「意見広告の会」ニュース276 (2005.5.7)

 

 

 

「意見広告の会」ニュース276

*ニュースの配布申し込み、投稿は、
  qahoujin@magellan.c.u-tokyo.ac.jp まで、お願い致します。
*国会特集は更に次号と致します。

** 目次 **
1 博士号は得たけれど「ポスドク」激増で就職難
      『読売新聞』200552日付
2 案内特集
2−1 教育基本法の改悪をとめよう!5・7全国集会 開催のおしらせ
           
教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会
2−2 話し合うことが罪になる! 共謀罪新設に反対する市民と国会議員の集い
         
 共謀罪に反対する市民の集い実行委員会
3 首大 これまでと今後
3−1 都立4大学の改革を巡る経緯について:石原ファシスト都政との戦い
      山下正廣 元都立大教授
3−2「『意見広告の会』ニュース271」に思う[2005/04/27][2005/05/01]修正
      「だまらん」 *ご指摘にあるように3千は2千の誤り(事務局)
3−3 初見基研究室ホームページ「たまらん」
      5/5

 * 山下氏、南雲氏(「東京新聞)3月30日)、初見氏(「世界」5月号論
   文)、「だまらん」等の見解を読み比べて見て下さい。
 * 南雲氏4/2の講演の公開を期待します。


***
1 博士号は得たけれど「ポスドク」激増で就職難
     『読売新聞』200552日付

 博士号を取得したものの、定職に就けない「ポストドクター」(ポスドク)
が、2004年度に1万2500人に達したことが、文部科学省が初めて実施
した実態調査で明らかになった。

 2003年度は約1万200人で、1年間で約2300人も増えている。

 年齢別では約8%が40歳以上で高齢化が進んでいる。大学助手など正
規の就職先が見つからず、空席待ちが長引いていると見られる。さらに、社会
保険の加入状況から推定すると、常勤研究者並みの待遇のポスドクは半数程度
しかいないと見られ、経済的に苦しい状態も裏付けられた。

 政府はこれまで、国内の研究者層を厚くするため、大学院の定員拡大などポ
スドク量産を推進してきた。しかし、研究職はさほど増えておらず、その弊害
が出た形だ。多くは研究職志望で進路が少なく、企業も「視野が狭い」などと
採用に消極的で、不安定な身分が問題化している場合が多い。

 ポストドクター=博士号(ドクター)を取得した後、専任の職に就くまで
の間、大学などに籍を置いて研究を続ける若手研究者。公募型の研究費を得た
り任期付きで給与をもらったりして生活している例が多い。

2−1 教育基本法の改悪をとめよう!5・7全国集会 開催のおしらせ

2−1 教育基本法の改悪をとめよう!5・7全国集会 開催のおしらせ

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加藤周一さん発言決定!
田島征三さんワークショップ開催!
ソウル・フラワー・モノノケ・サミット freeライブ
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場所:東京・代々木公園
  (JR原宿・東京メトロ明治神宮下車/NHKホールとなり)

日時:2005年5月7日(土)

1時〜 交流の広場−学ぶ・遊ぶ・動く・つながる−

    田島征三さん 他アーティストとのワークショップ
    テーマ別交流テント
    (憲法・教科書・日の丸・君が代・沖縄など)
    屋台

13時〜 ライブ ソウル・フラワー・モノノケ・サミット

14時〜 決起集会

    憲法問題:加藤周一さん
    教育基本法をめぐる情勢と展望:
    小森陽一さん/高橋哲哉さん/三宅晶子さん/大内裕和さん
    全国各地からの発言
    教科書問題
    日の丸・君が代

16時〜 デモパレード(宮下公園まで)

参加費/無料
この集会は、賛同金とカンパで作られています。
当日、カンパのお願いを予定しています。

主催:教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会

連絡先:info@kyokiren.net
      
東京都文京区本郷5−19−6 坪井法律事務所内
    03−3812−5510

詳しくは、ホームページをごらんください。
全国連絡会HP アンチ!こころの総動員「あんころ」
http://www.kyokiren.net


2−2 共謀罪新設に反対する市民と国会議員の集い
 
//////////////////話し合うことが罪になる!
 
//////////共謀罪新設に反対する市民と国会議員の集い
 
//////////////内心・言論・表現の自由が危ない!!

 ──────────────
  ─────────────
                    
5月19() 12時〜13

 ──────────────
ところ─────────────
                 
衆議院第二議員会館第二会議室

 ──────────────
  ─────────────
                 
明珍美紀さん(前新聞労連委員長)
               
斉藤貴男さん(予定・ジャーナリスト)
               
高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)
                         
ほか

                     ───
参加費無料───

                 ■□■
「共謀罪」とは?■□■
 
560種類もの犯罪について、それが実際に行われなくとも、話し
 
合っただけで処罰することができる。それが共謀罪です。その対象
範囲は、殺人罪から傷害罪、消費税法から相続税法、道交法から水
道法まで実に広範。市民生活のすみずみにまでかかわる法律が共謀
罪の対象になっています。これでは、うっかり冗談もいえなくなっ
てしまいます。

                 ■□■
壁に耳あり・・・■□■
 
容疑者を共謀罪に問うには、「共謀」の事実を立証しなければなら
 
ないわけですから、当然「会話」を証拠としなければなりません。
 
会話を証拠とするには、録音するか、誰かに証言させる以外にあり
 
ません。会話を録音するとは、具体的には電話やファックス、メー
 
ルなどの通信手段を盗聴することです。ということは、共謀罪が新
 
設されれば、盗聴法(通信傍受法)の対象範囲が拡大されることは必
 
至です。また共謀罪新設法案には、自首した者の刑を減免(軽くす
 
)規定も盛り込まれています。ということは、誰かに犯罪を持ちか
 
けた者が、そのときの会話を録音して、その後に警察に届け出た場
 
合、持ちかけた者は処罰されず、これに同意した者だけが処罰され
 
るようなことになりかねないのです。まさに「壁に耳」。いつもビ
 
クビク、他人とのコミュニケーションも自由にできない社会になっ
 
てしまいます。

              ■□■
国会審議いよいよ大詰め!!■□■
 
現在、この共謀罪新設法案は、衆議院法務委員会に付託されていま
 
す。この法案はこれまで、3会期で継続審議になり、今国会が4会
 
期目。これまで一度も審議されずにここまで来ましたが、5月のゴー
 
ルデンウィーク明けにも審議入りすることが確実視されています。
 
審議入りをくい止め、廃案を目指すには、多くの市民が国会に集ま
 
ることが必要です。皆さまのご参加をお待ちしています。

                            ■
主催
              
共謀罪に反対する市民の集い実行委員会

                           ■
連絡先
                 
日本消費者連盟 TEL 03-5155-4765
                JCA-NET
(広報室)TEL 070-5580-0563
   
ネットワーク反監視プロジェクト(小倉) TEL 070-5553-5495
                   info@tochoho.jca.apc.org

 ──────
共謀罪に反対する市民の集い実行委員会──────
   
**呼びかけ人(031112日現在・順不同・敬称略)**
 
佐高信(評論家) 斉藤貴男(ジャーナリスト) マッド・ア
 
マノ(パロディスト) 小倉利丸(富山大学教員) 新倉修
(青山学院大学教授) 渡辺治(一橋大学教授) 宮本弘典
 
(関東学院大学教授) 海渡雄一(弁護士) 山下幸夫(弁護
 
士) 内田雅敏(弁護士) 澤藤統一郎(弁護士) 東澤靖
 
(弁護士) 中野直樹(自由法曹団事務局長) 麻生和子(日
 
本キリスト教婦人矯風会) 上原成信(一坪反戦地主) 半田
 
隆(ユ-ゴネット) 鈴木千津子(たんぽぽ舎) 浜島望(一
 
矢の会) 石下直子(盗聴法に反対する神奈川市民の会)
 
石孝(プライバシー・アクション) 宮崎俊郎(やぶれっ!住基
 
ネット市民行動) 望月憲郎(日本国民救援会) 高田健(許
 
すな!憲法改悪・市民連絡会) 富山洋子(日本消費者連盟)
 
吉村英二(反住基ネット連絡会) 佐藤憲一(盗聴法に反対
 
する市民連絡会) 安達由起(品川区民) 角田富夫(人権ビ
 
デオ制作委員会)
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3 首大 これまでと今後
3−1 都立4大学の改革を巡る経緯について:石原ファシスト都政との戦い
      山下正廣 元都立大教授


去る314日に,職員組合理学部支部が主催して,講演会「都立4大学の改革を巡る経
緯について:石原ファシスト都政との戦い」が行なわれました。講師の山下正廣先生は
20047月まで東京都立大学におられ,東京都立大学・短期大学職員組合中央執行委
員長として、石原東京都知事による「都立新大学構想」と最前線で戦って来られました


当日の約1時間半の講演と,その後の質疑応答をまとめました.

東北大学職員組合理学部支部

都立4大学の改革を巡る経緯について:石原ファシスト都政との戦い
山下正廣
(
東北大学大学院理学研究科教授)
研究と組合運動の25年間
どうもご紹介ありがとうございます。
今ご紹介頂きましたが,九大を出た後に1年間,分子研でポスドクをやっておりまして
25年近く研究者生活を送っていますが,よく考えてみると,まともに研究したのはど
うも分子研時代のポスドクの1年だけで,ほかはずーっと組合運動をやっていたような
感じがするんで(),ちょっと反省しておりまして,東北大に来てからはまず研究をや
ろうということを考えております。

九大に助手で戻ったときに,助手会の責任者をやりまして,毎日ビラを出して,助手を
全員講師に上げろという待遇改善運動をやりまして,で,九大を追い出されまして名古
屋大学に移りまして,10年近くおりました。名古屋大学では組合の下に大学問題専門委
員会というのがありまして,そこは,文部省の色々な方針が,あるいは大学の方針が出
ますと,それに対して反論の政策を出す,あるいはビラを出すという,そういう中枢で
ありまして,そこに10年間おりまして,最後の方は毎日ビラ書きをやっていた,そうい
う感じです。教養部でしたので改革がらみで大変で,最後,教授までなりましたけれど
も,教授になりますと全学の委員,雑用がいろいろ回ってきます。それで,助手も誰も
いませんで,これは大変だと,ちょっと研究やりたいということで,たまたま都立大学
の公募に出しましたら通りまして,で,都立大学で研究をしようと思っておりましたら
,2年前に,前々の組合委員長から全学の委員長をやってくれと言われました。とにか
く何もしなくていいから(),専従も二人おって暇だから,やってくれと言われて,あ
あそうか暇ならやりましょうかという感じで引き受けました。当時,いや今でもそうで
すけれど,ナショナルプロジェクトを2つやっておりまして,ほとんど大学にいない忙
しい身ですけれども,とにかく,前々年の6月から去年の6月まで1年間組合の委員長
をやりました。ほぼ毎週のように新宿に,都庁に出かけて,都庁の役人と大げんかをや
るというのを繰り返しました。

で,私,東北大学に来まして,東北大学ではまず研究をやろうということで,去年の7
月に移りました。その前に,東北大学に人事を応募したときに,4月初めに通りました
という電話がありまして,それでいつから来ますかといわれたから,そうですね8月く
らいからどうですかと言ったら,いや7月に大学院の募集要項を作る必要がありますか
ら6月からどうですかと言われたんですけれども,6月はまだ組合の委員長をやってお
りましたんで,いやそれは行けないと。まさか組合の委員長やっているから動けないと
いうようなことは言えませんので(),大学院の授業もありますし,もうちょっと待っ
て下さいということで,7月にしまして,1月間,都立大学と兼任しながらやりました


都立大学の問題については,いろんなところで聞かれたこともあるでしょう,新聞でも
雑誌でも。新聞はだいたい関東版が多いんですけれど,全国版にもかなり載りました。
サンデー毎日が石原慎太郎の追求の連載をやりましたし,他にもいろんなジャーナルに
いろんな人が書いたということもありまして,ある程度全国的にも話題になったという
こともありますので,まず,その話に入る前に,ちょっと別の話をします。

学問とは何か,大学とは何か。学術会議で痛烈な文科省批判
実はこれ,1年半前の夏に学術会議化研連が50年後のサイエンスということで自由に語
って下さいということで,私,錯体化学の専門ですけれども,錯体化学の未来について
自由に語って下さいというふうに言われましたんで,まさか私が組合の役員やっている
なんてことは誰も思わずに,学術会議から話があったんです。で,やろうと考えたんで
すが,どう考えても,学問を言う以前に今の大学の危機的な状況をまず言わないと話に
ならない,と思って作ったのがこれなんです。分子研でありました学術会議の会議には
,文部大臣審議官のA氏とか,学士院会長のN氏とか,ノーベル賞のNさんもいまして,
それから所長たちもいまして,非常に重苦しい雰囲気の中で,私が変なことを言ったた
めにかなり紛糾しました。タイトルは,錯体化学の過去,現在,未来というタイトルで
すけれども,実は文科省批判を延々とやったんです()

学問は挑戦と開拓
まず私が言ったのは,まず学問とは何ぞやという,自然科学,サイエンスとは何ぞやと
いうことです。じつはよくわかっていない人が非常に多いんです。教授の中でも多いし
,ましてや学生は自分がやっている学問とは何ぞやということが分かっていない。ノー
ベル賞の学者の前で僭越ですけれども,学問とは何ぞやということを一言いわせてもら
いますということで,言ったのがこれです。

学問とは,普遍的な新しい概念の発見である。普遍的な新しい概念というのは色々とあ
ります。新しい化合物の合成,新しい反応の発見,新しい理論の開発,新しい物性の発
見,新しい装置の開発,いろいろあるわけです。だけど,これだけではダメなんです。
これはみんなやっていることなんです。じゃあ何が重要かというと,やはり新しいフィ
ールド(分野)を作るということです。

一方,学問とは体系化することだという考え方があります。そう考えて学問をし学生に
教育しているところがあります。体系化するということは,他人のやったことを縦に並
べる,縦に並べたのを横に並べるとまた体系化できるわけです。しかしオリジナリティ
はない。だから,そういうことをやっているところからはノーベル賞は絶対に出ないと
思います。というわけで,学問とは何ぞやという話をやったわけです。
多分この辺でかちんと来た人が何人かいたと思うんですけれども,学術振興会のN氏は
ちょっとぷっつんした感じでした。

大学とは
で,次に,大学とは何ぞやということです。これも分かってない人が非常に多い,大学
の教員でも。学生もよくわかっていなくて,大学に入ったのに大学は遊ぶところだと思
っている。大学ということが全然わかっていないために,非常に混乱を起こしているん
です。大学は今,社会から非難を浴びていますけれど,ひとつには大学自体の問題もあ
るんですけれど,実はその中で働いている,学んでいる人たちが,自分たちのいる大学
が何であるかということが分かっていないんですね。

大学というのは,少なくとも,教育と研究の両輪からなっているんです。研究だけとい
うのは企業でもあるし,研究所もあるわけです。教育は小学校,中学校,高校があるわ
けです。だけど我々は教育と研究と両方やってわけです。実はこれは日本のシステムの
中で大学だけなんです。そういう点で大学というのは非常に重要な意味を持っているん
です。

じゃあ,大学の本来のあるべき姿というのはどういうものかというと,時の政治経済に
左右されることなく自由に学問ができること,これが一番大事なことなんです。これは
,戦前,日本の侵略戦争に対して大学人が巻き込まれていった,むしろ積極的に犯罪を
犯した,そのことに対する反省でもある。そのことを実現する制度として,ソフト面で
は学問の自由,思想信条の自由,宗教の自由。ハード面では大学の自治,教授会自治,
こういうことを守ることによって初めて,戦後勝ち得た新しい大学というのを守れるの
ではないか。実は,学問の自由とか大学の自治ということは,憲法や教育基本法に書い
てあるんですね。基本法の条文になっている。そのことを基本的に理解していない。私
は大学に1年生が入ってくると,学問とは何ぞや大学とは何ぞやということを1時間使
って話すんです。自然科学,化学の授業の中で。それが大学人の責任だと思うんです。
それをきちっと学生に理解させないと彼らが社会に出たときに,また同じ過ちを犯す。
あるいは彼らが研究者になったときに研究とは何かが分からない,悪いことをするかも
しれない。だからそこをきちっと押さえる必要がある。

大学「改革」の歴史
次に戦後の大学改革の流れを追ってみます。抜けていることがあるかもしれませんが,
まず1950年代に新制大学が作られたわけです。新制大学の意味というのは,先ほども言
いましたが戦前の大学が侵略戦争に加担した,それに対して戦後の大学は一般教養を導
入しよう,戦前の教育というのは応用だけだった,一般教養がなかったということで,
一般教養を導入した。で,ひとつの形として教養部というのを作ったんです。じつはこ
の教養部という組織を作ったがために問題が生じたというのも事実なんです。だけど一
般教養をやらないといけないという意味では非常にいい制度だった。

1970
年代,新大学管理法案,これは一般に筑波大学法案というふうに呼ばれていた。私
ちょうど学生の頃で,いつも授業にも出ずに筑波大学法案反対のデモに行ってましたけ
れど,要するに理事会を作って,学生の自治,教職員の自治,組合,そういうのを否定
して,理事会が独断専行的に運営しようと,この制度を実は日本中の大学に,全部にや
らせようということをやったんです。ところが結局,東京教育大学の移転のときにどさ
くさにまぎれて筑波大学についてやった,その方式というのが今やられているのは,筑
波大学と,大学院大学の北陸先端大と奈良先端科技大など数カ所です。いや,今度法人
化でそういうふうになっていくところもあるでしょうが,当時導入できたところは非常
に少ない。なぜかというと,やはり大学人が反対したんです。大学人が勝ち取ってきた
学問の自由とか大学の自治とかを剥脱されることに対して反対した。そういうことで,
筑波大学法案というのは,幸か不幸か筑波大学でしか成り立たなかった。他の大学では
成り立たなかった。

1980
年代から,土光の臨調行革路線が始まります。ここら辺から大学が危機的な状況に
なっていきます。行財政改革ということで定員削減, 予算の削減,いろんな試練が始
まったわけです。

90
年代に入りまして,科学技術立国ということを謳い始めまして,要するに,日本の将
来を考えたときに,日本には資源がない,日本がどうやって将来生き延びるかと考える
と科学技術に頼らざるを得ない,そのためには科学技術を振興する。どうやってやるか
というと,今まで言うことを聞かなかった大学の教員に,すぐ役立つような研究をさせ
ようということが科学技術立国の基本的な理念なんですね。もうひとつ重要なのは設置
基準の大綱化ということです。これで教養部が解体されていったんです。いままでは一
般教養何単位,専門教育何単位というのが法律で決まっていたのが,設置基準の大綱化
によって,各大学の自由でいいですよとなった。一見良さそうですが,このことによっ
て一般教養の軽視,切り捨てが始まった。戦前の体制に近くなってきたということが問
題です。

2000
年代に入りまして,国立大学の法人化,国立大学の解体ということが,去年,行な
われたわけです。学問の自由と大学の自治によって守られてきた大学を,トップダウン
による管理強化,労務管理された大学に変えるというのが,権力者側の本心であったわ
けです。
ここらへんからだんだん,文部大臣審議官がカリカリし始めまして,まぁそのことは後
でまた言いますが。

政治権力の狙い公務員削減
次に,政治には表と裏があるという話です。たとえば,国立大学法人化法案の目的とは
何かというと,いかに国家公務員を減らすかということなんですね。国家公務員を20
減らしたいと,まずそういうことだったんです。で,まず狙われたのが,現在,産総研
になっております筑波の通産関係の研究所であります。通産関係の研究所が産総研に変
わったわけです。ところが通産省関係の研究所というのは,じつはものすごく組合が強
いんですね。組織率もたぶん7〜8割は持っていると思います。で,全面的に反対して
全面的に闘争したんです。それで,産総研の連中は,いろんな制度の改変はあったけれ
ども身分は国家公務員のままです。守ったんです。そこで政府が次に狙ったのは,弱い
ところということで文科省なんです。文科省はとにかく金がないから一番弱い。国立大
学の教員を,職員を全部法人化によって国家公務員から外そうということをやろうとし
たわけです。その意図が分かっていたにもかかわらず,国立大学はガタガターっと全部
つぶれていったんですね。やっぱりそれは大学にあった弱点だと思うんです。それは戦
後我々が勝ち取ってきた大学の自治とかいろんな権利とかいうものに対して,それをき
ちっと守ろうとする運動を組んでこなかった。あるいは学生,若手,そういう人たちに
運動を継承してこなかった。そういう弱点がありました。ということで,国家公務員20
%削減したいということで,まず非公務員化する,それが国立大学法人法案の裏(本質
)なわけです。

目先の利益に走る政府
次に,科学技術促進というのは,先ほどもいいましたけれど,科学技術への重点的な予
算配分をしたいと,資源がないから,科学技術で乗り切りたいからということが表です
けれども,実際は大学の研究をすぐ成果の出る応用研究に特化させて基礎研究の衰退を
招くということになるわけです。もうだんだんそういうことは具体的にきているわけで
す。いろんなプロジェクトを見ますと,ナノとかバイオとかITとか,すぐ役立つものに
しかお金は出さないという。

任期制思想統制も狙いの内に
また,任期制の問題です。任期制というのは表向きには活性化,流動化ということを言
っているわけです。一般論としてはいいかもしれない。だけどその裏には,もう60年代
の中教審で「特定の思想を持った教員がひとつの大学に固まりすぎる」と,それでは困
ると言っているんですね。だから教員に任期を付けてあちこち動かさないといけないと
中教審でそう言っているんですね。

こういうふうに政治には表と裏がある。とまぁこういう話を文部大臣審議官の前でやり
ましたら,あとでかんかんに怒っていました。

問題だらけの国立大法人化
つぎの話は国立大学法人関連法案の問題点ということですけれども, いろんな問題が
あるということは,もう現実的に運用されていますので,私以上にご存知の方が多いと
思います。

まず,2003年3月に法案が上程されて審議が始められたと思います。それで5月くらい
に終わる予定だったんです。ところが延々と委員会でもめまして,ストップ,ストップ
の連続で,要するに文科省が答弁不能に陥ったんですね。いろんなことを追求されて。
要するに何も考えることができなかったんです。何度も答弁不能に陥って,会期末の7
月,会期を3日くらい残したところで強行採決をやったんです。さらにそこには,衆議
院で23項目,参議院で26項目もの付帯事項がついたんです。これだけ付帯事項があるよ
うな法律は実はないんです。法律はあるのに,それ以外に23項目も,ここは気をつけろ
,これは気をつけろという,それならなんでそれを法律に入れないか,どう考えてもお
かしいんですね。その23項目の付帯項目の中には,大学とよく話し合いなさいとか,学
問の自由は守りなさいよとかいう当然のことがどんどん入っているんです。おまけに政
府側参考人もまさか非公務員になるとは思わなかったと,A氏ですけれど,彼は公務員
のままだという頭だった。なんで非公務員では困るかというと,非公務員になると組合
がストライキ権を持つ,そのことをA氏は恐れたんです。だからまさか非公務員化にな
るとは思わなかった。ですが,先ほど言ったように,非公務員化ということは,公務員
20
%削減という頭では,政府ではもうはじめから決まっていたことでした。学者の考え
ることと政治家の考えることではまるで違っていたということです。
法人化してよかったという人は,多分大学人の中にはいないんじゃないでしょうか。ア
ンケート取ったらいいと思うんですね,たぶん9割以上,まずいという人が多いんじゃ
ないかと思います。良かったという人は,たぶんいいポジションを得た人だけだと思い
ますけれど。

問題点は山ほどありますが,次は中期目標の問題です。こういったものは欧米諸国には
ないものである,6年間の先のことを考えるような。最初みんな恐れて何百ページと書
いたけれど,よく考えてみたら何百ページも書くとそれに縛られるわけです。それが6
年分で評価されて研究費が減額されては困るということで,最後はA4数ページに終わっ
たらしい,ということを私は聞いております。こうしたものは,まさに文科省の統制関
与を深め,大学の自主性自律性を著しく損なう可能性があるわけです。

それから,国立大学法人評価委員会の組織,委員構成,評価基準方法は政令にゆだねら
れており,公平性透明性がない,大学における教育研究の特殊性を踏まえた評価が行わ
れる保証は何らない。また中期目標の業績評価と資源配分の直結が行なわれることによ
って,文部科学省による関与・統制を強化するものである。

今度の法人化によって,各大学が理事会を作りました。文科省はそのときに試算したん
ですね。各大学を合計するとかなりのポストになるだろうと。そのポストのかなりの部
分を文科省の天下りに使おうということを考えたんです。

それから運営組織が学長と少数の理事を中心とするトップダウン型とされる。とともに
経営協議会や学長専攻会議に学外委員の意向が強く及ぶことができる構成となっており
,教育研究を直接担う学内構成員の意見を反映することを軽視し,自治・自立性を損な
う可能性がある。これは,もう東北大学で通ったんでしょう? まさにこれ私が,なる
前に予言したことが通っているんですね。

財務会計制度に関する具体的な事項は,政令省令にゆだねられ,運営費交付金の配分基
準すら定められていない。これは,毎年1%カットということになったんですね。政府は
国会答弁ではお金は基本的に減りませんといったのに,もう1年目から減ってきている

それから,ご存知のように,労働安全衛生法が適用されるようになった。大学の安全性
なんて,全部法を無視しているんです。そう言う意味では非常に危険な状態なわけです
。それに対する保障は何らない。

科学の魅力真理は万人に平等
私は,自分ではサイエンティストだと思っていますが,なぜ,科学の何が面白いかとい
うと,階級制がないということなんです。それがなぜ大学で研究を続けるのかの根本に
ある。どういうことかというと,たとえば学生の言ったことが正しくて,偉い教授の言
ったことが間違いということがあるんです。会社だったら,たとえばこの前つかまった
コクドの堤が言ったら絶対強くて,そこの社員が「堤会長,間違ってます。」と言って
も,おそらくクビになるだけであって,会社というのはそういう階級制の社会であって
真理というのは通らない。ところが,自然科学というのは,社会科学はよくわかりませ
んけれど,少なくとも真理が一番大事である。真理の元には階級制はないわけです。そ
う言う意味で,私は百姓の出ですけれど,なんで学問が好きかというと,この階級制が
ないというのが非常に好きなんですね。

講演の反響
全部で20人くらいが話をしたんですが,毎回,ノーベル賞のNさんとか,学士院会長のN
先生とかコメントをするんですね,今の発表はどうだこうだと。ところが私が話し終わ
りましたら,彼らは下向いて黙ーっているんですね。それで文部大臣審議官のAという
のがぱっと手を上げて,私は全くしゃべるつもりはなかったけれど,今の発言には頭に
きました,と。お前みたいな馬鹿なやつがおるから俺たちはこうしているんだと,そう
いうけんかを売ってきたんです。じゃあやりますかと言ったら議長が間に入って,まぁ
まぁ,後の懇親会の席でやって下さいと,そういう話になって,その場は収まって,で
,懇親会に行きましたらみんな私の周りからさーっと去っていくんですね()。2人だ
け寄ってきまして,当時分子研のWというのと理研に移ったSというのがきまして,「山
下ー!,いやー,よかった,あんたの発表ものすごく良かったー」と。他の連中はみん
な逃げていくんですね。要するに僕と話しているのを見つかると,同じ思想だと間違わ
れるんじゃないかということで怖がったみたいで()。研究会が終わって帰ろうとした
ら,分子研のK所長が寄ってきまして,「山下君はラジカルですねぇ」。だけど僕はそ
の前にKさんに何度も聞いたんですよ。「Kさん,何をしゃべったらいいんですか」と。
そしたら,「何でもいい,好きなことをしゃべりたまえ」(),と何度も言ったんです
よ。僕は客員教授をやってましたからひと月に一回行くわけで,何回も聞いたんですよ
。彼は何でもいいと言って,それが「君はラジカルですねぇ」()
とまぁ,これが私の認識している国立大学法人化の,1年半くらい前の状況です。

都立大問題
で,都立大学がどうなったかという話をします。都立の大学というのは4つあります。
都立大学,短期大学,保健科学大学,科学技術大学。教員数は助手まで含めて大体六百
数十名です。職員含めると全部で800名くらいだと思います。そこには当然組合があり
ます。都立大学・短期大学職員組合ということですけれども,私が委員長になりました
とき,11月に保健科学大学の組合を統合しまして都立の大学はひとつの組合になったわ
けです。我々の上部団体というのは,都の職員からなっておりますので,都労連という
のがあります。都労連というのは都の職員の組合でありまして,都の職員というのは我
々を含めましてたぶん10何万人いると思いますけれど,都労連というのは大体8万人組
織しております。都労連の傘下の中に6つあります。都庁職,水道局,交通局,都教組
,高教組,それから大学職組です。大学職組は一番小さいんですけれども,対等な関係
にありまして,都側と団体交渉をやりますけれど,必ず委員長が同席しないと,6人揃
わないとやれないということで,私は1年間ほとんど拘束されておりまして団体交渉に
臨んだわけです。

団交のしきたり?
団体交渉というのは,そういうやり方というのは初めて経験しましたけれど,向こう側
に副知事から4050人並んで,こちらに組合側が4050人並んで,お互いに丁々発止と
やりながら落としどころを考えるわけです。私最初に行ったときに,こんな格好(セー
ター)で行ったんですね。ところが,「山下君,君ネクタイはどうしましたか」と。「
えっ?ネクタイなんかいるんですか,」と言ったら,「そりゃそうだよ,いまから団交
やるんだから,団交は必ずネクタイだよ,貸そうか」と言われて。で,「私いいですよ
」とネクタイせずにそのまま行ったらみんな驚いていました。で,そのときに僕が何か
ちょっとしゃべると,「山下君,君はしゃべったらダメだよ」と言われて。どうもルー
ルがあるみたいで,私は全くルール無視しておりまして。管理本部との交渉で管理部長
と交渉したときも,私が最初に怒鳴りつけたら,うちの書記長が服の裾を引っ張って,
「山下さん,委員長はしゃべったらダメですよ」と()。「委員長は最後に,結構です
,と一言言えばいいので,最初からけんか売ったらダメですよ」と,怒られましたけれ
ど。私はそういうルールとかはどうも苦手でして。

都立大はこんな大学だった
都立大学,私は4大学の中でも都立大学のことをメインで知っておりますのでそれが中
心になりますけれど,都立大学には50数年の歴史があります。総合大学です。学生数が
,1学年1000人くらいです。短大,保科大,科技大含めまして2000人くらいです。今度
4大学統合されますと,院生含めて全部で1万人くらいになると思います。そういう,
大規模とは言えませんけれど,中規模と大規模の中間くらいの大学です。

都立大学と言うのは,ご存知のように,モットーとしては自由闊達。自由に発言できる
というのが都立大学の最大の特徴です。私が名古屋大学の教授になって,都立大学に移
るときに,事務方がえらい驚いたんですね。なんで格落ちをするんですかと,旧帝大か
ら都立大学に移るとは何事ですかと言って。私は,都立大学で研究したいですから,都
立大学の方が自由があっていいですからと言ったら,そんなもんですかと言われたんで
すけれど。私はそれくらい都立大学が好きだったんですね。それで移ったわけですけれ
ど。

都立大学のメリットというのは夜間を持っていることです。昔は,昼間働きながら夜間
で学位を取って,大学の先生になったとか研究者になったとか,そういう人も沢山いた
わけです。ただ現在は,もう2部は廃止することが決まりましたけれど。現在は1部に
落ちた人間が,昼間に落ちた人間が2部に回ってくるという状況です。差別構造になっ
ているわけです。2部の人間に,働きながら来ているというのは,化学ですと10何人の
中の1人いるかいないかというところです。ですから,学生の間では1部に通らなかっ
たから2部に来ているという,ちょっとまずい雰囲気があって,そういうこともありま
して2部は廃止ということになりました。

それから,授業料が非常に安いんですね。入学金は都内の父兄だと半額でいいし,年間
授業料40万いかないと思いますし,2部だと半分ですので20万くらいです。そういう意
味で,都民における都立大学というのは庶民の大学であるというような感じがあったわ
けです。

この都立大学というのは,美濃部の革新都政時代,その後の保守の鈴木の時代,実はほ
とんどノータッチだったんですね。都立4大学の職員の数もほとんど減らなかったし,
予算も一番多いときで,組合が頑張りまして,ひと月にひと講座700万とか言ってまし
たか。そんなことも組合がやれるんです。要するに組合が当事者能力を持っているんで
す。都庁とやりあって勝てば,我々の給料どんどん上がりますし。毎年賃金確定闘争を
やりますけれど,うまくいけば給料上がっていくわけです。

それからもうひとつは,人文系が非常に有名なんですね。人文系には百何十名のスタッ
フがいますけれど,非常に有名な先生がいる。だから学生の中には,この都立大学人文
系の,この先生のところに来たいということで来る学生が非常に多いんですね。1浪2
浪しても来るというのが結構いるんです。学生のクオリティは,私,九大を卒業して,
名大を見て,都立大見て,東北大に来ましたけれど,そこそこいい学生です。

そういうわけで,従来ほとんど問題なかったと,我々はそういうふうに考えていました
。どこら辺からおかしくなったかというと,青島が知事になって,4年目位からおかし
くなった。青島が官僚に牛耳られるようになって,だんだんおかしくなっていって,財
政赤字がどんどん逼迫していって,大学に目を付け始めて,大学の定員削減を始めたと
いうのが,まぁ始めですね。

石原慎太郎の野望ほとんど失敗
そして石原になって,石原はご存知のように右翼というか,極右ですね。彼は結局,何
でも自由にしたい。彼の主張というのは,東京から日本を変える。彼は国会議員のとき
に総理大臣になりたかったんです。派閥のトップになりたいし,総理大臣になりたかっ
た,ところがなれなかった。それで,都に下りて都の政策で新しいことをやれば,日本
中の政策が乗ってくると考えた。小泉も乗ってくるんじゃないかと。都から国を変える
というのが彼のキャッチフレーズなんです。だから彼はいろんなことをやったんです。
例えば外形課税の問題,要するに銀行に外税をかけると。ところがこれ裁判に負けたん
ですね。それから圏央道,環境の非常にいいところに大きな道路を造ろうとして,これ
も裁判で負けたんですね。それからカジノをやる,これもつぶれましたね。それから後
楽園で競輪をやろう,これもつぶれましたね。原宿に刑務所作ろう,これもつぶれた。
結局石原は何にもやってないんですね。彼はマスコミ対策はうまいんです。新聞とかに
いつもかっこいいこと言うんですが,いつも失敗しているんですね。そこら辺の焦りも
あるんです。

民主的に論議された当初の改革大綱
で,大学というのは,基本的に反権力の巣ですから,言うことを聞かないというのが相
場ですけれど,なんとか理由を付けてつぶそうとした。先ほど言ったように,2部が実
体がなくなってきているとか,予算が赤字になっているとか,いろいろな理由を連ねま
して,都立4大学を改革しようというのがじわじわと来たわけです。我々としても,色
々な問題点があることは指摘されて,正しい面もあるということで,ある程度譲歩しな
ければいけないということになってきました。

ただ,その議論というのは,4大学の下にワーキンググループを作りまして,それから
東京都の管理本部の参事・副参事が入りまして,2001年の11月に大学改革大綱というの
を作ります。それに基づいて案を作っていったわけです。内容はどういうものかと言う
と,まず,4大学をひとつの大学にする,基本的に夜間は廃止する,それから教授会メ
ンバーは20%削減する,都立の既存の5学部,人文・法・経・理・工は維持しつつ大学
院大学化する,短大は廃止する,その代わり先端技術大学院,法科大学院ロー・ス
クールですね,ビジネス・スクールを新設するというものです。キャンパスは,科
技大の大部分は都立大学の工学部に統合しまして,科技大の跡地は産学公連携センター
を作る。人文学部は100数十名いましたので,これを若干削減して,社会人類学,文化
関係学,言語科学,日本学・日本語教育学専攻を新設する。カリキュラムの目玉という
のは課題プログラムというのを,学部学科横断的に作ろう,それから基礎ゼミです。そ
ういうものをやろうとして,それを大体2003年の7月くらいの教授会で承認しまして,
もう後は法人化と同時に,その新設の大学に移ろうというところになったんです。

突然の解体発表大綱による改革の寸前で
ところが,2003年の81日に都立の4大学の学長・総長が都庁の管理本部に呼ばれまし
て,今まで全く見たことのない,公になっていない,都立の新しい大学の構想というの
を渡されます。たしか56ページだったと思いますけれど,ポンチ絵と,あとは全部箇
条書きです。だから設置理念がどうこうとかそういうのはほとんどありません。その内
容というのは4大学のほとんど誰も知らない,教授会でも議論もしたことがない。学長
も,誰も知らない。それを渡されて,質問はするなと。とにかくこれを3時からの記者
会見で知事がしゃべると。もしそれがいやならやめればいい,ということを言ったわけ
です。

都立4大学廃止,意味不明の"都市教養"学部案登場
で,この「新大学の構想」の問題点は何かというと,まず,ここが一番大事で,都立の
4大学をまず一旦廃止するというんです。ここがポイントなんです,分かれ目なんです
。で,現都立大学の5学部は「都市教養学部」という,意味不明の,都市で教養?
田舎の教養はないのかという,これは後で設置審でもめたんですけれど,そういう
ものと,それから「都市環境学部」,「システムデザイン学部」,「健康科学部」,こ
の4つの学部にする。その中の学科構想を見ると「観光ツーリズム」とか「メディアア
ート」とか「産業系デザイン」とかいった,要するに専門学校みたいな名前がずらーっ
と入っている。実はこれ全部なくなりました。あまりに評判悪かったし,新聞で,我々
含めていろいろと批判しまして,まったく学問に値しないと言いましたら,さすがに都
の管理本部官も恥ずかしくなったのか,だんだんそういう批判浴びたのはやめていきま
した。

単位バンク制石原知事持論と矛盾
もうひとつの問題点は,単位バンク制度というのが出てきました。単位バンク制という
のは,よその大学で取ってきたものを都立大学の科目認定委員会で認めれば全部認めて
いいというものです。これはある意味では無責任なわけですね。各大学は自分のカリキ
ュラムを作って,最低限この科目を,としているわけですから。まぁ単位互換性で各大
学の連携というのはあります。それはもともと中央大学とかとやっていまして,あり得
るんですけれど,この単位バンク制というのはある意味では無原則的な単位バンク制な
んです。そういうのを提案したわけです。石原は「入りやすくて出にくい大学」という
のを言ったんですけれど,よその大学に行って取りやすい単位をどんどん取ってくれば
誰でも出られるというような,全く逆の可能性があるわけです。これは最後までもめて
ます,設置審でももめてます。

非民主的諸制度
それから,あと,理事長と学長が別々です。で,理事長が上です。理事長が一番上にい
て学長が言いなりになる,そういう大学です。それから,理事長が任命する塾長が管理
する全寮制の「東京塾」。多分毎日,朝,日の丸上げて君が代歌わせる,そういうこと
やらせると思いますけれど,そういう全寮制の「東京塾」構想。実はこれは最初は全員
寮に入れようとしたんですね,千何人を。実は試算したんです,東京都の管理本部は。
でもさすがにそれは出来ないと,あまりにお金がかかるし場所もない,1000人もどうや
って誰が管理するんだという話になって,最後は,いや今どうなっているのか分かりま
せんけれど,当時は都立大の寮のひと学年40名で4学年160名,そういう感じになって
おります。
それから,任期制・年俸制の導入,業績主義の徹底ということが言われている。で,当
然,非公務員だという,こういう内容だったんです。

実質は統合移行型。新大学設置型と強弁,設置者権限を振りかざす
そのあと,8月の終わりに,都立大学の5学部長,科技大,保科大の学長が都庁管理本
部に呼ばれて,都立大の総長は呼ばれませんでした,「教学準備委員会」,要す
るに,自分たちだけでは出来ないので,委員会を作らなければならないわけですね,そ
の委員会に参加するようにという要請があったわけです。その後で,そのときの発言が
文書として漏れてきたんですけれども,やはり,先ほど言ったように,大学の統合や新
大学への移行ではなくて,4大学の廃止と新大学の設置であると。ここポイントなんで
すね。新設なんだから設置者に権限がある,設置者権限である,ということをいまだに
言っているんですね。自分たちが新しい大学を作るんだから,自分たちが自由にして構
わないというのが,東京都,石原の論理なわけです。ところが,あとで分かるように文
科省への申請は,移行型なんです。なんでかというと,8割から9割の場所,人をその
まま使うわけです。だから当然,地方独立行政法人法に基づいても,移行型なんです。
移行型ということは,待遇も変わらない,基本的な制度も変わらないというのが移行型
なわけです。でも,彼らは,いまだに強調しているのは,設置者権限である。だから2
度と大学側で民主的に議論をして意見を聞くということはやらない,全部命令である。
で,基本的に4大学は新大学を設置する上でのひとつの資源である。ということを言っ
たわけです。で,新大学の設計には,基本構想に積極的に賛同し,かつ旧大学の資源に
精通した方を任命する,だから,都立大の5学部長,科技大の学長,保科大の学長が選
ばれたわけです。なんで都立大の総長が選ばれなかったのかというと,まぁ,都立大の
総長は都庁と,喧嘩をしていますので,多分呼ばれなかったのだと思います,この辺は
私の推測ですけれども。だから,学部長として呼んだんではないんだと,あくまで個人
として,そういう情報に精通しているから呼んだんだと。さらに,守秘義務というのに
サインしろ,自分の知り得た情報を漏らさない,他人と相談しない,そういうのにサイ
ンしなさい,ということを言われたもんだから,人文学部長なんかは,そんなのにサイ
ンできないと言って,持って帰って教授会に全部オープンにしたら,教授会はびっくり
してひっくり返りまして,そんなものにサインするなということになりました。そうい
う踏み絵みたいなことをやってきたわけです。

管理本部が人員配置案人文学部は半減
9月の末になりまして,都庁管理本部から大学側に,新大学における人員配置案が一方
的に提示されて,配置案に同意した上で詳細設計に参加し,詳細設計の内容を口外しな
い,要するに他人にしゃべるなということまで言ってきたわけです。これは,半分も集
まらなかったんです。特に,人文学部は絶対に乗りませんし,理学部は,私が組合の委
員長で,教授会で毎回話してましたので,誰も乗ってこなかったんです。基本的に,理
学部と人文学部は最後まで抵抗して,理学部は最後の最後で負けて,人文学部だけにな
って,人文学部も最後は妥協した,というのが一般的な流れなんですけれども。なんで
,人文学部が反対したかというと,人文学部はリストラのターゲットになったんです。
定員が139名を64名と半減なんですね。日本でも一,二を争う実績を持つ文学科系,英
語,ドイツ語,フランス語,中国語,そして日本語が消滅して,わずかに哲学,史学と
同居の国際文化コース,それから最初の構想にはなかった「基礎教育センター」,まぁ
教養部の小さくしたようなもんですね,それから「エクステンション・センター」,こ
れは全く構想になかった。「エクステンション・センター」というのは要するに,余っ
た人間を入れる清算事業団なんですね。定員を,最初は60名か70名入れておくわけです
。で,どんどんやめていきます。絶対後任は採らないんです。最後定員が十何名になっ
て,維持する。基本的にはエクステンション・センターは独立採算性である,要するに
オープン・ユニバーシティみたいに自分で金を取って,自分でやりなさいよという,い
ずれは大学から切り離す,というそういう制度なんですね。

"
暫定大学院"まで浮上,つぶすことしか頭にない管理本部
それから,この案には大学院のコースは全く書かれていないんです。17年開設だと言っ
ているのに,大学院は18年,1年後にすべきと言っているんです。ところが,理学部や
工学部は大学院重点化で,大学院大学でやっているんです。大学院重点化したものを,
もう一度学部中心にやって,それで1年後に大学院を別に作るというんです。じゃあ,
その17年の1年間はどうするんですかという話になったら,「暫定大学院」という名前
にしたらどうだと言う()。そしたら文科省は暫定大学院ってなんですかという話にな
ったんですね。暫定大学院に入った大学院生はどうするんですか,暫定大学院卒業にな
るんですかね()。誰も何も考えてないんですね。つぶすことしか考えてなかった。
僕ら,1年間管理本部と付き合いまして,管理本部は17年にスタートしなきゃいけない
と言うけれど,大学関係の専門家っていないんです,東京都庁には。いろんな大学から
の情報集めてきて,都立大学から情報集めてきて,あと,文科省とやり取りしながらや
ってたんです。ところが,あんまりひどいもんだから,文科省からどんどん情報が流れ
てくるんですよ。普通,改革をやるときというのは当局側以外に必ず学部長クラス,あ
るいは教授が付いていくんですね,文科省に。で,いろんな細かい質問されたら,大学
がそれに答えるんです。ところが,東京都庁の管理本部の連中が行っても,彼らは分か
らないから,全く答えられないんです。で,文科省から役人が,都立大学は何をやって
いるんですかと,何度も言ったもんです。ぼくは文科省の役人とも直接何度も会いまし
たし,新設の制度を認めるなという直接的なことも,文科省に直接言いましたし,そう
いう意味では文科省もあきれ果てているというか。だから,後で言いますけれど,設置
認可も通らなかったんですね。最初,通らなかったんです。

都立大学総長が声明総意に基いた改革主張
それ以降ですね,107日に都立大学の総長が声明を出しまして,とにかく,良い大学
を実現するには最大限の努力を惜しまないけれど,東京都管理本部の出した新大学構想
の問題点を指摘して,とにかく速やかに設立準備の推進体制を再構築しろと,要するに
,4大学の側と,管理本部が一緒になって改革を進める,推進体制を再構築しろと,そ
れから,先ほど言った同意書,他言しないとか,そういう同意書を撤回しろと。そうい
う声明を総長が出したわけです。ところが,管理本部側はその都立大学総長の声明に対
して,科技大,保科大,短大の学長を巻き込みまして,いや,管理本部が正しいという
声明を出したんです。ところが,その3大学長の声明は,声明が出る1時間前には管理
本部のホームページに載っていたんです。その文書というのは管理本部が作ったんです
。管理本部が作って,それを3大学の学長に飲ませたんです。それを科技大の教授会が
追求したら,実は私も知りませんでしたと学長は認めた。あれは管理本部が作ったんで
すと,そういうことだったんです。

担当学生数を言いがかりに
10
25日の教学準備会で,管理本部長が,「人文学部の見直しなくして大学改革はあり
得ない」「人文をはじめとする人的資源の再配置が必須である」と。どういうことを言
ったかというと,人文学部教員一人当たりの学生数というのを出してきたんです。これ
よく使われるんですけれどね,人文学部教員あたりの学生数は4点何人なんです。たと
えば,東北大学ですと,東北大学の語学の人数というのが出てましたけれど,一人当た
りが十何名なんですね。理学部も大体十何名だと思います。ところが,これトリックが
あるんですね。トリックというのは,人文学部の先生は全学教育の語学教育もやってい
るんです。その分はカウントしてないんです。人文学部学生に対して人文学部教員で割
っているんです。人文学部で授業持っている全学教育の語学の分まで数えると,一人当
たり十何名なんです。だから,彼らの根拠は崩れているんですけれど,この論拠が崩れ
ているにもかかわらず,石原は何度も都議会の質問に対しては,人文学部は人が多すぎ
る,余っとる,遊んどるということで,人員削減を言う。

英語はNOVA!?
さらに彼らが考えたことは,60人定員削減すると,大体一人年収が1千万とすると6億浮
くんですね。それで,英語の授業をNOVAに委託する。NOVAに委託すると11千万で済む
んです。結局5億近く浮くんです。たぶんこれ本当にやるんじゃないですかね。僕らは
NOVAに委託しても,誰が成績簿付けるんですか,誰が責任負うんですかという話をし
たんですけれど,要するに管理本部はそんなの全然分からないわけです,とにかく1
いくらでやれると。

学問体系無視
それから必修科目をおかない,文部省の設置基準には必修科目と言っているのに,大学
の中には必修科目はおかないというんです。それから,履修年次を設けない。ところが
,自然科学見たら分かりますけれど,化学だと原子,分子やって,統計熱力学やって,
それで有機・無機というのに,各論に入っていく,ベースからというのが,物理でもそ
うですけれど,成り立っているわけです。ところが,そんな履修年次はどうでもいいと
,自分の好きな物取ったらいいと。そんなもの学問体系からいってあり得ないですね。
そういうむちゃくちゃなこと言ってきたわけです。

組合が追及,管理本部の二枚舌が露呈,移行型を認める
ところが,我々組合がどんどん追求しましたら,管理本部というのは,先ほどから言っ
ているように,4大学廃止,新大学設置と,都議会でも都民に対しても説明してきたん
ですけれど,我々が公開質問状出しましたら,彼らは,地方独立行政法人法上,新大学
は移行型の法人である,新設じゃないということを認めたんです。文科省にも,設置申
請は移行という形でやる。移行ということは,地方独立行政法人法上,待遇は基本的に
は継承するということが法律で書かれているんですよね。そういう意味では二枚舌を使
っているわけです。

マスコミも取り上げる
で,この辺から,だんだんマスコミも東京都のやっていることはおかしいんじゃないか
ということで,新聞が,ほぼ毎日のようにどこかの新聞が書くようになりました。新聞
によってカラーがありまして,読売なんかは,先ほど言った,教員あたりの学生数が人
文の先生は少ないからというのに乗った話をするわけです。しかし,最後はどの新聞も
石原都政のやっていることはおかしいのではないか?というような論調になったようで
す。

設置理念を河合塾に4千万円で"発注"するも不採用
その他,後で述べますけれど,設置理念を実は誰も作ってなかったんですね。申請する
ときに,設置理念というのは必ず必要なんですよ。何のためにこの学部設置して,大学
作るのか。我々誰も手伝わないから,誰も作れないんですよ。誰もやりようがないから
。そしたら,管理本部は河合塾に頼んだんです(失笑)。河合塾に新大学の設置理念を作
ってくれと。ぱっと朝日がすっぱ抜きましたら,さすがに,石原が記者会見で朝日新聞
から追求されましたら,いや,それは違うんだ,要するに学生の進路の調査をしている
がために,河合塾にお願いしたんだ,と。だけど河合塾は設置理念について考えてくれ
と言われたんだと言っているんです。ところが,河合塾が4千何百万円で請け負った設
置理念というのは実際には使われなかったんです。だから四千何百万損しているんです
。とにかくむちゃくちゃです。

盛り上がる反対運動
都立大闘争はファシズムから日本の文化を守る闘い
それで,色々な運動がどんどん盛り上がりまして,助手会が再建され,学生自治会もア
ンケートをとると80%が反対であると,それからあと,人文学部の教員を中心に署名の
会というのがありまして,それが都議会に請願を何度もやる。それから,4大学の教員
の声明の会というのがありまして,それでとにかく今の改革をストップしようという署
名を集めたら,4大学全教員の57%,半分以上が「改革」を止めろという話になったわ
けです。

管理本部が迫る選択非就任,旧制度,新制度
そうこうしているうちに,11月に,管理本部はどんどん手を打ってきまして,教員の任
期制・年俸制ということを出してきたわけです。年俸制というのは,ご存知のように野
球選手とかがやっていますけれど,それを大学にどうやって導入するかということなん
ですけれど。
まず,任期制については,全教員が3つ選べるんです。
ひとつは,新大学に行かない,とにかくもういやだと。私なんかもそうです。もう,私
は新大学が出来ても,新大学には行きませんと。そういう人は,学生が,都立4大学に
入った学生が卒業するまでは居れるんです。だから,学生が留年すると,まぁ8年くら
いまでは居れるんです。これがひとつです。一番強力な反対です。私を含めて30人くら
いはそういうのに署名してきました。
それから,二つ目は旧制度です。旧制度というのは,教授,助教授,助手のままである
。任期制は付かない。ただし,昇給も昇格もあり得ない。我々毎年昇給ありますね。昇
給があって,それから助手から助教授,助教授から教授というのがありますけれど,そ
れは認めない。というのがふたつめ。
三つめは任期制が付きますよ,年俸制が付きますよ,と。で,助手という制度をやめて
,研究員。助教授という制度をやめて,准教授。それから教授,で,主任教授。この4
つにする,と。
この3つをどれか選びなさいということを言ってきたんです。一番最後の新制度と言わ
れるのは,まず,研究員は任期制で,最初は3年+2年だったんです。(全部で)5年で
す。で,これは誰も来ないよ,そんな5年で教育なんて責任持ってやれないと言ったら
,さすがに5年+3年になりました。それから,准教授は5年+5年の10年です。教授
は5年でチェックされてそれをパスすると主任教授になる。主任教授になると,定年が
63
なのが65まで延びる。だから,よく考えてみると馬鹿な教授ほど定年が延びるんです
ね。優秀な助手ほど職に就けない。こんな馬鹿な制度があるものかというので,管理本
部長の前で「馬鹿かぁ!」と言いましたら,管理本部長はさすがに怒りましてね,何が
馬鹿かと言われまして,大ゲンカになりました。少なくとも,この制度を生かしておい
ては,まさに,若い人にのびのびと自由に研究やって,世界のトップに立ってくれとい
うのとは全く違って,馬鹿な年寄りを守ろうとする非常に悪い制度なわけです。これが
いまだに尾を引いています。

法学部4教授の突然の辞任
それから,法学部4教授の突然の辞任。ある教授は自分が二十何年都立大で働いていて
,改革のために,要するに都庁の犬として働いていたわけです。都庁の犬がある日突然
都庁に裏切られたわけです。それで,もう俺はいやだというんで,やめると言って,法
学部の4教授が辞めたんです。ところが彼らはロー・スクールのメンバーだったんです
ね。で,文科省に書類をもう出しているんですよ。文科省に書類出して,審査が行なわ
れている途中で,俺らやーめたと言ったんです。もちろん文科省は怒りまして,都立大
の法科大学院は認めないと。結局入試が行なわれなかったんです。法学部の学部長が慌
てまして,もうとにかく誰でもいいからというので人を集めてきて,遅れて申請して,
やっと申請が認められて,法科大学院はなんとか4月から出発した,そういうごたごた
がありました。

返上された経済学COE
それから,経済の近経グループがCOEが通ってたんです。彼らは研究をしたいですから
,研究制度について,特に大学院の研究についてきちっと説明してくれと,大学院制度
については1年遅れて出発するし,内容がよくわからないから,きちっとやってくれと
いうことを何度も管理本部に言っているんです。彼らは経済の近経ですから,組合員は
ほとんどいません。でも,だんだん彼らも頭に来まして,もう管理本部は何も考えてな
い。近経グループがついに管理本部を見放しまして,我々は出て行くと。COEを持って
出て行くと言ったんですね。COEメンバーの全員が,他の大学に移ってそこでCOEをやる
という,そういう提案をしようとしたら,文科省に聞いたら,文科省では,COEという
のは大学に付いたものだから,個人によって持っていかれては困ると言って,結局,経
済の近経のグループはCOEを返上したんです。要するに,やりません,と。その近経の
グループが,この前,1週間前に組合の部屋に行きましたら,ほとんどもう他の大学に
移っていったと言っておりました。

顧問弁護団拡がる連帯
あと,我々,弁護団を持っております。自由法曹団という弁護団がありまして,自由法
曹団が全面的に支援すると。都立大プロジェクトを立ち上げると。なんでかというと,
要するに,我々が石原に対抗しようとすることを,自由法曹団は,非常に,その,見て
いたわけですね。石原が,いかにファッショ的で,差別的で,独裁的かということを,
自由法曹団は,見ていたわけですね。それで,都立大が,石原と全面的に対決すると,
都立大の組合がやっていると聞きまして,自由法曹団の方で,プロジェクトを組むと。
で,ILO提訴とか,UNESCO提訴とか,そういうことも考え始めています。今も会議のと
きに弁護団が来ております。それから,集会も何度もありまして,一番大きかった集会
は,2月の後半に,「都民の会」主催で,日比谷公会堂が超満員になりました。2000
超入りますけれど,立錐の余地がないくらいに入って,非常に盛り上がりました。

就任承諾書闘争
その頃,何が問題だったかと言うと,管理本部は文科省に申請を出さなければいけない
。申請を出すリミットが4月の頭だったんです。で,7月認可ということをもくろんで
いたんです。そのためには,2月いっぱいくらいに就任承諾書をもらわないと,要する
に,私は新大学に行きますよということをもらわないと,文科省の申請書が書けないと
いうことなんです。それが最後の,最後の最後のつばぜり合いで,人文学部と理学部が
ずーーーーっと反対していたんです。人文は,学部長,評議員からもう絶対反対です。
最初に言ったように,もう半分に減らされるなんていうのは絶対反対です。私は,理学
部の教授会で,とにかく毎回毎回発言してました。組合は裏ルートで情報を全部集めて
いる。僕らそれがあるから,全部情報握っているんですね。そういうのをどんどん組合
ニュースで暴露して,ほぼ毎日組合ニュース出していました。事務長が私のところ来ま
して,山下さん,組合ニュース読まないと情勢が分かりませんねぇ,という。全員組合
ニュースを読む。我々組合ニュースは全構成員に配ってますから。組合員以外の人にも
。たぶん1年間で百いくら出したんじゃないですかね。

最後のつばぜり合い
で,2月までは,理学部も就任承諾書を出さないということで,ずーっと頑張ってたん
です。ずーーっと頑張って,人文学部は絶対出さない,理学部も出さないということに
なった。ところが最後,ここ一番というときに,理学部教授会がひっくり返ってしまっ
たわけです。人文学部も,さぁどうするかという話になって,もうこれは,非常にドラ
マチックな抗争があったんですけれど,最終的には人文学部も,大学院の方に,学部は
60
何名なんですけれど,大学院の方で20何名補充して80何名,90名近い案を作って,13
0
名から90名だったら,確かに痛いけれども,60名よりはまだましだろうという,それ
から,いままでつぶれた学科,研究科,専攻を再建するというような,色々な妥協案を
考えて,最終的には出したんです。7月の設置審にかかるように。

設置審でも大もめ
ところが,7月の設置認可で通らなかったんです。我々が文科省に行って,いかにひど
いことをやっとるかという話を全部流してましたし,それから,設置審の審査員全員に
,毎回組合ビラを送ってましたし,毎回資料を送っていましたので。それから,設置審
の審査員も我々の友達も知り合いも何人もいるんです。都立大のことはみんな知ってい
るんですね。で,そのまま通すわけにはいかんと言うことで,やっぱり学者としての良
心があるわけですよ。それで7月の認可は通らなかったんです。何が問題になったかと
いうと,9月の大学院の入試が出来なくなったんですね。で,今度は学生があわてだし
たんですね,うちの大学院どうなるんだ,つぶれるぞということで,みんな学生がよそ
の大学院を受けるということで逃げ始めたんです。最終的には9月設置認可で,9月に
通りました。ただし,付帯事項が沢山ついています。たとえば,都市教養学部とは何ぞ
やと,理念が分からないわけです。教養というのは,一般的な普遍的な理念です。そこ
に都市がなぜつくのか,そういう問題点とか,いろんな問題点がつきました。

新制度(任期制年俸制)拒否の闘い … "旧制度"は地方公務員法違反
そういう問題がありましたけれど,とにかく文科省を通って,今,最大の問題には何に
なっているかと言うと,都立大の,組合のホームページに「手から手へ」というのがど
んどんアップされていますので,それを見られるのが一番いいと思いますけれど,先ほ
どの任期制・年俸制の問題です。要するにどの制度を取るかという問題で,最終的に就
業規則と労働協約を結ばないといけないわけです。いまだに出来てないんです。4月か
ら法人化されるのに。あと半月しかないのに。で,半分以上の人が新制度に行かないと
言っているんです。だから,就業規則を作ろうにも作りようがないんですね。旧制度の
ままで,助手,助教授,教授のままで,昇格もない昇給もないと言ったら,これは法律
に違反しているんですね。地方公務員法に。我々は昇格昇給ありますという制度なんで
す。法律で認められている。その法律に抵触するんです。あと半月しかないのに,まだ
もめているんです。完全に当事者能力失っているという状態です。それから,今日副委
員長とも話をしましたけれど,今問題になっているのは教員の身分の問題,もうひとつ
問題になっているのは,この2年間で教員が100名程度出て行ったんです。定年と,私
みたいに別の大学に出て行ったので100名。600名のうち100名ですよ。で,もう授業が
成り立たないんですね。いまだに,非常勤が補充できない分野がいろいろあるんです。
新入の学生については,まぁある意味しょうがない面もあるけれど,残っている学生は
,自分のついている先生がいなくなったと,たとえば人文のこの先生で,ドクターまで
行ってて,教育してもらってた先生が別の大学へ行っちゃったと,そういうのが沢山あ
るんですね。残っている学生の教育権をどうするのか,というのが,いま,非常に大き
な問題になって,総長も何度も声明を出しております。組合のニュースの中でも,総長
声明が沢山出ております。

闘いを振り返って
情報戦でリード,高い組合組織率,組合が改革の主導権を握ろう
だいたい以上が,今都立大学をめぐる情勢なんですが,私,1年間組合の委員長やって
おりまして,それから,5年間都立大におりまして,組合側から見たときに,うまくい
っているところと,失敗した例というのが,いくつかあります。うまくいっている例は
,都立大学は,先ほどから言っているように非常に自由闊達な大学で,学長選挙のとき
に,やっぱりまともな人が学長になるんですね。前々代の学長というのは日の丸反対の
急先鋒の学長だったんです。
弁護団,自由法曹団の弁護団が,いつも我々のところに応援しに来ていましたけれど,
石原を相手によくここまで来たなぁと。彼らはいろんな弁護してるわけです。京王電鉄
の争議もやったし,いろんな組合争議やったけれど,都立大の組合は多分ひと月くらい
で負けるだろうと思っていたけれど,失礼ながら,これは画期的なことだと。いまだに
,まだもめているんです。やっぱりひとつには組合の組織率が5割前後なんです。私の
いたときに5割ちょっと越えて,いまちょっと落ちましたけれど,人文学部は90%
理学部は80%,あと工学部は非常に少なくて30%,文系も他のところはだいぶ低いけれ
ど,組織率が5割近いというのがあります。それから,私のときに,とにかく組合ニュ
ースを全員に配ろう,非組合員にも全部出そう,組合が改革の主導権を握ろうと,そう
いう提案をして,それもかなり成功しました。組合ビラは,管理本部の連中は,朝来た
らまず組合ビラを見ます。組合が何を言っているか,どこまで情報がばれたか。彼らが
チェックしているんです,組合ビラを。情報合戦なんですよ。で,ある朝突然新聞に載
る。だから,管理本部は管理本部でいつも泡喰っているんです。管理本部もどんどん変
わりまして,最初にひどいことやった管理本部長も変わりましたし,そういう意味では
,うまくいけば,新しい大学というのは,うまい体制が組めるんじゃないかなと。ただ
問題は,最初に言いましたように,理事長と学長が別でありまして,理事長が一番上。
理事長は高橋といいまして,日本郵船の元会長かなんかで,これは石原の同級生なんで
すね。石原は自分のまわりは全部自分の友達で固めているんです。あるいはサンデー毎
日がスクープしてましたように,彼はよく十何人の配下を連れて海外のリゾートに遊び
に行っている。とにかく非常に不真面目です。

小物・石原慎太郎の手法はファッショそのもの
で,最初のタイトルに戻ります。なんでファッショ的と言ったかというと,私の話を聞
かれて分かると思いますけれど,大学というのは本来民主主義が一番重要で,民主主義
を我々は大学で教えて,それで社会に,学生を社会に送り出すわけです。で,石原のや
り方というのは,まさに,そういうことを常に否定している。独裁的なんです。そうい
う意味で,私は,彼のやり方というのは,彼の思想とも絡んで,ファッショだというふ
うに考えているわけです。岩波書店の科学という雑誌が毎月出ていますけれど,そこに
依頼されて原稿を書いたわけですが,そのときに岩波書店から電話がかかって来まして
,「山下先生,このファッショ的というのはちょっと危ないんで,控えてもらえません
か」と言われましたけれど,私は,絶対いやだと,あいつはファッショだというふうに
言って蹴りましたら,しょうがないですねぇ,じゃあやりますから責任とって下さいよ
と言われまして(),そのままファッショ的ということでやったんです。ところが,あ
るときに,ドイツのジャーナリストが,石原のことはみんなよく,世界中で知ってまし
て,都立大の話を聞きつけて,インタビューに来まして,実はそのときに,叱られまし
た。石原をファッショというのはおかしいと。ファッショというのは,やはりナチスド
イツみたいに何百万人という人を殺して初めてあれはファッショだという言葉が使える
んであって,石原はファッショじゃないですよ,まだそれは甘いですよ,ということを
言われまして,ああそうですかというふうに私は答えたんですけれど,でも,私は,石
原はまさにファッショだと思います。でも,まぁ,権力も,驕るものも久しからずと言
って,彼も次の選挙,あるいはその次の選挙くらいには,たぶん年齢のこともありまし
て,下りるだろうと思います。まぁ,その間,都立の新大学が耐えれば,都立の新大学
はまともになっていくんじゃないかと,期待しております。長い間ご清聴ありがとうご
ざいました。

質問と議論
[
質問者]
僕が一番心配しているのは,ちゃんと4月から授業が成り立つんだろうかということな
んですが。
[
山下]
まさにおっしゃる通りです。一応,つじつまは合わせました。非常勤含めてつじつまは
合わせました。だから急遽人事をやりまして,昇格の人事,それから補充の人事をやり
ました。昇格の人事は10月にやりましたけれど,公示は1週間,審査が1週間,で,3
日後に発表するということをやりました。そのときの基準が,偉大な賞をもらった,そ
れから外部資金を沢山持ってきた,この2項目です,昇格人事については。だから,ほ
とんどの人は落ちるわけです。だから理学部で昇格したのが数名ですかね。
その後,今度は公募に入りました。1年前から実は公募をやっていたんですけれど,最
初,普通の公募やりました。で,1つの公募に対してひどいところは応募者が1人です
。一番多かったのが6人です。そのことを我々が団体交渉のときに言いましたら,彼ら
は6人も来たからいいじゃないかという言い方だけれど,そのときに,人文学部の(
)副委員長が,お前らなんて馬鹿なこと言っている,人文学部だったらひとつの公募
に対して100人以上来るよと。それがたった6人,おまけに1人しか来ないところはど
うやって決めるんだという話をしましたら,さすがに管理本部の方も黙り込んでまして
,なにかぼそぼそ言ってましたけれど。要するに,非常に人気がないです。そのあと,
理学部から,人文含めまして人事が始まっていますけれど,いろんな人が私に相談に来
まして,出してもいいですかってなことを言われるんで,僕は,やめた方がいいよ,や
めた方がいいよ,とみんなに言ってまして。そのせいか応募者は非常に少ないです。
だけど,補充はほぼ出来てます。ただ先ほどから言っているように,3つ選択肢があっ
た中で,新任は有無を言わせずに任期制・年俸制です。
で,年俸制についてはいまだにけりがついてないんですね。僕らは,宮下参事というの
と会ったときに,もう一人(参事に)泉水というのがいるんですが,泉水は年俸制という
のは野球と同じで,その1年の業績を見て,次の1年の年俸を決めるのが年俸制だと言
ったんです。ところが宮下というやつが,それは違うと。1年の仕事を見て3月のとき
に,こいつはまともにやっとらんということになったら返してもらう,ひどいときは10
0
万から200万返してもらう。そんな馬鹿な話がありますか。1年間働いて,3月になっ
て,お前はさぼっていたから100万円返せなんてことが。そんなこと言うんです。そし
たらさすがに,管理本部の宮下と泉水が喧嘩を始めまして,管理本部長がまぁまぁここ
は,その問題については検討させて下さいと引き取りましたけれど。要するに何も考え
てないんですね。お互い同士がコミュニケーションできてないんですよ。みんなが勝手
なことを言う。で,僕らが組合で暴露すると,いや,それはもうちょっと待ってくれ,
もう一回考えます。もうそんなことばかりで,もう団交を途中で打ち切ったことが何度
もあります。要するにまともに考えてないんです,最後まで,誰も。そういう意味では
,ある意味では楽観しているんですよ。押し返せるだろうと。

それから,ご存知のように学長は西澤先生ですが,西澤先生のこの間のいろんな発言見
てみると,江戸の学問と東京都とどうのこうの,そういう話ばっかりなんですね。およ
そ学者とは思えない発言ばっかりするんですね。彼は公立大学協会の会長やってますけ
れど,会長のときは,公立大学は大学の自治を守って云々と言いつつも,いざ都立大の
話になると,おかしくなるんですね。よくぞ東北大学はああいう馬鹿な人を出したとい
う話で(),我々非常に迷惑を被っていますけれど。まぁ,しょうがないですそれは。

[
質問者]
理学部の者です。いま,教員の方の出て行くとか昇給とかいう話でしたけれど,それぞ
れ何とかなる。それぞれの立場で,自分の意志で。でも学生は出来ませんよね。学生は
,なにか制度が変わるとなんとかしなければいけない。出ることは出来ない。学生に対
してはどういうケアが必要だと思われますか。
[
山下]
この間,学生自治会と,それから大学院生自治会も再建しまして,都庁に押し掛けまし
て直接管理本部と団交とかもやりましたし,それから,総長が学生を集めて説明会とい
うのを,たぶん4回くらいやったと思います。カリキュラム委員会というのを作りまし
て,そこには学生部長とか出ていますので,都立大に関して言えば,総長,学生部長と
学生自治会との間のコミュニケーションは一応取れています。ただ,それでも学生側は
,先ほどから言っているように,自分の希望する先生が都立大からいなくなったという
ことで不満を持っていますし,それから,今付いている自分の先生がいつ出て行くかと
いうことで,不安感は常に抱えています。私は出るときに20何人学生をおいてきました
けれど,直前まで黙っていたら,それはひどいということで学生にはかなり文句を言わ
れました。先ほどから言っていますように,教員が100名近く出ていますので,そうい
う意味では学生のケアというのは非常に重要だと思います。学生は高い授業料を払って
,学ぶ権利というのを当然持っているわけです。それに対して,大学側あるいは教員側
というのは,それに応える義務があると思います。そういう意味で,おっしゃるように
非常に重要だと思います。それについては,ある程度大学側は進めつつあるというふう
に考えています。

[
質問者]
工学部です。これは,現代の話ではなくて,18世紀くらいの話のようにどうも聞こえて
しょうがないんですけれど。大学というのは,やはりミッションがあって,先ほどご紹
介があったように,設立理念というのが最初にある。私の方では,工学教育では全国的
な組織があって,JABEEというんですけれど,やっぱり最初に教育理念というのを持っ
てこないといけないというふうになっているんです。それをまず評価するというふうに
なっているんですね。そうすると,都立大学というものが,新しい大学になるときに,
およそ普通の人が考えれば,大学の教育目標とか,設立理念からまず作るものではない
か。石原慎太郎という人が,まぁ先生おっしゃるように,どうかしていると,私もそう
思うんですが,100歩譲って,普通でなかったとして,やはり彼が考えている,なにか
そういう設立の趣旨,設立の理念,例えば皇国史観でもいいです,天皇のための大学を
作りたいとおっしゃるんならそれでもいい。何かそういうものがあったんじゃないかと
思うんですが,いかがでしょうか。
[
山下]
いくつかポイントがあるんですけれど,先ほどから言っているように,設置者権限とい
うのが非常に重要だと思うんです,そこが分かれ目だと思うんですね。彼らは大学を作
るときに,移行じゃないんだと,要するにゼロから作るんだと,だから好きなことが出
来るんだというのが,彼らの論理です。だけどそれは文科省に通じなかったし,組合に
も通じなかったわけです。石原が自分の財産を,お金をなげうって新しい大学を作る,
その設置理念は俺のいう通りである,というならあり得ると思うんですよ。それなら,
その設置理念に賛同した人が,学生が入っていけばいいし,教員もそういうのが行けば
いいわけです。今回は全く違うんですね。既に4大学があって,移行型だということも
文科省に言って,地方独立行政法人法の下では,移行型ならば待遇も変わりませんよと
,法律も言っているわけですね。だから,完全に勘違いしているんですね。勘違いと言
うか,要するに悪用しているんですね。そういう意味では,まずやり方が全面的におか
しい。
それから,石原の基本的な考え方というのは,弁護士が言っていましたけれど,リスト
ラ分社化と言うんです。京王電鉄でやってますけれど,京王電鉄は何度も裁判起こされ
てますけれど,あそこは組合が反対すると会社を分けていくんですね。京王電鉄,京王
電車,京王バス,京王なんとか,京王が付くんですけれどどんどん分けていくんです。
で,組合活動家を全部自宅待機させるんです。仕事やらせない,金は払うんですよ,給
料は。それで,いやがって辞めるのを待つんです。どんどんどんどん,同じバスでも車
体の色がちょっと違うだけで,会社は京王なんとか,全部違うんですね。
どうも石原のやり方というのは,まさに,民間企業が首切りをやるときと同じやり方を
大学の中でやろうとした。その彼の一番の目標が,ひとつは赤字解消,って実は赤字じ
ゃないんですけれど。もうひとつは,自分の言いなりになる大学を作りたい。だから,
IT
を秋葉原に作ろうとしたり,バイオ関係を作ろうとしたり,そういういろんなことを
彼はやっていますけれど,要するに金になるもの。金にならない人文とか,金にならな
い理学部とかいうのは冷や飯喰わせて,工学部系にお金をばらまいて。だから科技大を
かなり評価して,都立大は評価しないというのもひとつの典型だと思いますけれど。そ
ういう,大学のアカデミズムに対する無理解と言うか,そういうのが特に彼はひどいで
すね。

[
質問者]
大学と専門学校を区別していないというか,そういうことですかね。
[
山下]
そうですね。彼は一橋を出ていますけれど,不幸なことに大学の,特に自然科学の大学
の研究の重要さということが全く分かっていないというか,それが一番あるんじゃない
ですか。それは,我々の側も,大学の側も,社会に対して,あるいは都民に対して,き
ちんと都立大学の存在意義を訴えてこなかったという反省も若干あるんですね。あるん
だけれども,それはそれとして,やっぱり石原のやり方というのはおかしいということ
です。基本的な大学の,最初に言いました学問のあり方とか,大学はどうあるべきかと
いう,そういう基本的な大学の考え方が全く出来ていないんですね。

[
質問者]
彼は,右翼だと言われて,本人も右翼だと言っているわけです。何が思想なのかという
ことに非常に我々興味があるんですが,言い方悪いですが。権力欲というのはあります
よね。でも権力欲ばかりでは世の中いけないわけで,特にこういう大学とか,あるいは
都という組織を率いていくことはできないわけですよね。彼の基本的な理念と言うか,
思想というのは,一体何なんでしょうか。
[
山下]
それは,私,本質的なところはよくわかりませんけれど,現象的なところを見ると,先
ほど言ったように,もともと彼は物書きから,物書きと言ってもポルノ小説書いてたわ
けですが,それから国会議員になって,それで,右翼的な,なんとかの会というのを作
って,青嵐会ですか,それに入って,で,とにかく,やはり総理大臣になりたかったん
でしょうね。それが出来ない,となったときに,都知事になると,あそこ予算が数兆で
すので,まぁ国の予算ほどではないにしろ,かなりの影響力があるわけです。そういう
意味で,やはり天下を取りたいというのがあるんでしょうね。野心が。日本を牛耳りた
いというのがあるんでしょう。彼が言っているように,東京から日本を変える,という
のに彼の本質的なところがあるんじゃないですか。

[
質問者]
つまり強権を発動できたという実績を作りたい。
[
山下]
そうですね。ですし,やりたい。日本全体をやりたい。先ほど言ったように,彼のやっ
た政策は全部失敗してますからね。彼は物書きとしてどうかは私はよく知りませんけれ
ど,政治家としては下の下ですね。政策を全部失敗していますから。まともな政策あり
ません。

[
質問者]
石原慎太郎は,都立大を思想的にも許せない存在だと。
[
山下]
うん,僕は,そっちの意図が非常に強いんじゃないかと。いや,よくわかりませんけれ
ど,彼が目の敵にしてたのは人文学部と,あとは私のような理学部でしょうね。

[
質問者]
東京都民の役に立つ大学というか,ニーズに応える,最近よく聞く言葉ですけれど,ニ
ーズという,それを向こうとしては口実にしている面があるのではないかと。それによ
って,こちらが反論しにくいといいますか,そういうことはありますでしょうか。
[
山下]
公立大学の存在意義というのは非常に重要だと思うんですね。国立大学,私立大学,そ
れぞれに設置理念があって,当然,公立,地方自治体が大学を持つというのには,それ
なりの理念が必要だと思うんです。当然,地方自治体に対する貢献というのは重要です
し,そういう意味では,都立大学の中には都市研究所という大学院大学がありましたし
,そういう意味ではある程度の努力はしておりますし,それから,都の中のいろいろな
研究機関との連携大学院ということで,大学院の学生を研究機関に委託するということ
もやっておりますし,それなりの努力はしていると思います。
ただ,学問というのは,そういうローカルな貢献というのも当然重要ですけれど,もう
一つ,ユニバーサルな問題もありますので,そういう意味では大学の使命というのは,
いろいろな多面性を持っているので,両面をやって行かないといけないんじゃないと思
います。

[
質問者]
一般には,その両面というのが非常に伝わりにくくて,最初の面だけが...
[
山下]:そうですね。そういう意味では,我々都立大学に居った人間は反省しなけりゃ
ならない面というのはあるかもしれないですね。

[
質問者]
そのことは,先ほど大学のあり方の中でもおっしゃっておいででしたね。
[
山下]
そうですね。大学の改革の流れの中で大学が負けたというのは,やはり大学がサポート
してもらえなかったというのが一番大きいと思うんですね。それは,やはり大学人が怠
った面だと思うんですよ。そこを,文科省からは法人化というやり方でやられたわけで
すね。我々はそういう失敗から教訓を得て,二度とこんなひどいことがないようにしな
いといけないと思いますね。

[
質問者]
先ほどの話にもちょっとありましたけれど,このあと,4月が来て,外から見ていると
,決着を付けられてしまったいう感じにも映っていたのですが,お話では,そうでもな
い,いやどっこいということでもあるようですが,その辺の所の展望というのはどんな
もんでしょうか。
[
山下]
教員の半分が新制度に移っていないんですね,残っている半分が。で,旧制度のままで
,就業規則とか労働協約は結べないんですよ,法律に違反しているから。昇級も昇格も
ないということはあり得ないことですから。だから都の方はちょっと待ってくれといっ
ているんですね。だから都庁側が内部崩壊する可能性があるんですよ。そういうことを
含んで,今日副委員長に電話したら,4月から5月が山かなぁと,そういう感じで言っ
てましたね。わかりません。わかりませんけれど,都立大の組合は非常にいい戦い方を
していると,僕は思います。組合としてはかなりしっかりしていますね。専従も二人い
ますし,ビラをほぼ毎日,多いときは1日2枚出していましたから。それを読まないと
全然情勢がわからない,管理本部は何も言わないから。事務長が私の所に来るくらいで
すからね。

[
質問者]
今後の都立大の展望というのはどうなんですか,つまり,東北大学もそうなんですけれ
ど,なかなか一票の重みみたいなものが大切にされずに,多分,戦後,いろいろな運動
を展開する中で,一票一票を,学長選考のことを言っているんですが,それを大切にし
ていたはずなのに,そういう歴史を形骸化するような形で今,展開されています。都立
大が,今,4月からスタートしますけれど,まぁいろいろな問題が絡んでいると思うん
ですけれど,都立の新大学構想というのが徐々に進んで行って,先生方はだんだんもの
を言わなくなるというような方向に進んで行くのか,それとも,組合がやっぱりしっか
りしているので,本来的な,民主的な運営というものをきちんと実現するような流れで
行くのか,そこらあたりの感触というのはいかがですか。
[
山下]
そこが非常に重要だと思います。先ほど言ったように,大学とは何ぞやという話をいつ
もしているんですが,大学というのはやはり真理探究なんですね。で,階級制がないこ
となんですね。だから,我々が自分の良心に背いて,曲がったことを,嘘をつくという
ことを,ずっとやって行くということは,教育者としても,研究者としても,実はでき
ないことなんですね。それは,今,組合が弱くなったり,新しい人と代わって,どんど
ん人が入れ替わったりという,一時的な現象としては弱くなるということはあり得ると
思うんです。あるいは,不正義が通ることもあるかもしれない。だけど,僕は,ロング
レンジで見たら,やっぱり大学人はこうあるべきだというのがどっかで出てくると思う
んですね。あるいは学生が言うと思うんですね。自分たちはお金を払っていると。だけ
どまともな教育ができてないと。だから,僕は正直言って,楽観してます。
それは日本の政治もそうだと思うんですけれど,企業が後押ししてして2大政党制を作
ろうとしたわけです。ところが2大政党のどちらにも不正がどんどん出てくる,2大政
党が競争しながら不正をやっているわけです。それに対しては,もう,破綻するのは時
間の問題だと思うんですよ。そういう意味では,大学は,今は冬の時代だと思っていま
す。だけどこれから数十年も続くとは思えないんですよ。いや,いい政策なら,どんど
んみんな努力していい方向に行くと思いますけれど,みんな,内心矛盾を抱えていると
思うんですよ。我々,学生に対して真理を教えなけりゃいけないし,正義を教えなけり
ゃいけない。それができないっていうことはあり得ないことなんです。僕はそういう意
味では楽観してます。
たとえば憲法の問題にしても,大江健三郎たちが9条の会というのを作って,各地方で
ずうっと講演会やっていますけれど,どの会場も超満員なんですね。9条を守ろうとい
う一点だけでものすごいものを持っているんですね。たぶん,どっかの選挙のときには
9条をどうするかということが争点になると思うんですね。そうなれば,ものすごい大
きな流れが出る可能性があると思いますね。戦後の日本の矛盾点というか,いろいろな
所に出てきていますけれど,大学の中にも出てきていますけれど,僕はそれは,ロング
レンジで,社会の発展というレンジで見れば,ちょっとした揺らぎであって,将来的に
は落ち着くべき所に落ち着くんじゃないかという気がします。

[
質問者]
今の意見に対して,僕はちょっと悲観的なんですが,一度システムが出来上がると,特
にこの官僚社会においては,それが何十年続くということが,いろいろな例があります
ので,特にこの法人化,私もどちらかというとあまり関心高くなかったんですが,法人
化をされる,特にこの1年,あるいは2年,やはり教官の意識はすごく低かった。何と
かなるだろう,あるいは誰かが何とかしてくれるだろうと。今,東北大学の学長がああ
いう形で選ばれるということになっても,未だに,ほとんど大きな声が聞こえてこない
。まだ,何とかなるだろうと思っている。ところがこれが形として出来上がってしまう
と,それを崩すのはもっと難しい。そういう意識が全体に蔓延しているような気がする
。都立大は,むしろ,そういうドラスティックなものが,急激にあったから,意識が高
まったのかもしれない。じわじわじわじわ来るのに対しては,なかなか意識が高まらな
い。だから,ロングレンジで見ると,むしろ逆になるかもしれない,という可能性が非
常に高いんじゃないかという気がする。だからといって,どうしたらいいのかというの
が全然思い浮かばないというのが正直なところなんですが。
[
山下]
おっしゃることはよくわかります。ただ,僕は自然科学者ですので,実証というのを重
要視しているんですが,例えば筑波大学というのは,東京教育大学が左がかった大学だ
ということで,つぶせっていうことで筑波大学が誕生したんですけれど,もともと組合
なんか認めなかった大学が,今はもう組合があるんですね。それから,名工大というの
がありますが,名工大というのは,柳田というのが東大から学長に選ばれたわけです。
彼は取り巻きを作って,毎晩宴会をやって,飲み屋で政策決めてたんです。で,飴と鞭
政策で,言うこと聞くやつには金を配って,言うこと聞かないやつには金をやらないと
いうことをやったわけです。そしたらついに謀反が起きまして,教授会で通そうとした
ら否決されたんです。で,辞めたんですね。
僕は,大学はやっぱり,会社と違って,いや,会社でも謀反起きますけれど,大学は,
サイレント・マジョリティがいて,いずれはきっと,どっちに付くかと最後突きつけら
れたら良心に従うと思うんですよ。それは僕は信じているしポジティブに考えているん
ですよ。それがみんなタイミングが合うかどうかですね。みんな一気に,これはもうこ
れ以上我慢できない,だからどうにかすると。今度,東北大学の学長選考についても,
ひどい制度です。だけれど,今の学長も,いろいろとスキャンダルがあるみたいですけ
れど,ひどい学長が何代も続くと,そういうことが起きてくると思うんです。署名を過
半数集めたとか,そういうのをどんどん流すとか,やり方はあると思うんですよ。さっ
きから言っているように,矛盾のある制度というのは,絶対矛盾が出るんですよ。その
矛盾を隠そうとすると,もっと大きな矛盾が出るんですよ。だから自然とみんな賢くな
って,やっぱりこうせんといかんなぁと,そこは人間の愚かさでいったん経験しないと
わからないと思うんです。一番恐ろしい戦争というのは,経験したのにまた,というそ
ういう意味では,先生が言われるような面というのもあるかもしれないけれど,でも,
先ほど言った9条の会みたいに,どの会場でも超満員というのは,一方であるんですね
。いろんな力のつばぜり合いがあって,で,流れがどっちになるか,そのときにサイレ
ント・マジョリティがどっちに付くか,それで,世の中流れて行くんじゃないかという
ような感じはしてます。大学においても,むしろ大学の方が,一応知識人の集まりだと
思っていますので,そういう意味では,まともな判断をすると思いたい,と考えていま
すので,楽観してます,私は。

[
質問者]
今のお二人の,悲観論と楽観論は,私から見ますと,生意気なようですが,矛盾はして
いないと思うんです。非常に,先が悲観されることも事実ですけれど,逆に,こういう
場所で,企業社会と違って,こういう場所ですから,真理が一番上に立ちうる条件はあ
ると思うんです。何かおかしいことが起こったときには,ものを言うことができる。制
度がそのときどうであれ,声を出せる,そのことが非常に効果的に働きうるコミュニテ
ィである。そういう意味では,法人化されて将来暗い方向に向かっておりますけれど,
必要なことを言って行く,そうすると共鳴する部分も出てくるんじゃないかと,いま,
そんなような感じでいるんですけれど。それが,都立大では,非常に急激な出来事であ
ったため大きく共鳴して,このような戦いになったということで,今日,お話を聞いて
感激したんですけれど。今日のお話をお聞きするまでは,都立大のことを周りから聞い
ておりまして,学生の方も大変でしょうし,教官の方達も,憔悴しきった毎日ではない
かというふうに感じていたんですけれど,今日の山下先生の豪快なお話を伺うと,まっ
たくそんなんじゃないんだと。
[
山下]
私は,学生時代からずっとやっておりますから,こういうのは慣れたもんで,学生のと
きに比べたら,組合なんて楽なもんですよ。専従もいますし,それは楽ですよ。副委員
長なんて30分もあればビラ簡単に書きますしね。
都立大の組合が,まぁ,結果はどうなるかわかりません,でもまだ存在意義があるとい
うのは,情報戦で,ある意味勝っているんですね。とにかく,最新情報を,一番早く流
すんですよ。だから,組合員でない人も,組合のビラをみんな見るんです。それを読ま
ないと都立大について語れない。そこまでやったんです。今後,組合がどうなるか,大
学がどうなるかわかりませんけれど,非常にいい教訓として残っていると思います。ど
この大学も法人化を迎えて,いろいろなまずい面が出ていますけれど,僕は楽観してい
ます。なんとかなりますよ。

他,よろしいですか。では,どうもありがとうございました。 (大きな拍手。)
まとめ:東北大学職員組合理学部支部

講演の後半,都立大学の「改革」の経緯についてのお話は,岩波「科学」20044月号
に掲載された論考「都立4大学改革について:石原都政のファッショ的手法による都立
4大学の「廃止」をめぐる危機」に基づいています.


3−2「『意見広告の会』ニュース271」に思う[2005/04/27][2005/05/01]修正
      「だまらん」
4
2日に行われた<〜「都民の会」再発足に向けて〜集会&総会>について[2005/4/14
]
「『意見広告の会』ニュース271」に思う[2005/04/27][2005/05/01]修正
2005
427日<counter-comment

「『意見広告の会』ニュース271」に思う

 「意見広告の会」ニュース271(Sun, 17 Apr 2005 22:11:09 +0900) 42日に行
われた<〜「都民の会」再発足に向けて〜集会&総会>について に関する注釈が掲載
されていた。(1ー4には,「だまらん」の上記リンクの内容が引用されている)。以
下、引用。

*「ニュース」編集注1 「注釈」については「ニュース」271をご覧下さい。
*「ニュース」編集注2 加筆修正部分は( )で示しています。

コメント(1)[2005/04/27][2005/05/01]加筆修正

 「それに対して,会場からはA路線の立場の人からのコメントがあり,かなり騒然と
なったと聞いている。」と私が言ったのは,あくまでも人づての情報であったから,「
騒然となったことはなかった」と言われれば,そうだったのか,と改めて思うしかない
。(しかし,) [2005/05/01挿入]また,[2005/05/01挿入終り] shig氏の42日の以下
のコメントを読(むと)んで,「時間の関係からもその場での徹底した討論は難しく、
やりとりはいわばペンディングのまま終了した。」という説明以上のものを感じてしま
う(のだが) [2005/05/01挿入]った(伝聞に基づく私の一方的な思い込み)。その後
shig氏は,改めて「騒然としてはいなかった」旨のコメントをつけている。[2005/05
/01
挿入終り] 時間が無かったことは,ゆうに想像できるが,発言を途中で遮ったのは
事実のようで残念なことだ。

4月2日

 ・都民の会集会総会

 「都立の大学を考える都民の会」の集会・総会開催。集会は南雲智前東京都立
 大学人文学部長の講演。「最後まで戦った人」というイメージが強いためか、
 現状を意外に楽観的に捉えていることに驚いてしまった。それに対して質疑応
 答のときに首大(首都大学東京)非就任者の会 -のメンバーが反対意見を述べ
 ていたのも当然に思えた。ここで議論が始まれば参加者の大学の現状に対する
 理解が深まったはずなのに、議事進行を理由にそれを遮ってしまった司会者の
 行為には納得できなかった(その司会者を怒鳴りつけていた男性もいたがそれ
 はそれでどうかと思う)。会の今後の活動について話し合う総会の部は途中で
 所用のため退出しなければならず、どういう決定がなされたか分からない。印
 象としては活発な活動は期待できるような態勢になっていないように感じられ
 た(あくまで印象)。たとえば上記のような意見の対立があるなかで会の活動
 を具体化していくのは大変だと思う。(追記:できたら後ほど補足します)

 「江戸時代の都市や村落の支配に典型的に見られるように、大枠を支配者が決定し後
は一種の自治組織を存続させる。その大枠の中であたかも自発的に、被支配者が支配者
に従属・協力してゆくのである。南雲氏の述べられた方向性は、結局そのような支配の
システムに組み入れられてしまうものではないか。」と,ある非就任者の方の意見を「
意見広告の会事務局」がまとめているが,内容的に極めて当を得ていると感じた。「法
制史」に関して,私は無知だが,日頃感じている「日本人的発想」に,<原理原則を大
切にしない姿勢>を私は感じているからだ。

 簡単に言ってしまえば,原理原則がどうであれ,長いものには一応巻かれておいて,
現実面ではこちらが思ったようにやればよい,という姿勢である。原理や原則は,しょ
せん建前であり,現実は違うのだという認識があるように思える。したたかな現実主義
とも言われて,日本ではこのような立場が暗黙の内に力を持つようなところがあるが,
私は,原理原則を建前ではなく正面きって主張できるようにならないと,日本,いや日
本人は世界から孤立することになるのではないかと恐れている。

 日本国憲法第9条の解釈しかり。書かれていることをすなおに読めば,自衛隊の存在
と自衛隊の海外派遣が違憲であることは容易に想像がつく。自衛隊は,英語では Japan
ese Army
であり、日本がいくら「自衛隊(The Self-Defense Forces)は軍隊ではない」
と言っても,それは,the Forces(=軍隊)なのである。The Self-Defense Forces は,
「自衛軍」と訳されるべきものなのだ。従って海外では,当然、「自衛隊」を軍隊とし
て見る。でも,日本の政治家達は,軍隊ではないと言ってきた(もっとも,正式に軍隊
として認めるような改憲をしようという動きが活発化しているので要注意であるが)。
 

 中国の近頃の反日運動の中でも話題になったが,日本では第二次世界大戦の「連合国
」と「国際連合」は全く別のものだと考えているようなところがある。どちらも The U
nited Nations
なのだから,同じ組織(の発展形)と考えるのが普通である。ちなみに
中国語では,同じ言い方であり,日本のように訳し分けることはない。ここでは,同じ
表現を都合良く解釈して,言い換えてしまう日本人と,その背景を知らないでいる無知
な日本人の姿が見えてくる。

 「君が代」の歌詞が,天皇とは無関係だ,というのも信じられない説明だ。ドイツに
ある日本の大使館のホームページに,君が代のドイツ語訳が掲載され,すなおに「君=
天皇」の解釈をしたドイツ語訳を掲載したら,誤解されるからやめろ,という声があが
った。これは明らかに変。「君= You」という解釈ができると言ってのけた総理大臣が
過去にいたが,この歌詞の成立過程を無視した誤訳としか言いようがない。

 明確に言葉で表現したことを,「実は違うんだ」といって逃げるのは間違っている。
いや,間違っているというよりは,誤解を生み,将来,信用を失うということを意味す
る。逆に,ごまかして言い逃れをするために「ことば」を変えたり,無理やりこじつけ
の解釈を与えては,本当の意味での問題解決から遠ざかってしまう。

 話を元に戻そう。1つの地方自治体が,自分達の利益になるように大学を変えること
は,大学の理念から言って間違っている。学問というのは,1つの地方自治体の利益と
比べられるべきものではない。敢えて言えば,人類全体ためになるような,はるかに普
遍的な存在なのだ。これからの時代,利益を無視するような形で大学運営をすべきでな
い,と主張する人達がいる。そうだろうか? 利潤追求の会社と同じ発想で,人類の智
慧を継承し発展させようと研究を続ける人達を,切り捨てるのは愚かなことである。

 貧しくとも次世代の人々を育てる教育から予算を削ってはならない。当面の社会の利
益,大学卒業後の就職に有利なことだけを大学教育にしてはならない。「学問を通して
の人間教育」がなされなければ,大学生は,卒業後,より良い次世代の社会,新たな求
められるべき価値観を創造していくことができないだろう。社会はますます悪くなる。
 

 私の考える原理原則は,こうだ。学びたいという意欲を持つ学生に対して,大学は自
由に学ぶ機会を与えるべきだ。大学教員(=研究者)は,それらの学生にアドバイスを
し,水先案内人となる。<すぐに社会で役立つような知識や技能を身につけさせること
>は,二の次でよい。そして,学びたいという欲求を持たない者は,大学に来る必要は
ない。社会に出てすぐに役立つ知識や技能を身につけたいのなら,専門学校に行けばよ
い。

 原理原則は,はっきりと言葉で表現して実践することで意味を持つ。「現実は違うん
だから,まあいいじゃあないか」という態度では,言葉は意味を失い,その言葉を話す
人は信用されなくなる。

 最後に,小さな訂正を1つ。「意見広告の会」の「04年2月、日比谷公会堂での「
都民の会」主催の集会には3000名近い人々の参加があった。」となっているのは,
2000人の誤り。会場では,1800人という説もあった。

コメント(2)[2005/04/27]

 元人文学部長の南雲氏の語ったとされること,つまり「教職員の意識・行動をまとめ
ることがいかに困難であった」かは確かに本当だろう。その努力には敬意を表する。ま
た,心身共に疲労困憊していたこともよく知っている。ただ,その努力とは別に,今と
なっては様々な局面で,もう少し頑張れたのではないかという感慨が残る。そして,「
首大は,当初の構想よりだいぶよくなった」という認識には共感できない。それは,現
実的に教員の努力が一部認められた,という所に焦点を当てることに疑問を感じるから
だ。現実的には,<東京都のほぼ思ったような組織と規則が作られてしまった>という
部分が大問題である,と考えるからだ。

 余談だが,南雲元人文学部長は,メールによるコミュニケーションを嫌い,ご自分で
はインターネットのサイト情報を見ることはめったになかったと聞いている(「やさし
FAQ」の内容は,時々,管理本部の人から聞いていたとか)。総長は,頻繁にメール
を使い,ネット情報を日々参照していたようだ。

コメント(3)[2005/04/27][2005/05/01]加筆修正

 「第2点。都立大解体・首大の発足の経過は、東京都による都立大つぶしの攻撃に対
する反対派教職員の敗退の過程と見る向きもあるが、必ずしも敗退とも言い切れない」
という「意見広告の会事務局」(の注釈)による南雲氏の意見のまとめに 対して。
「必ずしも敗退とも言いきれない」かもしれないが,私は,基本的に,教員側の主張の
根本的なところが受け入れられずに「首大」が成立したのだから,敗退だと考えている
。この点に関しては,いずれ総括をしたい。


 4
2日に行われた<〜「都民の会」再発足に向けて〜集会&総会>について[2005/4/1
4] 
「『意見広告の会』ニュース271」に思う[2005/04/27][2005/05/01]修正


3−3 初見基研究室ホームページ「たまらん」
      5/5

55日】
 4日・5日に開催された日本独文学会春季発表会会場では、都立大問題にご心配をいた
だいている多くの方々から励ましのお言葉をいただきました。ありがとうございます。
学内ではいまや圧倒的少数派として狭い肩身ですが、自分が信じて行動してきたことを
誤りとはとても思えません。当たり前のことが当たり前に受けとめられる世界がまだ外
には確として存続していることのありがたさをいまさらながらに痛感しました。

 教職員組合の前委員長山下正廣氏(現東北大学)が東北大学で行なった講演「都立4
大学の改革を巡る経緯について:石原ファシスト都政との戦い」が公開されています。
http://ha5.seikyou.ne.jp/home/touhokudai-syokuso/docs05/yamashita.html
 一読してみて損はないでしょう。この講演内容に対してあれこれ言いたいことがない
訳ではありませんが、ここでは一点、山下氏の講演にあっては表題をはじめ全体として
威勢がいいのと裏腹に、「意思確認書」「就任承諾書」をめぐる経緯についての報告が
かなり不正確であり、かつ曖昧にぼやかした言い方になっていることを指摘するにとど
めます。下記51日付で引用した太宰治の言葉をもういちど繰り返したいところです。
 

51日】
 教職員組合は「雇用契約書」をめぐり《全教員が屈することなく団結して行動する》
(「手から手へ」2346号)よう訴えています。それはそれで、ここに水を差す気はあり
ません。
 ただひとつ次の点を思い出しておかなくてはなりません。
 200464日に開催された4大学声明呼びかけ人会主催になる集会では「就任承諾書
(助手に対しては「意思確認書」)の提出の前提となる諸条件の明確な説明と協議体制
の実現を求める」と謳われていたこと、同年63日の人文学部教授会でも《新大学にお
ける大学院の構成及び教員の身分・労働条件という2点について明確な案を提示しない
かぎり、「就任承諾書」は提出できない》ことを全会一致で確認したこと、さらに61
7
日の人文学部教授会でも、前記2点に教授会に人事権をはじめとする大学自治を保障す
る諸権利を与えることを加えた3項目が明確になるまでは「就任承諾書」を提出するか
どうかの判断はできない、と訴えていたこと、これが昨年6月の状況でした。
 それにもかかわらず、肝心な雇用問題を曖昧にしたまま「4大学教員声明呼びかけ人
会」内理学部・工学部・科技大教員のほとんどが、そして624日には人文学部教授会
構成員の多く――前週まで勢い良い発言をしていた者たちを含め――は、掌を返したよ
うに「就任承諾書」提出へと方向転換し「新大学発足体制」に雪崩うっていった現実が
ありました。
 すでに首大教員内一部では、「非就任者」が全体の和を乱す「裏切り者」であるかの
ような「歴史の偽造」がはじまっています。200463日及び617日付人文学部教授
会決定を遵守しようとするならば、雇用条件を不明瞭なままにしながら「新大学発足」
への協力体制に入るというようなことはおよそ考えられないことだったはずです。

《じぶんで、したことは、そのように、はっきり言わなければ、かくめいも何も、おこ
なわれません。じぶんで、そうしても、他におこないをしたく思って、にんげんは、こ
うしなければならぬ、などとおっしゃっているうちは、にんげんの底からの革命が、い
つまでも、できないのです。》太宰治「かくめい」