ガバン・マコーミックの論説:論争の遺骨 野田隆三郎氏訳 (2005.6.25)

 

http://groups.yahoo.co.jp/group/nomorewar/message/18852 より

 

【経由】

伊豆利彦のホームページ 新掲示板2 http://www1.ezbbs.net/27/tiznif/

2548.ガバン・マコーミックの論説:論争の遺骨の訳が出ました。 名前:なるほど    日付:625() 01

 

 

From:  "Ryuzaburo Noda" <nodarr.193@d...>
Date:  2005年6月24日(金) 午後2時38分
Subject:  ガバン・マコーミックの論説:論争の遺骨

 

 


 オーストラリア国立大学太平洋・アジア研究科教授また国際基督教大学
客員教授であるガバン・マコーミック氏の
 Disputed Bones: Japan-North Korea Clash
   論争の遺骨: 日本ー北朝鮮の衝突

 と題する論説(2005年6月13日付)の翻訳をお届けします。
遺骨問題の経緯の集大成ともいうべき労作です。文献も多く
集められています。
 長文ですので、序文と終わりの方の新しい部分だけの翻訳です。
省略した最初の方は主としてこれまでMLで紹介してきた事実に関する
ものです。部分的誤訳はご容赦ください。
 原文は以下にあります。重複お許しください。   野田

http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=17&ItemID=8064

http://english.ohmynews.com/articleview/article_view.asp?no=231739&rel_no=1


   論争の遺骨: 日本ー北朝鮮の衝突

 序文
 2005年6月24日、首相官邸前で、過激な左翼団体ではなく、日本の
最も有名な幾人かの人々によって組織され、国会議員やメディアの
強力な支持を受けた、北朝鮮に対する経済制裁の即時実施を求める
3日間の座り込みが始まる。組織者は、そのような手段によってのみ、
北朝鮮に対し、意思に反していまも抑留されている(と彼らが信じる)
日本人を返還させることを強制できると主張する。
 小泉首相が2004年12月、拉致に関する北朝鮮のそれまでの説明
は不十分かつ偽りであり、特に横田めぐみさんの死亡の証拠として
提供された焼却遺骨は彼女のものではないと宣言してから6ヶ月に
なる。日本政府は北朝鮮が直ちに真摯に事態に対処しないのであれば
「強硬手段」に訴えることを約束したが、座り込みはこの「強硬手段」の
即時実施を求めるものである。500万人以上の人々がその実施の
賛同署名に応じ、また実施を求める4月の日比谷公園での集会には
6000人が集まった。横田めぐみさんの両親を含むリーダーたちは
テレビでおなじみの人物やレギュラー出演者である。彼らは言う、
われわれの我慢の緒は切れた、小泉首相がわれわれの要求に
応じず、われわれに会おうともしないことへの怒りは頂点に達して
いると。彼らは、それでも容れられないのであれば7月さらに別の月
に座り込みを行い、それを全国に広げることを約束している。

 このキャンペーンの政治的重要性は否定できない。しかしそれが
依拠する想定、つまり北朝鮮が拉致調査に不誠実であるだけでなく
日本に故意に嘘をついたという想定には重大な疑問がある。これら
の疑問については以下で述べる。

 小泉首相はこのキャンペーンにより国内から強い政治圧力を受ける
一方、国外、特に拉致より北朝鮮の核問題の方がはるかに重要な
アメリカ政府から強い外圧を受けている。したがって当面、日本による
一方的制裁はありえない。小泉政権はこれら二つの矛盾する強風の
前に揺れ動いており、それゆえ6ヶ月の間、日朝関係は凍結したまま
である。小泉首相は郵政民営化のみを夢見ており、この問題について
は指導力を放棄している。

 このエッセーは4月18日にJapan Focus に掲載された。以下は問題の
その後の進展に沿って書き換えたものである。
                           序文終わり

 以下本文(後半部)

 6月はじめ日本政府は北朝鮮政府、めぐみさんの両親、拉致被害者救出
連盟、指導的遺伝学者そして内外の科学界に対する応答を拒否しつつ、
沈黙を続けた。めぐみさんの遺骨問題は日朝間の交渉の再開を妨げ、
また北朝鮮に対する制裁に向けての強硬路線を正当化する最重要要因
となっていた。しかし、この問題は日本のメディアによって無視され続け、
また国会においても 3月の2,3回の激論のあとは無視され続けた。

 これまでにいくつかの方法が提起された。有名な学者であり、対北朝鮮
国交正常化国民会議の事務局長である和田春樹氏は拉致問題に対し
救う会の制裁要求とは根本的に異なる提案をした。
「横田夫妻は経済制裁によって北朝鮮に圧力をかけることによって、真実
が明らかにされると信じているかに見える。しかし彼ら自身が、通訳と政府
の適当な援護者と一緒に北朝鮮に行き、両親としての立場を説明し、めぐみ
さんに関する一切を調べるよう嘆願する方が、北朝鮮により真摯な取り組み
を迫る圧力になるのではなかろうか。私としては横田夫妻に北朝鮮を訪問
するよう再度提案したい。」[24]

 他方、救う会と24日に首相官邸前に集まる勢力は制裁を主張している。
救う会(と横田氏)は(朝日新聞によれば)、日本がDNA問題に対し適当な
応答をすることを要求したが、その要求は座り込み者によって公表される
要求には入っていない。DNA問題は恐らく、北朝鮮が故意に侮蔑的な振舞
をしたという基本的想定のために推し進められないのであろう。しかし救う会に
とってDNAは消え去ることのない問題である。国際メディア、特に国際科学
雑誌に提起された問題への彼らの消極的対応は彼らの立場を切り崩して
いる。救う会の指導的人物は彼らの目的が拉致問題の解決よりも北朝鮮
の体制変革の達成にあると何度も主張している。政治的社会的激動のなか、
そのようなハッピーな結果が期待できるかどうかは疑問を残す。

 日朝関係の膠着状態が続き、北朝鮮への怒りが拡大するなか、日本政府
は他の「拉致」、つまり第2次大戦中、強制労働者として日本に連行された
朝鮮人への時期遅れの調査を始めていた。日本の市民団体は不完全と
考えつつも、427,930人のそのような名簿を作成し、韓国政府に提供
した。そして政府は遺骨がずっと以前に日本の寺に預けられた人との一致
を調べるDNA鑑定を援助していた。[23]
 人間の苦難をはかる物差しはないが、日本の大勢は日本がかって行った
より大がかりな拉致には目を向けない傾向にあるようだ。実際、日本政府が
自らの拉致問題に真摯に向き合うようになったのは60年後のことに過ぎない。
 日本人への犯罪に対する憤りがとどまるところを知らないなか、純日本的
な用語で怒りが造成され、日本自身の過去の犯罪、そして北朝鮮の人々の
現在の苦しみに目をつむる独善性を育成している。実際、北朝鮮の何百万
もの老人、弱者の生存がかかっている人道支援は2004年12月以来
停止されたままだ。北朝鮮拉致問題は、これまで、人権や日本の朝鮮との
歴史的関係といった広い視点から捉えられることはなかった。

 北朝鮮がほとんどすべての国際人権基準をつねに、ひどく蹂躙
しているとしても、そのことは日本政府の立場の表明における
慎重さの要請を減ずるものではない。日本政府は恐らく北朝鮮との
論争における日本の人道的主張に異議がはさまれることはないと
考えたのであろうが、焼却された遺骨の鑑定の経験のない研究者
による、官僚的にコントロールされ、同輩のチェックも受けない分析は、
その研究者の発見物は確認もされず、結果に疑惑が生じるやすぐさま
公衆の場から遠ざけられるにおよんで、問題を一層、複雑化させ、
北朝鮮の体制を崩壊させるのではなくむしろ安定化することに
貢献したのであった。
 小泉氏はいまや自らが陥った矛盾を解決できないかに見える。
彼の注意は郵政民営化に集中されてるようだが、近隣諸国との
関係正常化という彼の基本的外交誓約は無視され、政策は
彼の制御のきかないまま揺れ動いている。