基本法「改正」反対、憲法「改正」反対の運動・世論は各地に広まってき
ています。しかし、まだまだ地域の世論を変えるほどにはなっていません。これを大き
な世論に変えていくカギは、「つくる会」教科書の採択問題です。なぜなら、教科書は
地域単位で採択され、地域で「あぶない教科書NO!」の世論をつくる必要があるから
です。私たちは、2001年に地域の草の根の活動によって「つくる会」教科書を公立中学
校に採択地区ではゼロに終わらせました。この教訓を活かして再び地域で草の根の世論
を高め、広めることができれば、「つくる会」教科書をゼロ採択に終わらせ、教育基本
法・憲法「改正」反対の運動と力をつくりあげることができます。そのことを通じて、
日本の国民の良識をアジア・世界に向かって示そうではありませんか。同時に「つくる
会」の教科書とその運動に終止符を打たせようではありません
か。
 また、「つくる会」以外の教科書の侵略・加害と植民地支配に関する記述は今回の改
訂でさらに後退しています。この問題は、「つくる会」などによる誹謗・攻撃と、「つ
くる会」と連携する政治家の介入・圧力によって文部科学省が採択制度を改悪して、現
場の教員の意見を排除して教育委員会による採択を推し進めたことに大きな原因があり
ます。私たちは、ひきつづき検定・採択制度の改善を要求し、アジアの平和な共同体を
めざしていきましょう。そして、その前提となる歴史認識の共有が可能になるよう、教
科書記述の改善を求め、実現させようではありませんか。

2005
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                 子どもと教科書全国ネット21ほか15団体
                 http://www.ne.jp/asahi/kyokasho/net21/top_f.
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