12月8日におもう 伊豆利彦 「日々通信 いまを生きる」 第184号(2005.12.8)

 

 

        >>日々通信 いまを生きる 第184 2005128日<<

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8日におもう

     
今年もまた128日がやって来た。
     
私たちの世代にとって、77日、815日とともに忘れることができな
     
い日だ。
     
しかし、いまの若い人たちにとってはあまり関心がないという。
     
過去は忘れられる。
     
いつまでも過去にこだわるべきではないという。
     
しかし災難は忘れた頃にやってくる。

     
この数年来、918日について考えることが多くなった。
     
そして918日について考えることは220日について考えることだ。

     
念のために書いておけば、918日は、1931年、柳条湖事件を契機に満
     
州事変が始められた日だ。

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20日は、1933年、小林多喜二が殺された日である。
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7日は、1937年、蘆溝橋事件をきっかけに対中国侵略戦争が全面化し
     
ていった日だ。

     
そして128日は、1941年、中国戦争に行きづまって対米英戦争に踏み
     
込んだ日、815日は、1945年、日本政府がポツダム宣言を受諾し、無
     
条件降伏した日だ。

     
中国に対する戦争と米英に対する戦争では、その性質がちがう。日本の
     
対中国戦争は侵略戦争だが、対米英戦争は先進帝国主義国と後進帝国主
     
義国のアジア支配をめぐる戦争だった。

     
米英は元来アジアを侵略して発展した国で、あとから出てきた日本が中
     
国を独占支配して自国の既得権益を侵害するのに反対して、中国を支援
     
し、ついには対日経済封鎖にふみきったのだ。

     
日本は追い詰められて米英蘭に宣戦布告して、真珠湾を奇襲攻撃し、フ
     
ィリピン、インドネシア、マレー半島へと攻め込んだ。

     
日本が128日を忘れてもアメリカはそれを忘れない。リメンバー パ
     
ールハーバーという言葉はいまも生きている。

     
日本がこのような、いまから考えれば無謀としかいいようのない戦争を
     
はじめた背景には、ヒトラーのドイツがヨーロッパを席捲していたとい
     
う世界情勢がある。

     
フランスがドイツに降伏したことを理由に仏印に進駐し、米英との決定
     
的対立を招き、経済封鎖を招いた。

     
考えてみれば、昭和初年までは日本は親英派が政権を握っていたのだ。
     
これが原敬、浜口雄幸の襲撃事件、515226などの反乱事件を経て、
     
軍部独裁が実現し、満州事変から対中国全面戦争を、そして対米英の世
     
界戦争に発展する。

     
大正デモクラシーの時代から、昭和初年の社会主義とプロレタリア文学
     
全盛期を経て、ファッショの時代へと移行する。

     
歴史はあまりにも急激に変化していった。128日は815日への道だっ
     
た。いま思えば、あまりにも当然な道筋のように思えるが、その時代を
     
生きた人々にとっては、それほど自明のことではなかったのだろう。

     
権力による思想弾圧とか、言論の抑圧、皇国主義教育とか、いろいろに
     
言うが、日本国民自身の問題として、それに、自ら責任を負うものとし
     
て、なぜ、そういうことになったかを明らかにする必要があると思う。

     
軍部がわるい、国民は犠牲者だというだけではすまないのではないか。
     
なぜ、軍部がそうなったのかも問われなければならないし、なぜ、国民
     
がそれを許したかも問われなければならない。
     
国民の多数は軍部を支持したのではないか。
     
もちろん、軍部に反対してたたかった人々もいる。
     
しかし、それは少数だった。
     
彼らは一時は多数であるかに見えたが、結局は少数で、追い詰められ、
     
孤立化して、ついに壊滅させられた。
     
このことの意味を日本国民自身の責任として明らかにする必要がある。

     
戦後は、日本は米国に従属して経済発展の道をたどった。平和憲法に守
     
られて、日本を戦争に動員しようとするアメリカの要求にうちかって平
     
和を守り、経済的繁栄を実現した。

     
しかし、いま、日本は急速に変貌しようとしている。
     
その背景にはアメリカのアフガン・イラクの戦争があるのだろう。
     
孤立するアメリカは日本をほとんど唯一の信頼できる同盟国に仕立て上
     
げようとしている。
     
そして小泉以下はそれに応ずる構えだ。
     
アメリカかの支持さえあればすべてはうまく行くと信じているらしい時
     
代錯誤の連中は、日本を滅ぼす日米同盟の強化に熱中している。

     
日米軍事体制の再編成は日本が米軍の命令で世界のどこへでも出て行き、
     
米軍の「正義」の戦争のために血を流す体制だ。そのために憲法改訂が
     
急がれている。

     
日本は歴史の転換点に立っている。しかし、国民の多くはその重大さを
     
感じていないのではないか。
     
あの時代の私たちがただ夢中で、その日その日の情況に押し流されたよ
     
うに、ついに我が身に直接火の粉がふりかかってくるまでは、歴史とい
     
うものを自分との関連で意識することがない場合が多いのではないか。

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8日についての過去の記事

     
「日々通信」第83 200312月12 63年前の128
      http://homepage2.nifty.com/tizu/tusin/tu@83.htm

     
「日々通信」第124号 200412月8日 4度めの12月8日
      http://homepage2.nifty.com/tizu/tusin/tu@124htm.htm

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月になって急に寒くなってきた。
     
耐震偽造問題は現代日本の暗部を露出し、人々を大きな不安に陥れてい
     
る。
     
親掲示板2、ニュースへのコメントに感想を述べた。
     
まさに不安のうちに、この不安を逃れる術もなく生きていくのが現代人
     
の運命なのだろう。
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8日をむかえていっそう強くそれを感ずる。
     
そういういま、中国で小林多喜二の国際シンポジウムを開いた意味を思
     
う。

     
日本の危機がますますはっきりしてきたいま、小林多喜二は、夏目漱石
     
や広津和郎とともに、また、新しい意味をもってよみがえる。

     
この不安の日々を不安に押しつぶされずに生きなければならない。
     
皆さん、元気でお過ごしください。

     
伊豆利彦 http://homepage2.nifty.com/tizu