【共同声明】「つくる会」教科書は再び国民に支持されなかった これは市民の良識と民主主義の勝利です  「子どもと教科書全国ネット21」(2005.9.1)

 

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【共同声明】「つくる会」教科書は再び国民に支持されなかった
       これは市民の良識と民主主義の勝利です

 2006年度から使用する中学校教科書の採択が終わりました。
アジアを蔑視し、韓国への植民地支配を正当化する、日本の侵略戦争をアジア解放戦争などと肯定・美化する、南京大虐殺や日本軍「慰安婦」は「日本を糾弾するために捏造されたうそ」だと主張して加害も被害もほとんど書かない、民衆の視点を欠いて国家と天皇中心の歴史観を植えつけるなど歴史を歪曲する歴史教科書。主権は一人ひとりにはないなどと日本国憲法を歪め、戦後の日本の平和は憲法9条とそれを活かす平和運動によってではなく、自衛隊と日米安保条約によって守られたとして憲法「改正」が必要だと教えこむ、基本的人権の制限、権利よりも義務を強調し、「国防の義務」を子どもに押し付ける、ジェンダーフリーを敵視する公民教科書。これは、「戦争をする国」の国民づくりをめざす政治運動の道具として発行された新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)の歴史・公民教科書(扶桑社版)です。
私たちが学校で使うべきでない、採択すべきでないと訴えてきたこの「つくる会」の教科書は、歴史0・5%以下、公民0・2%以下になる見込みです。「つくる会」がめざしてきた採択率10%は完全に阻止し、ごくわずかの採択にとどめ、前回(2001年)につづいて「つくる会」を惨敗させることができました。これは完全とはいえませんが「つくる会」教科書に反対する市民運動などの大きな勝利・大きな成果だといえます。
 ただ、残念なことに、公立中学校の583地区では、東京都杉並区(歴史)と栃木県大田原市(歴史・公民)の2地区で採択され、都道府県立では、東京都の中高一貫校(歴史)とろう・養護学校(歴史・公民)、愛媛県の中高一貫校(歴史)とろう・養護学校(歴史)と滋賀県の中高一貫校3校中の1校(歴史)で採択されました。また、一部の私立中学校(学校数の1%強、生徒数の0・1%)でも採択されています。しかし、全国でほんのわずかしか採択されなかった教科書をあえて採択した、杉並区、大田原市、東京都、滋賀県、愛媛県の教育委員会の異常さが誰の目にもあきらかになったといえます。この5教育委員会の採択は、教育基本法第10条に違反した、知事や区長、市長の政治的介入によって、子どもや教育のためではなく、きわめて不当な政治的思惑によってなされたものであり、あらためて抗議の意思を表明し、採択の撤回を要求します。

 「つくる会」は10%以上の目標を達成するために、政治家を使って文部科学省に検定・採択制度を改悪させ、国会議員・地方議会議員を動かして教育委員会に圧力をかける、首長(知事・市区長)と教育長を支持者に取り込むことを方針にやってきました。そして、白表紙本(検定申請図書)を不正に流出させ、高橋史朗氏の埼玉県教育委員就任の際に公然とうそをつき、杉並区の採択では反対した教育委員に脅迫まがいの公開質問状を出し、さらにその委員を誹謗・攻撃するビラを配布するなど、あらゆる手段を使って採択を取ろうとしてきました。
自民党は「つくる会」教科書を採択させるために自民党本部と地方組織、国会議員と地方議員が一体となって活動するように、安倍晋三幹事長(当時)名で通達を出し、運動方針に「教科書の偏向是正」(「偏った歴史観やジェンダーフリーに偏重した教科書の是正」−自民党のパンフレット)を掲げ、憲法・教育基本法改悪と一体のものとして位置づけました。これを受けて、各地の議会で自民党議員が他社教科書の誹謗と「つくる会」教科書を支持する発言を繰り返し、「つくる会」が有利になる請願の採択を強行しました。自民党は県連主催の「つくる会」教科書採択推進のシンポジウムなどを各地で開催し、国会議員が選挙区の教育長に手紙を出して圧力をかけるなど、教育基本法第10条に違反するなりふり構わない活動を展開しました。この自民党の党をあげての「つくる会」教科書の採択活動は、前回の2001年にはなかったことで、「つくる会」教科書の採択問題は、「つくる会」や日本会議と市民運動などとの対抗だけではなく、自民党など憲法改悪、戦争国家づくりをめざす政治家と歴史歪曲ゆるさず平和を求める市民運動との対決という様相を強めました。

 そうした大変きびしい情勢の中で勝ち取られたこの結果は、「つくる会」教科書の採択を阻止するために、全国各地の市民、保護者、教員、研究者、弁護士、労働者、学生など日本に住む多くの人びとの活動よって、全国的にも地域的にも「つくる会」教科書に反対する大きな世論がつくられたからです。自民党・「つくる会」・日本会議など右派連合に打ち勝ったこの採択結果は、戦争に反対し平和を求めるこうした人びとの良識の勝利、草の根民主主義の勝利です。とりわけ、「つくる会」教科書を押しつけて憲法改悪につなげようとする政治勢力に勝利したことの意義はきわめて大きいといえます。
さらに、今回は在日コリアンや在日中国人の方たちとの共同した活動が各地で展開されました。とりわけ在日韓国民団とその青年会の人びとが、自らの問題として大きな力を発揮しました。また、韓国のアジアの平和と歴史教育連帯を中心とした市民組織が、日本の各地の教育委員会を訪問して要請し、日本の全国紙・地方紙に意見広告を掲載するなど、日本の市民組織と連帯した活動を展開したこともこの結果に結びついています。

私たちは、「つくる会」教科書を不採択にするために、日夜、各地で全力をあげて活動されてきた全ての皆さんに心からの感謝と敬意、ねぎらいと連帯を表明します。そして、この成果についてお互いに喜びあいたいと思います。また、この教科書をふさわしくないとして採択しなかった全国581の採択地区の教育委員と教育委員会及び東京・滋賀・愛媛以外の道府県教育委員会、最後まで「つくる会」教科書に反対して努力された杉並区の2名の教育委員が、子どもの教育のために見識ある判断をされたことに敬意を表明します。
日本政府は、「つくる会」教科書を検定に合格させたことで、韓国・中国をはじめアジア諸国・地域、さらに世界各国から激しい批判と不信感を招いています。「つくる会」教科書の採択結果は、日本政府と国民は決して同じではなく、日本人の多数は歴史の歪曲に反対であり、アジアとの友好・共生を求め、アジアの平和のために正しい歴史認識をもつべきだと考えていることを示したことになり、政府が失った信頼を市民がかろうじてつなぎとめる結果になったといえます。
 
「つくる会」は8年間にわたって歴史を歪曲する政治運動をつづけ、その道具として教科書を発行し、学校現場に持ち込もうとしました。しかし、2001年と今回の二度にわたって、「つくる会」教科書は国民に支持されていないことが明白になりました。「つくる会」は「10%は運動継続の必須条件」、達成されなければ「『つくる会』運動は霧散する」(第7回総会議案書)といっていました。私たちは、「つくる会」がこの結果を謙虚に受け止めて「つくる会」運動に幕を引くように進言します。また、扶桑社がこの結果をふまえて出版社としての良識を発揮して、発行を辞退するよう忠告します。

 「つくる会」教科書は前述のような結果になりましたが、これですべて良かったとはいえません。「つくる会」の不当な教科書攻撃によって、扶桑社以外の教科書の内容が悪くなった問題が残っています。各社が、日本の侵略戦争や加害の記述を大幅に後退させ、記述をあいまいな表現に変えてきたのは、「つくる会」の策動によって教科書採択制度が改悪され、現場教員の意見を排除・軽視して教育委員会が採択するようになったことが一番大きな直接の原因です。
 今回の採択を通じて、たった5〜6名に教育委員によって教科書を採択する不合理性がますます明らかになってきました。私たちは、教科書の内容を改善するためにも採択制度を早急に改善することが重要だと思います。政府が「近い将来学校ごとの採択にする」と閣議決定した1997年から8年もたっています。私たちは、この決定をすみやかに実行するよう文部科学省に要求します。また、「つくる会」の要求によって、検定の密室化が進みました。私たちは、検定・採択を中心とした教科書制度の改善に向けて、大きな議論を全国で展開するよう呼びかけます。

 私たちは、「つくる会」教科書を採択した杉並区・大田原市・東京都・滋賀県・愛媛県での採択の撤回、採択のやり直し、などの活動に引き続き取り組むとともに、この成果と教訓に学びながら、大きく高まった教科書に対する関心をいっそう発展させ、日本の教科書制度と教科書内容を改善するための活動を具体的に推し進めます。そのため、全国各地の市民運動のネットワーク化、教科書問題や歴史の学習活動の定着、子どもたちや保護者の声をよく聞いて学校単位・教師単位に採択ができる制度の実現、検定制度の抜本的な改革、政府の圧力と「自主規制」によって改悪された歴史教科書の改善などに取り組みます。そして、このような歴史の歪曲が繰り返されないようにするために、韓国・中国をはじめアジアの市民・研究者と協力して『未来をひらく歴史』の普及と改善、日中韓による「歴史認識と東アジアの平和フォーラム」を引き続き開催します。
 今回の活動と成果を広め、教育基本法・憲法改悪を阻止する各地と全国の活動をさらに発展させていきます。さらに、この成果を発展させ、「日の丸・君が代」強制反対、ジェンダーフリーや性教育攻撃などを許さない活動を強めていきます。
 こうした活動をすすめるために、今回つくられ広がった様々な市民組織や団体との友好・協力共同をいっそう発展させていきます。
                                         以上。
2005年9月1日

子どもと教科書全国ネット21/ジェンダー平等社会をめざすネットワーク/「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク/全国民主主義教育研究会/高嶋教科書訴訟を支援する会/地理教育研究会/「つくる会」教科書採択を阻止する東京ネットワーク/日中韓3国共通歴史教材委員会/日本出版労働組合連合会/日本の戦争責任資料センター/ピースボート/歴史科学協議会/歴史教育アジアネットワークJAPAN/歴史教育者協議会/歴史の事実を視つめる会(50音順)

               問合せ・連絡先:子どもと教科書全国ネット21
                       千代田区飯田橋2-6-1 小宮山ビル201
                       mailto:kyokashonet@a.email.ne.jp
                       ・:03-3265-7606 Fax:03-3239-8590


資料・2006〜09年度使用「つくる会」教科書(扶桑社版)採択一覧
*公立中学校採択地区
栃木県大田原市            歴史と公民   使用生徒数 730名(公民は750名)
東京都杉並区             歴史      使用生徒数 2,000名
*都道府県立学校
東京都中高一貫校 4校        歴史      使用生徒数 計600名
東京都立ろう・養護学校 21校     歴史と公民   使用生徒数 計50名
滋賀県立中高一貫校(河瀬中学)1校  歴史      使用生徒数 計80名
愛媛県立中高一貫校 3校       歴史      使用生徒数 計480名
愛媛県立ろう・養護学校 7校     歴史      使用生徒数 計10名
            都道府県立学校・公立中学校 小計 歴史 3,950冊 公民 800冊
*私立中学校
◎歴史と公民両方の採択校(継続採択)
栃木県 國學院大學栃木中学校(継続採択)       使用生徒数 各70名
茨城県 常総学院中学校(継続採択)          使用生徒数 各130名
千葉県 麗澤中学校(継続採択)            使用生徒数 各110名
東京都 玉川学園中学部(新規採択)          使用生徒数 各290名
岐阜県 麗澤瑞浪中学校(継続採択)          使用生徒数 各60名
三重県 皇學館中学校(継続採択)           使用生徒数 各70名
三重県 津田学園中学校(継続採択)          使用生徒数 各20名
兵庫県 甲子園学院中学校(継続採択)         使用生徒数 各20名
岡山県 岡山理科大付属中学校(継続採択)       使用生徒数 各40名
◎歴史のみ(?)の採択校
 高知県 明徳義塾中学校(新規採択)          使用生徒数 各40名
◎公民のみの採択校
東京都 日大第3中学校(新規採択)          使用生徒数 240名
東京都 武蔵野女子学院中学校(新規採択)       使用生徒数 200名
大阪府 清風学園中学校(継続採択)          使用生徒数 240名
             私立中学校         小計 歴史 850冊 公民 1,490冊

●総使用冊数(推計)  歴史 4,800冊(0・38%)  公民 2,290冊(0・19%)
  ※総需要数 歴史1,249,827冊 公民1,221,174冊
※この一覧表は、9月2日午前までの判明分です。

              2005年9月1日 子どもと教科書全国ネット21作成

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