立命館への守山キャンパス無償譲渡問題、住民監査結果報告書(2006.2.6)

 

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2006年02月06日

立命館への守山キャンパス無償譲渡問題、住民監査結果報告書

平安女学院大学びわ湖守山キャンパス就学権確認訴訟を支援する大学人の会
 ●住民監査請求に係る監査の結果について(通知)

 平安女学院大びわ湖守山キャンパス跡地を立命館に無償譲渡した一連の問題を巡り、平安女学院大に支出した補助金返還と、立命館へのキャンパス譲渡差し止めを求めて,守山市の市民団体が住民監査請求していたが,1月25日,同市監査委員会はこれを棄却した。以下に,その監査結果報告書を掲載する(結論部分のみ抜粋,全文は上記URLに掲載)。
 結果は,簡単に言うとキャンパス跡地処理を巡る諸手続きは整っており,違法性はないというもの。監査委員会の監査とはこんなものかもしれない。しかし,問題は関わった当事者が平安女学院と立命館という公的な性格をもつ高等教育機関であったという点にある。特に,守山キャンパス移転・統合から無償譲渡に至るプロセス,およびその過程で当該事件と一緒くたに処理された高校移管のやり方が大きな問題である。

 立命館常任理事会は,この問題の経緯について学内教職員向けに文書を作成している(「立命館守山高校設立に関する経緯について」2005年9月4日付=住民監査請求の提出資料の一つ)。ここに書かれた説明内容は,分からないことが多い。特に2004年度に市長や平女との間で進められた協議・やり取りの時期については全く不明確である。また,重要な説明部分において,守山市の公式コメントと食い違いもあるように思われる。これら住民監査結果報告書では全く触れられない点について,さらに問題にしなければならない。

……

4 監査委員の判断

 監査結果に基づく事実認定を踏まえ、請求人の主張に対し、慎重かつ厳正に合議した結果、一致した結論は次のとおりである。

1 監査対象事項(1)について

 守山市補助金等交付規則第14条第1項に「市長は、補助事業者等が、補助金等を他の用途に使用し、その他補助事業等に関して補助金の交付の決定内容またはこれに付した条件に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取消すことができる」とあるが、一般に長は、事由が認められるときであっても、必ず当該交付決定を取り消さなければならないものではなく、補助目的達成の可否について補助関係の全過程を通じて総合的に判定し、補助金等交付の所期の目的を達成することが困難となったと認められるときに初めてその取消権を行使すべきものと解するのが相当でる(名古屋高裁平成5年2月23日判決、判例タイムズ859号260頁、小滝敏之「全訂版・補助金適正化法解説」240頁等参照。)。そこで、学校法人平安女学院に対する補助金等の交付決定に守山市補助金等交付規則第14条第1項所定のような事由が認められるときであっても、長は、直ちに当該交付決定を取り消し、補助金等の返還を求めるのではなく、学校法人平安女学院の自主的判断に委ねることも選択肢であったと解することができる。

 本件請求は、補助金返還請求権の行使を怠っていることの違法確認である以上、要件として、同請求権を具体的に発生させる事実の存在が認められなければならないところ、補助金等交付決定が取り消されたものではなく、補助金返還請求権が未発生であり、補助金返還請求権が存しないことから返還を求めるための措置としては、請求要件を欠いているため不適法である。

 しかしながら、請求人は取消権を知り得る立場になく、広義に解釈すれば、取消権および返還請求権を不可分一体とみなし、補助金返還請求権があるとも解することができる。

 前述の事実と経過にあるように、平成16年の市議会定例会、全員協議会の場において補助金の返還を求めていくべきと考えていること、この姿勢が抑止力になることの説明を繰り返す一方、学校法人平安女学院に対しては補助金返還のための協議の申し入れを再三にわたり行い、学校法人平安女学院からは補助金返還の意思がない旨の回答を得ていることが確認できる。こうしたなか学校法人平安女学院から守山市に対しびわ湖守山キャンパスの無償譲渡の申し出がなされたと見ることができる。
 その内容は、平成17年5月17日付け平女院法発第0501号の学校法人平安女学院から守山市への無償譲渡の申し出および平成17年8月24日付け守女移第5号の守山市から学校法人平安女学院への申し出の承諾によると、学校法人平安女学院が守山市に対してびわ湖守山キャンパスの土地、建物の寄附を行い、守山市は学校法人平安女学院に補助金返還請求を行わないとする合意が行われたと認めることができる。

 学校法人平安女学院から寄附された資産の評価額33億580万8千円は、学校法人平安女学院への守山市の補助金額25億6,537万7千円、滋賀県の補助金額8億円の合計額33億6,537万7千円とほぼ同額である。寄附は弁済のように債権債務の消滅を目的とする行為ではないから、寄附により直接補助金が返還されたとすることはできないとしても、この寄附により、滋賀県および守山市の補助金相当額が事実上補填されたと見ることはできる。

 なお、この資産評価は、不動産鑑定士の専門的知識、経験および技法等を駆使した鑑定に基づくものである。土地の平方メートルあたり評価額28,800 円は、土地取引や資産評価をするにあたっての土地の適正な価格を判断する客観的な目安である公示価格で近傍の地価公示「守山9−1(古高町)」の平方メートルあたり 34,200 円から、評価時点、地域要因、個別要因等を勘案して類推できる価格であり、適正かつ妥当なものと判断できる。また、建物の評価額21億9,545万3千円は、平成17年3月1日時点において再調達することを想定した場合に必要とされる適正な原価の総額、すなわち再調達原価から耐用年数による減価修正した価格であり、平成12年2月14日に学校法人平安女学院から提出された実績報告書の建設費22億6,475万4,871円に、耐用年数60年に対する経過年数5年間の減価償却費を減じた価格20億7,602万5千円、また滋賀県が補助金返還額の計算に用いた残存価格19億1,942万3,357円と比較しても大きな差異がなく、土地と同様に適正かつ妥当なものと判断できる。
 こうした土地、建物の無償譲渡により、守山市の損失に成らんとしていた学校法人平安女学院への守山市の補助金額25億6,537万7千円という支出について、社会的な相当性が認められる処理がなされたもので、経過については守山市議会定例会、全員協議会に逐次説明がなされており不当性は認められない。
 また、施策の実施については、地方公共団体の広範な裁量に委ねられており、その判断は、経済的見地のみならず、広く社会的、政策的見地から総合的になされるべきである。更に判断の基準について、長は地方自治の本旨の理念に沿って、住民の福祉の増進を図るために地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担う地方公共団体の執行機関(地方自治法第148条、149条参照)として、住民の多様な意見および利益を勘案し、決定を行なうものであって、その決定は、事柄の性質上、当該地方公共団体の地理的・社会的・経済的事情および他の行政政策との関連等諸般の事情を総合的に考慮した上での高度に政策的な判断を要するものであるから、公益上の必要性に関する判断に当たっては、第一次的には地方公共団体の長の裁量に委ねられていると解される。公益上の必要性に関する判断については、違法性が問題とされている場合、裁量権の逸脱又は濫用があったか否かは、目的、性質および状況等を総合的に考慮し検討することが必要であると解される(奈良地裁平成15年2月26日判決)。

 そこで、学校法人平安女学院から守山市へのびわ湖守山キャンバスの土地、建物の寄附の申し出に対し承諾を行い、守山市は学校法人平安女学院に補助金返還請求を行わないとしたものであるが、市長は、学校法人の財産保全手続をとるためには、極めて高額の供託金が必要であること、裁判の長期化によるキャンパス跡地の荒廃、学校法人の倒産と市の社会的責任の懸念、民間への売却による開発、資金難による全額返還の期待薄などを総合的に検討し寄附により補助金返還と同等以上の効果が得られたと政策判断され立案されたものであると認められる。この立案については、補助金返還請求権が未発生により地方自治法第96条第1項第10号の権利の放棄に該当せず、市議会の議決は必要としないものである。しかしながら平成17年第2回市議会臨時会において、議員自らの発意により、びわ湖守山キャンパス跡地の教育機関での利用を条件に守山女子高等学校を学校法人立命館へ移管することに関する決議が提案され可決されている。こうしたことから違法若しくは不当なものでなく、請求人の主張には理由がないものと判断する。

 

2 監査対象事項(2)について

 滋賀県の補助金については、滋賀県補助金等交付規則第19条および平成10年9月30日付け滋地振第378号通知の交付条件3(4)において財産処分の制限が付されているなか、学校法人平安女学院がびわ湖守山キャンパスを守山市に無償譲渡するに伴い、滋賀県の学校法人平安女学院に対する債権について債務を守山市が継承し、滋賀県が承諾した経過が認められる。

 この納付金債務は建物に対する補助に係るものであるが、上記の監査対象事項(1)のとおり、学校法人平安女学院からの土地・建物を含めた寄附により、滋賀県および守山市の補助金相当額の資産を守山市が単独で取得するに至ったものであることから、この債務を学校法人平安女学院から継承することは当然の帰結と判断できる。

 この滋賀県への納付金6億1,749万9千円については、地方自治法第218条第1項および同法第96条第2項の規定に基づき、平成17年第5回守山市議会臨時会(議案第60号「平成17年度守山市一般会計補正予算(第5号)」)に平成17年8月23日提出し、同日本会議において議決され、同日付けで学校法人平安女学院と守山市との連名から滋賀県へ滋賀県平安女学院大学施設等整備費補助金に係る財産処分に伴う処分制限財産の残存価額に対する補助金相当額6億1,747万8,493円の債務引受の申出書が提出されたものである。以上は、正当な手続きがなされており、地方財政法の趣旨に沿った運営がなされるものであり違法または不当ではない。

 住民監査請求においては、請求人が違法・不当と主張する財務会計上の行為について、なぜそれが違法・不当であるのか、その理由あるいは事実を具体的に示さなければならないと解され、違法の理由が単に請求人の倫理観や一般論等に照らし違法・不当であるとの主張にすぎない場合は、財務会計上の行為を違法・不当とする理由とならないものである。請求人は、一方的に市の財産に損害を与える、合理的理由がないとして不当、不法の処分がなされた旨主張するが、事実確認のとおり、本件処分等については、市議会の議事、議決を経る等所定の手続きを遵守して決定に至っていることから違法若しくは不当な公金の支出に当たるとは認められず、請求人の主張には理由がないものと判断する。

 なお、本件請求については、滋賀県への納付金の、支出差止めを求める請求が含まれていることから、地方自治法第242条第3項の規定による暫定的停止勧告の適否について検討する必要があると認め、必要な調査検討を行ったが、本件請求の納付金について、不当、違法であると思料するに足る相当の理由がなく、また、適法な手続きを経て予算措置されたものであることから、本件請求に係る監査結果を決定するまでの間に納付金の支出に係る暫定的停止勧告をする必要はないと判断した。

3 監査対象事項(3)について

 地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)第24条により、大学に関すること、私立学校に関すること、教育財産を取得し及び処分することは、地方公共団体の長の職務権限とされている。
 私立学校法第59条には、国又は地方公共団体は、教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律で定めるところにより、学校法人に対し私立学校教育に閲し必要な助成をすることができる旨規定され、また、上記規定を受けて、私立学校振興助成法第10条には、国又は地方公共団体は、学校法人に対し、補助金を支出し、又は通常の条件よりも有利な条件で貸付金をし、その他の財産を譲渡し、若しくは貸し付けることができる旨規定されている。また、地方自治法第232条の2で、普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができると定められており、助成が認められているものであり、違法とは解されない。
 また、手続き上は、びわ湖守山キャンバス跡地を学校法人立命館に無償譲渡することについて、地方自治法第237条第2項および同法第96条第1項の規定に基づき、平成17年第6回守山市議会定例会(議案第86号「財産の無償譲渡につき議決を求めることについて」)に平成17年9月16日提出し、同年10月13日議決を得ていることから違法性はないと解され、請求の理由がないものと判断する。

 請求人が主張する裁量権については、前述の監査対象事項(1)のとおり、目的、性質および状況等の総合的な検討を要するところである。市長は、市が取得した平安女学院大学びわ湖守山キャンパス跡地を学校法人立命館に無償譲渡することにより、守山女子高等学校の立命館守山高校への移管が成立し、将来の校舎耐震化経費の負担増や年間経費の削減が図れ、更に当初市が平安女学院大学に期待していた「大学を核としたまちづくり」の地域貢献を立命館大学に継承できることから、市の発展、地域の活性化に寄与できるものと高度な見地から総合的に政策判断し立案したものであり、違法若しくは不当なものではないから、請求人の主張には理由がないものと判断する。

4 監査対象事項(4)について

 守山市議会では、平成8年第1回および平成14年第1回の定例会において、守山女子高校に対し、市立高校としての意義を問われる質問がなされている。また、平成15年の事務事業外部評価に関する報告書においては存在意義を問われる意見が出されている。こうした意見を踏まえ、市長は水面下で将来の高校経営の方針を模索していたと思料するが、歴史ある守山女子高等学校を廃校とせずに高等学校教育を継承される移管方策が賢明であると政策判断し、意思決定においては、市教育委員会および市議会の賛意を得て進められたと認められる。

 住民監査請求は、地方自治法第242条に基づき普通地方公共団体の住民が、当該地方公共団体の執行機由又は職員による違法・不当な財務会計上の行為があると認めるとき、監査委員に対し監査を求め、当該地方公共団体の被った損害の補てん等を図ることを目的とするものであり、本件請求は、守山市の監査委員の職務権限を超えることから、住民監査請求の対象とならないものと判断する。

5 結論
 以上述べたとおり、本件措置請求のうち、学校法人平安女学院に補助金25億6,000万円の返還を求めるための措置および6億2,000万円を学校法人平安女学院に代わって滋賀県に支払うことを停止するための措置ならびにびわ湖守山キャンパス跡地の学校法人立命館への無償譲渡契約を取り消すための措置を講じることを求める部分については、これを棄却し、学校法人立命館、学校法人平安女学院双方の支援関係を調査し、明らかにするための措置を講じることを求める部分については、請求要件を欠き不適法であり、これを却下する。

 

投稿者 管理者 : 20060206 00:31