第1回口頭弁論 横浜市が『医療過誤』を否定 脳血管センター訴訟 「東京新聞」神奈川 (2005.6.30)

 

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第1回口頭弁論 横浜市が『医療過誤』を否定

脳血管センター訴訟

 横浜市立脳血管医療センターで一昨年七月、内視鏡手術を受けた五十歳代の女性が重度の障害を負ったことをめぐる訴訟の第一回口頭弁論が二十九日、横浜地裁で開かれたが、市側は自ら設置した外部調査委員会の報告書に反して、医療過誤を否定する主張を行い、患者家族は驚きと怒りに震えている。家族は「昨年の市の謝罪は何だったのか。こんなことでは、市の医療行政を信じる人はいなくなる」と不信感を募らせている。 (金杉 貴雄)

 「市が謝ったのは表面上だけで、実際には苦しむ市民と家族を足で踏みつけている」。女性患者の夫は語る。手術後意識不明となった女性患者はいまも寝たきりだ。

 この問題は、手術を担当した医師三人が、いずれも内視鏡手術の経験がなく、訓練もしていなかったことなどが発覚。市の外部調査委は昨年九月、「医療過誤と言わざるを得ない」と結論付けた報告書を提出。市は「重く受け止める」として関係者を処分し、患者家族に謝罪していた。

 ところが示談交渉はまとまらず訴訟に発展。法廷で市は一転して「医療過誤ではない」として過失責任を認めず、全面的に争う姿勢を示した。

 「(脳神経外科部長を含めた)医師四人がどうしても認めないんですよ」。原告代理人によると口頭弁論終了後、市側弁護士はこう釈明した。示談交渉の段階では市側も医療過誤を認めていたといい、「医療過誤が認められた場合、刑事事件として立件されるのを恐れたらしい」と原告代理人は語った。

 ■一部だけ強調

 「総体的にみると医療過誤と言わざるを得ない」と結論づけた市の外部調査委の報告書は、手術手技に決定的なミスはないが、内視鏡操作と止血手技にレベルの低さは否めず、新しい手技に臨む準備不足などが術後の後遺症の原因になった、としている。

 市の答弁書は報告書の「手術手技に決定的なミスはないが」の部分だけを強調。逆に、操作や止血手技のレベルの低さ、準備不足など不利な部分は無視し、結論が断定的な表現でないことから「医療過誤と認定されていない」と強弁した。

 報告書で内視鏡手術を初めて行う際には経験豊富な医師の立ち会いが必要とした指摘にも、答弁書は「一般通念といえない」と反論してみせた。

 ■家族に責任転嫁

 では市は昨年、何を謝罪したのか。センターの中川秀夫管理部長は、「外部調査委から『医療過誤と言わざるを得ない』と指摘された報告書の全体について認め、謝っている」としたが、裁判との整合性には「コメントできない」とした。

 答弁書には、手術後十カ月間も執刀医の氏名や手術経験などを患者家族に説明しなかった理由について「夫に罵声(ばせい)を浴びせられたから」と責任を転嫁するような記述もあった。

 夫は、「妻が回復できない状態になっただけでなく、市は何カ月も正しい説明をせず、外部調査委の報告で謝罪したのになおも責任を認めようとしない」と憤っている。

 ■市議追及に市側「訴訟に支障が」市議会常任委

 二十九日の横浜市議会・福祉衛生病院経営常任委員会でも、内視鏡手術をめぐる訴訟での市の対応が取り上げられた。市側は「訴訟にかかわる中身なので答えは差し控える」と六回も繰り返した。

 民主党ヨコハマ会の浅川義治氏は、「外部調査委から報告書を受けたのに、医療過誤じゃなかったのか」「議会で市民に医療過誤を認めて謝罪し関係者も処分した。それを認めないなら非常に問題だ」と答えを求めた。

 これに対し、病院経営局の上野和夫理事は、「裁判にかかわる中身なので、お答えを差し控えたい」「その答えも支障がある」と繰り返した。

 浅川氏が「司法、立法は三権分立だ。裁判になったから議会に話ができないというのはおかしい」と批判。岩崎栄局長は「三権分立は十分知っているが、司法の手に渡ったら司法に任せるのが三権分立のあり方だ」と答弁を拒否した。

 ◆解説 理解されぬ市の二重基準

 市の外部調査委の報告書は、無関係の部位を切除するような「決定的なミス」はないが、医師の手術技術の未熟さや準備不足、合併症への認識の甘さなどを指摘し、「総体的に」医療過誤と認定した。

 市は「重く受け止める」と報告を認め患者家族に謝罪しながら、訴訟になると決定的ミスはないことを強調、「医療過誤ではない」と否定した。

 この「ダブルスタンダード(二重の基準)」は、市民には到底理解されるものではない。

 そもそも、外部調査委の委員に内視鏡手術の専門家がいないことが一部で問題視された際、市は「幅広い立場の委員からの意見を得ることで、より客観、公平な報告が得られる」と胸を張った。たとえ医師が納得しなかったとしても、外部調査委は市の責任で設置し、報告を受けたものだ。

 市は報告をどう受け止めているのか。医療過誤と認めているのか否か。あるいは、医療過誤として責任を取る用意はあるが部分的に争いがあるとするのか。いずれにしても説明責任を果たすべきではないか。