「意見広告の会」ニュース301 (1)平安女学院大学守山キャンパス就学権確認訴訟(2)公立大学という病:横浜市大時代最後の経験 紹介「更新雑記」(2005.9.26)

 

 

「意見広告の会」ニュース301

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** 目次 **
1 平安女学院大学守山キャンパス就学権確認訴訟
      9/28に控訴審判決
1−1 928日の判決を前にして 控訴審の争点
           
平安女学院大学びわ湖守山キャンパス就学権確認訴訟を支援する大学人の

1−2 川戸佳代さん、控訴審判決を前にして
           
大学人の会ニュース 172005/09/26
2 公立大学という病:横浜市大時代最後の経験
         
 紹介「更新雑記」


***
1−1 928日の判決を前にして 控訴審の争点
      2005925
平安女学院大学びわ湖守山キャンパス就学権確認訴訟を支援する大学人の会

 平安女学院大学びわ湖守山キャンパス就学権確認訴訟・控訴審は,928日(水)13
10分から大阪高裁(別館8階81号法廷)で判決が下される。あと数日に迫った判決
を前にして,今回の控訴審の争点を簡単にまとめておきたい。

 平安女学院大学「就学権確認等請求事件」で,控訴人川戸佳代さんが控訴するに至っ
た理由は,先の大津地裁(523日)の判決が原告(控訴人)側の主張に何ら応えるも
のではなかったからである
。原告(控訴人)は,特定の守山キャンパスという場での就学権の確認と履行請求を,
単に一般的・抽象的な在学契約の内容から主張したわけではなかった。それは「第三者
のためにする契約」又は「規範設定契約」という民法理論を根拠に主張した。ここが争
点であった。

 「第三者のためにする契約」に基づく主張とは,およそ次のようなものである。

 守山市・滋賀県と平安女学院(被控訴人)は,補助金交付に伴う契約(基本協定)を
交わした。この契約(基本協定) では,守山市・滋賀県は平安女学院大学の入学者に
対して守山キャンパスで就学する機会をつくるために,キャンパス建設のための補助金
を交付する,他方平安女学院大学は守山キャンパスを建設し,そこで授業を行い教育の
場所を開設する旨約束した。そして,平安女学院はこの契約によって,守山キャンパス
開設後,就学の勧誘に対し入学を申込んだ控訴人と在学契約を締結し,同キャンパスで
授業を受ける権利を取得させた。従って,この契約(基本協定)は,第三者(学生)に
守山キャンパスでの就学権を付与させるものあり,明確な第三者のための契約である。
こうして,平安女学院大学にあっては控訴人に同キャンパスで教育を提供する義務が発
生した。そして,民法538条により,第三者の権利が発生した後は当事者たる大学はこ
れを変更し,又は消滅させることができない。

 しかし,523日大津地裁の判決は,かかる「第三者のためにする契約」に基づく就
学権の有無について,実質的に判断を避けたといわざるを得ない。判決は在学契約の一
般論から,主として当該事件を通学距離の問題に矮小化し,守山市から高槻市への移転
程度では就学権の侵害を構成しないと述べた。他方,「第三者のためにする契約」につ
いては,自治体と大学との「基本協定」が第三者に権利を取得させる「第三者のために
する契約」であるかについて,結局のところ「そうではない」と指摘するにとどめ,そ
の結論を導く至った論理を具体的に示そうとはしなかった。その意味で地裁判決は理由
不備であった。地裁はこの点を高裁の判断に委ねたと解釈しうる。

 こうして,今回の控訴審は,上記「第三者のためにする契約」が最大かつ唯一の争点
になる。控訴人川戸佳代さんは,かかる論点にのみ焦点をあてて「控訴理由書」を書い
た。しかし,被控訴人平安女学院は,「答弁書」においてこの争点に反論する内容を何
一つ提示しなかった。ただ,地裁判決を支持するとだけ述べるにとどまっている。裁判
においては,一方の主張に全く反論しない場合,それだけで敗訴することもありうる。
この点も含め,大阪高裁がどのような判断を下すか,注目したい。

 今度の大阪高裁の判決は,これからの日本の大学運営のあり方にも大きな影響を与え
るであろう。
1996
年から2002年までに開学した80もの大学が自治体から補助金を受け地域振興の名の
下に設置されている。今後,大学全入時代を迎え,平安女学院大学と同じようにキャン
パスの撤退や統廃合が起こりうる可能性は極めて高い。すでに,地方では少なくない大
学が実際に巨額な補助金を受けながらキャンパスを撤退させている。その際,判決如何
によっては,自治体との補助金交付契約は「第三者のためにする契約」と理解され,一
方的なキャンパス撤退はそこで学ぶ学生に対して就学権の侵害を構成すると判断される
場合も出てこよう。大学の無責任で安易な大学運営のやり方に歯止めがかかる可能性も
ある。そのためにも,大阪高裁での川戸さんの勝訴を是非とも勝ち取りたい。

 さらに,これまで日本の教育裁判では,小中高校は別にして,大学レベルでキャンパ
スの移転・統合に伴い学習権の侵害問題が裁判で争われたケースは,ほとんど存在しな
い(平安女学院大学とやや類似するケースとしては,1979年大阪外国語大学がキャンパ
スを移転する際,二部在校生16名が学生の同意なしに変更したと主張し,元の教育地で
教育を受ける地位を有することについての仮処分申請をした事件=「受教育地確認仮処
分申請事件」があるだけである。この裁判では,大阪地裁は在学契約一般論から請求事
案を判断した。しかしこの裁判は自治体と大学との契約,およびそれに関わる就学権の
法的問題が争われたわけではない)。その意味で今回の控訴審判決は先例がなく貴重な
判例ともなろう。

 最後に,今回の控訴審の意義について,控訴人川戸佳代さんは,次のように主張する
(「就学権確認訴訟の控訴審について」2005727日)。
 「私は,平安女学院大学の社会的責任を問うためにこの訴訟を提起しました。平安女
学院大学は滋賀県および守山市から巨額な補助金を受けて守山キャンパスを設置してお
きながら,わずか5年で高槻キャンパスへの移転・統合を決定しました。私の弁護士も
指摘するように,これはいわば「補助金の食い逃げ」です。学院側は関係自治体への了
承を取り付けることもなく,また学生への十分な事前説明と納得を得る努力をしないま
まに一方的に統合を決定し強行しました。こうして行われた学院側からの就学権の侵害
に対して,私は教育機関としての学院の社会的責任を追求したいと思います。」
 また,毎日新聞は本件地裁判決を報じる際,「免れない大学側の道義的責任」と題し
「原告側は即日控訴し,法的な判断は高裁に委ねられることになった。しかし,学生や
保護者に知らせる前に一方的に移転を決めた平安女学院大側の道義的責任まで免れたわ
けではない。」[平安女学院大移転訴訟:学校の都合でどこにでも−学生側敗訴,即日
控訴(毎日新聞5/24)]と書いている。

 928日大阪高裁の判決は,移転の進め方の問題性も含め,平安女学院大学の社会的
責任について厳しく言及すべきである。同時に,かかる問題は,判決の如何に関わらず
,今後とも引き続き全国の大勢の大学人から厳しい批判の目が向けられていくべきもの
である。

参考資料
大津地裁判決文(2005523日)
http://www.geocities.jp/ncgqg099/newpage43.html
控訴理由書(2005620日)
http://www.geocities.jp/ncgqg099/newpage51.html
控訴人「陳述書」(2005721日)
http://www.geocities.jp/ncgqg099/newpage50.html


1−2 川戸佳代さん、控訴審判決を前にして
           
大学人の会ニュース 172005/09/26
 ■
平安女学院大学 守山キャンパスの存続を守ろうの会 
控訴審判決を前にして
      平成17925

控訴審判決を前にして
      平安女学院大学4年生
      川戸 佳代  

 大阪高裁(大和陽一郎裁判長)に控訴した就学権確認訴訟の判決が28日13時10
分から言い渡されます。

 学校法人平安女学院(山岡景一郎理事長)は、滋賀県および守山市からおよそ34億
円という補助金を受けて2000年にびわ湖守山キャンパスを開設しました。法人は補
助金を受けるにあたって守山市との間で基本協定を締結しました。この基本協定には、
平安女学院大学を守山市三宅町に建設することや入学定員などが定められていました。
私たちは地裁段階から、これら補助金交付に係る基本契約が入学者を第三者とする「第
三者のためにする契約」、若しくは「規範設定契約」の成立要件を満たしているため学
生の教育を受ける権利を認めよという主張をしてきました。しかしながら、大津地裁の
原判決では、争点が判示される事はありませんでした。

 私が学院側から入学前に示された学生生活は、「地域に開かれたキャンパス」を特色
としたびわ湖守山キャンパスで学ぶことでした。私たち「平安女学院大学守山キャンパ
スの存続を守ろうの会」は入学前に示された守山キャンパスでの教育環境が守られるべ
きであると思い、守山キャンパスの存続を求める活動を行ってきました。守山市長は12
月議会で「・・・もっと立地の悪いところでも、たくさん学生が集まって立派な大学経
営をされているところはございます。これは、やはり経営の怠慢としか私には考えられ
ません」と述べています。このように経営努力を怠った学院側は、守山キャンパスにお
ける私たちの「学び」を奪いました。

 大学倒産時代が現実となった今日、キャンパスを廃止したのは平安女学院大学ばかり
ではありません。しかしながら、ここで問題とすべきは平安女学院のように学生を無視
した対応が他の大学においては見られないということです。
(1)
石川県の七尾市が約10億円の補助金を投じて設置された七尾短大は、募集停止を余儀
なくされましたが、2003年の春に最後の在学生を同大キャンパスからしっかりと送り出
しています。
(2)
北見市が約25億円を投じて1977年に設置された北海学園北見大学は、自治体の了承を
取り付けたうえで、20063月末をもって北海学園北見大学を北見キャンパスから撤退
させ、同年4月より札幌市内のキャンパスに移転させることを決めました。入学前に移
転を知らされなかった学生は、北見キャンパスで卒業まで就学することになっています

(3)
山口県と萩市が40億円の補助金を投じ1999年に開学した萩国際大学は、今年6月に民
事再生を裁判所に申請しました(定員割れが直接の理由で民事再生に至ったのは初めて
のケース)。その際の報道によると、安部一成同大学理事長は「責任持って卒業まで面
倒を見ることが社会的責任」、「学生や保護者には申し訳ない。学生が卒業するまでは
きちっと面倒をみる」と述べています。さらに、これを受けて中山文部科学相は会見で
「教育的な観点に立った再生計画」の必要性に言及しています。

 このような例からも、在学生の契約を遵守することは、私立大学としての社会的責務
USR)であるということが浮き彫りになってきています。
 今回は、教育的観点から争点に踏み込んだ判決が示されることを期待しています。

 
2 公立大学という病:横浜市大時代最後の経験
         
紹介「更新雑記」
     http://myoshida64.hp.infoseek.co.jp/ycu/ycu2004.html

更新雑記
05/9/24
 先般、都立大学前総長である茂木俊彦氏の『都立大学に何が起きたのか』を
読んだ。大学トップとしての立場から都庁による都立大学の解体を記録した貴重なドキ
ュメントであり、大学管理本部と都立大トップとの熾烈な交渉・駆け引きがとても興味
深かった。
 「われわれの上のほうも、おこっているのですよ」(p.40)という大学管理本部長の
言葉を読んだとき、思わず苦笑してしまった。私も人事課長から同じような台詞を聞い
たことがあるからだ。おそらくそれは役人特有の言葉遣い・恫喝なのであろう。
 行政主導で実施された都立大学解体は横浜市大と相似をなしているのであろうが、一
つだけ異なる点がある。それは、大学のトップが行政にとった態度であろう。このこと
は既に当時から言われていたことでもあったが、このブックレットを読んで再認識させ
られた。
 大学管理本部が主導する大学破壊に茂木総長が大学人としての筋を通した声明を出し
て抗ったのに対して、市大の前学長は「市長とは人格と人格のやりとりでまとめた改革
案」(『東京新聞』04420日)などと平然と言い、首長に対して媚びへつらう態度
に徹した。市大前学長のことは「学長という病」に書いたので、ここでは書かない。
 中田のポチとして大学自治を蹂躙した彼が図書館長を勤めるという某市立図書館に、
このブックレットは入るのであろうか。今は遠方にてそれを確認すべき手段もないが、
もし入っていないようであれば、前学長氏宛でこのブックレットを送ってあげたいとい
う気もする。

「公立大学という病」
目次
はじめに
I.
市労連という病
II.
学長という病
III.
役人という病