東北アジアと日本 日々通信 いまを生きる 第152号 (2005.5.30)

 

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    日々通信 いまを生きる 第152号 2005年5月30

   
長い間ご無沙汰しました。
   
書くことは山ほどあるが、次々に事件がおこり、書くことがあまりに多すぎて、か
   
えって書けなかった。書きかけるそばから次のことがおこって、なにから書いたら
   
いいかわからず、一日一日と日を過ごした。

   
この時期にブログ<時事問題 ニュースへのコメント>を開設できたのはありがた
   
かった。時事的な問題に対するコメントはこのブログにゆずることができるので、
   
この通信は性格をかえ、私の感想を主としたものになると思う。

   
<時事問題 ニュースへのコメント>にコメントを書きこんでいるうちに、新しい
   
アジアへの動きとそれを妨げようとする動きの対立がはっきり見えてきた。

   
北朝鮮は経済的困難に苦しんでいるが、中国、韓国に学んで改革開放路線を歩もう
   
とし、それを中国、韓国が支援している。それは新しい東北アジア連合形成の方向
   
をはっきり示している。

   
いま、なにより必要なのは北朝鮮が経済的に立ち直ることだ。朝鮮の経済的立ち直
   
りによる安定なしには日本をふくむ東北アジアの平和と安定はない。朝鮮もそれを
   
切実に求めている。そのために日本とアメリカに対してできるだけはやく国交回復
   
を実現し、経済交流と援助を求めている。

   
ピョンヤン宣言によって、日朝関係の正常化に道が開かれたとき、それは東北アジ
   
アの平和と安定、新しい発展に道を開くものとして歓迎された。
   
これによって5人の拉致被害者の帰国が実現し、私たちはそれをどれほど喜んだろ
   
う。しかし、やがてその他の被害者の解放がなければ、交渉を進めてはならないと
   
いう声があげられ、日朝国交回復の道は閉ざされた。

   
拉致問題は重大だ。5人の帰国で解決したといえないのは明瞭である。しかし、キ
   
ンジョンイル委員長自身が拉致の事実を認め、謝罪したということは、大変なこと
   
だったと思う。
   
被害者たちは諜報活動に関連させられていると思うが、過酷だった南北対立と日朝
   
関係を思うと、その諜報部門の実態を暴露することになる真相解明は、CIAの実
   
態を暴露するのと同様にきわめて困難なことだと思う。

   
この事件の背後には想像を絶する暗黒がある。堀田善衛の「歯車」や「歴史」「広
   
場の孤独」を読んで、私は国際諜報部門がいかに秘密に閉ざされた暗黒の部門であ
   
るかを知った。

   
拉致ばかりでなく、秘密裏の殺人、それも味方の工作員を路線の対立や変更のため
   
に秘密保持を目的として殺すというようなことがおこなわれるのだ。

   
かつての日本も特務機関が麻薬の密売、拉致、暗殺などありとあらゆる悪行をおこ
   
なった。ソ連のゲーペーウー、アメリカのCIAなどはよく知られているが、南北
   
対立のなかでの秘密工作機関のたたかいは激烈だった。金大中前大統領自身が拉致
   
され、秘密裏に殺されようとしたのだった。

   
死んだとされる拉致被害者のなかには生存していて、機密保持のために姿をあらわ
   
すことのできない人もあるかも知れないが、秘密裏に殺された人もあるのではない
   
かと思う。そして、あまり性急に真相を明らかにせよと迫れば、いま生きている人
   
も命があぶないと思う。

   
それを金正日の軍事的独裁態勢の故であるとして、この体制を打倒しなければなら
   
ないと言い募る向きもあるが、それはかえって生存している被害者を窮地に追いこ
   
むことになり、決してその救出に役立たないと思う。

   
真相は明らかにしなければならないが、性急に力ずくで追い詰めても駄目だと思う。
   
旧ソ連で殺された山本懸臓や岸本良吉のことにしても、60年も70年もたってようや
   
く真相が明らかにされたのだ。真相を明らかにするには、国交回復が実現し、経済
   
的文化的交流が活発になり、被害者の家族やマスコミ関係者が自由に往来できるよ
   
うになることが先決だと思う。

   
家族の気持はわかるが、拉致問題は政治的に利用されて、実際的な解決とは逆の方
   
向に進められているように思う。経済制裁で駄目なら武力に訴えようというのだろ
   
うか。それが被害者救出に役立つとは思えない。むやみに実力行使をしたがるのは、
   
その一撃で朝鮮がたちまち参ってしまうと考えているのだろうが、そんなに甘くは
   
ないのだ。

   
軍事力では問題を解決することができない。いまはそんな時代なのだ。イラクにし
   
てもそうではないか。しかし、なぜいま、軍事力が強調されるのだろう。それはア
   
メリカが軍事力優先のネオコン一派に支配されて、問答無用の戦争政策を進めてい
   
るからかだろう。

   
イラクの場合は大量殺戮兵器を保有しているというのがアメリカの戦争の理由だっ
   
た。10年前の湾岸戦争のときはクエートをイラクが攻撃したのが理由だった。あの
   
ときも戦争の理由はあったにしても、あれほどの大量殺戮を行う必要はなかったと
   
思う。まして、今度の場合は理由とした大量殺戮兵器は存在しなかったのだ。それ
   
なら、ただちに謝罪して、撤兵するのが当然だろう。しかし、いまなお占領をつづ
   
け、掃討作戦と称してさらに大量殺戮をおこなおうとしているのはなぜか。それが
   
ますます混乱を拡大し、収拾不能に陥るのがわかっているのに、なお戦争を拡大す
   
るのか。

   
朝鮮の場合も核保有が理由で事態が混乱させられている。あの、ピョンヤン宣言の
   
ころから、アメリカ側の情報として朝鮮の核保有が問題にされはじめ、<邪悪な独
   
裁体制><ならず者国家>に対して先制攻撃を辞せずというようなことが強調され
   
たのだった。このことと拉致問題の全面解決なしには一歩も交渉を進めてはならな
   
いという対朝鮮強硬路線が強調され、<邪悪な独裁国家朝鮮>に対する国民的憤激
   
をあおりたてる情報が氾濫しはじめたのだった。

   
あきらかにアメリカは朝鮮問題が平和的に解決し、東北アジア連合が発展し、経済
   
的に繁栄するのを望まないのだと思う。しかし、イラクに手一杯で<核を保有する
   
><邪悪な独裁国家>を軍事的に攻撃する余裕はない。また、経済的にも中国に対
   
する依存関係を脱することはできない。そこで一体なにを望んでいるのかわからな
   
いアメリカのあいまいな態度が生まれる。いまの混迷の原因はそこにあると思う。

   
朝鮮の態度は一貫している。なによりも平和を求め、経済的に立ち直ることだ。ま
   
ず、日本との国交回復を求めたが、拉致問題で解決不能になったから、アメリカと
   
の国交回復を切実にに求めている。

   
これに対してアメリカは核問題を理由に交渉を拒否している。核開発を止めなけれ
   
ば交渉に応じないというのである。しかし、朝鮮は核をもたず、国連の査察を受け
   
入れたイラクが攻撃されたことを見せつけられているから、核抛棄には容易に応じ
   
ない。アメリカも朝鮮を信じないが、朝鮮もアメリカを信じないのだ。この相互不
   
信をどう解いていくか。それは可能か。それがいまの課題だ。

   
そもそも、朝鮮が核開発を積極的に再開したのは、核疑惑を理由にアメリカが米朝
   
合意を破棄して、軽水炉の建設と重油の供給を中止したことにある。これで、朝鮮
   
の経済破綻は激化し、追い詰められて、核開発に拍車をかけた。それが、ますます
   
国民生活を困難にしている。その朝鮮をブッシュ政権は<邪悪な独裁国家>とよび、
   
先制攻撃も辞せずと脅しているのだ。

   
金正日は邪悪で、理解不能な存在だとすれば、そこには交渉も、平和解決も、その
   
余地はない。なによりもまず、そのようなレッテルを剥がして、交渉のテーブルに
   
つくのがすべての前提だと思う。朝鮮を<主権国家>と認めるというのは奇妙な話
   
だが、最近アメリカはそれを認めた。そして、それは交渉の第一歩なんだと思う。

   
国際交渉というものは行きつ戻りつ、実にうんざりするようなものだ。<会議はお
   
どる>という言葉もある。しかし、武力解決の道がない以上、なんとしても平和的
   
に解決しなければならないのだ。それは韓国において絶対的な要請だ。

   
かつて朝鮮戦争において国土は焦土と化し、莫大な犠牲者を出した。インターネッ
   
トで調べたら<北朝鮮の死者は250万人、韓国市民100万人、韓国軍人5万人、米国
   
人5万4000人、中国軍人100万人。(J・ハリデク「朝鮮戦争」岩波)南北朝鮮の
   
合計死者数が355万人というから、太平洋戦争での日本人死亡者221万人をはるかに
   
うわまっている。アメリカ軍人の死者も、ベトナム戦争の時より1万人も多い。>
   
という記事があった。
    http://www.osoushiki-plaza.com/institut/dw/199608.html

    94
年当時の計算によれば、米朝がたたかえば米軍72千、韓国軍46万、民間人100
   
万という犠牲者が出ると試算された。これが、94年の米朝合意の枠組みが成立した
   
理由だといわれる。

   
今度、米朝がたたかえばどうなるか。あのときは両軍行きつ戻りつの大激戦の末、
   
結局、38度線での休戦ということになったのだ。その後のヴェトナム戦争、イラク
   
戦争を見れば、アメリカの勝利ということは容易には断じがたい。もちろん、都市
   
攻撃は圧倒的に米軍が勝利するだろう。しかし、戦争はそれからだ。そして、朝鮮
   
半島全土が戦場になるとしたらどうなるか。

   
韓国のノム・ヒョン大統領が、なんとしても平和的に解決しなければならない、戦
   
争は絶対避けなければならない、そのほかに道はないのだと言ったのは、いろいろ
   
言われるが絶対的な言葉なのだ。ともすれば、戦争に訴えたがるアメリカに対して
   
ノム・ヒョン大統領はなんとかしてそれを止めさせようとする。その努力をがアメ
   
リカの態度を変化させるに役立っているような気がするがどうだろう。

   
中国も東北地方の吉林、遼寧、東南部一帯に朝鮮族が暮らしている。朝鮮と国境を
   
接したこの地方の朝鮮族は、戦争が起これば動揺をまぬがれない。中国も朝鮮の平
   
和を強く望んでいる。

   
このとき、日本では北朝鮮撃つべしの声が高まっている。アメリカは自ら犠牲にな
   
るのはいやだから、日本と韓国にたたかわせたいのだろう。しかし、韓国の意志に
   
反して同族を殺戮するアメリカに対して、韓国はどれだけ協力的だろうか。北は南
   
の人民を殺戮することをできるだけ避けようとするだろう。そこに、この前の戦争
   
とは異なった展開をする可能性がある。

   
こんな戦争で日本の若者を死なせて、靖国に迎えるのを、日本国民はどう考えるだ
   
ろうか。小泉首相の靖国参拝はその準備の一環だと考えることもできる。総理大臣
   
が今度は公然と、華やかに神前で踊りをおどるから、若者諸君、安心して御国のた
   
めに、正義と民主主義のためにん死んでくれというのかもしれない。

   
この緊迫した事態に対して、小泉首相はなにをしているのだろうか。どんな考えを
   
持っているのだろうか。多分、まともに考えてはいないのだろう。何でもかでもア
   
メリカのいう通りなのだから、そんな厄介なことは考える必要はないのだ。郵政の
   
問題で頭が一杯なのだ。

   
しかし、アメリカのしっぽについて、言いなりになっていれば、とんでもないこと
   
になるのは目に見えている。日本が朝鮮を攻撃するなら、韓国は朝鮮といっしょに
   
なって日本とたたかうといったのは決して無意味な言葉ではないのだ。

   
戦争は避けなければならない。しかし、いま、世界の各地で戦争を起こしてまわる
   
国があり、それで戦争会社や軍事産業が大儲けする国がある。戦争をしなければや
   
っていけない国がある。日本はまだそうなっていないだろう。しかし、一度戦争屋
   
のしっぽについて、そのおすそ分けを貰ったら、産業体制も変わり、戦争利得を追
   
い求める政治家もふえて、もう、引き返すことが出来なくなるのだ。

    60
年前の525日には私の家が焼け、529日には横浜大空襲があった。そして、沖
   
縄では多くの兵士、女や子供が死ぬ苛烈な戦争がたたかわれていた。そのことにつ
   
いて書きたかったが、情勢が逼迫していて、その余裕がなかった。

   
考えても仕方がないようなことをながながと書いて申し訳なく思っている。
   
爽快な天気の日がつづく。野山を歩くにいい季節だが、私の心は晴れない。
   
皆さん、どうぞお元気にお過ごしください。

   
以下を新しく私のサイトに掲載した。見ていただければ幸いだ。

   
文学にみる戦争と平和
   
 第53回 2005年5月 郷静子 れくぃえむ

   
私と日文協の50
    
23回 <血のメーデー>と日文協

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