大いなる偽善――小泉大勝は偽善政治の賜物である 「森田実政治日誌」(2005.9.14)

 

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大いなる偽善――小泉大勝は偽善政治の賜物である

 

「自分には、あざむき合っていながら、清く明るく朗らかに生きている、或いは生き得る自信を持っているみたいな人間が難解なのです」(太宰治『人間失格』、『日本名言名句の辞典』小学館刊より引用)

 

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  平成版大政翼賛選挙

 

 総選挙の2日後の9月13日に、ある経営者の集まりで講演した。会場には空席が目立った。「祭りの後」の感じとともに、いまさら批判者(私のこと)の話を聞いても意味がない、という空気が感じられた。冷ややかだった。

 しかし、小泉政治批判を展開してきた私の意思は変わらない。悪と偽善と戦いつづけなければならない。この立場は今後も変わることはない。むしろこれからが本当の戦いだと考えている。

 今回の総選挙が、昭和171942)年4月30日に東条英機内閣が行った総選挙(いわゆる翼賛選挙)に酷似していると私は指摘してきた。当時は戦時中であり、報道機関、産業界、学界、宗教団体など諸々の社会組織などすべての組織が、東条内閣に従う大政翼賛会のもとに統合されていた。選挙においては翼賛会が推薦する候補者が保護され、非推薦で立候補した者は迫害を受けた。結果は東条内閣側の圧勝に終わった。翼賛会推薦者の当選率は80%を上回った。

 今回の9.11総選挙において、全報道機関が小泉首相を支持した。日本経団連はじめほとんどすべての経済団体、業界団体が小泉首相を支持した。投票日の直前には、事実上の大政翼賛体制ともいうべき小泉翼賛体制が形成された。小泉政権側の候補者(翼賛候補)は、すでに権力のサーバントと化したマスコミの全面支持を受けた。

 マスコミと経済界を中心とする平成版体制翼賛会は、日本中に「小泉改革を止めるな。郵政民営化は改革の本丸だ。小泉政権を守れ」の大合唱を起こした。この大攻勢に、自民党内の小泉批判派と民主党は敗れた。

 平成版体制翼賛会の真のリーダー・組織者は、陰に隠れているが、ブッシュ政権の日本担当者である、と私は判断している。9.11総選挙は単純に小泉政権の信任を問うたものではなく、ブッシュ・小泉政治すなわち日米同盟を問うたものだった。だから、ブッシュ政権の日本担当者は真剣に動いた(改めて詳しく書くが、私はいくつかの証言を得ている)。

 

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  日本国民の目から隠された「アメリカ」

 

 9.11総選挙の主題となった郵政民営化は、純粋な国内問題ではなく、同時に国際問題すなわち日米関係の問題でもあった。この10年間、米国政府は郵政民営化を強く求めつづけてきた。今回の郵政民営化紛争の根は米国側の民営化要求にあるのだ。

 日米両国政府間の外交上の公式文書である「年次改革要望書」の1995年版には、郵貯・簡保を政府の事業としては禁止すべきだ、との米国政府側の要求が明記された。それから10年間、米国政府は郵政民営化要求を繰り返した。

 米国政府の狙いの一つは、郵貯・簡保350兆円の市場開放にあった。2001年4月に小泉純一郎氏が自民党総裁に選出されたのは、中曽根康弘氏が「亀井静香氏を切り捨て、小泉氏支持で動いた」(米国側研究者の話)結果であるが、「その裏で米共和党政権の意向(小泉氏を首相にしたいとの意思)が強く働いていた」(同前)との証言がある。

 郵政が民営化されることは、郵政資金が自由化されることを意味する。350兆円(最近では340兆円)が国際金融市場に流出するということである。自由競争においては力の強い者が勝つ。米国の強大なファンドが350兆円を動かす実権を握る可能性はきわめて高い。

 小泉政権は、この「年次改革要望書」を中心とする米国政府の関与を日本国民の目から隠しつづけた。これに大新聞など報道機関が協力した。この「アメリカ隠し」こそ、9.11総選挙の本質なのである。 

 これで、郵政民営化法案は成立する見通しとなった。

 

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  目に余る恥ずべき転向ラッシュ

 

 9月14日の新聞には、岐阜1区で無所属で当選した野田聖子氏が、「私は自民党員ですから。他党に入れると反党行為になるから」として首班指名選挙で小泉首相に投票すると言明した、との記事が出ている。無所属当選者の転向第一号である。これから転向者が続出するだろうが、毅然たる態度の綿貫、亀井氏らを見習ってほしいと願う。

 もう一つ、より大きいニュースがある。中曽根弘文元文相(参議院議員)の「転向声明」である。これに旧亀井派10名の参議院議員も同調するという。

 中曽根氏らの行動により参議院で郵政民営化法案が否決された。この結果、衆院解散・総選挙となり、多くの有為の人材が政界から排除された。落選し、悲嘆のどん底に突き落とされている人もいる。こうした立場の人から見ると、中曽根氏の行為は「自分さえよければ…」の利己的行為に見える。中曽根氏には、政治家としても、人間としても、責任が問われる。「転向」ブームは政治家の信用を深く傷つけている。