「意見広告の会」ニュース298(2005.9.11)

 

 

 

「意見広告の会」ニュース298

*ニュースの配布申し込み、投稿は、
  qahoujin at magellan.c.u-tokyo.ac.jp まで、お願い致します。
   
迷惑メール防止のため@atに書きかえています。アドレスは@に直して下さい。

** 目次 **
1 効率化係数3%へ? 情報の提供を求めます。 「会」事務局
     「平成18年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」
2 財務諸表の正確な分析作業を進めよう 首都圏ネット
     大学財政問題分析検討ワークショップニュースレターNo.5
3 平安女学院大学びわ湖守山キャンパス就学権確認訴訟を支援する大学人の会
     第二次ネット署名 9/14〆切です。
4 【共同声明】「つくる会」教科書は再び国民に支持されなかった
   付 資料・200609年度使用「つくる会」教科書(扶桑社版)採択一覧
     教科書ネット21 


***
1 効率化係数3%へ? 
   情報の提供を求めます。 「会」事務局
財務省サイドで、国立大学法人の運営費交付金算出の効率化係数を引き上げる画策を進
めているとの未確認情報があります。
一説には3%とも。
   「平成18年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h18/h18gla.pdf 
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h18/h18gld.pdf
)において、「裁量的経費は前
年度予算案から3%減」となっています。
文科と財務でもめているという話もあります。
この件についての情報をお待ちしております。
提供の際は情報についてのご指示をいただければ一層有り難く存じます。


2 財務諸表の正確な分析作業を進めよう 首都圏ネット
   大学財政問題分析検討ワークショップニュースレターNo.5
   2005831
   大学財政問題分析検討ワークショップ実行委員会
   http://www.shutoken-net.jp/
資料:
・国立大学法人の財務諸表とフリーキャッシュフロー(FCF)分析
・短期的なフリーキャッシュフロー(FCF)計算のためのワークシート

8
13日に開催した「大学財政問題分析検討ワークショップ」には、全国の大学からの
多くの参加者にお越しいただきました。まずここに、実行委員会からお礼申し上げます


東京大学の醍醐聰教授に当日いただいた講義ならびに演習で我々が得た成果を踏まえ、
ワークショップの趣旨と参加者の総意とに基づいて、全国で国立大学の財政問題を考え
る皆様に財務諸表の分析作業を呼びかけます。

1.
マスコミによる評価・評論は大学財政の実体をとらえていない

8
20日付の日経新聞が「国立89大学、純利益合計は1100億円」と報じて以来、全国紙
、地方紙とも国立大学の「黒字」を報じている。「民間ベース」で国立大学法人の財政
、とりわけ収支を論じるこれらの報道が、来年度の国立大学の運営費交付金を大幅に減
額する呼び水となることを危惧する声が聞かれる。

これに対して我々は、そのような危惧に理解を寄せる一方、国立大学法人の会計につい
て報道が欠く認識を指摘しておく。

1.1
 法人化初年度の国立大学の「純利益」は特殊要因を含んでいる

報道は、損益計算書に示された当期純利益に着目している。しかし、この数値には法人
化に伴う旧国立大学からの物品や債権の受贈益等と法人化関連の諸経費等との差額が含
まれることは新聞報道も述べる通りである。損益計算書では、

当期純利益=経常利益+(臨時利益−臨時損失)

と示されているが、法人化に伴う収益、支出の一定部分がそれぞれ臨時利益、臨時損失
として処理されている。つまり純利益は法人移行に関わる収支と大学としての恒常的収
支との混合物である。法人化以前の国立大学や既存の民間企業と、損益の大小等を比較
議論するためには、純利益ではなく経常利益に基づいた議論が必要である。しかも、我
々が確認できた範囲では、少なくない大学でこの臨時利益が臨時損失を上回っている。
国立大学財政にとって、法人化は特殊要因であり、かりに、国立大学法人の恒常的な業
務活動の結果を民間企業に準じた損益計算書で表そうとするのであれば、こうした一過
性の特殊要因に起因する臨時損益を除外した数値(具体的には経常利益)を参照するの
が合理的である。例えば東京大学の純利益は6,966百万円だが、経常利益は5,277百万円
、この二つの数値の間には約3割の差異がある。新聞報道において、見出しで当期純利
益に基づく数値を掲げ、本文では臨時利益が純利益をかさ上げしたと一言で解説を終え
る、という報道手法がとられるならば、それはミスリーディングであると指摘せざるを
得ない。

1.2
 国立大学法人の損益計算書自体が持つ複雑さには十分な留意が必要

国立大学法人の損益計算書に依拠した議論の問題点について、ここに言及する。結論を
初めに記せば、国立大学法人会計基準に則った会計処理における損益計算書上の経常利
益にもまた、企業会計原則に基づく損益計算書とは単純に比較できない問題があり、か
つ大学財政の実体をとらえきれない。我々は、損益計算書の純利益への着目ではなく、
後述するフリーキャッシュフロー(FCF)分析が大学財政の実体の理解により寄与する
と考え、これを財務諸表分析の一手法として提起する。

国立大学法人会計基準に基づいて作成される損益計算書に関連して、以下に三点にわた
り、その複雑さ、企業会計原則と異なる会計処理を指摘する。

その1  資産取得に伴った、国立大学法人会計基準における会計処理の複雑さ

国立大学法人の損益計算書には、国立大学法人会計基準に照らして次のような複雑さが
ある。同基準において、固定資産の会計処理は、固定資産の取得の財源別、及び取得し
た資産の償却資産・非償却資産別に次のように行われる。

A
)運営費交付金等が財源の場合

  A-1)償却資産を取得した場合は、減価償却費とマッチするよう、進行基準で交付
金が収益化される。

  A-2)土地などの非償却資産を取得した場合は、損益上の減価償却はされずに損益
外減価償却が行われる。

B
)国家的な資産形成を意図するとされる施設整備費が財源の場合

  取得した資産の償却、非償却にかかわらず、損益外減価償却が行われる。

その2  「損益外減価償却」という概念の複雑さ

このような会計処理を求める国立大学法人会計基準においては、損益外減価償却は損益
計算書には表れず、これが表れるのは国立大学法人等業務実施コスト計算書においてで
ある。すなわち、取得された資産のうち、運営費交付金等を財源として取得された償却
資産のみが損益計算書に記載され、減価償却が行われる。

その3(まとめ)  資産取得における民間企業と国立大学における考え方の違い

企業の場合は自力で設備を更新するのに対し、国立大学法人の場合は運営費交付金とは
別途に措置される施設整備費で、中期計画に基づいて施設を更新する、という資産の取
得における考え方の違いがある。こうした根本的な違いを無視して民間企業と国立大
学法人の損益計算書の結果だけを単純に比較したのでは誤解のもとになる。


そもそも一般的に、貸借対照表や損益計算書に記載される減価償却は損益計算目的のた
めの帳簿上での費用計上であって、その期間における資金の流出を表さない。したがっ
て、利潤の追求を目的にしない国立大学法人においては、損益計算目的の減価償却は意
味をなさない(だからこそ、損益外減価償却が採用されている)から、減価償却費は「
資金の流出を伴わない費用」、すなわち、「資金の内部留保項目」として取り扱うのが
妥当である(附属病院への損益計算原理の適用に関する論及はここでは割愛する)。

1.3
 フリーキャッシュフロー(FCF)分析への着目と留意点

したがって、我々は損益計算書で記された純利益に基づく議論から距離を置き、FCF
析に着手する。その理由は、損益計算書は国立大学法人の財政実体のうち資金の移動を
十分には反映しないからである。企業会計原則と国立大学会計基準との相違に由来する
損益計算書の性質の差異があるにもかかわらず、民間と同様な損益計算原理に基づいて
損益計算書の数値を比較考察する風潮に、我々自らは与しない意図をこれにより示す。

我々は、国立大学法人が利潤追求を目的としないにもかかわらず、国立大学法人会計基
準の大元に、損益計算原理を要素とする企業会計原則が位置することに懸念を覚える。
また、企業会計原則には無く国立大学法人会計基準に見られる概念の一部(例えば、国
立大学法人等業務実施コスト計算書における「機会費用」、主務大臣の承認による利益
処分、など)にも問題性を見出す。したがって、現行の国立大学法人会計基準と会計処
理、国立大学法人に対する予算措置を是認する立場をとるものではない。民間企業の財
務分析で用いられるFCF分析を国立大学法人の財務分析に適用する際にもこの点に留意
した上で財政実体へのより精確な接近を図ることに言及しておく。

2.
キャッシュフロー計算書に基づく国立大学法人財務のFCF分析(試案)

一般にキャッシュフロー計算書は、一会計期間における法人のキャッシュフローを3
の活動に区分して表示し、当該法人の正味のキャッシュフローの増減変動の状況を公開
するために作成される会計表である。

簡便な算定においてフリーキャッシュフロー(FCF)は、

FCF

 業務活動(大学の場合は教育研究活動)に伴うキャッシュフロー(多くの場合、収入
超過)
+投資活動(大学の場合は資産の取得など)に伴うキャッシュフロー(多くの場合、支
出超過)

という計算式から得られる。FCFは、本来の業務から生み出したキャッシュフローのう
ち当該企業が自由に使える余剰額を指す。

醍醐教授の試案に基づいた国立大学法人のFCF算定式とその趣旨(別紙参照)に基づい
て理解するならば、損益計算書では利益を減少させる要素となる減価償却がキャッシュ
フロー計算書では資金を増加させる要素となることから、FCFは一般に当期純利益より
も大きな額になり、内部留保(当期純利益と減価償却費の和)に照応する値を示す。し
かし国立大学の場合、昨年度のFCFには法人化に伴う収支が含まれているほか、恒常的
にも、退職金への引当金を含んだ運営費交付金債務や用途が限定される寄付金債務など
自由な裁量で使えない資金が、近い将来に予定される支出として含まれている。同様に
近い将来に予定される収入(未収附属病院収入など)も考慮し、貸借対照表を参照しな
がら

FCF
−(承継剰余金の受払収支差)
+(近い将来に予定される業務収入)
−(近い将来に予定される業務支出)

を算出することによって、当該国立大学法人の財政状態をより的確に表すFCF(以下、
最狭義のFCF)が算定できる。

この算定式の適用例として、東京大学のキャッシュフロー計算書に基づく最狭義のFCF
を計算する。

財務諸表が既に公表されている東京大学の数値を代入してその最狭義のFCFを計算すれ
ば、その額は約95千万円である。量的な側面だけに着目すれば、経常利益の約53億円
、当期純利益の約70億円が、この最狭義のFCF5倍から7倍の過剰な値を示しているこ
とになる。換言すれば、経常利益や当期純利益のうち、国立大学法人として自由に使え
ない資金が8割程度含まれていることになる。ただし、当期純利益の額から大きく減額
されたこの金額の最狭義のFCFでさえも、東京大学の教職員や学生が重大な問題として
指摘し批判する、非常勤職員と常勤職員との待遇格差、職員の賃金抑制(不払い残業、
労働時間増加分の節減、国家公務員や都内の他の国立大学と比較しても低水準の賃金な
ど)、部局配分額の抑制、学生納付金の値上げ、といった大学運営の中で得ている余剰
金であることを指摘する。

3.
各大学の財務諸表の分析結果や疑問を大いに交流しよう

我々は、文科省が各国立大学法人の財務諸表を承認したとされる829日を過ぎ、翌30
日夜の時点で、計30大学がそのホームページにおいて当該大学の財務諸表を公開してい
ることを確認した。財務諸表の公開を求め、これを入手し、分析に着手される取り組み
を、我々はすべての大学の教職員と学生に呼びかける。

各位の分析結果、疑問、コメント等は、当実行委員会(Eメールアドレスはinfo at shut
oken-net.jp
" at "をアットマークに置き換え)へぜひお寄せいただきたい。我々は各
位からお寄せいただく声にこたえ、財務分析検討の交流を図る所存である。

先に記したFCF分析で得られた指標により我々は、国立大学法人の財務評価に求められ
る、財務実体をより精確に示す数字を得ることができる。もちろん我々は、財務分析に
おける既存のフレームに甘んじた議論に終始しない意図を持つ。大学に対する学生や教
職員の要求の正当性を立証するような、既存のフレームを踏襲しつつ超克した分析手法
と指標を案出しこれを援用するとともに、大学人としての知性を動員して我々の要求を
実現し自主的な大学づくりのための行動に寄与することを目指して、活動を引き続き展
開する。

今後、運営費交付金削減のための様々な攻撃に使われるであろう財務上の数字について
、我々が正しく理解し評価していくことが必要不可欠である。その上で、大学単位の財
務状況を、各研究単位の状況と関連付けるセグメント情報の分析や、さらには、賃金に
直結するような人件費分析の手法の案出、対学生支出比率の算定とその分析など、今後
も研究すべき課題となっていることを付言しておく。

最終的には、運営費交付金制度をはじめとする国立大学法人への現行の予算措置の仕組
みと、これを前提とした国立大学


3 平安女学院大学びわ湖守山キャンパス就学権確認訴訟を支援する大学人の会
    第二次ネット署名 9/14〆切です。
    http://university.sub.jp/shomei/daigakujinnokai.html

共同代表 福田 菊(龍谷大学元教授)
碓井敏正(京都橘大学教授)

 平安女学院大学は,20053月末,設置してわずか5年で「びわ湖守山キャンパス」を
廃止しました。在校生の多くは移転反対もしくは同キャンパスで卒業したいと主張した
にもかかわらず,全員一律に高槻キャンパスに移動させられました。これに伴う学生の
学ぶ権利への侵害問題について,現在裁判所に提訴されています。
  この就学権確認訴訟は,2005928日に大阪高裁で判決が出されます。私たち「訴
訟を支援する大学人の会」は,緊急に以下の「要望書」を裁判所に提出したいと思いま
す。「訴訟の経緯と意義」もご覧いただきネット署名に是非ご協力を下さい。

ネット署名はこちら
(第二次署名の最終締め切りは914日です。日程ぎりぎりまで継続します)
 紙による署名数 95日現在 大学関係分156
第一次署名分は829日に大阪高裁に提出しました


4 【共同声明】「つくる会」教科書は再び国民に支持されなかった
    資料・200609年度使用「つくる会」教科書(扶桑社版)採択一覧

      これは市民の良識と民主主義の勝利です

 2006年度から使用する中学校教科書の採択が終わりました。

アジアを蔑視し、韓国への植民地支配を正当化する、日本の侵略戦争をアジア解放戦争
などと肯定・美化する、南京大虐殺や日本軍「慰安婦」は「日本を糾弾するために捏造
されたうそ」だと主張して加害も被害もほとんど書かない、民衆の視点を欠いて国家と
天皇中心の歴史観を植えつけるなど歴史を歪曲する歴史教科書。主権は一人ひとりには
ないなどと日本国憲法を歪め、戦後の日本の平和は憲法9条とそれを活かす平和運動に
よってではなく、自衛隊と日米安保条約によって守られたとして憲法「改正」が必要だ
と教えこむ、基本的人権の制限、権利よりも義務を強調し、「国防の義務」を子どもに
押し付ける、ジェンダーフリーを敵視する公民教科書。これは、「戦争をする国」の国
民づくりをめざす政治運動の道具として発行された新しい歴史教科書をつくる会(「つ
くる会」)の歴史・公民教科書(扶桑社版)です。

私たちが学校で使うべきでない、採択すべきでないと訴えてきたこの「つくる会」の教
科書は、歴史05%以下、公民0・2%以下になる見込みです。「つくる会」がめざし
てきた採択率10%は完全に阻止し、ごくわずかの採択にとどめ、前回(2001年)につづ
いて「つくる会」を惨敗させることができました。これは完全とはいえませんが「つく
る会」教科書に反対する市民運動などの大きな勝利・大きな成果だといえます。

 ただ、残念なことに、公立中学校の583地区では、東京都杉並区(歴史)と栃木県大
田原市(歴史・公民)の2地区で採択され、都道府県立では、東京都の中高一貫校(歴
史)とろう・養護学校(歴史・公民)、愛媛県の中高一貫校(歴史)とろう・養護学校
(歴史)と滋賀県の中高一貫校3校中の1校(歴史)で採択されました。また、一部の
私立中学校(学校数の1%強、生徒数の01%)でも採択されています。しかし、全国
でほんのわずかしか採択されなかった教科書をあえて採択した、杉並区、大田原市、東
京都、滋賀県、愛媛県の教育委員会の異常さが誰の目にもあきらかになったといえます
。この5教育委員会の採択は、教育基本法第10条に違反した、知事や区長、市長の政治
的介入によって、子どもや教育のためではなく、きわめて不当な政治的思惑によってな
されたものであり、あらためて抗議の意思を表明し、採択の撤回を要求します。

 「つくる会」は10%以上の目標を達成するために、政治家を使って文部科学省に検定
・採択制度を改悪させ、国会議員・地方議会議員を動かして教育委員会に圧力をかける
、首長(知事・市区長)と教育長を支持者に取り込むことを方針にやってきました。そ
して、白表紙本(検定申請図書)を不正に流出させ、高橋史朗氏の埼玉県教育委員就任
の際に公然とうそをつき、杉並区の採択では反対した教育委員に脅迫まがいの公開質問
状を出し、さらにその委員を誹謗・攻撃するビラを配布するなど、あらゆる手段を使っ
て採択を取ろうとしてきました。

自民党は「つくる会」教科書を採択させるために自民党本部と地方組織、国会議員と地
方議員が一体となって活動するように、安倍晋三幹事長(当時)名で通達を出し、運動
方針に「教科書の偏向是正」(「偏った歴史観やジェンダーフリーに偏重した教科書の
是正」−自民党のパンフレット)を掲げ、憲法・教育基本法改悪と一体のものとして位
置づけました。これを受けて、各地の議会で自民党議員が他社教科書の誹謗と「つくる
会」教科書を支持する発言を繰り返し、「つくる会」が有利になる請願の採択を強行し
ました。自民党は県連主催の「つくる会」教科書採択推進のシンポジウムなどを各地で
開催し、国会議員が選挙区の教育長に手紙を出して圧力をかけるなど、教育基本法第10
条に違反するなりふり構わない活動を展開しました。この自民党の党をあげての「つく
る会」教科書の採択活動は、前回の2001年にはなかったことで、「つくる会」教科書の
採択問題は、「つくる会」や日本会議と市民運動などとの対抗だけではなく、自民党な
ど憲法改悪、戦争国家づくりをめざす政治家と歴史歪曲ゆるさず平和を求める市民運動
との対決という様相を強めました。

 そうした大変きびしい情勢の中で勝ち取られたこの結果は、「つくる会」教科書の採
択を阻止するために、全国各地の市民、保護者、教員、研究者、弁護士、労働者、学生
など日本に住む多くの人びとの活動よって、全国的にも地域的にも「つくる会」教科書
に反対する大きな世論がつくられたからです。自民党・「つくる会」・日本会議など右
派連合に打ち勝ったこの採択結果は、戦争に反対し平和を求めるこうした人びとの良識
の勝利、草の根民主主義の勝利です。とりわけ、「つくる会」教科書を押しつけて憲法
改悪につなげようとする政治勢力に勝利したことの意義はきわめて大きいといえます。

さらに、今回は在日コリアンや在日中国人の方たちとの共同した活動が各地で展開され
ました。とりわけ在日韓国民団とその青年会の人びとが、自らの問題として大きな力を
発揮しました。また、韓国のアジアの平和と歴史教育連帯を中心とした市民組織が、日
本の各地の教育委員会を訪問して要請し、日本の全国紙・地方紙に意見広告を掲載する
など、日本の市民組織と連帯した活動を展開したこともこの結果に結びついています。

私たちは、「つくる会」教科書を不採択にするために、日夜、各地で全力をあげて活動
されてきた全ての皆さんに心からの感謝と敬意、ねぎらいと連帯を表明します。そして
、この成果についてお互いに喜びあいたいと思います。また、この教科書をふさわしく
ないとして採択しなかった全国581の採択地区の教育委員と教育委員会及び東京・滋賀
・愛媛以外の道府県教育委員会、最後まで「つくる会」教科書に反対して努力された杉
並区の2名の教育委員が、子どもの教育のために見識ある判断をされたことに敬意を表
明します。

日本政府は、「つくる会」教科書を検定に合格させたことで、韓国・中国をはじめアジ
ア諸国・地域、さらに世界各国から激しい批判と不信感を招いています。「つくる会」
教科書の採択結果は、日本政府と国民は決して同じではなく、日本人の多数は歴史の歪
曲に反対であり、アジアとの友好・共生を求め、アジアの平和のために正しい歴史認識
をもつべきだと考えていることを示したことになり、政府が失った信頼を市民がかろう
じてつなぎとめる結果になったといえます。

「つくる会」は8年間にわたって歴史を歪曲する政治運動をつづけ、その道具として教
科書を発行し、学校現場に持ち込もうとしました。しかし、2001年と今回の二度にわた
って、「つくる会」教科書は国民に支持されていないことが明白になりました。「つく
る会」は「10%は運動継続の必須条件」、達成されなければ「『つくる会』運動は霧散
する」(第7回総会議案書)といっていました。私たちは、「つくる会」がこの結果を
謙虚に受け止めて「つくる会」運動に幕を引くように進言します。また、扶桑社がこの
結果をふまえて出版社としての良識を発揮して、発行を辞退するよう忠告します。

 「つくる会」教科書は前述のような結果になりましたが、これですべて良かったとは
いえません。「つくる会」の不当な教科書攻撃によって、扶桑社以外の教科書の内容が
悪くなった問題が残っています。各社が、日本の侵略戦争や加害の記述を大幅に後退さ
せ、記述をあいまいな表現に変えてきたのは、「つくる会」の策動によって教科書採択
制度が改悪され、現場教員の意見を排除・軽視して教育委員会が採択するようになった
ことが一番大きな直接の原因です。

 今回の採択を通じて、たった56名に教育委員によって教科書を採択する不合理性が
ますます明らかになってきました。私たちは、教科書の内容を改善するためにも採択制
度を早急に改善することが重要だと思います。政府が「近い将来学校ごとの採択にする
」と閣議決定した1997年から8年もたっています。私たちは、この決定をすみやかに実
行するよう文部科学省に要求します。また、「つくる会」の要求によって、検定の密室
化が進みました。私たちは、検定・採択を中心とした教科書制度の改善に向けて、大き
な議論を全国で展開するよう呼びかけます。

 私たちは、「つくる会」教科書を採択した杉並区・大田原市・東京都・滋賀県・愛媛
県での採択の撤回、採択のやり直し、などの活動に引き続き取り組むとともに、この成
果と教訓に学びながら、大きく高まった教科書に対する関心をいっそう発展させ、日本
の教科書制度と教科書内容を改善するための活動を具体的に推し進めます。そのため、
全国各地の市民運動のネットワーク化、教科書問題や歴史の学習活動の定着、子どもた
ちや保護者の声をよく聞いて学校単位・教師単位に採択ができる制度の実現、検定制度
の抜本的な改革、政府の圧力と「自主規制」によって改悪された歴史教科書の改善など
に取り組みます。そして、このような歴史の歪曲が繰り返されないようにするために、
韓国・中国をはじめアジアの市民・研究者と協力して『未来をひらく歴史』の普及と改
善、日中韓による「歴史認識と東アジアの平和フォーラム」を引き続き開催します。

 今回の活動と成果を広め、教育基本法・憲法改悪を阻止する各地と全国の活動をさら
に発展させていきます。さらに、この成果を発展させ、「日の丸・君が代」強制反対、
ジェンダーフリーや性教育攻撃などを許さない活動を強めていきます。

 こうした活動をすすめるために、今回つくられ広がった様々な市民組織や団体との友
好・協力共同をいっそう発展させていきます。
                                       
  以上。

2005
91

子どもと教科書全国ネット21/ジェンダー平等社会をめざすネットワーク/「戦争と女
性への暴力」日本ネットワーク/全国民主主義教育研究会/高嶋教科書訴訟を支援する
会/地理教育研究会/「つくる会」教科書採択を阻止する東京ネットワーク/日中韓3
国共通歴史教材委員会/日本出版労働組合連合会/日本の戦争責任資料センター/ピー
スボート/歴史科学協議会/歴史教育アジアネットワークJAPAN/歴史教育者協議会/
歴史の事実を視つめる会(50音順)

               問合せ・連絡先:子どもと教科書全国ネット21

                     千代田区飯田橋2-6-1 小宮山ビル201

資料・200609年度使用「つくる会」教科書(扶桑社版)採択一覧

*公立中学校採択地区

栃木県大田原市 12校          歴史と公民   使用生徒数 730名(公民
750名)

東京都杉並区  23校          歴史      使用生徒数 2,000

*都道府県立学校

東京都中高一貫校 4校         歴史      使用生徒数 計600
東京都立ろう・養護学校 182分教室  歴史と公民   使用生徒数 計50
滋賀県立中高一貫校(河瀬中学)1校   歴史      使用生徒数 計80
愛媛県立中高一貫校 3校        歴史      使用生徒数 計480
愛媛県立ろう・養護学校 7校      歴史      使用生徒数 計10
      都道府県立学校・公立中学校 小計 歴史 3,950冊 公民 800

*私立中学校

歴史と公民両方の採択校(継続採択)

栃木県 國學院大學栃木中学校(継続採択)        使用生徒数 各70
茨城県 常総学院中学校(継続採択)           使用生徒数 各130
千葉県 麗澤中学校(継続採択)             使用生徒数 各110
東京都 玉川学園中学部(新規採択)           使用生徒数 各290
東京都 松蔭中学校(新規採択)             使用生徒数 各60
岐阜県 麗澤瑞浪中学校(継続採択)           使用生徒数 各60
三重県 皇學館中学校(継続採択)            使用生徒数 各70
三重県 津田学園中学校(継続採択)           使用生徒数 各20
兵庫県 甲子園学院中学校(継続採択)          使用生徒数 各20
高知県 明徳義塾中学校(新規採択)           使用生徒数 各40


歴史のみの採択校

岡山県 岡山理科大付属中学校(継続採択)        使用生徒数 40

公民のみの採択校

東京都 日大第3中学校(新規採択)           使用生徒数 240

東京都 武蔵野女子学院中学校(新規採択)        使用生徒数 200

大阪府 清風学園中学校(継続採択)           使用生徒数 240

       私立中学校         小計 歴史 910冊 公民 1,550


総使用冊数(推計)  歴史 4,860冊(039%)  公民 2,390冊(020%)

  総需要数 歴史1,249,827冊 公民1,221,174

この一覧表は、96日午前までの判明分です。

              200592日 子どもと教科書全国ネット21作成