「浮動する日本」 伊豆利彦 日々通信 いまを生きる 第174号(2005.10.10)

 

 

>>日々通信 いまを生きる 第174 20051010日<<

   
浮動する日本

   
優勝に喜んだ阪神ファンは村上旋風におそわれ、驚いてている。
   
スポーツが投機の対象になるのは好ましいことではない。
   
しかし、タイガースが阪神電車の名前を背負ってたたかうのも好ましい
   
ことではない。
   
昔は大阪タイガースだった。
   
<阪神>は地名でもあるので、それほど気にならなかったが、<読売巨
   
人軍>とか<ヤクルト・スワローズ><ソフトバンク・ホークス>など
   
と企業名を背負ってたたかうのは面白くない。
   
やはり、<東京巨人軍>とか<福岡ホークス>などと所属都市名でたた
   
かう方が地元との結びつきを強めのではないか。
   
阪神電車がタイガースの発展のために投資したのはたしかだが、いまは
   
チームも黒字になったことだし、阪神電車の私有物という感じから解放
   
されると思う。
   
多くのチームが赤字だからといわれるが、親会社から独立して企業努力
   
をすることが、チームのためにも必要なのではないか。

   
阪神の問題はあらためて郵政民営化の問題を考えさせる。
   
民営化になれば、株式が買い占められて○○ファンドの所有になるとい
   
うこともあるだろう。

   
<官から民へ><大きな政府から小さな政府へ>ということがいいこと
   
だというコイズミの主張がまるで疑いもなく民主党にまで受けいれられ
   
ているが、これは、やはり疑ってみる必要があると思う。

   
学校教育の現場では国とか愛国心とかが強調されて、日の丸君が代問題
   
では処分さえ行われている。

   
これは<官から民へ>という主張と矛盾しないのだろうか。
   
<官から民へ><小さな政府>の主張は教育予算や社会福祉の予算の削
   
減をよび、学童保育の縮小や学校給食の民間移行が問題になっている。

   
いまのままでいいとは思えないが、予算を縮小したり、民間移行したり
   
すればよくなるとは思えない。改革の問題が、<官から民へ>の問題に
   
すり替えられ、当の責任者である政府の責任が問われなくなっている。
   
これも一種のペテンだと思う。

   
私も年をとって自分の力では生きられなくる。
   
当然、病院や介護施設のお世話にならなければならないが、やはり、国
   
や地方政府の保障がなければ不安だ。
   
民の経営なら安心とはどうしても思えない。

   
一方で国家主義を強要し、軍備の増強をしながら、一方で国家に対する
   
不信をあおっている。
   
そしてマスメディアも国民もそれを疑わない。

   
国家というものは元来そういうインチキなものかも知れない。
   
それにしてもいまのマスメディアは情けない。
   
時の流れに押し流されるばかりだ。
   
それはいまのマスメディアの問題にすぎないのではなく、昭和以来の日
   
本社会の基本的問題なのかも知れない。

   
かつて、マルクス主義が社会を風靡していたことがある。
   
昭和の初年である。
   
長い不況がつづく暗い時代だった。
   
昭和と呼ばれる時代がはじまって間もなく、芥川龍之介は自殺した。
   
資本主義の暗黒を打開するものは社会主義だというのが常識だった。
   
マルクスボーイやマルクスガールが資本論片手に銀座の街を闊歩したという。
   
大きな労働争議や小作争議が苛烈な弾圧に抗してたたかわれた。
   
この危機の打開を戦争に求める勢力は、柳条湖事件で満州事変に突入した。
   
非常時がいわれ、国家主義が強調される時るようになった。
   
戦争がはじまると、弾圧は強化され、文化団体までも解散させられ。
   
大陸への進出が叫ばれ、夢の時代、ロマン主義の時代の呼び声が高まった。
   
西洋主義から日本主義への転換が思想・文化の各面で強調され、<マルクスの
   
眼鏡をはずせ>と言われた。
   
転向した若者は<青白きインテリ>とさげすまれ、頽廃にのめりこんだ。
   
そして、蘆溝橋事件を契機に、日本は大陸全土にその戦線を拡大した。
   
日本軍は連戦連勝だった。皇軍とか聖戦とか称したが、戦争を終結することが
   
出来ず、残敵掃討と称して中国人民の殺戮と生活破壊ををくりかえし、ますま
   
す泥沼にのめりこんで、国力を消耗した。
   
いつ終るとも知れぬ長期戦に疲弊し、物資不足に苦しむ日本では、国民精神総
   
動員が叫ばれ、贅沢は敵だの声が国民生活をおびやかした。
   
物資の統制と配給の時代がはじまり、政党が解散し大政翼賛会に統合される新
   
体制の時代が来た。
   
そして、日本は独伊と三国同盟を結び、仏印に進駐支配し、やがて対米英戦争
   
に突入する。
   
米鬼英鬼といわれ、モボモガが闊歩した銀座街頭に<贅沢は敵だ>の立て看板
   
がたち、婦人会会員が道行く女性の長い袂を切ったという。
   
必勝の信念、堅忍持久、一億一心、本土決戦等々のスローガンが叫ばれ、そし
   
て大都市焦土爆撃、原爆投下となり、日本は降伏した。
   
戦後の日本に氾濫したのは軍閥打倒、アメリカ万歳、民主主義万歳だ。

   
あれから60年、しかし、いまの日本もたちまち過去になっていくのだろう。日
   
本はどこへ行くか。
   
あらためて漱石の貯めそう思想を思う。
   
「私の個人主義」の言葉を新掲示板<漱石の広場>に記載しておいた。
   
興味のある方はご覧ください。

   
秋雨が降りつづき、物思うことの多い秋である。
   
パキスタン・インド地方に大地震があった。
   
地震、ハリケーン、津波、想像もできなかったような災害が相次ぐ。
   
いま、世界はどこへ行くか。

   
皆さん、お体に気をつけてお過ごしください。

   
    伊豆利彦 http://homepage2.nifty.com/tizu