横田めぐみ「遺骨」鑑定人の科捜研法医科長栄転は論功行賞か(05.4.12)
拉致問題への視点 http://www8.ocn.ne.jp/~hashingi/page027.html#K21 より(2005.4.15 up)
英誌ネイチャー「横田めぐみ遺骨鑑定は確定的ではない」(1・2・3)
http://www8.ocn.ne.jp/~hashingi/page027.html#K20 参照
横田めぐみ「遺骨」鑑定人の科捜研法医科長栄転は論功行賞か(05・4・12)
横田めぐみさんのものとされた遺骨を日本政府が「別人のもの」と発表した「鑑定結果」について、当の鑑定をした帝京大医学部法医学教室の吉井富夫講師(49)が「自分が行った鑑定は確定的(not
conclusive) なものではなく、サンプルが汚染されていた可能性がある」とその科学性を否定する発言をしたと報じ、国際的な波紋を引き起こした英科学誌『ネイチャー』は、新たに4月7日号で「Job
switch stymies Japans abduction probe(転職は日本の拉致証明を妨害)」と伝えた。stymieとは本来、ゴルフでグリーン上のホールと打者のボールとの間に相手のボールがある状態を指し、妨害とか邪魔を意味する厳しい言葉である。
世界的に権威ある科学誌は、サブタイトルで「遺伝学者の新しいポストはDNA鑑定に関する証言を止めさせるかもしれない」と、日本政府の口止め工作の可能性を示唆しており、波紋はさらに広がる気配である。
ネイチャーが新たな疑惑として報じた「転職」とは、外部との接触を一切断ち、鳴りを潜めていた渦中の吉井富夫氏が、科学捜査研究所(科捜研)の法医科長に栄転した事を指す。
このいかにも唐突で不自然な人事については、共同通信が3月25日付で「帝京大講師が科捜研科長 横田さんDNA鑑定で実績」と報じた。同記事は、「帝京大医学部法医学教室の吉井富夫講師(49)について、警視庁は25日、科学捜査研究所(科捜研)の法医科長として採用する人事を発表した。警察が外部の人材を管理職として招聘するのは極めて異例」と指摘した。さらに、「警視庁は来年度、細胞内小器官ミトコンドリア内のDNA分析が可能な機器を導入する方針。DNA鑑定の権威として知られる吉井講師は捜査の鑑定技術を向上させる役割を期待されている。細胞の核を使ったDNA鑑定は全国の科捜研で実施されているが、あかや汗、毛髪など細胞核を含まない資料は、ミトコンドリアDNAを鑑定できる科警研や帝京大などに依頼するしかなかった」と、“異例な人事”の背景にある警察内部の事情を伝えた。
この記事は読み方によって、“奇跡的な鑑定”をした吉井講師の“手腕”が高く評価されたとも、口封じのために警察内のポストが与えられたとも解釈できるが、「吉井氏に外部の人間が近づけないように、囲い込んだ」(消息筋)とする見方が有力だ。いずれにしても日本政府の意向に沿ったことへの論功行賞であることは間違いなさそうだ。
というのも、吉井鑑定に疑問を呈したネイチャー記事掲載直後、細田博之官房長官は記者会見で「ネイチャーの記事は捏造されたものだ。吉井講師は『自分が言っていないことを書かれた』と言っていた」と語り、記事を書いたネイチャー誌のシラノスキー記者が「捏造なんてするわけがない。吉井氏は私の質問に科学者として論理的に答えてくれた」と反論した。
そうした中、『週刊現代』(05・3月19日)が当の吉井氏に取材し、「政府からも、警察からも、大学からも、この件についてはコメントするなと止められている。だから話せない」とのコメントを得ていた事実から推して、科捜研法医科長のポストが何らかの見返りであると考えることは十分に合理的根拠がある。
吉井鑑定が北朝鮮制裁論を一挙に高め、日朝関係を険悪化させたことは周知の事実である。それに関わる重大な疑惑がどうして日本国内で報じられないのか、全く不可思議である。
共同通信記事はヤフー、ライブドア、エキサイト、インフォーシークなどインターネットのポータルサイトが報じたが、例のごとく、新聞、テレビなど大手メディアはほとんど黙殺した。各メディアには「拉致問題に下手に触れると、非難を受ける」と腰が引けている面があると言われる。
しかし、これでは事実上、日本国内で一種の情報操作なり統制が行われているようなものである。一般国民の知る権利を阻害し、報道の自由を危うくし、ひいては日本外交を誤らせるものとして看過することは許されない。
日本政府の不可解な態度は国際的には通じないだろう。
米誌『タイム』(4月4日号)も「吉井氏が用いた分析技法nestedPCRは信頼度に問題が多く、米国の法医学研究所では使用しない」と疑問を投げかけている。
日本側から「拉致問題への理解と協力」を再三求められてきた韓国では当然、この問題への関心が強く、各メディアが注目しているが、中でも早くから追跡してきた大手の連合ニュースが4月12日付けで「“偽遺骨”、英ネイチャーと日本政府の攻防に飛び火」と大きく報じた。
同記事は、「日本政府は疑惑に答えようとしていない」と一連の経過を紹介しながら、「警察庁所属となった吉井氏に対して国会外務委員会で証言を求めようとしても、上司の許可を得る手続きを得なければならなくなった」と問題点を指摘し、「日本で遺骨鑑定に疑問を提起してきたほとんど唯一の人物である」として、首藤信彦・民主党議員が去る3月30日に国会で町村信孝外相に、「警察訓練を受けていない民間人を部所長にするのは異例だ。証人隠しではないか」と質問した例を挙げた。
さらに、「日本政府は自ら偽遺骨問題を争点にしておきながら、その解明を回避しようとしている。科学的に疑問点を解消しない限り朝日関係改善は難しい」との李ジュンギュ平和ネットワーク運営委員の声を紹介している。
ブロードバンド先進国の韓国の電子新聞には記事ごとに読者が意見を述べる書き込み欄があるが、同記事についても「意図的な領土紛争、教科書歪曲に加え、故意性の強い遺骨紛争まで。日本は理性のある国なのか」「日本ならありうる話だ」「捏造はいい加減にしろ」といった書き込みが続き、ネイチャー記事を無視する日本政府の不可解な態度に不信感を高じさせている。
北朝鮮側は05年1月24日の備忘録で「日本は反朝鮮謀略劇の責任から絶対に逃れられない」と非難し、数度にわたり遺骨返還と謝罪を求めている。遺骨が仮に日本政府の主張するように横田めぐみのものではないとすると、元の所有者に返還するのが筋であるが、それにも日本側は応じず、両者の交渉は、引くに引けず進むに進めない泥沼状態に陥った。
遺骨問題は拉致問題を引き起こした北朝鮮に第一義的に非があるが、必要以上に問題をこじらせている日本の態度も褒められたものではない。これ以上事態を悪化させないために、再度原点に立ち戻って仕切り直し、高度な政治的判断に基づく決着が必要であろう。