郵政持ち株会社社長に前銀行業界トップ 誰のための民営化か鮮明に 「しんぶん赤旗」(2005.11.13)

 

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2005年11月13日(日)「しんぶん赤旗」

郵政持ち株会社社長に前銀行業界トップ

誰のための民営化か鮮明に


 政府は十一日、二〇〇七年十月の郵政民営化で発足する持ち株会社「日本郵政株式会社」の初代社長に、三井住友銀行の前頭取で、全国銀行協会(全銀協)前会長の西川善文氏をあてることを内定しました。郵政民営化のかなめとなる持ち株会社の設立の発起人にはすでに、奥田碩日本経団連会長、北城恪太郎経済同友会代表幹事ら四人の財界代表が内定しており、銀行業界有力者のトップ起用で、だれのための民営化かという構図が鮮明になりました。

■「リスクとれ」と早くも“剛腕”

 長年にわたり郵政民営化を要求してきた全銀協。その会長任期中の西川氏は、郵便貯金の目的である「簡易で確実な少額貯蓄手段の提供」という機能を国営の機関が担う必要性を見直す時期だと主張。「郵貯の規模の縮小」や「公正な競争条件の確保」などを業界代表として強く求めてきました。

 一九九七年から務めた旧住友銀頭取時代には、旧さくら銀行との経営統合や不良債権処理にあたり、労働者減らし・リストラでも“剛腕”をふるってきました。

 その“剛腕”ぶりの一端が郵政のかじ取りにもさっそく表れました。

 「リスクが取れるか取れないかが、民営化会社と公社との違いだ。リスクをとって成功したものが利益を得る」

 「民営化会社にふさわしいビジネスモデルをもった競争力のある銀行にしたい」

 十一日の会見でこうのべた西川氏。“もうけのためなら何でもやる”と元本割れの危険のある金融商品販売など新たな事業にも参入するのが狙いです。

 この収益優先の姿勢には、国民の虎の子である郵便貯金を危険にさらし、国民サービスを低下させることへの懸念を呼び起こさずにはいられません。


■世界最大手の投資銀行とも“深い仲”

 郵政民営化で誕生する郵政持ち株会社に就任することになった西川善文三井住友銀行前頭取は、市場関係者の間では「出身の住友銀行の合理主義を体現し、旧住友銀行と旧さくら銀行合併でその腕力を発揮した人物」と評価されています。

 西川氏は、一九六一年に住友銀行に入行。企画部を経て八六年に取締役、九七年に頭取に就任しました。その後、二度の全国銀行協会会長を経験しています。「カリスマ・バンカー」として一目置かれる存在感を発揮してきました。

 また、世界最大級の投資銀行ゴールドマン・サックスとは「深い仲」。二〇〇三年、三井住友フィナンシャルグループが資本不足を補うためゴールドマン・サックスに千五百三億円の増資を引き受けてもらったことがあります。年間配当率は4・5%。当時、市場関係者からは「ゴールドマンに有利」との声があがりました。西川氏は、ゴールドマン・サックスの日本のアドバイザーも務め、同証券東京支店の持田昌典社長とも「親しい間柄」(金融ジャーナリスト)といわれています。

 西川氏は、国会に参考人として呼ばれたさい「外資の先進性でありますとか革新的な手法については評価すべき点はある」(〇二年十二月三日の参院財政金融委員会)と評価する一方、「外資が(銀行の)経営権を取得した場合には、わが国の経済あるいは国民経済的な観点からして、銀行に期待される行動が取れない可能性がある」と、外資の行動を熟知した発言をおこなっていました。

 一方、日本郵政公社はこの十月、元本割れの危険がある投資信託の郵便局での取り扱いを開始しています。三つの商品のうち、西川氏と「深い仲」にあるゴールドマン・サックスも参入しています。

■内定した持ち株会社(日本郵政株式会社)の経営陣

 社長   ○西川善文三井住友銀行前頭取・全国銀行協会前会長

 取締役  ○団宏明日本郵政公社副総裁

 同    ○高木祥吉郵政民営化推進室副室長

 設立委員

 ○奥田碩日本経団連会長(トヨタ自動車会長)

 ○北城恪太郎経済同友会代表幹事(日本IBM会長)

 ○山口信夫日本商工会議所会頭(旭化成会長)

 ○秋山喜久関西経済連合会会長(関西電力会長)

 ○森下洋一郵政行政審議会会長(松下電器会長、日本経団連評議会議長)

 ○貝塚啓明金融審議会会長(東京大学名誉教授)

 ○生田正治日本郵政公社総裁(元商船三井会長、元経済同友会副代表幹事)

 (このほか、関係省庁の事務次官らも委員に任命される予定です)


■米国保険業界も圧力

 米国保険業界は、簡易保険の優遇措置の全廃など、日本の保険市場での「同じ競争条件」を求め続けてきました。もうけの邪魔をするなという要求です。

 日米両国政府が十一月二日発表した日米間の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」に関する報告書は、成立した郵政民営化法の特徴を報告。日本郵政公社を貯金、保険など機能ごとに株式会社に分割し、民間の銀行や保険会社など競合会社との「対等な競争条件を担保する手段を講じる」内容となっていることを紹介。業務拡大や新商品も民間の銀行や保険会社との「対等な競争条件」を考慮した審査を行うとしています。

 いずれも、米日金融業界が求めてきた内容です。米国保険業界は、法案づくりにも直接関与し、成立後も注文をつけています。

 郵政民営化準備室は、米国の政府、民間の関係者と十八回にわたって会合を開き、うち五回は米国の保険関係者だったことが国会審議のなかでも明らかになっています。

 同報告書は、同準備室などとの意見交換を「米国もこれを歓迎してきた」とし、総務省や金融庁は今後も民間利害関係者との「意見交換を行うための有意義な機会を提供する」としています。

 全米保険協会のキーティング会長は同日、声明を発表し、「まだ十分ではない。日本は依然として民間との公正な競争が実現するまで(郵政)公社が新商品を投入しないと確約していない」とし、日本政府と米保険業界が定期的に協議する場を求めています。