日中関係と郵政  森田実の時代を斬る (2005.5.29)

 

森田総合研究所 http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/ 

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日中関係と郵政

 

 「今日、相反する二つの法則が争っているように思われる。第一は戦争による血と死の法則であり、第二は平和を願い、すべての災禍から人類を救う法則である」。ワクチンの発見者パストゥール(19世紀フランスの医学者)の言葉である。

 平和を守るには、他者を思いやる温かい心と己(おのれ)の激情を抑える強い忍耐力が必要である。だが、権力を持つ者は往々にして忍耐を忘れ、力をもって相手を抑え込もうとする。ここに争いが生ずる。

 21世紀の今、平和と戦争の二つの法則が戦っている。唯一の超大国米国はアフガニスタンとイラクで戦争している。米国の利益のために米国の論理を他国に押し付けている。

 わが国の政治は米国の強い影響下にある。日本は平和国家であるにもかかわらず、力ずくの米国流政治に傾斜している。小泉内閣の対中国姿勢から抑制が失われている。

 5月16日の衆院予算委員会で、小泉首相は靖国神社参拝について半年間の沈黙を破って「他の国が干渉すべきではない。『罪を憎んで人を憎まず』は中国の孔子の言葉だ。何ら問題があると思っていない」と発言した。

 ついで5月21日、中国訪問中の武部自民党幹事長は中国共産党対外連絡部長の王家瑞氏との会談で「日本国内には(中国の小泉首相の靖国参拝批判は)日中平和友好条約の内政不干渉原則に反するとの意見がある」と発言した。この発言は中国側から「中国は日本に対して内政干渉をしている」との非難と受け取られ、激しい反発を受けた。

 5月16日の小泉首相発言と21日の武部幹事長発言で、小泉内閣は中国の「虎の尾を踏」んでしまったのだ。これが、5月23日の呉儀副首相が小泉首相との会談を突如キャンセルして帰国するという異常行動に連動した。これに対して小泉首相、町村外相らは中国側をきびしく非難した。

 だが、この日本政府による中国側への激しい攻撃は一瞬にして沈静化した。連立のパートナーの公明党が小泉首相の靖国参拝の自粛を正式に求めたからだ。

 しかし、日中両国政府間の不穏な関係は解決していない。少なくとも小泉首相のもとでは日中首脳との会談ができない不自然な状況がつづくだろう。これは密接化している経済関係にも悪影響を及ぼすおそれがある。

 われわれ日本人は、60年前まで大日本帝国が中国、朝鮮(韓国と北朝鮮)、その他のアジア諸国に対して加害者だったという歴史的事実を忘れてはならない。政治指導者は無神経な行動と発言を慎まなければならない。

 郵政国会にも世界の注目が集まっている。それは350兆円という巨額資金への関心である。米国保険業界は郵政民営化法案を採決する衆議院本会議と参議院本会議の「数」の計算に懸命である。小泉首相支持派と反対派はとくに参議院において伯仲している。米国保険会社は国会担当を置き、彼らは毎日議員会館を回っている。

 米国保険会社の調査員は「世界中が日本の国会を注目している。郵政公社のもつ350兆円の郵貯・簡保資金が世界の金融市場に流出する。これほどの巨額資金が動き出すのは過去になかったことだ。おそらく将来もないだろう。歴史的な大事件だ」と語る。

 350兆円は世界中が注目するほどの大金であり、米国ハゲタカファンドの垂涎の的になっている。

 小泉首相は、郵政民営化法案の成否に政権の命運をかけている。

 だが、この巨額資金は日本国民一人一人の貯金であり、積み立てた保険金であり、国民の財産である。日米同盟が大切だとしても、国会で十分な議論もせず、国民に十分な説明がないまま、郵政公社を分社・民営化することに私は深い危惧を持つ。郵政事業は日本国民のものである。350兆円の国民の共有資産は首相一人の政治生命よりもずっと重いものだということを忘れてはならない。

【以上は5月28日付けの四国新聞に「森田実の政局観測」として掲載された小論です】