平安女学院大学守山キャンパス就学権確認訴訟、9月28日の判決を前にして 控訴審の争点(2005.9.25)

 

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2005年09月25日

平安女学院大学守山キャンパス就学権確認訴訟、9月28日の判決を前にして 控訴審の争点

平安女学院大学びわ湖守山キャンパス就学権確認訴訟を支援する大学人の会
大学人の会ニュース16(2005年9月25日)

平安女学院大学守山キャンパス就学権確認訴訟
9月28日の判決を前にして 控訴審の争点

2005年9月25日

平安女学院大学びわ湖守山キャンパス
就学権確認訴訟を支援する大学人の会

 平安女学院大学びわ湖守山キャンパス就学権確認訴訟・控訴審は,9月28日(水)13時10分から大阪高裁(別館8階81号法廷)で判決が下される。あと数日に迫った判決を前にして,今回の控訴審の争点を簡単にまとめておきたい。

 平安女学院大学「就学権確認等請求事件」で,控訴人川戸佳代さんが控訴するに至った理由は,先の大津地裁(5月23日)の判決が原告(控訴人)側の主張に何ら応えるものではなかったからである。原告(控訴人)は,特定の守山キャンパスという場での就学権の確認と履行請求を,単に一般的・抽象的な在学契約の内容から主張したわけではなかった。それは「第三者のためにする契約」又は「規範設定契約」という民法理論を根拠に主張した。ここが争点であった。

 「第三者のためにする契約」に基づく主張とは,およそ次のようなものである。

 守山市・滋賀県と平安女学院(被控訴人)は,補助金交付に伴う契約(基本協定)を交わした。この契約(基本協定) では,守山市・滋賀県は平安女学院大学の入学者に対して守山キャンパスで就学する機会をつくるために,キャンパス建設のための補助金を交付する,他方平安女学院大学は守山キャンパスを建設し,そこで授業を行い教育の場所を開設する旨約束した。そして,平安女学院はこの契約によって,守山キャンパス開設後,就学の勧誘に対し入学を申込んだ控訴人と在学契約を締結し,同キャンパスで授業を受ける権利を取得させた。従って,この契約(基本協定)は,第三者(学生)に守山キャンパスでの就学権を付与させるものあり,明確な第三者のための契約である。こうして,平安女学院大学にあっては控訴人に同キャンパスで教育を提供する義務が発生した。そして,民法538条により,第三者の権利が発生した後は当事者たる大学はこれを変更し,又は消滅させることができない。

 しかし,5月23日大津地裁の判決は,かかる「第三者のためにする契約」に基づく就学権の有無について,実質的に判断を避けたといわざるを得ない。判決は在学契約の一般論から,主として当該事件を通学距離の問題に矮小化し,守山市から高槻市への移転程度では就学権の侵害を構成しないと述べた。他方,「第三者のためにする契約」については,自治体と大学との「基本協定」が第三者に権利を取得させる「第三者のためにする契約」であるかについて,結局のところ「そうではない」と指摘するにとどめ,その結論を導く至った論理を具体的に示そうとはしなかった。その意味で地裁判決は理由不備であった。地裁はこの点を高裁の判断に委ねたと解釈しうる。

 こうして,今回の控訴審は,上記「第三者のためにする契約」が最大かつ唯一の争点になる。控訴人川戸佳代さんは,かかる論点にのみ焦点をあてて「控訴理由書」を書いた。しかし,被控訴人平安女学院は,「答弁書」においてこの争点に反論する内容を何一つ提示しなかった。ただ,地裁判決を支持するとだけ述べるにとどまっている。裁判においては,一方の主張に全く反論しない場合,それだけで敗訴することもありうる。この点も含め,大阪高裁がどのような判断を下すか,注目したい。

 今度の大阪高裁の判決は,これからの日本の大学運営のあり方にも大きな影響を与えるであろう。1996年から2002年までに開学した80もの大学が自治体から補助金を受け地域振興の名の下に設置されている。今後,大学全入時代を迎え,平安女学院大学と同じようにキャンパスの撤退や統廃合が起こりうる可能性は極めて高い。すでに,地方では少なくない大学が実際に巨額な補助金を受けながらキャンパスを撤退させている。その際,判決如何によっては,自治体との補助金交付契約は「第三者のためにする契約」と理解され,一方的なキャンパス撤退はそこで学ぶ学生に対して就学権の侵害を構成すると判断される場合も出てこよう。大学の無責任で安易な大学運営のやり方に歯止めがかかる可能性もある。そのためにも,大阪高裁での川戸さんの勝訴を是非とも勝ち取りたい。

 さらに,これまで日本の教育裁判では,小中高校は別にして,大学レベルでキャンパスの移転・統合に伴い学習権の侵害問題が裁判で争われたケースは,ほとんど存在しない(平安女学院大学とやや類似するケースとしては,1979年大阪外国語大学がキャンパスを移転する際,二部在校生16名が学生の同意なしに変更したと主張し,元の教育地で教育を受ける地位を有することについての仮処分申請をした事件=「受教育地確認仮処分申請事件」があるだけである。この裁判では,大阪地裁は在学契約一般論から請求事案を判断した。しかしこの裁判は自治体と大学との契約,およびそれに関わる就学権の法的問題が争われたわけではない)。その意味で今回の控訴審判決は先例がなく貴重な判例ともなろう。

 最後に,今回の控訴審の意義について,控訴人川戸佳代さんは,次のように主張する(「就学権確認訴訟の控訴審について」2005年7月27日)。
 「私は,平安女学院大学の社会的責任を問うためにこの訴訟を提起しました。平安女学院大学は滋賀県および守山市から巨額な補助金を受けて守山キャンパスを設置しておきながら,わずか5年で高槻キャンパスへの移転・統合を決定しました。私の弁護士も指摘するように,これはいわば「補助金の食い逃げ」です。学院側は関係自治体への了承を取り付けることもなく,また学生への十分な事前説明と納得を得る努力をしないままに一方的に統合を決定し強行しました。こうして行われた学院側からの就学権の侵害に対して,私は教育機関としての学院の社会的責任を追求したいと思います。」
 また,毎日新聞は本件地裁判決を報じる際,「免れない大学側の道義的責任」と題し「原告側は即日控訴し,法的な判断は高裁に委ねられることになった。しかし,学生や保護者に知らせる前に一方的に移転を決めた平安女学院大側の道義的責任まで免れたわけではない。」[平安女学院大移転訴訟:学校の都合でどこにでも−学生側敗訴,即日控訴(毎日新聞5/24)]と書いている。

 9月28日大阪高裁の判決は,移転の進め方の問題性も含め,平安女学院大学の社会的責任について厳しく言及すべきである。同時に,かかる問題は,判決の如何に関わらず,今後とも引き続き全国の大勢の大学人から厳しい批判の目が向けられていくべきものである。

参考資料
大津地裁判決文(2005年5月23日)
控訴理由書(2005年6月20日)
控訴人「陳述書」(2005年7月21日)

 

投稿者 管理者 : 20050925 00:33