あぁ とうとう東京都交響楽団も3年有期雇用契約の「契約楽員制度」導入を余儀なくされた! (2005.5.12)

 

全国国公私立大学の事件情報 http://university.main.jp/blog/

http://university.main.jp/blog2/archives/2005/05/post_1124.html

 

 

2005年05月12日

あぁ とうとう東京都交響楽団も3年有期雇用契約の「契約楽員制度」導入を余儀なくされた!

都響ジャーナル[日本音楽家ユニオン関東地方本部東京都交響楽団(ユニオン都響)]

 5月6日付朝日新聞は「契約楽員制度、労組が受け入れ 東京都交響楽団」の記事を掲載した。
 この都響における有期雇用契約制度が,都から提案されたのは2003年11月である。この提案は有期契約制度導入に当たり,まず楽団員を全員解雇する,その後楽員の能力によって雇用し、査定によって本俸を決定,それを2年ごとに更新するという内容だった。石原慎太郎は外郭団体への補助金を一律3割カットを強行し,オーケストラへの補助金も約14億円から10億円に減額した上で,さらに都響楽団員への有期雇用契約制度を提案したのである。また,この提案の理由においては,集客のためには演奏水準の向上が必要であり,楽団員を契約制に置き危機感を持たせれば、全体の演奏水準が向上するという,およそ「文化人」のはしくれとは思えない理屈も持ち出していた。
 こうした提案に対して,ユニオン都響は「導入反対」をかかげ,16ヶ月にわたって署名活動を含む様々な取り組みを展開してきた。その最終結果は,結論から言えば,朝日新聞にもあるように,労組は「契約楽員制度」導入の受け入れを余儀なくされた。
 下記の文書は,そこに至る経緯と労組の決断ともいうべき内容を記載している。この文書を読んで,いかに苦渋の選択をせまられたのかがよくわかる。その強引な手法は,都立大とほとんど同じである。
 因みに,労働政策研究・研修機構調査部は,5月11日付記事「楽員身分、終身から有期雇用へ/東京都交響楽団の労使が合意」のなかで都響の労使が合意した内容について触れている。有期雇用制度や年俸制度の定めもさることながら,この制度の運用の前提となる楽団員への評価制度に関して,「音楽的調和に努め、自己の演奏能力を最大限発揮した」「セクション内での役割を確実に達成した」「聴衆に不快感を与えないステージマナーを励行した」などの「能力」「業績」「態度」をもって考課要素とされているようだ。長年の研鑽を積み少数の選ばれたプロの芸術家集団に対しこうした子どもだましのような人事考課要素を用いて,評価如何では3年後に「退職勧告を行うことがある」との規定を考案した人物の顔が見たい。
 石原慎太郎は,2005年3月の都議会で,最高責任者の都知事として「都民のためのオーケストラ」を育てる決意を聞かれ,「都響は独立した経営体として、能力主義による契約楽員制度の導入を行い、経営改革をすることは必要である」と答えた(出所はここ)。(一クラシックファンのホームページ管理人)
 

都響楽員を支援して下さっている皆様へ

 日頃より、温かい支援を寄せて下さり、心から感謝致しております。本当に有難うございます。ここ数ヶ月、交渉の進捗状況などをご報告できず、申し訳なく思っております。年度末を迎え新たな決断を求められておりました。既に新聞に取り上げられましたので、都響楽員の有期雇用化問題の一応の決着について、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、3月27日の団体交渉で契約楽員制度導入についての大枠合意を致しました。ご報告が遅くなってしまいましたこと、深くお詫びしますと共に、一定の解決を図れるまでに支えて下さった多くの方々に、改めて感謝の意を表したいと存じます。
 大変遅くなりましたが、私たちがこのような結論を出すに至った交渉の推移をここにご報告をさせて頂きたいと存じます。

[交渉の推移]
1.反対運動
 一昨年11月に「契約楽員制度」導入の提案が財団から為されて以降、16ヶ月に亙って皆様の支援を支えに「導入反対」の運動をしてきました。反対運動当初は、署名活動、支援ネットワークの立ち上げ、記者会見とプレスリリース、都議会への陳情、シンポジウムや支援コンサートの開催など、世論に訴える活動を中心に行いました。昨夏以降は、対案を作成したり、議会を通して都に私たちの考え方を訴えたり、といった活動をし、何としても契約楽員制度導入を阻止したいとして頑張ってきました。対案を作ったのは、契約楽員制度にしなくても、東京都が都響に求めている改革は可能であることを、示そうとしたからです。

2.対案作成
 その対案では、本来「オーケストラにおいては不可能であるばかりか、無意味」としてきた評価制度を導入することも提案しましたし、退職金制度の存廃も含めた見直しや年俸制の導入など、労働条件を下げることに繋がるような提案もしました。また、財団が示したような楽員を対象とした改革以上に、都民のオーケストラとしての役割が何であるかを考え、その役割を果たすための企画・運営、財政改革などが必要と考え、事務局改革についても提案を行いました。この対案は11月に正式に財団に提出しました。
 これに対し都は、評価制度導入を提案するなど、楽員が踏み込んだ提案をしてきたことを評価し、財団もそれに応えるように、中期ビジョンに於いて事務局改革案を示しました。しかし、契約楽員制度導入は譲れないとし、新たな提案を今年の2月に提示してきました。

3.財団からの再提案
 その内容は「首席・副首席については契約楽員とする」「その他一般楽員については、採用時の事情に鑑み、契約か終身かを選択できるように、選択制を導入する」というものでした。
 私たちには到底理解できるものではありませんでした。「採用時の事情」は首席も一般楽員も同じです。首席だけ選択できない選択制は本当の選択制ではないと考えました。また、契約楽員の年俸提示額も、とてもリスクを負うに相応しいものではないのですが、そのリスクが無いにしても終身楽員の年俸提示額のあまりの低さに、選択の余地は与えられていない、との認識を持ちました。
 また、退職金制度廃止は大前提とされ、それは、契約楽員も終身楽員も同様の扱いを受けるのですが、清算以後の退職金見合分は年俸に反映した、と言明していることも、理解できない事でした。低い年俸に退職金見合分が含まれているのだとしたら、生活給部分が低く抑えられているからです。

[年度末を迎えて]
 このような事から、財団提案は選択制を提案しておきながら、終身楽員として残りにくい環境を用意しており、恣意的な年俸格差を示していると、判断しました。年度末を控え厳しい状況であることは認識していましたが、何としても都に私たちの認識を伝え、新たな道は無いものなのか、訴えていこうとしました。
 ところが3月定例都議会が開会されてもそのような機会は持てず、一方で補助金決算の期限が迫り、私たちとしても導入反対闘争を続けることでは都響を守ることができないのではないか、と考えるようになりました。

[契約楽員制度と経済的問題]
 2〜3月は、財団との交渉を続けながらも、自分たちが身動きの取れないところへ追い込まれている事への対応をどうすべきか、内部での議論を活発化させました。財団は「契約楽員制度導入は都響の発展に必要な制度。これによって演奏レベルが向上する」と言って憚りませんでした。しかし、交渉の過程で「これを導入しなければ、楽団運営を大きく圧迫している退職金の支給ができない。この制度を導入すれば、制度改革に伴う特別予算を付けてもらっているので、退職金の支給ができる。この特別予算が無ければ減額された補助金の中で退職金も支払う事になり、経営できない状況に陥る」というのが導入の本当の目的であることが判明してきました。

[反対運動を続けたら]
 私たちは、このまま反対運動を続けたら、どのような事態が考えられるのか、について議論を始めました。退職金分の補助金が出ない上に、制度改革を行うことを担保として、他の財政監理団体が更に補助金の10%カットが行われているところをシーリングの考えを示されていましたが、その分もカットされる事が予測されました。その補助金の中で定年退職者や中途退職者の退職金を支払うと、今まで以上の給与カットや人員削減が行われることになり、結果としてオーケストラに必要な人材確保ができない状況、演奏に支障を来しかねない状況、楽員の生活を守れない状況などが、簡単に予測できました。それで「税金を投入しているオーケストラとしての役割」を十分に発揮できなくなれば、存続の意味を持たなくなります。
 契約楽員制度導入でもオーケストラは守れない。反対運動を続けても都響を守れない。楽員の生活も守れない。だとしたら、私たちが進むべき道は何か?と。

[契約楽員制度は何故だめなのか]
 そこで、改めて「契約楽員制度導入がオーケストラをだめにする、と考えた理由は何か」から議論を始めました。
 契約楽員制度は基本的に短期の就労を意味します。それでは、オーケストラが長い時間をかけ、同じメンバーで演奏を繰り返すことによって、オーケストラの音を創り上げるという、基本的な事ができなくなります。また、雇用が安定していないことが、良い演奏家を迎え、雇用し続けることに反していくことになります。安心して働けることが芸術家にとって悪影響を及ぼす、と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、現実は、安心して働けるからこそ演奏に集中して取り組む事ができます。その環境が失われることで、良い人材を手放すことも起こりえます。それが、私たちが「契約楽員制度はオーケストラを潰す」と考えた理由でした。

[大切な雇用の継続性]
 財団は、私たちの懸念に対し、「基本的には雇用を継続する意志がある。しかし、評価によって問題があるとの判断がある場合は雇い止めにする」としていました。私たちは、そのような言葉のみを信用して、将来、制度が一人歩きしてしまう事も怖れました。しかし、もし、雇用の継続性が保たれるのであれば、私たちが一番懸念した事は解消されるでしょう。財団の言う「評価」が恣意的な運用がされず、誰もが納得のいく結果を導き出せるものであれば、不当な雇い止めは起きない、と考えました。
 また、財団は「評価は難しいと認識している。だから楽員とも十分に協議し、納得いく制度としたい」と発言し、制度導入に大枠合意できれば、評価制度についての協議は年度を越えて行いたい、としました。どのような評価がされるのかも分からないまま、その評価によって雇い止めされることもあるのでは、とても制度導入を考えることはできませんが、財団が内容についても強引な事はしないと言明し、それについての確認も辞さなかった事は、制度導入を視野に入れる材料の一つとなりました。
 更に、私たちが「恣意的な年俸格差」として考え方を改めるよう求めた終身楽員の年俸についても、都と交渉し、年俸額を上げての提案をしてきました。

[方針の変更]
 このような動きが同時進行していく中で、3月17日に臨時総会を行い、契約楽員制度導入反対の運動方針を、「都響と、楽員の生活を守るために、契約楽員制度導入も視野に入れた運動に取り組む」方針に変更することが承認されました。
 ここに至るまで、終身雇用の善し悪し、契約楽員制度の善し悪しについての本質的議論は一切できませんでした。それにも関わらず財団経営が立ちゆかない経営状況を好転させるために、つまり、都響を存続させ、そこに働く者の生活を守るために、契約楽員制度導入に踏み込んでいく決心をしたのです。
 そして、3月27日、2日間に亙る団体交渉の結果、雇用の継続性を認める内容の書面の取り交わし、評価制度について誠意をもって協議し決して強引なことはしないという内容の書面の取り交わしが行われることを担保に、契約楽員制度導入に大枠合意することになりました。
 この結果、平成17年5月1日に制度発足となり、年俸制の導入、退職金制度の廃止、評価制度の導入(内容は以後協議の上、決定する)が確定しました。

[これからの課題]
 私たちは反対運動を立ち上げ、1年余活動してきました。その事だけを取ると今回の妥結は都に押し切られたのかもしれません。しかし、オーケストラに携わる者としての信念を貫き通すだけではオーケストラは守られない、という事を実感しました。「都響を存続させ、そこに働く音楽家の生活を何としても守らなくてはならない」と考えました。「都響をここまで育てて下さり、このような状態にある私たちを励まし、支援して下さった方々に対しても、決して都響を衰退させたり存続不能に陥らせてはいけない」と考えました。
 その視点で考えれば、私たちの判断は間違ってはいない、と思っています。都響存続のために契約楽員制度導入について大枠合意をしました。導入となれば、契約楽員制度の持つ危うさを怖がるだけではむしろ百害あって一利なし、となるでしょう。制度の根幹を成す評価制度を公正なものとし、オーケストラにとってプラスになるようにしなくてはなりません。
 年俸制の導入は、オーケストラの楽員の給与のあり方として、決してそぐわないものではないと考えています。退職金制度の廃止は、労働条件の悪化ではありますが、終身雇用が続いていたとしても大きな見直しが必要な楽団の経営状況でしたから、存廃も含めて乗率の引き下げなどの決断をしなくてはいけなかったと考えます。
 このように、存続が危ぶまれるような経営状態の中で、この決断は生まれたのですが、この決断に至ることができたのは、多くの方々の支援があったからだと思います。それは「67,000筆の署名」であり、「一言声をかけて下さった、その一言」であり、「演奏会での温かい拍手」でした。楽員一人一人がそれぞれの立場を超え、ひとつの決断に到達できたのも、多くの方々の励ましがあったからだと思います。どのように感謝していいのか分かりません。感謝の気持ちをもって今、私たちは、新しい課題に向かっていきます。
 都響が他のオーケストラ以上に、税金を投入されたオーケストラとしての公共性を持っている事に鑑み、「都民のオーケストラとしての歩みをどのように今後行うべきか」を考えるシンポジウムを1月末に計画していました。都合により延期しましたが、実現させたいと考えています。都響で本当に改革が進み、都民のオーケストラを自認しての演奏活動をしてくために、更なる課題が何で、どのような方向を向くべきなのか、皆様と共に考えていきたいと考えています。
 ここに、改めて、感謝申し上げます。

2005.4.2.
日本音楽家ユニオン関東地方本部東京都交響楽団
委員長 松岡陽平


[これまでの経緯]
都民・職員犠牲の石原都政 福祉・教育だけでなく“文化”までリストラ
こう着状況が続く都響の契約制導入問題

投稿者 管理者 : 20050512 03:02