「新年の課題」 伊豆利彦 日々通信 いまを生きる 第189号(2006.1.7)

 

 

  >>日々通信 いまを生きる 第189 2006年1月7日<<

       
新年の課題

       
年が明けると、ポスト小泉でマスメディアはもちきりだ。国民参加型
       
の総裁選出方法をなどということまで言われて、耐震強度偽装事件も
       
靖国問題もかすんでしまった。

       
だれが後継者になろうと、小泉の政策を受け継ぐのであれば大差はな
       
い。後継者問題ではなくて、小泉政権がなにをやったかが問題なので
       
はないか。国民の目を後継者問題に集中させて、小泉批判が弱まって
       
いる。これではこの前の選挙と同じで自民の圧勝は目に見えているよ
       
うな気がする。

       
後継者は誰かということに競馬の予想のようなことをかきたてるマス
       
コミは、自民の圧勝のために奮闘していることになる。

       
耐震強度偽装事件はいまもマンション居住者の不安をかきたてている
       
が、この事件の根源にはアメリカの要求で実施された建築基準の改訂
       
があるという。

       
毎年10月にアメリカ・通商代表部から示される「年次改革要望書」に
       
ついてはこれまでにも聞いていたが、関岡英之氏の「拒否できない日
       
アメリカの日本改造が進んでいる」(文春新書)でその実情を知
       
った。小泉首相はまさにアメリカの要求に忠実に、日本の経済機構を
       
アメリカの基準にしたがわせ、アメリカの資本が自由に日本を支配す
       
ることができるようにするために、いまの政府の一枚看板である規制
       
緩和、構造改革をすすめているのであることを同書は明快に指摘して
       
いる。

       
アメリカの木材業者の日本市場参入のために、従来の基準を改訂せよ
       
という要求が出され、それに従って建築基準が最低基準を定めるもの
       
となり、従来の仕様基準を定めたものからからアメリカ型の機能基準
       
を満たせばいいという方式に変わった。いわゆる規制緩和、構造改革
       
である。検査機関も官から民へが実現した。この建築基準改訂が耐震
       
強度偽装事件の根柢にあることは明らかである。

       
郵政改革も司法改革もいずれもこの「年次改革要望書」にもとづくも
       
のであり、こうして日本の対米従属は骨の髄までにおよぶことになる。
       
日本が明治以来つくり上げてきた基準や方式がアメリカ式に作り替え
       
られる。その矛盾、混乱の隙間に耐震強度偽装事件というような犯罪
       
も発生し、政府はこれに対してただ国民の税金を注ぎこんで補償する
       
というしか対策を持たないのだ。この事件は小泉改革なるものの実体
       
と危うさを白日の下にさらしたのだ。

       
日米軍事再編が日本が米軍との一体化をすすめ、日本の軍事力を強化
       
して、アメリカの命令一下、世界のどこへでも出動して、米軍のかわ
       
りに血を流す体制の確立をめざすもので、憲法改定によって完全なも
       
のになることは次第に明らかになってきた。

       
この対米従属は小泉内閣になってきわめて急速に推進されたのであり、
       
これをマスコミは支援してきた。
       
長期にわたる不況、リストラにうちひしがれ、時代のの閉塞感に苦し
       
む国民は「改革」という言葉にすがりつき、実行力があるという小泉
       
内閣を支持した。郵政改革に賛成か反対を問う選挙だと叫んで、反対
       
派を徹底的に排除した選挙で大勝利をおさめて、小泉首相はきわめて
       
得意気であった。
       
マスメディアはこの小泉人気をあおり、小泉批判の言説は曖昧模糊と
       
した意味不明のものになりがちだ。

       
小泉首相はアメリカとの関係さえうまく行けばすべてはうまく行くの
       
だとほとんど白痴的な発言をして、いま、世界から孤立して危地に追
       
い込まれているアメリカに絶対従属の立場を示し、ブッシュ大統領を
       
喜ばせた。

       
しかし、この頃の小泉首相は生気なく疲労感が感じられるように見え
       
る。改革の看板ばかりはならべたがその実効は疑わしく、マンネリズ
       
ムになり、耐震強度偽装事件のような綻びばかりが目立つことになっ
       
たからだろうか。

       
改革のペテンで国民の支持を得て、圧倒的な議席を確保したいまは、
       
いよいよ大増税にふみきるときで、国民の支持が遠のいていく。
       
靖国参拝で、アジアとの関係を閉ざし、世界からも孤立する。
       
小泉政治がつづく限り、言葉だけは景気がいいが、実質は沈滞と疲労
       
から解放されない。
       
そんな小泉政治を追い詰め、徹底的に批判して、国民の力で小泉政治
       
の終焉を実現すべきときだ。

       
ところがマスメディアは小泉批判ではなくて小泉の後継者えらびに国
       
民の関心を集中させることに努めている。
       
自民党の総裁は国民が選ぶようにしたいというような暴言を許し、自
       
民一党による国民支配の継続を前提とする報道ぶりだ。

       
景気は回復したというが、年末から年始にかけて、なにか国民に生気
       
がなくよどんだ気分が漂っているのではないか。
       
「時代閉塞の現状」という啄木の言葉が身に沁みる感じだ。
       
景気が回復したといっても、貧富の差が拡大し、低所得の非正規社員
       
が増大して庶民の経済は悪化し、そこに大増税、健保、年金の改悪が
       
押し寄せてきているからであろう。

       
「改革」の内実は空洞であり、国民生活を破壊するばかりであること
       
が感じられて、それがこの疲労感を生んでいるのだろう。いま、必要
       
なのはこの小泉政治の虚偽性と反国民性を暴露し、国民の小泉政治反
       
対の声をもりあげ、国民の力で小泉政治を終焉させることであると思
       
う。
       
いまのマスメディアがその方向に進んで国民を奮起させるむなら、マ
       
スコミは活気を取り戻すだろうが、その反対にこのような気運を押し
       
とどめ、小泉政治の継続を前提とする以上、その沈滞と低迷は持続せ
       
ざるを得ない。

       
国内を見る限り、くらい現実ばかりが目につくが、目を外に転ずれば、
       
アメリカの支配を脱しようとするイラク人民の動向は新しい展開を見
       
せるのではないかと思われる。

       
アジアでは中印の経済発展がめざましく、アジアの経済共同体への動
       
きも顕著である。この新しいアジアは世界を動かす力となり、EU、
       
アメリカとともに明日の世界の中心となるのだろう。アメリカも中国
       
との関係を急速に発展させている。

       
六カ国協議は停滞し、米朝間の交渉は困難をきわめているように見え
       
るが、とにかく、平和的な交渉で解決しようとしていて、やがては妥
       
協点を見出すことができるだろう。そして、靖国参拝にこだわりつづ
       
け、屁理屈をひねり出すばかりの総理大臣を国民が支持する日本だけ
       
がこの新しい動きから疎外されているように思える。

       
くらい日本の現実だが、「改革」の空虚な夢が破れるところに新しい
       
転機も生まれる。
       
このごろは右翼にも反米的な色彩が強まってきている。
       
反米独立の要求が次第に国民の間に浸透しているのであろう。
       
しかし、これが反中、反アジアの傾向と結びつくとき、孤立的ナショ
       
ナリズムとなる。
       
今年の課題はアメリカからの自立の道を探るとともにアジアとの結び
       
つきを強めることにあるだろう。

       
奇妙な倒錯した政治が極度に達すれば、おのずから新しい道が開ける。
       
くらい現実をはっきりみつめて、そこに新しい転機の可能性を探る仕
       
事を今年もつづけたい。

       
今年の新年は異常な寒さのようだが、皆さん、からだに気をつけてお
       
過ごしください。

       
申し遅れましたが、「試想」という若い諸君の同人研究雑誌が広津和
       
郎の特集をし、私も広津和郎の散文精神について書きました。
       
広津の散文精神が新しい意味をもってよみがえってくる時代です。ま
       
じめな研究者たちの力のこもった論文が並んでいます。ここにも新し
       
い希望はあります。
       
私の掲示板に<野間宏>というハンドルネームの沖縄の青年が投稿し
       
ています。鬱病で高校を中退し、その前途を危ぶんでいましたが、次
       
第に力強くなり、自分の思想を求めて努力しています。
       
新掲示板1に投稿しています。皆さんからも助言してやってください。

       
私たちは決して孤立しているのではない。
       
座間の米軍司令部反対闘争には、市長も参加し、15000人が集まっ
       
てはっきりと反対の意志を示しました。
       
沖縄県知事、神奈川県知事以下、各自治体の首長もはっきり反対の意
       
志を表明して、新しい国民的な闘争の形が生まれはじめています。い
       
ま、基地の拡張、再編を許せば、これから何十年つづくかわからない
       
という危機感が関係自治体の首長をも動かしているのだと思います。

       
今年は憲法をめぐるたたかいが激しくなると思います。
       
イラクではアメリカの戦争主義が敗れて、新しい動向がイスラエルや
       
アラブ諸国に生まれています。
       
ヨーロッパでもアジアでも、平和的統合の動きが強まっています。
       
アメリカ自身が方向転換を余儀なくされています。
       
そのなかで、日本だけが頑固で偏執的な総理大臣を存続させ、アジア
       
と世界から孤立する道を歩いています。
       
この小泉政治を打倒しなければならない。
       
この小泉の後継者えらびに目をうばわれて小泉政治の存続を許しては
       
ならない。

       
漱石は「羸弱なら羸弱なりに、現にわが眼前に開展する月日に対して、
       
あらゆる意味に於いての感謝の意を致して、自己の天分の有り丈を尽
       
そうと思うのである。」と死の年の新年に述べた。

       
私たちも新しい年に「自己の天分の有り丈を」つくしたい。

       
    伊豆利彦 http://homepage2.nifty.com/tizu