朝日新聞が「めぐみさん『遺骨』で論争」と報じる (2005.5.11)

 

拉致問題への視点

http://www8.ocn.ne.jp/~hashingi/page027.html#K22 

 

 

朝日新聞が「めぐみさん『遺骨』で論争」と報じる(05/5/11

 

 日本の大手紙で初めて、朝日新聞が5月10日付第3社会面トップで混迷する横田めぐみさんの「遺骨」問題を取り上げた。

 同記事はまず「英科学誌『結果に疑問』報道」との中見出しで、米国務省が4月27日に発表した国際テロリズム報告で「遺骨は横田めぐみさんのものではないとの日本の鑑定結果が示され、論争になった」と指摘していることを挙げ、同日、漆間厳警察庁長官が都内の講演で「担当の先生に反論していただければ、国際的にも誤解は解けるんじゃないか」とコメントしたと報じた。

 他方で、ネイチャーが2〜4月、三回にわたって日本の鑑定の科学性に疑問を投げかける記事を掲載した経緯を紹介し、取材したシラノフスキー同誌東京特派員が「鑑定結果や内容に関心があり、帝京大に電話した。吉井氏から日本語で率直な話を聞いた」と話したことを伝えた。

 さらに、韓国、北朝鮮のメディアがそろってネイチャー記事を引用しながら日本の鑑定を批判していることも書き添えた。

 続いて「日本政府『記事は不十分』」との中見出しで、昨年12月8日に「骨は他人のもの」と公表した細田官房長官が「(記事は)単なる電話インタビュー。きわめて不十分な表現で、言っていないことも書かれた。他人の骨だと科学的に立証し、明確なデーターが出たと説明したのに、意図と違う記事が出た」と2月8日の記者会見で反論したと書いた。

 また、衆院外務委委員会(3月30日)で町村外相が「(吉井氏は)焼かれた骨のDNA鑑定の困難性の一般論を述べたにとどまり、結果が確定的でないと言及したことではない。(ネイチャー報道については)いちいち言う必要はない。鑑定結果にいかなる影響を及ぼすものではない」と答弁し、瀬川勝久警察庁警備局長も「鑑定人は骨片を十分洗浄し、洗浄液からDNAは全く検出されていない。骨表面の汚染物質による結果ではない」と補足説明したことも付け加えた。

 そして、「家族や専門家『内容公開を』」との最後の中見出しで、4月から警視庁科学捜査研究所法医科長に栄転した吉井氏に取材を申し入れしたところ「広報を通してほしい」と言われ、「警視庁は、吉井氏が着任して間もないため取材は受け付けないとの立場だ」と、吉井氏ががっちりとガードされて近づけない状態にあることを明らかにした。

 さらに、鑑定結果を口頭で伝えられためぐみさんの父・横田滋氏や、西岡「救う会」副会長の話として、「4月下旬に家族会関係者が集まった際、『政府は北朝鮮にきちんと反論してほしい。鑑定書を公開したらどうか』との話も出たという」と伝え、篠田謙一・国立科学博物館人類第一研究室長の「科学的客観性を確保するため、データーの公開や第三者による再鑑定を検討すべきではないか。火葬骨という鑑定困難なものを出してきたことを日本は北朝鮮に抗議すべきだ」とのコメントで結んだ。 

 同記事は国内世論に遠慮してか、歯切れが悪い。「吉井氏は国内のDNA鑑定の第一人者。『戦没者遺骨のDNA鑑定に関する検討会』のメンバーと遺骨を鑑定し、当初は異なる結果が出た他大学が、再鑑定で帝京大と同じ結果になったこともある」と業績を紹介しながら、「高熱処理された遺骨鑑定の経験はなかった」と本人がネイチャー誌で認め、テグの地下鉄火災事件で豊富な鑑定経験を有する韓国の法医学者が問題視する重要な点に触れないのはいかにも不自然である。

 とはいえ、他の大手メディアの腰が引けている中、「北朝鮮への経済制裁を!」と世論を硬化させ、日本の外交・軍事を縛っている「遺骨」問題を正面から取り上げた勇気は、事実を報じるジャーナリズムの在り方として十分に評価できる。

 また、その内容は、当ホームページで私がすでに指摘したことでもあり、概ね妥当である。

 

 私は週刊現代(05/5/7/14)で次のようにコメントした。

 「めぐみさんの遺骨問題で日中関係はこじれ、首相官邸をはじめ外務省も、数ある北朝鮮のパイプが切れて、本当にどこが影響力を持つのか計りかねています。次にパイプを作るときに試金石になるのは、チョルジュン氏を連れてくることができるか。この点で、相手が北朝鮮国内で力を持っているかがわかる」

 遺骨問題をめぐる迷走を解決し、今後の日朝交渉の鍵を握るのは横田めぐみさんの夫とされる金・チョルジュン氏である。 

 周知のように、遺骨は第3回日朝実務者協議日本政府代表団が帰国する前日の昨年11月14日、日本側の要請にめぐみさんの夫とされるキム・チョルジュン氏が応じて提出したと伝えられた。キム氏は、めぐみさん死亡から2年半後の96年秋、埋葬していた遺体を掘り起こして焼き、骨つぼに入れて保管していたと説明した。

 日本政府代表団が各メディアに語ったところによると、薄暗い部屋で代表団と会ったキム・チョルジュン氏は「工作機関に携わっているから」などと写真撮影を拒否、毛髪など個人が特定できる資料の提供を断った。日本側は面会時にキム氏に手渡しためぐみさんの写真を持ち帰り、警察当局が写真に付着した細胞片などからDNAを検出、めぐみさんや娘のキム・ヘギョンさんのDNAと照合し、父親かどうか確認する手はずであったが、鑑定は失敗した。

 こうした経緯を総合、分析すると、吉井鑑定で二人分のDNAが発見されたことが事実なら、遺骨に触った金・チョルジュン氏らのものである可能性が高い。同氏がDNA鑑定に応じれば自ずと明らかになることで、真相解明に大きく寄与する。

 日本の官房長官や外相が「鑑定は科学的であった」といくら繰り返しても、そこに論文を発表すれば科学者として一人前と評される世界的に権威ある科学誌ネイチャーが相手では分が悪い。吉井氏当人を隠し続け、強弁すればするほど、他意を疑われるだけである。

 日本は紛争当事国でもあり、ここは被害者感情を抑えた客観的な立場から、「遺骨」を高熱処理した鑑定経験豊富な第3国で再鑑定するなどして、八方が納得する手立てを講じるべきであろう。すべてはそこから始まる。