平安女学院大学守山キャンパス就学権確認訴訟、大阪高裁判決文(全文)(2005.10.4)
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2005年10月04日
平安女学院大学守山キャンパス就学権確認訴訟、大阪高裁判決文(全文)
■平安女学院大学守山キャンパスの存続を守ろうの会 大阪高裁判決文
■平安女学院大学びわ湖守山キャンパス就学権確認訴訟を支援する大学人の会
●大阪高裁判決(全文) PDF版
平安女学院大学就学権確認訴訟、大阪高裁判決文(全文)を以下に掲載する。
第三者(学生)について地域を限定していない場合,どうして「第三者のためにする契約」成立が否定されることになるのだろうか。また,裁判官は,特定地域に大学を誘致する自治体の目的,換言すれば「地域と大学との連携」の目的をどのように理解されているのだろうか。巨額な公的資金を投入して大学を誘致した自治体が,学生に対しその地域で学ぶ権利を保障しないで,どうして誘致した目的を達成できるというのだろうか。もし,この裁判所の判断が正当な理解であるとするならば,守山市は,市役所の前に,「本自治体は立命館守山高校の誘致のために,30数億円の補助金を出したが,それは自治体振興のための手段であって,生徒の学ぶ権利を保障したものでも,それを意図したものでもありません」と大きな看板を出すべきである。もし高校生やその関係者がこれを見たらどのように思うのだろうか。おかしなことを言う自治体だと思わないだろうか。平安女学院大学の学生たちは,大津地裁と大阪高裁から2度にわたってそのように言われたのである。本当にこれが法の言うところの解釈と受け取っていいのだろうか。私にはよく理解できない。
平成17年9月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 印
平成17年(ネ)第1783号 就学権確認等請求控訴事件
(原審 大津地方裁判所平成16年(ワ)第573号)
当審口頭弁論終結日 平成17年7月27日
判 決
控訴人(原告) 川 戸 佳 代
同訴訟代理人弁護士 吉 原 稔
京都市上京区下立売通烏丸西入5町目町172番地の2
被控訴人(被告) 学校法人平安女学院
同代表者理事長 山 岡 景 一 郎
同訴訟代理人弁護士 姫 野 敬 輔
同 松 本 智 之
同 橘 英 樹
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人が,被控訴人の経営する平安女学院大学を卒業するまでの間(卒業最 短修業年限),被控訴人の設置するびわ湖守山キャンパス(以下「守山キャンパス」という。)において就学する権利(教育を受ける権利)を有することを確認する。
3 被控訴人は,控訴人に対し,同卒業までの間,守山キャンパスにおいて就学させよ。
……(中略)……
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,原判決と同様,控訴人の前記確認請求に係る訴えは不適法であり,また,控訴人の前記履行請求は理由がないと判断するものである。
その理由は,原判決「事実及び理由」欄第3「当裁判所の判断」の1及び2(原判決14頁12行目から24貢11行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決22貢12行目及び23頁22行目の各「第三者のためにする契約」の次に「ないし規範設定契約」をそれぞれ加える。
2 当審における控訴人の主張についての判断
(1) 控訴人は,第三者に給付請求権を帰属させる通常の第三者のためにする契約(真正な第三者のためにする契約)と,第三者に権利を帰属させない第三者のためにする契約との区別については,要約者から諾約者への出捐の有無が判断基準であると解されるところ,本件においては,要約者である守山市が補助金を支出し,出捐をしていることからも,第三者のためにする契約の成立が認められるべきである旨主張する。
しかしながら,守山市や滋賀県が,その自治体外からも特段地域を限定せずに募集される個々の学生に対して,守山キャンパスで就学する具体的権利を付与することまでを意図し,それを内容とする第三者のためにする契約を締結する意思があったと解することは困難であり,控訴人主張の第三者のためにする契約か締結されたと認めることはできないことは,原判決の説示するとおりである。
そして,一般に,補助金の交付は一定の行政目的を達成するための手段として行われるものであって,その際に結ばれる協定も,その目的を達成するための手段にすぎず,第三者に対して具体的権利を付与する旨の明示的な約定なしに,そのような権利の付与までを意図しているものとはいえないこと,特に補助金交付の相手方が大学を経営する学校法人である場合には,大学の自治にも配慮する必要があることに照らしても,守山市や滋賀県において第三者のためにする契約を締結する意思を有していたと認めることはできない。
(2) 控訴人は,第三者のためにする契約の成否を判断するにあたり,諾約者である被控訴人の意思こそが重要であるところ,被控訴人は,守山市から補助金を受けて守山キャンパスの創設を約束したのであるから,基本協定書(甲5)によって,守山キャンパスを創り,そこで学生を就学させる意思があったことは明白である旨主張する。
しかしながら,第三者のためにする契約が成立するためには,要約者と諾約者双方の意思の合致が必要であることはいうまでもないところ,前記補助金の交付にあたり,守山市や滋賀県において控訴人主張の第三者のためにする契約を締結する意思があったと認められないことは,前記のとおりであるし,また,同様の理由により,被控訴人についても,個々の学生に対して,守山キャンパスで就学する具体的権利を付与することまでを意図し,それを内容とする第三者のためにする契約を締結する意思があったとは認め難いというべきである。
(3) 控訴人は,電信送金契約についての最高裁昭和43年12月5日第一小法廷判決を引用した上で,従来の判例の判断基準に照らしても,本件を第三者のためにする契約であるとすることについては,何ら論理的な不合理性は見当たらない旨主張する。
しかしながら,同最高裁判決(民集22巻13号2876貢参照)は,電信送金契約について,第三者のためにする契約の成立を否定したものであって,直ちに本件に当てはまるものではないし,また,本件の場合,補助金交付の際の当事者の合理的意思に照らしても,第三者のためにする契約を締結する意思があったとは認め難いことは,前記のとおりであるから,控訴人の上記主張も理由がない。
(4) 控訴人は,本件在学契約は第三者のためにする契約という形式における規範契約(規範設定契約)でもあり,また,第三者のためにする契約の成立が認められない場合でも,規範設定契約は認められるべきである旨主張する。
しかしながら,控訴人主張の第三者のためにする契約が成立したとは認められないこと,補助金の交付にあたり,守山市や滋賀県においても,被控訴人においても,個々の学生に対して,守山キャンパスで就学する具体的権利を付与することまでを意図し,それを内容とする契約を締結する意思があったとは認められないことは,いずれも前記のとおりであるから,控訴人主張の規範契約(規範設定契約)の成立も認められないというべきである。
(5) なお,控訴人は,在学契約には消費者契約法が適用される旨の主張もするが,同主張も,本件において第三者のためにする契約が成立したとは認められないとする上記判断に何ら影響を及ぼすものではなく,控訴人のその余の主張及び当審提出の証拠(甲49ないし53)も,いずれも同判断を左右するものとはいえない。
3 以上によれば,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官 大 和 陽 一 郎
裁判官 菊 池 徹
裁判官 細 島 秀 勝
投稿者 管理者 : 2005年10月04日 01:07