日本に何をもたらした 小泉「改革」4年私はこう見る 斉藤貴男(ジャーナリスト)・二宮厚美(神戸大学教授) 「しんぶん赤旗」(2005.8.27)

 

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-08-27/2005082703_02_0.html 

 

 

2005年8月27日(土)「しんぶん赤旗」

日本に何をもたらした

小泉「改革」4年私はこう見る


 小泉自・公内閣は「改革を止めるな」「改革を前に」と、4年間進めてきた「構造改革」をさらに推進すると叫んでいます。この「改革」は日本に何をもたらしたのでしょうか。ジャーナリストの斎藤貴男さんと、神戸大学教授の二宮厚美さんに聞きました。(金子豊弘)


■国民の生きる権利否定

■ジャーナリスト/斎藤 貴男さん

 小泉「改革」は、いままでの仕組みを支配側により都合よくする“上からの革命”にすぎません。

 従来は、みんなが平等で、平和に豊かに暮らそうではないかという建前がありました。それに照らし現実がそうなってないことを問題にしていました。ところが小泉「改革」のもとでは、大事な価値が、企業が競争に勝つことだけになっています。経済的パフォーマンス(成果)だけが価値あるものとなればほかの価値がすべて切り捨てられます。福祉でも教育でも、その価値観に照らすとムダだと。

 そのことは、企業の利益に直接に連なる株主や経営者には非常に都合がいいことでしょう。しかし世の中の圧倒的多数の人たちは、安くこき使われ、一部のエリートに奉仕させられるだけの存在に貶(おとし)められてしまいます。差別と格差の拡大があからさまです。上に少しでも逆らったら、みな首切られるみたいな雰囲気があります。

 郵政民営化の「造反組」は田中角栄的な古い自民党です。それに対する反発が一般には強い。利益誘導型の土建屋政治がろくでもないのは当然ですが、ぼくにいわせたら、小泉さんのやり方に比べたら、まだしも“情”の部分があるだけはるかにマシです。小泉「改革」は、完全なファシズムです。このやり方が怖くない人がいたら、その人の神経を疑いますね。

 いまマスコミも小泉さんたちがつくったキャッチフレーズにそのまま乗っかっているようです。これほど愚劣な選挙は憲政史上初めてじゃないですか。亀井さんとホリエモンの選挙報道も、まるで格闘技戦です。それぞれの人が、どんな考えの人かが伝わっていません。選挙はワイドショーを見て決めないでといいたいですね。

 郵政民営化が「構造改革のシンボル」であるのは確かです。生産性の低い者の生きる権利を否定する点ですべては共通していますからね。これを信任してしまったら、「構造改革」路線のすべてを認めたことになりかねません。

 この、「構造改革」路線は、間違いなく軍事大国化をもたらします。「構造改革」というものは、世の中の仕組みを何もかもアメリカに合わせようということです。もっとわかりやすく言えばアメリカの一部になるということ。ぼくはこれを「戦争と差別の日常化」といっています。この道を進めば、アメリカがおこなう戦争に日本がくっついていくことになります。このことを国民は、もういいかげんに見抜かないといけません。


■格差拡大と亀裂を生む

■神戸大学教授/二宮 厚美さん

 小泉「構造改革」とは端的にいうと、大企業体制の多国籍企業化を前提にした企業国家づくりです。これを資金の流れから見ると、上から下に所得が流れる垂直的な所得再分配構造が転換され水平的になったということです。

 三つの側面があります。まずは、所得の高い人から低所得者層にお金が流れる仕組みをやめてしまおうというもの。社会保障がその典型ですが、国民総痛み分け型に切りかえることです。年金、医療、介護保険などを受益者負担にしてしまう。

 二つ目は、大都市から地方へお金が流れるという戦後の構造の転換です。国庫負担金を削るとか、補助金を削ることで「強い地域から弱い地域にお金が流れる」のをやめてしまう。

 三つ目は、産業間の問題です。成長産業から衰退産業におカネが流れるという構造の転換です。

 農業補助金のカットや不良債権の強行処理。公共事業の見直しも、地域の土建産業が見直しの対象で、ハイテク促進型の公共投資、技術研究開発あるいは、大都市インフラ整備型の公共投資は進めました。

 規制緩和や民営化路線は、その手段でした。

 その結果、何が出てきたのか。いわゆる不平等や格差の拡大です。所得や雇用の不平等、地域間や産業構造のアンバランス化。「勝ち組」と「負け組」という極端な分解、亀裂が「構造改革」の結果です。

 これらは、需要を委縮させ、内需不振型の「デフレ」が進みました。国民の暮らしから出てくる消費が落ち込んでしまいました。

 一部には、「勝ち組」の側が投機、投資に走って、華やかな側面があります。しかし、所得再分配構造が転換し、不平等が拡大したため、国民の所得、消費が低迷し日本経済が低迷しているのです。

 しかも今、進行中のものは、国民負担増プランばかりです。これは所得再分配のゆがみをいっそうすすめますが、それを二大政党が先陣争いをするような構造になっています。

 こういうやり方を続けていくと、改憲型にならざるをえません。つまり、憲法体制で守られてきた公平な所得再分配構造を崩していますので、国民の権利や生活を保障する憲法とますます矛盾してしまうのです。

 今回の選挙で問われているのは、まさに改憲型「構造改革」なのか、それとも、憲法を暮らしに生かす改革なのかという選択肢です。