ワイド特集 財界直結の審議会政治 小泉「改革」の司令塔 経済財政諮問会議 「しんぶん赤旗」(2005.10.30)

 

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2005年10月30日(日)「しんぶん赤旗」

ワイド特集

財界直結の審議会政治 小泉「改革」の司令塔

経済財政諮問会議


 

■反対許さぬトップダウン式

 小泉内閣の財界直結政治は目に余るものがあります。舞台になっているのは各種の審議会。なかでも際立っているのが経済財政諮問会議です。

■まるで国策決定機関 20年来の野望を実現

 金融・財政・税制から労働、医療、福祉そして教育まで広範な分野にわたって強者を育成し弱者を淘汰(とうた)するのが小泉「構造改革」。片や財界は、国家財政、行政機構をより大企業に都合のよいものに改造することがかねてからの野望です。経済財政諮問会議は、その舞台装置。「国のあり方を変えるための司令塔」(財界人)であり、反対を許さないトップダウン方式が特徴です。

 諮問会議は、二〇〇一年の中央省庁再編の目玉として内閣府に設置された首相の諮問機関です。発足当初から「日本経済財政政策のかじ取り」(森前首相)役として位置付けられました。

 メンバーは首相および十人の議員に限定されています。民間議員四人のうち財界・大企業の代表者が二人。日本経団連の奥田碩会長(トヨタ自動車会長)と牛尾治朗ウシオ電機会長(社会経済生産性本部会長・元経済同友会代表幹事)が参加。諮問会議の議論を主導しています。

 牛尾氏は、諮問会議が発足した最初の二〇〇一年一月六日の会議で、その意義を「経済の実態を常に官邸に直接知ってもらうということ」と語っています。これにたいし小泉首相は、国会も行政府も押さえ込む国策決定機関であるかのように扱っています。

 牛尾氏は「経済財政諮問会議で予算の編成の基本方針を決めることには、総合的に考えるということと、時代の変化に即応した予算にするということの二つの意味があると思います。着眼点は土光臨調時代とまったく同じです」(内閣府編集協力の月刊『ESP』〇一年二月号)と指摘しています。

 ここで紹介されている「土光臨調」とは一九八一年に設置された臨時行政調査会のこと。会長に土光敏夫経団連名誉会長(当時)が就任し、この名で知られています。当時、財界の全面的支援を受け財界臨調ともいわれました。

 牛尾氏は「土光臨調」の専門委員でもありました。当時、「二年間本格的に取り組み、三千時間ぐらい働きました」といいます。「土光臨調」の流れを受け継いだ諮問会議は、二十年来の財界・大企業の野望なのです。

「その背景にある思想は、官主導の行政から民間主導の行政に変えていく」(同誌、牛尾氏)というもの。まさに民間大企業主導の政治をめざすものです。

■「4人会」で方向議論 とりくみの監視役も

 諮問会議は、年に三十回から四十回程度開かれています。

 諮問会議の議論を主導しているのが、いわゆる「民間議員ペーパー」と呼ばれるものです。会議発足当初こそ個人名、あるいは二人連名で提出されていました。最近では民間議員四人の連名方式が定着しています。重要政策課題と「改革」の方向性を示したもので、会議ごとに発表されています。

 霞が関の合同庁舎四号館五階には、「経済財政諮問会議議員室」が設けられ、「民間議員ペーパー」を作成するための「四人会」と呼ばれる非公開の打ち合わせが開かれています。回数は月によって違うものの二回から三回。学者二人を前に奥田氏と牛尾氏という日本の財界・大企業の代表が互いに協議し、政府が実行すべき「改革」のテーマを決めているのです。

 民間議員は、政策実現の監視役でもあります。今年四月七日には、「『基本方針二〇〇四』の総点検」を発表しました。これまでに提示された百四十項目余りの課題について、取り組み状況をチェックしています。

■骨太方針から予算まで審議

■メンバー

 <議長>

 小泉純一郎首相

 <議員>

 細田博之官房長官

 竹中平蔵経済財政担当相

 麻生太郎総務相

 谷垣禎一財務相

 中川昭一経済産業相

 福井俊彦日銀総裁

 <民間議員>

 奥田碩トヨタ自動車会長(日本経団連会長)

 牛尾治朗ウシオ電機会長(社会経済生産性本部会長・元経済同友会代表幹事)

 本間正明大阪大学教授

 吉川洋東京大学教授

■構成と役割

 経済財政諮問会議は、首相の「リーダーシップを十全に発揮することを目的」(内閣府)として設置された合議制の機関です。首相の諮問にたいして「経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針その他の経済財政政策に関する重要事項について調査審議」(内閣府設置法)することが役割です。議長役は首相があたります。

 民間議員の人数を議員数の4割以上確保することが法律で定められています。民間議員は、奥田碩トヨタ自動車会長(日本経団連会長)、牛尾治朗ウシオ電機会長(元経済同友会代表幹事)、本間正明大阪大学教授、吉川洋東京大学教授の4氏です。首相が任命します。任期は2年で再任可。民間議員は非常勤です。発足当初からのメンバーでかわっていないのはこの民間議員4人だけです。

 諮問会議では、年初に中期的展望である経済財政運営の「改革と展望」を示し、毎年6月には「構造改革」の基本方針を示す「骨太の方針」を発表します。さらに年末には次年度の「予算編成の基本方針」を示します。

■最大の既得権益

 ○…小泉「構造改革」は、従来の大企業中心の政治を極端に進める、財界直結の政治です。小泉首相は「既得権益の打破」を声高に叫びますが、財界からの献金を受け取り、その見返りに財界の要求を受け入れるという財界の「既得権益」を打破する考えはありません。

 ○…国、地方を合わせると六兆円にも迫る道路特定財源の一般財源化は、社会保障の財源確保という点からみても、避けて通れない課題。これにたいし、トヨタ自動車の会長でもある奥田議員は今年十月二十一日の諮問会議で次のように発言しました。

 「(業界団体を回って)道路についてまだやるべき問題があるか聞いてきた。首都圏の三環状線整備の前倒しは絶対にやらなければならない。路上駐車の対策にしてもIT技術を利用してやらなければならない。密集市街地の整備改善、橋梁(きょうりょう)や高速道路の耐震補強の問題など、まだ道路にはいろいろとある」

 ○…自動車メーカーにとって道路整備は自社のもうけに直結するものです。竹中経済財政担当相は「道路についていろいろ問題があるということも忘れてはならない」と応じました。

■政策はこうして決まった

■大企業減税・庶民増税 「ワンセットで」と迫る

 大企業への減税と庶民増税を実現させたのは二〇〇二年の経済財政諮問会議の場でした。

 民間議員は四人連名で「予算の全体像」(同年七月二十六日)を提案。「一兆円の法人の税負担軽減」を求めました。牛尾議員は「収益が上がっている企業は本当にいい企業なのだから、そこに減税をして、ますます活力を」と求めました。

 これに塩川正十郎財務相(当時)が「そのかわりに増税でこれを穴埋めするということをワンセットにして決めてほしい」と、大企業減税の穴埋めのため国民への負担増を要求しました。

 小泉首相は、「一兆円を超える規模の先行減税」(同年八月六日)を宣言。これを受け、民間議員は「税制改革のあり方(規模・骨格)について」(同年九月二十日)を公表しました。この日の会議で平沼赳夫経産相(当時)は、「研究開発減税やIT(情報技術)投資減税などで思い切って一兆円を上回るぐらいの規模でやったらどうか」と発言し、財界・大企業の応援団ぶりを発揮します。

 結局、〇三年度の税制「改正」で大企業のための研究開発減税(五千八百八十億円)とIT投資を含む設備投資減税(四千四百五十億円)が決まりました。

 一方、消費税の免税点を三千万円から一千万円に引き下げるなど中小企業に対する特例措置の見直しで五千四十億円の増税が強行され、酒税とたばこ税増税(千八百七十億円)も決まりました。さらに、専業主婦がいる世帯に配慮した配偶者特別控除も廃止(四千七百九十億円増税)されました。

■郵政民営化 やるという前提で議論

 郵便、貯金、簡保をばらばらにし庶民への小口金融サービスを切り捨てる郵政民営化。これも諮問会議で集中的に議論してきた問題です。政府内部や自民党内部にも民営化への異論が渦巻いていた昨年の八月二日の諮問会議。こんなやりとりがありました。

 牛尾議員 各省から資料の中には、民営化に反対だという前提をにおわした資料がいっぱい出てくる。それは却下するしかしょうがない。(民営化を)やるんだという前提で、議論することに徹しなければ会議は進まない

 小泉議長 「反対だ」という者がいるが、あまり気にする必要はない

 諮問会議は、「反対を封殺するための会議」という性格をあからさまに示しました。

 「郵政民営化の基本方針」(〇四年九月十日)を閣議決定する直前に開いた諮問会議(九月七日)では、竹中平蔵経済財政担当相が「今日は役所の方もいらっしゃるのでお願いしておくが、この場で合意していないことを直せ等言うことはルール違反」と行政府に念を押しました。

 その結果できあがった基本方針は(1)郵政公社を四つの機能に分社化すること(2)郵貯、簡保会社には、全国一律サービスを義務付けないこと(3)貯金には政府保証を廃止すること―をうたいました。

■社会保障・消費税 増税と負担増に道開く

 「社会保障というのは非常に大事な話。うまく整理しないと短期的にも中期的にも日本というのは問題になる」。日本経団連会長(トヨタ自動車会長)の奥田議員は、諮問会議が発足した第一回会合から社会保障問題を取り上げていました。

 奥田議員の「うまく整理する」というのは、国民の権利として、安心できる社会保障制度をつくるというものではありません。目的は「企業負担はできる限り抑制し、企業の活力を阻害しない制度」(〇三年四月一日の会議での発言)づくりです。

 しかも日本経団連は、社会保障の財源として消費税増税を求めています。

 奥田議員が〇二年の十二月五日の会議で「だれも言わないから言うが、消費税が頭にあるのではないか」とつめよると、小泉首相は、「消費税がいいのか、ほかの税がいいのかということになる。消費税が反対なら、年金の議論はできない」と応じました。

 さらに奥田議員は「年金給付の抑制、医療・介護を含めた社会保障給付全体の抑制」(〇三年四月十六日)と強調。消費税増税と国民負担増に道を開く司令塔の役割を果たしています。

■審議会 大企業から メンバーにずらり  

 審議会などかけもつ 奥田碩・日本経団連会長

 ・経済財政諮問会議 議員

 ・産業構造審議会  会長

 ・交通政策審議会  会長

■政府の主な審議会等に参加している財界・大企業の代表者

 ●規制改革・民間開放推進会議

 <議長>

 宮内 義彦 オリックス取締役兼代表執行役会長・グループCEO

 <統括主査>

 草刈 隆郎 日本郵船代表取締役会長

 <委員>

 安居 祥策 帝人相談役

 ●総合科学技術会議

 <議員>

 柘植 綾夫 元三菱重工業代表取締役・常務取締役

 吉野 浩行 本田技研工業取締役相談役

 ●財政制度等審議会

 <会長代理>

 西室 泰三 東京証券取引所取締役会長(日本経団連評議員会副議長)

 <委員>

 井上 礼之 ダイキン工業代表取締役会長兼CEO(関経連副会長)

 河野 栄子 リクルート特別顧問

 柴田 昌治 日本ガイシ代表取締役会長(日本経団連副会長)

 立石 信雄 オムロン相談役

 宮原 賢次 住友商事代表取締役会長(日本経団連副会長)

 ●税制調査会

 <委員>

 田中 直毅 経済評論家(21世紀政策研究所理事長=日本経団連のシンクタンク)

 丹羽宇一郎 伊藤忠商事取締役会長

 ●産業構造審議会

 <会長>

 奥田 碩  日本経団連会長

 <委員>

 西室 泰三 東芝相談役(日本経団連評議員会副議長)

 河野 栄子 リクルート特別顧問

 佐々木幹夫 日本貿易会会長・三菱商事取締役会長

 内永ゆか子 日本アイ・ビー・エム取締役専務執行役員

 寺田千代乃 アートコーポレーション代表取締役社長(関経連副会長)

 田中 太郎 近鉄百貨店相談役

 大橋 光夫 日本化学工業協会会長・昭和電工取締役会長

 ●社会保障審議会

 <委員>

 矢野 弘典 日本経団連専務理事

 ●金融審議会

 <会長代理>

 関  哲夫 新日本製鉄常任監査役

 <委員>

 島崎 憲明 住友商事代表取締役専務執行役員

 田中 直毅 21世紀政策研究所理事長

 ●国土審議会

 <会長>

 秋山 喜久 関西電力代表取締役会長(関経連会長)

 <委員>

 千速 晃  新日本製鉄代表取締役会長

 ●交通政策審議会

 <会長>

 奥田 碩  日本経団連会長

 <委員>

 三村 明夫 日本鉄鋼連盟会長(日本経団連副会長)

 ●食料・農業・農村政策審議会

 <委員>

 米倉 弘昌 住友化学社長(日本経団連副会長)