「意見広告の会」ニュース275 (2005.4.30)

 

 

「意見広告の会」ニュース275

*ニュースの配布申し込み、投稿は、
  qahoujin@magellan.c.u-tokyo.ac.jp まで、お願い致します。

*今回の「ニュース」はすべて読者からの投稿、ご指摘によるものです。
*衆院文科委員会4月22日は、長くなりますので次号に致します。
      http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm

** 目次 **
1 やっぱり高橋史朗埼玉県教育委員は教科書監修者
           教育と自治・埼玉ネット
2 衆院文科委員会における民主党・加藤尚彦議員の発言を読んで」        
 
     「大学の復権ー...」の著者より
3 論文だけで博士、駄目 大学院重視で一致
           共同通信4/14
4 日本は近隣アジアとの衝突の道から引き返せ
           ほっかいどうピースネット


***
1 やっぱり高橋史朗埼玉県教育委員は教科書監修者
           教育と自治・埼玉ネット

●ご存知のように、25日、高橋史朗埼玉県教育委員が扶桑社「中学校公民」検定申請
時の「著作編集関係者名簿」(受理番号:16-3)に「高橋史朗 明星大学教授教育学
 {第1章 現代社会と私たちの生活}の監修」と記されており、高橋史朗氏が今次の
検定に申請した「つくる会教科書」=扶桑社「中学校公民」の監修者であったことが判
明しました。

そこで、「教育と自治・埼玉ネット」は今日26日、緊急に「声明」を持参し、県教委
へ申し入れ、その後記者会見をしてきました。

●申し入れ内容は以下の4点です。
(1)「声明」を高橋史朗委員・稲葉教育長・青山教育委員長を含め、委員全員に配ること

(2)高橋史朗氏が監修者であったことが明らかになったことを踏まえ、高橋史朗委員の委
員会参加(除斥)問題を正式議題とすること。
(3)その際、高橋史朗氏に席を外させること。
(4)次回委員会で、「声明」の趣旨説明を直接させること。


●高橋史朗氏の教科書選定委員に関する記事が26日各紙(埼玉版)に掲載されていま
した。ご覧ください。

 [ 東京新聞 ]
 扶桑社の公民教科書監修者
高橋氏の名削除明らかに
  来年度から中学校で使われる教科書検定で、扶桑社発行の公民教科書の監修者か
ら県教育委員で「新しい歴史教科書をつくる会」元副会長の高橋史朗氏の氏名が削除
されていたことが分かった。文部科学省が二十五日、財団法人教科書研究センター
(東京都江東区)で公開した検定関係資料で明らかにした。 (増村 光俊)

 県教委の教科書採択をめぐり、市民団体や教職員組合などは高橋氏を採択の論議か
らは外すべきだと主張しており、論議に影響を与えそうだ。

 センターによると、高橋氏は扶桑社発行の公民教科書で、当初は第一章「現代社会
と私たちの生活」で監修者となっていた。昨年十二月六日付で削除されたという。

 文科省の指導などでは、教科書の編集や監修にかかわった者は、教科書の採択に関
与できないとされている。この問題について、埼玉教職員組合の金子彰中央執行委員
長は「これまで高橋氏は、今回の教科書にはかかわっていないとしていた。県民を欺
く悪質な行為で、許されるべきではない」としている。また共産党県議団の山岸昭子
団長は「教科書の監修に関与したという重大な事実を秘匿したまま、教育委員として
の人事案件を県議会に提案した知事の責任は重大。教科書採択に関して、教育委員会
は高橋氏を今後一切関与させるべきではない」との談話を出した。

 一方、高橋氏は多忙を理由に二十六日に取材を受ける意向を示している。これまで
「一般的な教科書採択の議論は教育委員の任務」として議論に参加したい考えを示し
ている。

[ 朝日新聞 ]
知事、「全く問題ない」

       県教育委員の高橋史朗氏の名前が、「新しい歴史教科書をつくる会」の主導
で編集され、04年度の文部科学省の検定に合格した扶桑社版の中学生向け公民教科
書の検定前の監修者名簿にあったことが、分かった。上田知事は25日、朝日新聞の
取材に「(高橋氏が監修者であることは)知っているはずがない。(任命は)全く問
題ない」とコメントした。

        文科省によると、昨年12月6日付で、監修者1人を削除するよう扶桑社
から届け出があったという。

       扶桑社は朝日新聞の取材に「昨年秋口、高橋氏から電話で『一身上の都合で
辞退したい』との申し出があり、文科省に削除の申し入れをした。正式な書類の受理
が12月になった」としている。高橋氏は、00年度の検定に合格した同社版の歴史
教科書の監修者も務めた。
>
>        上田知事は、高橋氏の扶桑社の公民教科書への関与について「知りうる立
場にないのだから、知っているはずがない」とし、県教育委員に任命したことについ
ては「教科書選定だけが教育委員の仕事ではない」と答えた。

        さらに教科書の監修者でも教育委員を務めた前例があるとし、それを取り
上げずに「今回なぜ問題にするのか理解できない」と述べた。

        これに対し、埼玉大学教育学部の林量俶教授は「高橋氏本人が、監修者名
簿への名前の掲載や削除について知らないはずはない。県教育委員として不適格では
ないか」と語った。

        高橋氏は県教委を通じて「26日には取材に応じる」としている。

[ 毎日新聞 ]
 埼玉県:教育委員が教科書監修 市民団体から疑問の声
  埼玉県教育委員の高橋史朗・明星大教授が「新しい歴史教科書をつくる会」主導
で扶桑社が発行した公民教科書の監修者を務めていたことが25日、明らかになっ
た。現在、監修者から高橋氏の名前は削られているが、教育委員は県立学校などの教
科書選定にかかわるため、市民団体から疑問の声が上がっている。

 文部科学省は同日、教科書研究センター(東京都江東区)で、来年度から使われる
中学教科書を公開した。各教科書の「著作編修関係者名簿」で、扶桑社の公民教科書
は04年4月の申請時には高橋氏が監修者になっており、昨年12月の教育委員就任
直前に削除されていた。

 同県では、教科書を選ぶ資料を作る「教科用図書選定審議会」が19日に初会合を
開き、高橋氏も委員の選定に加わった。しかし、文科省は指針で教科書の編著作の関
係者は教科書の採択に関与できないとしており、市民団体などから「審議会委員の選
定も含め教科書採択手続き全般にかかわるべきではない」との請願が県教委に寄せら
れた。

 高橋氏は「新しい歴史教科書をつくる会」の元副会長で、昨年12月7日に同会を
脱退、同27日に県教育委員に就任した。

  この問題について県教委は「審議員の選定は教科書採択そのものではく問題はな
い」との考えだが、稲葉喜徳県教育長は「採択審議が実質的に始まる6月末ごろまで
に(高橋氏が採択そのものに関与するかどうか)結論を出さなくてはいけない」とし
ている。

 高橋氏は「教育委員の公正性確保のために監修者からの辞退を扶桑社に申し出た。
監修料は受け取っておらず(現在は)教科書との利害関係があるとは言えない」とし
ながらも、「不信感を持たれないよう、公民教科書の選定審議では退席する」と話し
ている。【秋本裕子、斎藤広子】

  [ 読売新聞 ]
      編著作者名簿から高橋氏削除  つくる会教科書  教育委員就任直前に
       
       「新しい歴史教科書をつくる会」が執筆した扶桑社の中学校の「公民」教科
書で、昨年12月に県教育委員に就任した高橋史朗・明星大教授が、昨年4月に同社
が文部科学省に提出した編著作者名簿に監修者として名を連ね、委員就任の直前に削
除されていたことが25日、文科省所管の財団法人「教科書研究センター」(東京都
江東区)が公開した資料から分かった。
        高橋氏は委員就任以降、扶桑社の「公民」教科書への関与について、「監
修について実質的には関与していない」と説明していた。しかし、扶桑社は「了解を
得て、監修してもらった」と高橋氏が監修にかかわったことを認めている。

        高橋氏が監修していたのは、「公民」教科書全198ページのうちの21
ページ分。第一章「現代社会と私たちの生活」で、「家族の意義を考える」「国境を
越える」――などのテーマを取り上げている。

       扶桑社は「高橋氏が名簿から削除される前と後で、教科書の内容に変更はな
い」としている。
        扶桑社によると、昨年秋、高橋氏から「一身上の都合で監修者を辞退した
い」との申し出を受け、同社が昨年12月上旬、文科省に編著作者名簿の変更届を提
出。高橋氏は12月27日、県教育委員に就任した。
   文科省は今月6日の衆院文科委員会で、「公正確保の観点から、教科書の編著作
者等が採択に関与するということは望ましくない」(銭谷真美・初等中等教育局長)
と答弁。異例の名簿公開に踏み切った。
   高橋氏の教科書採択への関与に反対している「教育と自治・埼玉ネットワーク」
の林量俶(かずよし)・埼玉大教授は「申請時に監修者として名を連ねていた以上、
公正公平であるべき教科書採択に高橋氏は関与すべきではない」と話している。

[ しんぶん赤旗]
 「つくる会」中学教科書 高橋県教育委員は監修者
 文部省の検定資料でわかる

 採択の公平確保できぬ

埼玉県の高橋史朗県教育委員(「新しい歴史教科書をつくる会」元副会長)が今回採
択の対象となる扶桑社中学校教科書「社会」(公民)の監修者だったことが25日、
明らかになりました。高橋氏は「(今回採択の中心になる)教科書に一切関与してい
ない」(「埼玉」8日付)と話していました。 高橋氏の監修は、文部科学省が教科
書研究センターで公開した「教科書検定結果関係資料」で判明したもの。各教科書会
社が文科省の銭谷真美初等中等教育局長が、扶桑社教科書監修者一人の変更届が昨年
12月6日付でだされたと答弁しています。問題の日付は、上田清司県知事による高
橋氏の教育委員起用が新聞報道で明らかになった日でした。 県内の教科書採択作業
について市民団体や日本共産党県議団は「高橋氏は監修者の疑いなど直接の利害関係
があり、公正さが確保できない」として、同氏が教科書選定作業に関与しないように
すべきだと申し入れていました。 県教育局は「検定関係資料の現物が文科省から届
いていないので対応できない」としています。 扶桑社の中学教科書は「つくる会」
が編さん。日本の侵略戦争と植民地支配を美化し、「日本国憲法は世界最古」などk
u梍テ
襦・・?_鰺尭海垢覽\劼・団Г箸覆辰討い泙后・・w)          
                                      
     
 [ しんぶん赤旗]  (4月26日)
  「つくる会」教科書に憂慮   歴史学者・教育者62氏がアピール

 侵略戦争を美化する「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書について、歴史学者
・歴史教育者62名が25日、「歴史の事実をゆがめる『教科書』に歴史教育をゆだ
ねることはできない」とのアピールを発表しました。同教科書が採択され学校の教室
に持ち込まれることに「深い憂慮」を表明しています。
  荒井信一・駿河台大学名誉教授、石山久男・歴史教育者協議会委員長、西川正雄
・東京大学名誉教授、浜林正夫・一橋大学名誉教授が記者会見し、さらに賛同者を広
げていく意向を表明しました。
 荒井氏は「天皇のために死ぬこと」を教え込まれた戦前の反省から戦後の歴史教育
が出発したことを振り返り、子どもたちが正しい歴史認識、国際理解を持つことの重
要性を指摘。西川氏は20年来アジア諸国との歴史の共同研究を重ねてきた体験を語
り、「共通の土台できたのに『つくる会』の教科書はそれを無にしてしまうもの」と
批判しました。浜林氏は、「海外で武力行使ができるよう憲法を変えようという状況
のなかで、戦争の事実を覆い隠す教科書が出ている。前回以上に急速に運動を広げる
必要がある」と語りました。
 アピールには甘粕健、岩井忠熊、戸沢充則、直木孝次郎、宮田節子、和田春樹らの
各誌が名を連ねています。


2 衆院文科委員会における民主党・加藤尚彦議員の発言を読んで」        
 
     「大学の復権ー...」の著者より

 民主党の加藤議員は、小泉内閣が誕生したときに、小泉総理が掲げた”米百俵”の
精神に国民が拍手したことを引き合いに出し、今春の国立大学の授業料値上げの不当性
を糾弾され ました。
また、「イギリス、欧米先進国の授業料は、日本の国立大学授業料の半分以下とか、イ
ギリスなどは国庫全額負担*の制度を作っているという方向....,、しかし日本はそれ
に逆行してい る。」と指摘されました。

 *これは昔の話で、イギリスの大学授業料は、現在一律に年間1,125ポンド(低所得
者の優遇措置あり、卒業後にローン返済など)となっている。

 加藤(尚)議員の発言の主要な部分を収録し、再読してみますと、やはり、冒頭に言
われたこと、「.....昭和五十年、私学の授業料は国立の五・一倍、逆に言うと国立大
学は私学の五 分の一ということですね。現在は一・六倍ということで、大変国立と私
学の授業料の差が少なくなって いる。
だから、国立大学という、存立の意義ということは議論しなくちゃいけないわけで す
。その議論は当然しなくちゃいけないんだけれども...。
確かに国家財政は厳しい、これはだれもが知っている。何で厳しくなったかという理
由についてはごまんとあるわけです。納得できない理由もごまんとあるわけです、これ
は別なところで議論 しようと思っています
「けれども。」 が、大きなウェイトをもって、迫ってくるように思います。
 
 私は、先月中ごろ、神田駿河台の日大歯学部で開かれた「憲法九条を守る科学者の会
」の集会に参加し、発起人の一人である暉峻淑子さんの講演(アピール)を聴きま し
た。
これに刺激されて、同じ暉峻さんが岩波のブックレットの一冊として出版された「格差
社会をこえて」を読みました。 また、以前から注目していたが、忙しくて読めなかっ
た経済学者橘木俊詔 氏が書かれた「日本の
経済格差」(岩波新書)を読んでいるところです。
 なぜ、消費税の3%->後5%にアップ が設けられたか?ヨーロッパのように食料
品など、生活必需品に特別な減免制度がないのか? 

 暉峻さんのブックレットによれば、1988年消費税導入の際の税制改革により、高
額所得者にかかっていた累進的に重い課税(いくつかの段階があったが、2000万円
以上は税率が50 %から60%)が、1800万円以上は一律に37%に減免された
。その見返りとして、新たな税収を消 費税に求めたとのこと。
 
 今回の国立大学の授業料値上げによる増収がいくらあるかというと、約80億円位で
あることを先日の衆議院文教科学委員会で、共産党の石井郁子議員が述べられていまし
た。
 しかし、消費税と同じで、累進的に高額の授業料が大きな負担になるのは、国立大学
入学者のなかでも、相対的に低所得の家庭です。
 
 今後「意見広告の会」として、民主党の加藤議員が提起されて、あの場で議論を先延
ばしにせざるを得なかった重要な問題提起を、大学人の立場で受け止め、実証的、かつ
有効な言論を 展開してくださいますよう、お願いいたします。
 
 なお、ヨーロッパの諸国、アフリカの後進諸国が、小泉総理が言った”米百俵の精
神”でもって、教育を充実、強化しようと努力しているのに、なぜ、日本が逆行してい
るかに対する回答が、下の中山大臣の大学の本質、大学における研究、教育の意義、価
値を理解しない、財界人のような答弁のなかにあると思います。
また、残念ながら、この答弁に或る程度、賛意を表している民主党の加藤議員の認識に
も、それが現れていると思います。 

○中山国務大臣 国立大学法人の経営基盤を安定させて教育研究の振興を図るために、
企業等との共同研究の拡大とか、あるいは多様な競争的資金の獲得など、各大学の取り
組みを支援していきたいと思っていますし、また、税制面においても必要な措置を講じ
ているところでございます。
 税制について具体的に申し上げますと、民間から国立大学法人に対して寄附を行った
場合の税制措置につきましては、個人からの寄附金はその年の所得の三〇%を限度とし
て所得控除する、法人からの寄附金は全額損金参入をできることとなっておりまして、
国に対する寄附とほとんど同様、実質的には同様の優遇措置が受けられることになって
いるわけでございまして、今後とも、各大学が円滑な学校運営ができますように適切な
支援に努めてまいりたいと考えております。
○加藤(尚)委員 私も、研究調査してさらに努力したいと思います。 


3 論文だけで博士、駄目 大学院重視で一致
            共同通信 4/14
 中央教育審議会の大学院部会は14日までに、企業や公的な研究所で業績を挙げた社
会人が、論文などの審査を基に博士の学位を得る「論文博士」制度を廃止し、大学院の
カリキュラム修了者を対象に与える「課程博士」制度に一本化する方向で一致した。
 論文博士については「学位のため研究を狭い分野に限定してしまう恐れがある」「日
本独自の制度で国際的な通用性に欠ける」などの批判があった。

 文部科学省は論文博士を認めている省令を改正、博士号取得を目指す社会人に対して
は大学院に短期間在学する「博士課程短期在学コース」の創設なども検討している。


4 日本は近隣アジアとの衝突の道から引き返せ
           ほっかいどうピースネット

【賛同のお願い】              【広く転送してください】

賛同締切りは5月2日(月)です!

「新しい歴史教科書を作る会」の問題をきっかけに、四月に入ってから中国
で広がった反日デモについて、私たちは日本社会に住む人間としての姿勢を
明確にすべく、以下のような声明を出します。
一人でも多くの方からの賛同をいただき、日本社会からの声として中国など
アジアの人たちに届けたいと考えています。一人でも多くの方の賛同をお願
いいたします。

賛同締切り :5月2日(月) 18:00
賛同送付先  :ほっかいどうピースネット 
        FAX : 011-261-6883
        Email:has27630@snow.odn.ne.jp

賛同署名は、5月4日(水)にマスコミ向けに発表、小泉首相宛てに送付しま
す。なお、賛同は、団体・個人両方で受け付けます。

------------------------------------------------------------------
     日本は近隣アジアとの衝突の道から引き返せ
      ―歴史認識と「反日デモ」について―
-------------------------------------------------------------------

 日本と近隣アジアとの関係は憂慮すべき、深刻な危機に入っている。ここ
数年、小泉政権の下、急速に右傾化を強めた日本は、アジアに対する日本帝
国の過去の行動を合理化する行為を重ねることで、近隣アジア諸国との衝突
の道を突き進んできた。四月初旬から中国各地で激しく行われてきた「反日
デモ」は、このような日本の選択にたいする近隣アジアの叫びであり応答で
ある。韓国の盧武鉉大統領は「侵略と加害の過去を栄光と考える人たちと生
きるのは全世界にとって大きな不幸だ」と述べた。日本がこの道に固執する
かぎり、日本と近隣アジアとの関係はその根底部で破壊され、敵対と不信に
浸透された不幸な関係に陥っていくしかない。私たちはそれを望まない。

 一九九五年、日本政府は、村山首相談話を通じて、「わが国は、遠くない
過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、
植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対し
て多大の損害と苦痛を与え」たことを認め、「未来に誤ち無からしめんとす
るが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、…あらためて
痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明」した。

 これは戦後五〇年、遅すぎたとはいえ、日本がアジア諸国へなした誓約で
あり、日本の対外関係を律する文書である。小泉政権もそれを否定していな
い。そればかりか、四月二八日ジャカルタで開かれたアジア・アフリカ首脳
会議ではそれを読み上げ、今日の危機をすり抜けるために利用さえしている。
だが現実には、小泉首相は就任以来、この誓約を反古にする道をあえて選び
取り、一切の批判を受け付けずに開き直ってきたのである。小泉首相の靖国
参拝への固執とそれへのアジアからの批判への無視は、まさに一九九五年誓
約の反古化を宣言する象徴的行為であった。ドイツには戦死したドイツ兵士
とともにヒトラーやゲッベルスを祀った宗教施設などは存在しないが、かり
にそのようなものが存在して、ドイツ首相がそれに参拝したとすれば、ドイ
ツの侵略を受けたヨーロッパ諸国の社会が、どう反応するだろうかを考えて
みれば、日本国首相の靖国参拝が、近隣アジアにとってどのような挑発、侮
辱なのかは一目瞭然である。首相の靖国参拝は、他国が口を出す権利のない
国内問題ではなくて、明らかに重大な国家行為・外交行為である。そうであ
る以上中国や韓国がそれを批判し、抗議する当然の権利が存在する。

 さらに日本政府は、右翼勢力と気脈を通じつつ、「日の丸・君が代」の強
制、「心のノート」などによる子どもたちへの愛国心教育の押し付け、歴史
歪曲教科書の採用の推進など、日本帝国の過去を復権し、自己反省に立つ「
歴史認識」を退ける政策を公然・隠然と推し進めてきた。韓国の盧武鉉大統
領はこの経過を指して「日本が何度か謝罪したのは確かだが、最近はこうし
た謝罪を白紙化する行動を見せた」と指摘した。そしてこの文脈のなかで、
日本政府は、領土や資源開発など隣国との最も敏感な問題について次から次
に挑発的行動に出た。隣国との関係の全面的悪化が、こうして小泉政権によ
って作り出されたことは明白である。

 だが日本国内においては、問題は中国における「反日デモの暴走」にすり
替えられている。町村外相は「反日デモ」をめぐって、政治的責任は日本側
にあるという中国政府の立場声明には何も述べず、デモによる日本政府公館
や日本企業への被害について中国政府に「陳謝、賠償」を要求するという攻
撃的姿勢で開き直った。この見方が政治とメディアを制圧している。中国警
察は投石を黙認した、責任を追及せよ、中国政府の「愛国教育」=「反日教
育」が問題だ、いや体制に不満な若者たちの反日にかこつけた反政府運動だ、
など他人事のような議論が飛び交う中、靖国、教科書問題、歴史認識をめぐ
る日本への要求が正当かどうかについて、国会でもメディアでもまじめな議
論は欠如している。

 私たちは、このなかに居直りと無神経さを感じ取る。いま自民党と小泉政
権が戦略的目標として推進している憲法改定の柱の一つは、日本帝国の過去
の復権である。そして近隣アジアにおける「反日」の爆発によって、この帝
国の過去復権の企てこそ近隣アジアとの関係を決定的に壊すものであること
が明白になったのに、日本の政治とメディアはそれを直視しようとしていな
いのである。

 今日推進されている改憲の企ては、戦後国家から平和主義の原理を抜き去
る(九条改憲)ことと日本帝国の復権を組み合わせ、それによって、軍隊と
交戦権をもつ国家として安保理常任理事国の座を確保し、同時にアメリカ帝
国の世界支配に軍事的にも全面参加するよう日本国家を作りかえるというも
のである。米国のグローバル戦略のなかに日本を位置づける有事法制など一
連の軍事化法制は、周囲の諸国・諸国民に近未来における日本からの脅威を
意識させ、それによって過去の侵略の記憶を喚起させるものである。

 自民党憲法起草委員会の小委員会のまとめた憲法改正要綱は、中曽根康弘
が座長となって作成した「憲法前文」部分に、帝国の復権をはっきり書き入
れている。曰く「日本国民は…和の精神をもって国の繁栄をはかり、国民統
合の象徴たる天皇と共に歴史を刻んできた。日本国民が先の大戦など幾多の
試練、苦難を克服し、力強く国を発展させてきた」。「先の大戦」は日本国
民が「試練、苦難を克服」した美談として総括されるのである。そこには「
植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対し
て多大の損害と苦痛を与え」(村山談話)たことの総括はもとより、「政府
の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにする」決意(日本
国憲法前文)もない。

 いま私たちは近隣アジアからの激しい抗議と批判によって、帝国復権への
道がすでに破綻していることを告げ知らされている。アジアの不信の海の中
で、アジアと敵対しつつ私たちは二一世紀を生きることはできない。

 私たちはこの道から日本を引き返させなければならない。

 小泉内閣は、靖国参拝を始め、近隣アジアとの全面的敵対関係を引き起こ
した責任をとって退陣すべきである。日本政府は、その政策の全体を村山談
話に照らして再検討し、日の丸・君が代強制、扶桑社教科書の上からの押し
付けなど、日本帝国による侵略・植民地化の忘却・免罪・美化につながる行
為、政策を廃止すべきである。これらを推進してきた右翼連合は権力から排
除されなければならない。日本は国連安保理常任理事国入りへのキャンペー
ンを直ちに中止すべきである。戦争を反省しない国、アジアの信頼を勝ち得
ない国が世界のリーダーになる資格はなどないのである。そして何より、非
武装平和原理の廃止と帝国継承性の復権を目指す改憲の企ては撤回されなけ
ればならない。

 私たちはこれらをアジアの平和と正義を願う多くのアジアの人との共同の
努力によって実現するであろう。

                           二〇〇五年四月


鵜飼 哲  (一橋大学教員)
太田 昌国 (民族問題研究者)
大橋 正明 (恵泉女学園大学教員)
小倉 利丸 (ピープルズ・プラン研究所共同代表)
櫛淵 万里 (ピースボート共同代表)
熊岡 路矢 (大学教員)
越田 清和 (ほっかいどうピースネット)
高里 鈴代 (沖縄・基地軍隊を許さない行動する女たちの会)
長澤 正隆 (日本カトリック正義と平和協議会事務局長)
西野 瑠美子(VAWW−NETジャパン)
花崎 皋平 (さっぽろ自由学校「遊」共同代表)
弘田 しずえ(カトリックシスター)
武者小路 公秀(反差別国際運動日本委員会理事長)
武藤 一羊 (アジア平和連合(APA)ジャパン)
吉見 俊哉 (東京大学教員)
山本 俊正 (日本キリスト教協議会総幹事(NCC))


賛同締切り   :  5月2日(月) 18:00
賛同送付先 : ほっかいどうピースネット 
       FAX : 011-261-6883
       Email:has27630@snow.odn.ne.jp


賛同署名は、5月4日(水)にマスコミ向けに発表、小泉首相宛てに送付しま
す。なお、賛同は、団体・個人両方で受け付けます。

==「日本は近隣アジアとの衝突の道から引き返せ」声明に賛同します==
【団体賛同】

団体名:
ご連絡先:Email           FAX

【個人賛同】
お名前:
(もしあれば)肩書き:
ご連絡先:Email            FAX
==================================