見えざる神の手か、悪魔の手か 澤藤統一郎の事務局長日記 (2005.5.19)

 

http://www.jdla.jp/jim-diary/jimu-d.html 

 

 

見えざる神の手か、悪魔の手か  

 

日弁連消費者問題対策委員会は、2か月に1度「消費者問題ニュース」を発行している。本日の委員会全体会議の日程に合わせて発行の最新号がbP06。政策提言、事件報告、文献・催事紹介など内容はなかなかの充実ぶり。その6ページに、同委員会の韓国金利規制調査の報告が載っている。これが興味深い。

 

新自由主義とは、先祖返りした資本主義擁護論、市場原理万能の思想である。「企業の活動を規制する必要はない。自由な経済活動を保障すれば、市場を支配する見えざる神の手があるべき秩序をもたらす。金利の規制だって不要、いや有害。金利規制を撤廃して自由にしさえすれば、適正な水準の金利による最も豊富な資金供給が実現する」という。なんとプリミティブな信仰体系。

 

高金利に苦しむ多くの多重債務者を見てきた我々の現実認識からは到底受け容れがたい「理論」であるが、その反駁に実例が欲しい。おとなりの韓国がそのような実体験をしたと聞いて、この春実態を調査に行った消費者弁護士たちの報告なのだ。

 

韓国には1962年制定の利子制限法があった。最高利子率が年利25〜40%に規制されていた。ところが、1997年の通貨危機・経済危機によってIMF管理体制下に入り、1998年1月に利子制限法が撤廃された。「利子制限法によって、市場機能による自由な利子制定が制約されている」というのがIMFの利子自由化の理由。金融市場におわします「見えざる神の手」の御業に期待してのことなのだ。で、その結果はどうなったのか。

 

高金利合法化によって、金利は暴騰した。統計によれば、サラ金の平均利子率は年200〜300%となった。なかには、1200%という実例も現れたという。高利業者による深刻な被害が発生し、「地獄よりも悲惨な状況」がもたらされた。暴力団による苛酷な取り立て、拉致監禁、人身売買、臓器売買、殺人、性的暴行などが横行したという。

 

その社会問題としての深刻さは、事態を放置しておくことを許さなかった。新法(貸付業法)を制定して、金利規制を復活せざるを得なくなった。こうして、2002年10月に3000万ウォン(約300万円)以下の貸付に関して金利規制が復活した。現在の上限規制金利は66%だという。もちろん、まだ高金利。現在なお、日本以上に多重債務問題は深刻だという。韓国の弁護士がこの分野で十分に活動していないことも、遠慮がちに紹介されている。

 

報告は「金利規制の撤廃がいかに悲惨な被害を生むか、自由競争により適正金利が定まるというのは机上の空論にすぎず、利息制限法を超える暴利を規制することは絶対に必要であることを訴えていきたい」と結論を述べている。

 

自由化された韓国の金融市場に棲者は神ではなく、悪魔だったということ。これが神だとすれば、業者の神。庶民には背を向けた冷たい神。もっとも、業者の方がお賽銭は多かろう。お賽銭次第というところは、マーケットの神にふさわしい。