“米長流”経営で紛糾する将棋「名人戦」移行問題(2006.5.9)

 

昨年、“将棋ソフト盗用”疑惑で武者野勝巳六段から告訴された米長邦雄永世棋聖(日本将棋連盟会長・東京都教育委員)が、今度は将棋界で最高の権威と伝統を誇る「名人戦」移行問題で毎日新聞社ともめている。毎日側からは“日本の伝統を大切にする将棋連盟が信義よりも損得を重視するのでしょうか”、“社会通念上も許されない行為”と厳しく糾弾されている。

 

 

目次

(1)将棋:「毎日の名人戦」守ります 編集局長・観堂義憲 「毎日新聞」2006年4月13日付

(2)「将棋名人戦」強奪の企てで蘇る「30年前の悪評」 『週刊新潮』2006年4月20日号

(3)『名人戦』争奪 半世紀の因縁 “盤外戦”を読む 『東京新聞』特報 2006年4月15日付

(4)名人戦移籍問題 棋士の分裂見たくない 理事会の手腕に期待 『週刊将棋』2006年5月3日号

(5)米長邦雄氏ホームページより 「まじめな私」2006年4月22付、「さわやか日記」2006年5月2日付

(6)WEB駒音より 「最悪のシナリオ、Re: 最悪のシナリオ」 投稿者:マリオ 2006年5月6日付

 

資料

米長邦雄氏が、東京都教育委員/日本将棋連盟会長としてふさわしくない理由

 

 

(1)将棋:「毎日の名人戦」守ります 編集局長・観堂義憲 「毎日新聞」2006年4月13日付

 

 日本将棋連盟は名人戦七番勝負が始まる直前の3月末、毎日新聞社に対し、「来年度以降の名人戦の契約を解消する」と通知してきました。連盟が12日の棋士会に報告して公になりましたが、ここに至るいきさつと毎日新聞社の考えを読者の皆様に明らかにしたいと思います。

 将棋界で最古の伝統と最高の権威をもつ名人戦は、1935年に毎日新聞社が創設したものです。いったん朝日新聞社の主催に移った時期もありましたが、77年からは再び毎日新聞社の主催に戻り、将棋連盟と協力して運営してきました。私たちは、名人戦の単なるスポンサーではなく、将棋連盟とともに最高のタイトルを育ててきたという自負があります。

 ところが、通知書の郵送に続いて来社した中原誠・将棋連盟副会長は「長い間お世話になり、感謝している。名人戦の運営には何の問題もなく、あのような通知書を出して恐縮している」と切り出しました。

 なぜ契約解消なのでしょう? 中原氏によれば、朝日新聞が高額の契約金や協力金を示し、名人戦を朝日新聞にもってくるよう強く要請しているから、というのです。

 毎日新聞は将棋連盟と名人戦の契約書を交わしていて、これには来年度以降も契約を継続する、と明記しています。ただし書きで「著しい状況の変化などで変更の提案がある場合は両者で協議する」となっています。

 「著しい状況の変化」とは、たとえば将棋連盟から棋士が大量脱退して経営が立ち行かなくなったとか、毎日新聞が契約金を払えなくなった場合を意味し、他社の新契約金提示などの介入はそれには相当しないというべきでしょう。連盟に通知書の撤回を求めます。

 毎日新聞は名人戦の契約金を将棋連盟の要請に応じて徐々にアップしてきました。このほか王将戦をスポーツニッポン新聞社と共催しており、合わせて年に4億円以上の支払いをしています。

 関係者によれば、朝日新聞が将棋連盟に提示した条件は年間5億円以上を5年間払う、というものです。日本の伝統を大切にする将棋連盟が信義よりも損得を重視するのでしょうか。

 30年前、朝日新聞と連盟の契約交渉が決裂しました。この時は、連盟がそれを公表したことを受け、毎日新聞は復帰交渉に入ることをあらかじめ朝日新聞に通告したうえで連盟と契約しました。毎日新聞はきちんと手順を踏んだのです。

 ところが今回の契約解消通知は、私たちにとりまさに寝耳に水でした。将棋連盟から契約金の値上げなど契約の変更要請は一切なく、朝日新聞からはいまだに何の連絡もありません。長年、共同で事業を営んできて、しかもその運営には何の不満もなかったパートナーに対して、社会通念上も許されない行為と言えるでしょう。

 毎日新聞は全国の将棋ファンのためにも、名人戦を今後も将棋連盟とともに大切に育てていきたいと思います。

 

 

(2)「将棋名人戦」強奪の企てで蘇る「30年前の悪評」 『週刊新潮』2006年4月20日号

 

「将棋名人戦」強奪の企てで蘇る「30年前の悪評」

 

将棋名人戦のスポンサーが毎日から朝日へ。門外漢には何のことかピンと来ないこの事態は、斯界にあっては大変な出来事なのだそうだ。日本将棋連盟の頬を札束で張るがごとき朝日のやり方に、非難囂々――。

 

 名人戦を朝日新聞が毎日新聞から強奪する――このニュースがプロ棋士の間に瞬く間に広まったのは、4月に入ってからである。

将棋の名人位。この世界で最も伝統と権威があるタイトルである。

「名人というのは、豊臣秀吉が、当時無敵だった大橋宗桂という人物に名乗らせたのが最初なのです」

 とは、将棋連盟幹部。

「それが家元制度から実力名人制になった。名人になった棋士はこれまで12人。ましてや5期に亘ってタイトルを守らないと名乗れない永世名人は4人しかいない。新聞社が将棋連盟に払う契約料も3億3000万円という高額です。それが朝日に代わることが5月の連盟理事会で決定される手筈になっています」

『将棋世界』元編集長で作家の大崎善生氏によれば、「将棋連盟の経営が苦しく、高額の契約料を提示している朝日に名人戦を移すべく、水面下で話が進んでいるのです。米長邦雄会長が熱心にやっているそうです」

 

朝日の“金権体質”

 

 なんでも朝日は「若手育成費を含む5億2000万円を提示」(将棋連盟幹部)しているそうで、経営不振に喘ぐ連盟にとって、まさしく渡りに舟らしい。

 しかし、ベテラン棋士たちは、この話を釈然としない思いで聞いている。過去の“ある事件”の記憶が蘇るからだそうだ。連盟のさるベテラン棋士がいう。

「名人戦は毎日が昭和10年にスタートさせたものです。しかし、昭和24年に朝日と毎日の間で契約金問題で揉め、朝日に一度、移った。だが30年前の昭和51年に、いわゆる“朝日事件”が勃発。これは、朝日が囲碁の名人戦を読売から大金で奪取したのですが、その契約料が2億6000万円だったことがバレてしまった。当時、朝日が将棋の名人戦に払う契約料は3800万円に過ぎず、そのあまりの差に棋士たちが猛反発。朝日の嘱託でもあった連盟の升田幸三さんが糾弾され、当時の大山康晴副会長が名人戦をもとの毎日に移すことで事態を収拾したのです」

 毎日はその後、棋士たちの面倒を積極的に見たため、“釣った魚に餌は与えない”という朝日の方針が余計、記憶に残ったのである。だが、話はそれで終わらない。「その15年後に名人戦を毎日から朝日に移す話か再燃。朝日は権威ある名人戦がどうしても欲しく、働きかけを常時行っていた。しかし、この時も棋士たちから“お金で右往左往するな。毎日からの厚恩を忘れたのか”という意見が相次いで、頓挫したのです」(同)

 実はその時、反対の急先鋒だったのが現在の米長会長だったという。

「朝日への移行は“信義に惇(もと)る”“毎日の名人戦は私が守る”と主張したのは、当の米長氏です。それだけに今回の米長氏の動きは信じられません」(大崎氏)

 当の米長会長は、「一部の人が反対しているのは知っているが、私たちは理事8人が一丸となって、若い棋士達のために腹を括(くく)ってやっているんですよ」

 朝日新聞からは、「具体的なことを申し上げる時期にありません」

 との回答が返ってきた。

 巨人軍の札束攻勢にいつも批判の論陣を張る朝日だが、金権体質という点では、なかなかどうして全くヒケをとってはおりませんゾ。

 

 

(3)『名人戦』争奪 半世紀の因縁 “盤外戦”を読む 『東京新聞』特報 2006年4月15日付

 

■朝毎“盤外戦”を読む

 

 朝日VS毎日といっても新聞紙面のことではない。将棋の名人戦主催をめぐっての“盤外の戦い”だ。第六十四期名人戦が始まった初日、第六十六期以降の名人戦・順位戦の主催者を毎日新聞社から朝日新聞社に移す動きが報じられ、毎日側が編集局長名で異例の「声明」を出した。名人戦をめぐっては一時期、朝日に主催が移り、再び、毎日に移った経緯がある。なぜ、日本将棋連盟は主催者移管を提案したのか。背景は。

 

 十二日、東京都渋谷区の将棋会館で開かれた棋士会。マスコミには非公開で、約七十人の棋士が出席した。棋士の一人は「中原誠副会長が今回の経緯を説明。理由としては朝日の申し出は条件も良く、読者も多いため影響力もあるというものだった。その後、質疑応答で数人が発言したが、主催者移管は慎重にすべきという意見もあった。中には『毎日とは今まで付き合いが長かったのに、守銭奴みたいなことでいいのか』という厳しい発言もあった」と証言する。

 

 経緯はどうだったのか。

 

 将棋連盟によると、昨年夏、外部有識者の経営諮問委員会から名人戦の主催者見直しの提言があり、朝日に打診。今年三月十七日に朝日から主催者になりたいとの正式の申し入れがあったため、同二十二日の理事会で第六十六期(名人戦は二〇〇八年、予選は〇七年度)から毎日新聞との契約の更新を打ち切る方針を決定、三月末に毎日新聞に契約解消を通知したという。

 

 出席した棋士によると、朝日が提示した契約金は、毎日の三億三千四百万円を上回る三億五千五百万円、このほか、臨時棋戦四千万円、普及協力金一億五千万円で五年契約だった。

 

 他のタイトルは、プロになったばかりの四段でも、勝ち進めば獲得できるが、名人戦だけはA、B1、B2、C1、C2の5組にわかれて順位戦を戦い、A級の優勝者になった棋士しか名人に挑戦できない。各組の上位者が、翌年は一つ上の級に上がり、C級2組の棋士が名人の挑戦権を得るには、最速でも5年かかる。順位戦はA級昇級で八段、C級1組で五段など、昇段規定の一つにもなっている。

 

 これに対し、毎日側は十三日朝刊で、観堂義憲編集局長名で異例の声明「『毎日の名人戦』守ります」を掲載。「日本の伝統を大切にする将棋連盟が信義よりも損得を優先するのでしょうか」「今回の契約解消通知は、寝耳に水でした。将棋連盟から契約金の値上げなど契約の変更要請は一切なく、朝日新聞からはいまだに何の連絡もありません。社会通念上も許されない行為と言えるでしょう」と厳しく批判した。

 

 申し出を受け、朝日が“横やり”を入れたとも取れる展開だが、名人戦をめぐる毎日と朝日との綱引きは今回が初めてではない。

 

 名人戦は一九三五年、東京日日新聞(毎日新聞の前身)主催で始まった最古のタイトル戦だが、やはり契約交渉がもつれ、四九年、毎日から朝日に移管。七六年、今度は朝日との契約交渉が紛糾し、順位戦は中断、名人戦も宙ぶらりん状態となった。

 

 この時、朝日が最終提示した契約金は一億一千万円、プラス一時金一千万円だったが、連盟は拒否。一億四千五百万円を提示した毎日との契約を臨時総会に諮った結果、わずか二票差で毎日への再移管が決まった。

 

 だが、朝日は名人戦奪還をあきらめず、九一年には再び朝日への移管話が表面化したが、「この時は、故大山康晴永世名人が毎日支持で動き、頓挫した」(連盟関係者)という。

 

 九一年の名人戦をめぐる舞台裏について、当時、日本将棋連盟会長だった二上達也九段は「一つには名人戦を奪回したい朝日さんの執念があり、もう一つには、それ以前からの囲碁の方が将棋より高いという契約金の格差問題があった」と振り返る。その上で、今回の騒動について「九一年の時とはちょっと違う。朝日の執念には変わりないものの、九一年の時はちゃんと手続きを踏んだが、今回は手を尽くしたとは言い切れない。新聞社間のメンツも絡んでいるのだから、相手の顔を立てることも必要だったのでは」と指摘する。

 

 では、朝日に移管した場合、将来的に連盟のためになるのだろうか。

 

■「このままでは連盟つぶれる」

 

 「現在のままでいいと思う」という中堅棋士は、個人的な見解と断ったうえで、「もし朝日に移行した場合、毎日がスポニチと共催する王将戦(契約金七千八百万円)をやめる恐れもある。金銭面だけで言えば、朝日は朝日オープン(一億三千四百八十万円)をやめるだろうし、五年後のトータルで試算すると、現状と、ほとんど変わらない」と話す。

 

 これに対し、連盟幹部の一人は「移管の理由に連盟の赤字が挙がっているが、単なる金銭問題ではない。これは将棋界百年の計の話。このままの状態が続けば、連盟はつぶれてしまう」と危機感を募らせる。

 

 「新聞の発行部数が多ければ当然、将棋ファンも多い。これは大前提。さらに、海外で新聞を発行している朝日なら将棋の国際化を図れるし、テレビのメディア力も違う」と強調する。

 

 今回の移管で、昨年就任した米長邦雄会長の影響を指摘する関係者も多い。

 

 「米長会長は連盟の人事改革を大幅にやったように、ドラスチックな事をやりたい人だ」話すのはベテランの将棋観戦記者だ。前出の中堅棋士も「米長会長は良くも悪くも『前進』の人。しがらみにとらわれずドライ、強引な手法でもある。一方で、米長会長は子どものファンを増やすなど、棋界の底辺拡大に力を尽くしている」と話す。

 

 その米長会長は本紙の取材に対し「契約書には『当該契約期間終了の一年前までに、通告することとし、両者協議の上実施する』となっており、それに基づき毎日と交渉中だ。契約には違反していない」と反論。「財政問題もあるが、名人戦を主催したいという朝日の熱望をむげにできなかったことが最大の理由」と強調する。朝日も「名人戦は長年にわたって要望してきた棋戦であり、弊社の考えを(連盟に)伝えております」とコメントする。

 

 一方、「四九年の毎日から朝日への移管の際、毎日が対抗する形で王将戦を始めており、この時のしこりが今も残っている」とベテラン観戦記者は解説する。

 

 厳しい意見も多い。

 

 「最初に聞いた時は、経済的に苦しくなった毎日が、連盟に主催返上を願い出て、連盟が動いたと思っていた。そうでないとあり得ない話だからだ。三十年前に朝日と連盟が決裂した時、毎日が相当な高額で引き受け、以来、名人戦を傷つけることなく続けてきた。その恩をあだで返す暴挙」と批判するのは、連盟の機関誌「将棋世界」の元編集長で、作家の大崎善生氏だ。

 

■「今回の信義はどうなるのか」

 

 背景に、連盟の苦しい財務事情があるとされているが、大崎氏は「本当の厳しい赤字ではない。例えば、棋士は個人事業主だが、厚生年金に加入し、連盟が積立金の半分を負担している。国民年金にすれば一億円は浮く。機関誌の売り上げは減っているが、編集部の人事は理事会が握っているのだから、彼らも売り上げ回復のために努力する責任がある」と指摘する。

 

 かねて好条件を提示してきた朝日は、連盟にとって「いつでも使える、おいしい延命装置」(大崎氏)だった。九一年の朝日への移管話の際には、現執行部の米長、中原両氏が「信義にもとる」と猛反対したという。大崎氏は「では今回の信義はどうなのか。自分たちのために延命装置は残しておいて、ということだったのか」とあきれる。

 

 朝日か毎日か、の決着は五月二十六日の棋士総会。全棋士百九十六人の投票で決められる見通しだ。「羽生善治三冠などタイトル保持者の動向がカギを握る」(観戦記者)ともいわれるが、その行方は読めない。

 

 棋士の一人は「将棋好きの子どもは将来、竜王になろうではなく、やはり、名人になろうと思う。名人戦とは伝統を持った、そういうものだ」とその重さにふれ、話した。「今回、名人戦の初日に話が出てしまったが、対局者と、対局を楽しみにするファンに水を差した形だ」

 

<メモ>名人戦

 将棋のタイトルは7つあり、連盟の序列では(1)竜王(2)名人(3)棋聖(4)王位(5)王座(6)棋王(7)王将の順。江戸時代から名人の称号があり、1935年に終生名人制から、今の実力制になった。

 

<デスクメモ>

 本紙連載で、二上達也九段が、江戸時代、名人の座をめぐり家元三家が争った話を披露している。争い将棋で、ともに十代の棋士が一年半にわたって指し続け、十五歳と二十歳で亡くなった。まさに死闘。「名人」にはそんな歴史の重さがある。平成時代の朝日、毎日の勝負は…。詰むや詰まざるや。 (透)

 

 

(4)名人戦移籍問題 棋士の分裂見たくない 理事会の手腕に期待 『週刊将棋』2006年5月3日号

 

64期名人戦(毎日新聞社主催)7番勝負と第24回朝日オープン将棋選手権(朝日新聞社主催)5番勝負の開幕とともに、将棋界に激震が走った。日本将棋連盟理事会は毎日新聞社に「第66期以降の名人戦の契約を解消する」通知書を送り、同社幹部との会談で名人戦の主催を朝日新聞社に移行させる方針を説明。これに対して毎日新聞社は「現行の契約書には第66期以降も契約を継続すると明記している」と、法的、道義的観点から通知書を撤回するように求めた。朝日新聞社は「連盟と毎日の話し合いの行方を見守りたい」とコメントしている。

 

功績ある理事会

 

 週刊将棋は日本将棋連盟が発行し、毎日新聞社が販売協力する媒体だ。編集・販売を担当するのは毎日コミュニケーションズで、今回の名人戦移籍問題には非常に微妙な立場にあるのだが、ほとんどの将棋ファン同様、早期の円満解決を望むので、少々意見を述べさせていただきたい。

 米長会長、中原副会長による理事会がスタートしたのは昨年の5月。新理事に活動的な島八段、森下九段、田中寅九段が加わったことで、連盟の改革に期待する声は高かった。それに応えて米長会長以下は一丸となって、将棋界のPRに取り組んだ。普及活動にも力を入れ、子供の将棋人口は急増、離れていたファンも戻ってきた。そんな功績を上げた理事会が将棋界の内外から批判されている。私は現状が残念でならない。

 

三者の言い分

 

この問題の経緯については別項をお読みいただきたいが、現状を整理すると次のようになる。

 毎日新聞社は契約解消の撤回を求め、撤回されれば連盟と条件交渉に応じる。

 将棋連盟は通知書の非礼をわびたうえで、契約の自動延長のみを解消し、すぐに毎日と条件交渉をしたい。

 朝日新聞社は連盟と毎日の交渉を見守る。

 これが三者の立場だ。連盟理事会は棋士総会で多数決を取り、残留か移籍か決める方針という。

 ただ腕に落ちない点がある。そもそも名人戦とは連盟固有のものなのか。棋士総会の採決で契約先を変えられるものなのかという点だ。毎日新聞によれば契約書には「第66期以降についても、本契約と同様の契約を継続する」と明記されてあるという。これは名人戦が毎日新聞と将棋連盟の共有財産であることを意味する。棋戦契約料は単なる棋譜掲載権ではない。

 だから毎日の了承なしに運盟は朝日と契約できない。もちろん毎日側に何か落ち度があれば話は別だが、そうでないのは連盟も認めている。話が噛み合わないまま強行すれば、毎日は王将戦から手を引き、訴訟に踏み切ることも考えられる。毎日新聞からプロ棋戦が消えれば、追随する社が出ないとも限らない。お隣の囲碁界では「あおりを受けないだろうか」と心配する棋士がいるそうだ。

 

レディースにあおり

 

 現実問題として、本紙主催のレディースオープンはあおりを受けて開幕が遅れている。今年はレディース創設20周年に当たり、それを記念して主催を本紙から毎日コミュニケーションズに変更し、タイトル戦昇格という話を理事会に打診していた。契約金のアップ分は将棋界の知名度が増したことで、会社の承認を取り付けていた。

 ところが、今回の問題で契約が中断されている。新棋戦を作り、精一杯盛り上げたとしても、ある日突然奪われるかもしれない。どこの社も同じことを考えることだろう。そう考えると、今回の理事会案は新スポンサー獲得の可能性を減らす危険を秘めている。

 もちろん連盟が赤字対策の手段として、臨時収入に頼りたいのはよく分かる。また先頭を走る米長会長、中原副会長は棋界の功労者であり、島八段、森下九段、田中寅九段らの理事の働きぶりも賞賛に値する。だから決選投票になれば棋士は迷う。朝日派、毎日派と棋士が分裂する姿は見たくない。

 ファンが最も望むのは、三大紙といわれる朝日、読売、毎日がそれぞれ大型棋戦を運営する姿である。現在の朝日オープンをタイトル戦に昇格させる交渉は無理なのだろうか。理事会、特に若い理事の手腕に期待したい。(小川明久)

 

 

主な動き

 

昨年 日本将棋連盟理事会(以下理事会)は、経営諮問委員会の提言・仲介を経て朝日新聞社(以下朝日)との交渉を開始。

3月17日 朝日が理事会に正式な申し入れ書を提出。

3月22日 理事会が朝日への移行方針を決定。

3月28日 理事会が「第66期以降の名人戦契約を解消させていただく」との通知書を毎日新聞社(以下毎日)に郵送。

3月29日 毎日に通知書着。

3月31日 中原誠連盟副会長が毎日本社を訪問、同社北村正任社長らと会談。毎日は「現行の契約書には第66期以降も契約を継続すると明記している」とし、法的、道義的な観点から通知書の撤回を求めた。

4月6日 中原副会長、森下卓理事らが毎日を訪問。毎日は引き続き通知書の撤回を求めるが、応じず。

4月9日 毎日が米長邦雄連盟会長宛に「通知書の撤回と現契約の履行」を求める書簡を送付。

4月12日 東京・将棋会館で棋士会が開かれ、理事会が移行案とその経緯を棋士に初めて説明、5月26日の棋士総会で態度を最終決定するとした。報道で移行問題が公に。朝日は「連盟と毎日の話し合いの行方を見守りたい」とコメント。

4月13日 毎日は同日付朝刊に観堂義憲編集局長の論文「『毎日の名人戦』守ります」を掲載、同社の方針を明確にした。

4月14日 理事会は「名人戦についての交渉経緯」をホームページに掲載、「契約の自動延長をしないという申し入れをした(契約変更は1年前の3月31日が期限のため)」、「契約書に則って毎日と交渉中」と発表した。毎日は「多くの点で事実と異なる」と反論。

4月17日 関西将棋会館で棋士会が開かれ、理事会が関西所属棋士に経緯を説明。終了後の記者会見で中原副会長は「毎日と契約しないということではなく、『白紙』や『自動延長しない』でもいい。毎日から条件提示はない」と発言した。毎日は「通知書の内容は説明と異なる。連盟には撤回すれば交渉に応じる用意があると伝えている」とコメント。

4月21日 毎日は同日付朝刊で全段を使った特集を掲載、これまでの経緯と北村社長の全棋士宛書簡など関連文書の内容が公開された。同日、米長会長が毎日を訪問、通知書について説明不足を謝罪し第66期以降の実施に向けて協議したいとする文書を北村社長宛てに提出したが、通知書の撤回はせず。また、同日に理事会から本紙編集部に送られてきた文書でも同様の主張を述べている。毎日は「実施に向けて協議とは、契約解消の文言を取り消す意か」との質問書を連盟に送付。

4月22日 米長会長は自身のホームページで移行間題に関する文書を掲載、全棋士に理事会から手紙を出したことも公表した。

4月25日 毎日は同日付朝刊で前記の手紙の内容を公表、「契約書を無視した内容のうえ、事実と異なる点がある」とコメントした。同日、前記質問書に対する理事会の回答文書が毎日に届き、同社は「質問には直接答えず、従来の説明を繰り返す内容」と発表した。

4月28日 関西将棋会館で棋士会が開かれ、質疑応答が行われた。米長会長は記者会見で、通知書の撤回はしないが毎日には継続前提の交渉を求めていると話した。毎日は従来通り、通知書の撤回がなければ交渉できないとコメント、棋士あてに再度手紙を出すことを発表した。

 

 

現行棋戦一覧

 

竜王戦 読売新聞

名人戦・順位戦 毎日新聞

棋聖戦 産経新聞

王位戦 三社運合(北海道新聞・中日新聞・西日本新聞・神戸新聞・徳島新聞・東京新聞)

王座戦 日本経済新聞

棋王戦 共同通信(掲載紙誌21)

王将戦 スポーツニッポン新聞・毎日新聞

朝日オープン 朝日新聞

銀河戦 囲碁・将棋チャンネル

NHK杯 日本放送協会

日本シリース (JT協賛)

新人王戦 しんぶん赤旗

女流名人位戦 報知新聞(アルゼ協賛)

女流王将戦 日刊スポーツ

女流王位戦 三社連合

倉敷藤花戦 倉敷市・倉敷市文化振興財団・山陽新聞

鹿島杯 東京メトロポリタンテレビジョン(鹿島建設協賛)

レディースオープン 週刊将棋

*公式戦のみ。連盟HP表記順

 

 

名人戦の歴史

 

1935(昭和10)年

 最後の世襲名人、関根金次郎十三世名人が退位、大阪毎日新聞・東京日日新聞(現毎日新聞)主催で実力制名人戦スタート。

1937(昭和12)年

 木村義雄が名人決定リーグを制し第1期名人に。第3期まで防衛。第4、5期は戦争の影響で特別方式、挑戦資格者なし。終戦まで中断。

1946(昭和21)年

 順位戦発足、ABC3クラスでスタート。

1947(昭和22)年

 名人戦再開。塚田正夫が木村を破り第6期名人に。

1949(昭和24)年

 第8期、木村復位。連盟と毎日の契約金交渉が不調に終わり、名人戦の主催が第9期から朝日新聞に。

1950(昭和25)年

 毎日が王将戦創設、翌年タイトル戦に。

1952(昭和27)年

 第11期、大山康晴が初の名人に。木村は引退、十四世名人襲名。順位戦は同年から現行の5クラスに。

1957(昭和32)年

 第16期、升田幸三が初の名人獲得で、王将、九段との三冠に。

1972(昭和47)年

 第31期、中原誠が初の名人に。

1976(昭和51)年

 第35期、中原が初挑戦の米長邦雄を破り5連覇、十六世名人資格者に。同年、連盟と朝日の契約金交渉が不調に終わり、主催は毎日に。1年のブランクの後再開。これを期に名人戦、順位戦の期が統一され、順位戦はA級が名人戦挑戦者決定リーグ、B級1組以下は昇降級リーグ戦1〜4組に改称された(第44期から現行通り)。同年、大山が十五世名人に。

1983(昭和58)年

 第41期、21歳の谷川浩司が史上最年少の名人に。

1993(平成5)年

 第51期、49歳の米長が7度目の挑戦で最年長の名人に。

1997(平成9)年

 第55期、谷川が5期目の獲得で十七世名人資格者に。

 

 

(5)米長邦雄氏ホームページ http://www.yonenaga.net/ より

 

「まじめな私」2006年4月22付

・・・勝負と疫病神

 世の中には人を不幸にする人と、人の不幸でメシを食っている人がいる。

 それが大崎善生君です。

 今回の騒動でも彼が火つけ役、持ち込み原稿、コメントの羅列。

 名人戦移行に関しての週刊誌や新聞を読むと殆んどが大崎氏の独り芝居であることが分ります。稼ぐね。

 その結果、将棋界内部は結束が固まりつつある。

 実は彼が悪く言う毎に将棋界は勝利に近づいている。恩義云々等を述べていますが、彼は永年将棋界で生活していたのです。現在将棋連盟は赤字に転落していますが、彼が月刊誌の編集長で売り上げ減に貢献したのが一因です。

 大崎善生氏は5年以上前に日本将棋連盟を円満退社。もはや内部情勢を正確に知る由もなく、現体制や職員の意識改革がなされたことも知らないのでしょう。

 マスコミ各社に申し上げます。

 私共の説明不足による毎日新聞社への非礼はお詫びします。それを責められては甘受するよりありません。しかし、品のある有識者はいくらでも居る筈ですので、紙面にはそのような人々の声を載せるべきではと思います。

 おかげさまで、理事会がなにもしなくても棋士の同意が得られそうになってきました。感謝。

 4月21日の新聞記事の中にも彼が出ている。「棋士たちも自分たちの胸に手を当てて、今回の件についてよく考えてもらいたいと思います」

 これを読んで、棋士も職員も笑い出したものです。

 

(註:ホームページ管理人)

大崎善生氏のプロフィール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

大崎 善生(おおさき よしお、1957年12月11日 - )は、日本の作家・編集者。北海道札幌市出身。妻は、元女流棋士で作家の高橋和。

 

早稲田大学卒業後の1982年、日本将棋連盟に就職し 「将棋年鑑」・「将棋マガジン」・「将棋世界」を手がける。1991年に将棋世界編集長となり、2000年、村山聖の生涯を追ったノンフィクション小説『聖の青春』で第13回新潮学芸賞を受賞。2001年に退職し、専業作家となった。2006年に勃発した名人戦 (将棋)の移管問題では、日本将棋連盟会長の米長邦雄永世棋聖から、「騒動の火付け役」と名指しで非難された。

略歴

1982年 日本将棋連盟に就職

1991年 「将棋世界」編集長に就任

2000年 「聖の青春」にて、第13回新潮学芸賞を受賞

2001年 退職。「将棋の子」にて、第23回講談社ノンフィクション賞を受賞

2002年 「パイロットフィッシュ」にて第23回吉川英治文学新人賞を受賞

2003年 高橋和と結婚・・・

 

 

「さわやか日記」2006年5月2日付

・・・週刊将棋は日本将棋連盟発行の週刊紙です。小川明久氏の記事は事実と違うことがあり、不安を煽ったりして極めて良くない。そこで、本日話し合いの末、5月10日号と5月17日号で素晴らしく明るい記事が載るはずという話し合いをしました。あなたも買ってちょ。

 

(註:ホームページ管理人)

米長氏の“素晴らしく明るい記事”とは、5月3日号で署名記事を書いた「小川明久編集長の交代」のことらしい(下記参照)。

 

『週刊将棋』2006年5月10日号、『茶柱』欄より

 今月中に編集長を交代することとなりました。後任は日比生康弘君。パソコン雑誌編集長からの異動で将棋事業は初めてですが、同好会の毎コミ将棋部部長を務めているように将棋への愛着は人一倍です。

 しばらくは引き継ぎもあって二人三脚ですが、完了すれば久しぶりの専任編集長となります。優秀な人員を増やせたのは、本紙の収支が大きく改善されたことが一因で、ご購読いただいている皆様には感謝の念でいっぱいです。また関係者の皆様、ご協力ありがとうございました。今後とも本紙へのご愛顧・ご鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます。

 結局、編集長には前回が3年、今回が1年10ヵ月いました。その中で一番印象に残っているのは、中原―高橋の名人戦。同年代の55年組高橋九段が中原名人に挑戦し、3―1に追い込んだシリーズです。

 最終局に勝って防衛した中原名人が加古さん、私、斉藤記者の3人に浅草の神谷バーで「今日は何でも話すよ」と言いながら見せた笑顔が忘れられません。

 また今回は島理事から普及開発委員会に招かれ、将棋ファンの生の声を伝えました。今後は書籍やソフトで将棋界を応援します。

(小川明久)

 

 

(6)WEB駒音 http://www.koma.ne.jp/index.html より

 

最悪のシナリオ 投稿者:マリオ 投稿日:2006/05/06(Sat) 14:13 No.15657

米長会長は「将棋連盟の赤字が1億あるから棋士一人一人が100万円ずつ負担する」なんて脅しをかけて棋士を騙そうとしている。

実情を知らない将棋ファンが「そうなのか!」と驚き、一部は「ではしかたがないね」と朝日への働きかけを容認するファンもいるものの、「それでもこれほど道義に外れた行動は許されない」と主張するファンの方が圧倒的に多いようだ。

実は1億円の赤字はあるものの、これは米長氏が理事になってから発生したものだ。

その責任を回避するばかりか、赤字をこれほど世間を騒がせる騒動の原因にさえ据えてしまうのだから盗人猛々しいとはこのことだ。

 (社)日本将棋連盟は一円の借り入れもない無借金経営である。

ローンのついていない資産が東京と大阪の将棋会館として存在しており、バブル期には資産百数十億円とも言われ、一部の棋士は「将棋会館を田舎に引っ越し、売却益数百億円を棋士に分配しよう。一人1億円になる」とすら提案したものだ。

これほどの金満団体ではなくなったが、現在でさえ棋士引退引当金、職員退職引当金、など様々な名目で数億円の貯金がある。

今回は「職員退職金の充当金が1億5千万円足りない」と主張しているようだが、50人の職員が全員一度に退職したら一人1千万円としてざっと5億円。

「3億5千万円しか引当金を積んでいないから、棋士一人100万円ずつ出して合計1億5千万円を補填しよう」なんてよく言えたものだ。

社員がいっぺんに辞めたら会社が存続しない。

本当に日本の会社は総て(少なくとも上場企業は)社員が全員同時に辞めた時に備えて、退職金を満額積み立ててあるのだろうか?

 

Re: 最悪のシナリオ マリオ - 2006/05/06(Sat) 14:42 No.15661

今回の朝日の提示金額を冷静に見つめ直してみると、大変なことに気付く。

現在の毎日契約金名人3億3千4百万円+王将7千8百万円=4億1千2百万円。

朝日提示金額名人3億5千5百万円+臨時棋戦4千万円+普及協力金1億5千万円=5億4千5百万円。

単純には朝日新聞の方が1億3千3百万円余分に提示しているようであるが、臨時棋戦と普及協力金はあくまでも5年間だけの時限処置である。

朝日はこれに伴って朝日オープンを廃止することを明言しており、この朝日オープンの契約金が1億3千3百万円。

つまり5年間の時限一時金を加えてもプラスマイナスゼロ。

しかもこの計算には毎日で名人戦を続けた場合の契約金アップ(年度2百万円と低めに見積もっても5年間で1千万円。4百万円アップなら2千万円。1千万円アップなら5千万円)が全く見積もられていないのだ。

 

最悪のシナリオも存在する。

名人戦が朝日に移り、毎日は王将戦も含め将棋から完全に撤退する。

地方新聞社の中には「全国紙でさえ将棋欄がないのだから」と考えるところも出てくるだろう。

毎日新聞の子会社が発刊している週刊将棋もなくなるかも知れない。

先週号の小川編集長のコラムをお読みになっただろうか。

さらに「著しい状況の変化がないのに突然の契約打ち切りは契約違反である」と訴えられ、名人戦が宙に浮く。(実際に囲碁の名人戦が読売から朝日に移った時、読売新聞は日本棋院を相手に訴訟を起こしている)

結審まで1〜2年、順位戦や名人戦が行われない。

挙げ句の果てに十億円近い損害賠償を命じられ、将棋連盟は近世初めて借金を抱えた運営に突入する。

いまプロ棋士はうまくいっても5年間の時限だけプラマイゼロ。

まずく転んだらこれだけのリスクを抱えるという選択を迫られているんだ。