非核国核攻撃の米指針 「広島・長崎」再現も 「しんぶん赤旗」 (2005.5.21)

 

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-05-21/06_01_0.html 

 

 

2005年5月21日(土)「しんぶん赤旗」

非核国核攻撃の米指針

「広島・長崎」再現も


 米国が自国の国益にかかわるとみなす、ほぼどのような軍事情勢でも核兵器の使用を想定する―米統合参謀本部がこのほど作成した核兵器運用指針「統合核兵器作戦ドクトリン」第二次最終調整版(本紙十三日付既報)は、核兵器を特殊兵器とみなさず、「通常兵器と核兵器の一体化は包括的戦略の成功にとって死活的」(同文書)だとするブッシュ政権の核戦略の危険性を絵に描いたように示しています。日本共産党の緒方靖夫参院議員は、二十日の予算委員会でこの文書をとりあげ、小泉政権の見解をただしました。


 統参本部の核使用ドクトリンの恐ろしさを見せつけているのが、同指針が、戦域核兵器(戦術核兵器)が使用される事態を例示し、核使用の具体的事例として非核国への核攻撃を生々しく想定している点です。

「消極的保障」

 米国は広島、長崎への原爆投下後も、朝鮮戦争、台湾危機、ベトナム侵略戦争で核兵器使用を企てました。

 しかし、米政府は、反核国際世論の高まりと非核兵器保有国の要求におされ、一九七八年五月に開幕した第一回国連軍縮特別総会のさなかに、「核保有国と同盟して米国を攻撃しない限りは、核不拡散条約(NPT)加盟の非核国を核攻撃しない」という国務長官声明を発表しました。この国際公約は「消極的安全保障」と呼ばれます。

 NPTが無期限延長された九五年のNPT再検討会議の際には、これを大統領声明に格上げしました。核保有国による非核国への「消極的安全保障」は、同年四月に採択された安保理決議九八四でも確認されました。

 今回の統参本部文書も、七八年の声明を引用して「消極的安全保障」政策を守る意図を表明しています。ところが、今回の文書が示す戦域核兵器使用の事例のほとんどは、非核国への核攻撃、しかも先制核攻撃を想定しています。

抑止捨て先制

 小泉首相は二十日の緒方議員の質問に対し、「いかなる軍備も抑止力として機能している」として、米国の核保有を擁護しました。しかし米国は実際に、従来の抑止戦略を超えた先制攻撃戦略のもとでの核使用を具体的に検討しているのです。

 戦域核兵器が使用される事例を示した今回の文書では、敵が米国側を核攻撃する場合は明示されていません。

 核使用の事例として統参本部の文書は、「敵の圧倒的な通常戦力への対処」を想定しています。これは明らかに、非核保有国、または非核兵器で戦闘する国を核攻撃の対象とするものです。

 「大量破壊兵器」に関して文書は、「多数の非国家組織(テロ・犯罪組織)と約三十カ国」が大量破壊兵器計画を有しているとした上で、それに関連する動きを核攻撃の事例として、いくつも想定しています。ここでも中心的に想定されているのは、非核国への核攻撃です。

 非核国を先制核攻撃するという方針は、二〇〇二年に米議会に提出された「核態勢見直し」(NPR)報告で示されました。今回の文書は、米軍当局が、この方針を具体化したものとなっています。

 NPRは、米国による核攻撃の対象国として、核保有国のロシアと中国のほか、非核国の北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアの五カ国を挙げました。今回の指針では、攻撃対象とされる非核国は、これより増大している可能性があります。

米有利に終結

 「米国に有利な条件での戦争の迅速な終結」のためにも核兵器を使用する―今回の統参本部の文書は、こうも述べています。

 米国が一九四五年に日本を核攻撃したさい、それを正当化する理由の一つにされたのは、「戦争終結に米国自身の条件を突きつける」(『トルーマン回顧録』)ことでした。今回の方針は、それと同様の表現での核使用を想定しています。それは、広島・長崎への原爆投下のような横暴を今日でも実施する意図を米国がもっていることを意味しています。

 今回の文書は、ブッシュ政権下の米国が、核使用政策を着々と具体化しつつあることを改めて示しています。

 (坂口明)


戦域核兵器の使用想定される8つの事例

 第三章 戦域核兵器作戦

 一、米戦域核兵器作戦の役割

 d 戦域核兵器の使用

 (1)各地域の戦闘軍司令官は、さまざまな状況のもとで核兵器使用の承認を大統領に要請してよい。例えば、次のような事例がある。

 (a)米軍や多国籍軍、同盟国軍、一般市民に敵が大量破壊兵器を使用しているか、使用を意図している場合。

 (b)生物兵器を使った敵による攻撃が差し迫っており、核兵器だけがそれを安全に破壊する効果をあげうる場合。

 (c)化学兵器・生物兵器を貯蔵する大量破壊兵器用の地下深部の堅固な陣地を含む敵の施設を攻撃したり、米国や友好国、同盟国を大量破壊兵器で攻撃するための敵の管制・指揮施設を攻撃する場合。

 (d)圧倒的に強力な敵の通常戦力に対抗する場合。移動標的や地域一帯を標的とする場合(軍の集結)を含む。

 (e)米国に有利な条件で戦争を迅速に終結させようとする場合。

 (f)米軍や多国籍軍の作戦を確実に成功させようとする場合。

 (g)敵が大量破壊兵器を使用しようとするのを脅して思いとどまらせるために、米国が核兵器を使うという意図と能力を誇示する場合。

 (h)米軍、多国籍軍、一般市民を相手にして、敵によって供給された大量破壊兵器を代理者が使用するのに対抗する場合。