『日米万能』 冷めるアジア 日韓首脳会談 「東京新聞」核心(2005.11.19)

 

http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20051119/mng_____kakushin000.shtml

 

 

『日米万能』 冷めるアジア

日韓首脳会談

 十八日行われた日韓首脳会談。小泉純一郎首相は自らの靖国神社参拝をめぐり、韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領から厳しく追及され、釈明に追われた。首相は先の日米首脳会談で、盟友・ブッシュ米大統領に、日米同盟関係が強くなればなるほど、中韓両国などアジア近隣諸国との関係はうまくいくと自説を披露したが、そうした楽観論は早くも打ち砕かれた形だ。(韓国南部の釜山で、政治部・高山晶一=首相同行)

 ■自 信

 「(日韓両国は)共通の価値観を持ち、両国とも米国と同盟関係にある。こういう国は世界にあまりない」

 「ブッシュ大統領と会談し、日米韓三カ国が一層緊密に対応していこうという話をした」

 首相はこの日の会談で、二日前に京都迎賓館で会談したブッシュ大統領や、日韓両国の米国との同盟関係の話をしきりに持ち出し、日韓のきずなの強さを訴えた。

 韓国政府は首相の靖国参拝に猛反発しており、首相サイドは、十月十七日の参拝から一カ月後の今回の日韓首脳会談でも、韓国側から追及される予想はしていた。

 ただ、靖国参拝は首相の持論であり、韓国側の言い分を素直に受け入れるわけにもいかない。

 双方の妥協点が見つからないまま、首相は韓国側の矛先を少しでも鈍らせようと持ち出したのが、米国との同盟関係だった。

 首相は十六日の日米首脳会談で「日米関係が強いからこそ、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)すべての国とよい関係が維持される」と大見えを切り、それを早速、試してみたのだ。

 「(韓国の理解は)得られると思います。長い目で見なきゃいけないと」

 首相は日本出発の際、記者団にこう自信を示していた。

 ■誤 算

 しかし、現実はそんなに甘くはなかった。会談前半は、首相が文化交流の推進などを呼び掛けたのに対し、盧大統領が賛意を示すなど和やかなムードで進んでいた。

 しかし、大統領が首相の靖国参拝問題に触れ始めると、雰囲気は一変。

 大統領は「参拝は韓国への挑戦」「日本は過去に戻るのではないかと懸念がある」などと、厳しい口調で首相を追及。歴史教科書や竹島問題まで持ち出して、これら三つの問題の解決を迫った。

 これに対し、首相は「二度と戦争をしないという決意から参拝している」「戦争の美化というのは誤解だ」などと防戦一方。懸案となっている大統領の十二月の訪日についても切り出せないままだった。

 韓国以上に厳しい対日姿勢をとっているのは、「反靖国参拝」で韓国と共同歩調をとる中国だ。

 日本側は中国に対し、今回のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の期間中、首相と胡錦濤国家主席との日中首脳会談開催を呼びかけているが、中国側は拒否する姿勢を崩しておらず、実現の可能性は低い。

 首相はAPEC首脳会議の全体会議でも「日米友好は確固としたものになっており、日中友好も大事だ」と中国側にメッセージを送ってみたものの、応じる気配はない。

 米国との関係さえ良ければいいと言わんばかりの首相の言い方が、中韓両国の反発を増幅させた可能性も否定できない。

 年内にはマレーシアでの東アジアサミットや、実現は難しくなったが、盧大統領の訪日が予定されている。そうした機会に少しでも前進させなければ、来年九月までの首相任期中に、近隣外交をめぐる「失点」を取り戻すのは難しくなる。

■歴史問題妥協せず 韓国大統領、訪日不透明に

 韓国の盧武鉉大統領は小泉首相との会談で、靖国参拝、歴史教科書、竹島(韓国名・独島)問題を例示し、「日本の立場は受け入れられない」と明言した。今年、日韓関係冷却化の要因となった歴史問題の三つの課題で妥協せず、是正を求めたことで、年内に予定される大統領の訪日はさらに不透明になった。

 盧大統領はAPEC期間中に、歴史認識について再三言及した。中国の胡錦濤主席との会談後の記者会見では、「東アジア地域・国家の協力と発展に、否定的な影響を与えるべきではないとの認識で一致した」と述べた。名指しこそ避けたが、小泉首相の靖国参拝を意識した発言だ。会談後の会見は事前に両国が内容のすりあわせをするのが通例であり、胡主席も大統領の発言に理解を示したことになる。

 盧大統領は米韓首脳会談後の昼食会でも、「朝鮮半島と東アジアでの侵略の歴史と、歴史認識問題について詳しく説明した」(韓国大統領府)という。日米両国が同盟関係を強化する動きを意識し、ブッシュ大統領に、韓国の置かれている立場と不満を説明したとみられる。(釜山・山本勇二)