渦中の武者野勝巳六段が悲憤激白! 米長派VS反米長派 将棋ゲームソフト「盗用騒動」で晒された将棋界の遺恨ドロ沼 週刊大衆2005年6月13日号 (2005.6.13)

 

 

伝統と格式を誇る世界で、突如、勃発した”パクリ騒動”。将棋連盟の新会長を巻き込んだ、キナ臭い話しの裏には―

 

26日、プロ棋士の総本山である、東京・千駄ヶ谷の『将棋会館』において、㈳日本将棋連盟の総会が行なわれた。

最大の議題のひとつは、同連盟の新理事及び新会長の選出で、新会長には、米長邦雄・永世棋聖(61)が選出された。だが、現在、この米長氏を巡って、ある騒動が持ち上がっているのだ。「事の発端は、5月6日発売の週刊誌上で、将棋連盟の元理事で、米長氏の後輩になる武者野勝巳六段が、"自分が開発したゲームソフトを米長氏に盗用された"と告発したことです。19日には、正式に東京地裁で民事訴訟を起こし、記者会見を開いたんですが、全国紙や民放各局など30社近くが集まり、訴訟の行方に注目が集まっています」(全国紙・将棋記者)

プロ棋士の中でも、現在、最も知名度のある一人といっていい米長氏。29歳で"7大タイトル"のひとつ、棋聖を獲得したのを皮切りに生涯19タイトル。特に93年、49歳で初めて名人位に輝いたときには、「中年の星」とまでもてはやされた。98年"引退宣言"をした後は、順位戦を離れたフリークラスに所属、将棋の普及活動に専念している。さらに現在は、都の教育委員会委員や、㈳日本財団評議員・議長などを歴任している。

一方今回の訴訟の原告である武者野勝巳六段(51)は、棋士であるとともに著述家としても有名で、29歳という異例の若さで連盟の理事に選出され、その後は一貫して将棋普及に尽力してきた。また、将棋界にパソコンを導入した草分け的存在で、ゲーム『スーパーマリオブラザース』のキャラクターに似たその風貌から、将棋ファンからは"マリオ武者野"の愛称で親しまれている。その武者野氏は、本誌の取材に今回の訴訟の経緯について、こう説明する。「00年3月に、それまであたためてきた企画をもとに開発したソフトを、米長さんを監修に迎えて、『米長邦雄の将棋セミナー21』というウインドウズ用のパソコンゲームとして、上中下3巻(定価=1本3800円)で約9000部を発売しました。爆発的ヒットとはいきませんでしたが、ユーザーからの評判も上々で、ロングセラーになると確信していたんですが……」

だが、その翌年、米長氏から、"こんな失敗作が世の中に出回るのは私の恥になる。すぐ販売停止し、売れ残ったものも廃棄してほしい"という、思いもかけない申し入れがなされたのだ。「ソフト開発には多額の投資もしてきましたし、私にとっては長年の夢でしたから、再三、思い直してほしいとお願いしたのですが、米長さんの態度は強硬で、結局、米長さんが"廃棄処分の費用は持つ"ということで、涙を呑んで同意したのです」(武者野氏)

しかし、その翌年の02年3月、武者野氏を、さらなる衝撃が襲うこととなる。「私の作った『セミナー21』の内容と瓜二つの『みんなの将棋』という、米長さんが監修したソフトが、プレイステーション版で発売されたんです。もちろん、すぐに抗議しましたが、"著作権侵害には当たらない"と、まったく取りつくしまもありませんでした」

武者野氏の代理人である、辻総合法律事務所の樋口卓也弁護士は、米長氏が監修した『みんなの将棋』の問題点について、こう指摘する。「まったくの初心者でも、ゲームを行う中で、自然と将棋が上達するシステムになっているというソフトのコンセプト自体や、将棋講座やドリル問題、最終的な段位認定など内容の構成・順序、さらに、採用されている問題がほぼ同じ内容であることなど、6つの顕著な類似点があり、明らかな著作権侵害にあたります」

これにより、武者野氏側は、米長氏とソフト販売会社に販売差し止めと、著作権及ひ著作人格権侵害により被った損害として、約4160万円の損害賠償を求めていく考えだ。

一方の米長氏側は武者野氏会見を受け、新聞紙上で、「(『セミナー21』の)著作権及び著作人格権は米長に帰属すると(同ソフトの)契約書の第1条に明記されている」と主張している。だが、武者野氏側はこう反論する。「その一文の前に、"米長企画の作成した詰め将棋の問題及び実戦棋譜解説らに含む表現についての〜"という文言があるんです。しかも、詰め将棋と実戦棋譜解説の部分は、全体の1%程度ですよ」

とはいえ、武者野氏が訴えを起こした時期が、前述した連盟の総会直前だったため、米長氏の会長選出を妨げる意図があったのでは、との声も。「大間違いですよ! ことが公になれば、将棋界全体に迷惑をかけることになるから、"早く訴えたほうがいい"と勧める人もあったのに、3年間、我慢に我慢を重ねてきたんです。もちろん、その間も、直接あるいは人を介して、米長さんに話し合いを申し込んでもいましたが、"うるさい、しつこい"の一点張り。著作権侵害の時効が販売期間から3年だったため、いましかなかったんです」(武者野氏)

 

「選挙妨害はあなただ!」

 

また、米長氏への選挙妨害ではとの一部の声について、「これははっきりいっておきますが、4月28日に行なわれた棋士会で、"どうも武者野が私を訴えようとしている。これはどうも、理事選挙や会長選挙への妨害が目当てだと見ている"と、米長さんの発言があったらしいんです。ですから、この発言自体が、米長さんと対立する側への間接的な選挙妨害だと、私には思えてならないのですが……」と、憤りを隠さない。

だが、前出の全国紙・将棋記者は、このような憶測が流れるのは将棋界の内情からみて仕方ない面もあるという。「もともと将棋は家元制だっただけに、いまでも、師匠と弟子、孫弟子など一門の上下関係が厳しいんです。そのうえ30年ほど前から、理事選で一門の組織票が幅を利かせるようになってきたんです。それ以来、理事選、会長選が永田町ばりの派閥争いの場になってしまったんです」

その一方で、武者野氏の長年の友人である、出版プロデューサーの高須基仁氏は、「たしかに、以前の中原誠永世十段と林葉直子元棋士の不倫スキャンダルもそうでしたが、理事選挙の前になると様々な情報が流れるものです。それくらい、将棋界は一門同士の確執でドロドロしているんですよ。

ただ、今回の民事提訴は、それとは別物。今後の将棋界の著作権ビジネスの方向性を示すものとして、大きな事例になると受け止めてます」と、派閥争いなどの単純構図で見るのは浅はかと語る。

武者野氏は、「本来、棋士の権利を守る旗振り役であるべき、将棋連盟の会長にも就くような人が、法律で明文化されている権利さえ踏みにじるのは言語道断です。仮に、この一件で私が連盟を除名されたとしても、正しいことをしてそうなったのですから、胸を張って除名されますよ。ただ、刑事告訴も視野に入れています。今後、今回の訴訟以外にも、まだ、追及すべき案件もありますし。決して、これで終わらせるつもりはありませんよ」と、6月中旬に開かれる第1回口頭弁論に向け、意思を固めている。

一方、本誌の取材に対し、米長企画では今回の件に関し、「コメントは、すべて差し控えさせていただいています。争いは裁判所に持ち込まれたわけですから、そちらで解決するようにします」と、語るのみ。

将棋界のためにも早期決着が望まれる。まずは本業の将棋で勝負をつけてはどうか。