怒りの告発第3弾 将棋界を食い物にする米長邦雄「卑しすぎる全謀略」 桐谷広人七段 『週刊現代』2006年6月3日号(2006.5.30)

 

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資料

米長邦雄氏が、東京都教育委員/日本将棋連盟会長としてふさわしくない理由

 

 

怒りの告発第3弾 将棋界を食い物にする米長邦雄「卑しすぎる全謀略」 桐谷広人七段 『週刊現代』2006年6月3日号

 

将棋界の独裁者・米長邦雄会長の本性を本誌で暴き続ける桐谷広人七段に、全国の将棋ファンから大きなエールが送られている。名人戦移籍騒動の火付け人である米長会長を追放し、将棋界は早く健全さを取り戻すべきだ。

 

東京棋士会で逆ギレ

 

 将棋界最高位の名人戦移籍問題が、いよいよ最終局面に入っています。5月17日には東京・千駄ヶ谷の将棋会館で、東京棋士会が行われ、名人戦を毎日新聞社主催から朝日新聞社主催へ移籍させようとしている米長邦雄会長(62歳)への不満や批判が続出しました。

 例えば、5月9日に米長会長が打ち出した毎日・朝日の名人戦共催案について、勝又清和五段(37歳)が「毎日新聞社が飲めるはずがないのを承知で共催案を出したのは、毎日新聞社を追放しようということではないのですか」と質問に立った。すると米長会長は、「言いすぎだ!この場から出て行け!」

 と逆ギレしたのです。自分で火をつけておいて、棋士会で正論を吐かれて逆ギレする会長など日本将棋連盟(以下、将棋連盟)の歴史で前代未聞です。名人戦移籍問題は5月26日の棋士総会で投票によって決着する見込みですが、将棋界をこれだけ混乱させた米長会長の責任は重大です。

 米長氏の卑しすぎる謀略の原点は、名人戦七番勝負で1勝5敗と太刀打ちできなかった終生のライバル・中原誠十六世名人(現・将棋連盟副会長・58歳)より先に将棋連盟会長に就(つ)こうとしたことにあります。米長氏は97年5月、中原氏に先んじて会長になるための第一関門である理事選に初出馬しました。

 私の手元に当時の理事選直前に書かれた、いまの状況を予見する一通の手紙があるので引用します(カッコ内は編集部注)。

〈今度の(将棋連盟)総会で米長九段の会長出馬表明に対して同じ佐瀬(勇次)一門の西村(一義)さんが断固として反対されている。(中略)

 西村さんが指摘するのは米長九段の偽善者としての人間性です。たとえば林葉問題(前号で報じた94年に林葉直子元女流名人が休養届を出して訪英した騒動)でいえば近親相姦説をテレビや週刊誌に流した米長九段の人格を厳しく非難しております。(中略)このような人権にかかわる深刻な問題を、将棋界では立派な顔をしている者が弱い立場の人間に追いうちをかけるようにあびせかけるのは、あまりにもひどいではありませんか。また女流棋士等との数々の悪いうわさ(無類の好色家で知られる米長氏が女流棋士たちにセクハラを行っているとの噂が多発していた)、今年三月三日の席次問題(米長氏がNHKのテレビ中継で映りのいい上座を要求し揉めた一件)、(中略)これらは米長九段の無法を語る氷山の一角に過ぎませんが、どれ一つとっても大人のすることではありません。

 しかし米長九段は弁が立ち、(将棋界)百年の計とか立派な言葉を並べ立てるので、純真な若手棋士の一部には米長九段のカリスマ性にだまされてしまう者も少なくありません。また、米長九段が万一会長になれば、事務局も混乱に陥るでしょう。好ききらいの激しい米長九段は、きらいな職員へのいじめを始めるでしょう。米長九段が会長になれば将棋連盟には正義も道徳もなくなりどんな無法でも許されるということになってしまいます。(中略)どうか将棋連盟に正義と道徳を取りもどして下さい〉

 

米長氏のみ落選した理事選

 

 手紙を書いたのは誰あろう、いまでは米長氏の"駒"のように名人戦移籍に奔走している西村一義専務理事(64歳)です。同門で米長氏と深い付き合いのあった西村氏は米長氏が会長になったら将棋界が滅ぶと危惧して、理事選直前に手紙を携えて私のところへやって来ました。そして自分がこのような手紙を出すと角が立つので、代わりに主な棋士に桐谷名義で出してほしい」と依頼したのです。

 この時の理事選では6名の定員に米長氏を含む計7名が立候補し、最下位となった米長氏のみが落選しました。四冠王(十段、棋聖、王将、棋王)まで取った将棋界の大スターが落選とは意外に思えるかもしれませんが、将棋界で米長氏はそれほど人望がないのです。94年のいわゆる林葉騒動で元師匠の米長氏がとった変節ぶりについては前号で詳述しました。翌95年には「小渕(恵三元首相)さんから全国の支部組織をバックに参院選出馬を要請されたのでA級(プロ棋士の最高クラス)在籍のまま6年間休ませろ」と将棋連盟に要求し、大顰蹙(ひんしゆく)を買ったほどです。この時は中原氏らが「将棋界は不偏不党であるべきだ」と正論を述べ、参院選出馬を阻止しました。

 米長氏が97年の理事選で敗れた2週間後、将棋界を混乱させる事件が起こりました。全棋士及び全職員の自宅に、「理事選顚末(てんまつ)記」と題されたB5判用紙5枚にも及ぶ怪文書が撤(ま)かれたのです。将棋界始まって以来のことでした。

 怪文書は、〈全て事実のみを列記し、来年からは一人でも多くの人が知り得るような総会の開催を強く望みます〉として、理事選で反米長派だった棋士たちの悪評が書かれていました。例えば、二上(ふたかみ)達也会長(74歳)のことは、〈完全なロボット会長であり、自分の意見を述べないのが最良と決め込んでいる人物。辞任するのが世間の常識である〉と酷評しています。中原氏に関しても、〈全てを失った人。状況を見る目と将来を読む眼とが、将棋からは考えられない程幼稚。仮面の剥がれた偶像の末路がいかに哀れなものかは歴史が証明している〉とあります。ところがなぜか米長氏に関してだけは、〈数十年の歴史の中で、政策を掲げて立候補した最初の人物。その政策は「将棋を国技にする」というものでした。その意気や良し〉と絶賛しているのです。

 私はこの怪文書を読んだ時、出されたタイミングといい、内容といい、理事選に敗れた米長氏との関与を疑いました。20年間にわたって米長氏の"下僕"のような存在であった私は、前号で述べたように、米長氏の愛人への脅迫状まで代筆させられていたからです。また、嫌がらせの手紙や無言電話をしつこく続けて相手を疲弊させていく手法は、米長氏が得意とする"戦法"でした。怪文書騒動は長期化する予感がしました。

 案の定、怪文書は一回にとどまらず、「女流棋士の父親」や「若手有志一同」などという差出人名義で、手を替え品を替え計22回にもわたり棋士や職員の自宅に送られてきました。大半は6人の理事や理事選で反米長に回った棋士たちを誹謗(ひぼう)中傷する内容でした。

 

3重鎮が危慎した"暴走"

 

このままでは将棋界が衰退してしまうと危倶した二上会長は警視庁原宿警察署に被害届を出しました。そして被告訴人不詳のまま差出人を刑事告訴したのです。

米長氏の関与を匂わせる状況証拠はありました。例えば、6通目の怪文書(98年11月10日付)は、将棋のインターネット対局に関して、将棋連盟が外部の会社と交わした契約を批判する内容でした。この契約書は、理事たちが門外不出にしていたものです。

 この時、インターネット対局の分野で第一人者である武者野勝巳(むしゃのかつみ)六段(52歳)は、米長氏から「絶対に私(米長)の名前を出さないで契約書のコピーを入手してほしい」と頼まれたそうです。お人好しの武者野氏は理事の一人に、「契約書に齟齬(そご)があっては困るから確認したい」と言ってコピーさせてもらい、米長氏に渡したのです。その直後に、契約書全文が同封された6通目の怪文書が出回りました。

 数々の怪文書は、書かれた内容、状況証拠から言って、米長氏は限りなくクロに近い。その他に、文体からも米長氏の関与が推察できました、例えば、「紫陽花(あじさい)の花が鮮やかに映(は)える、一年で最も瑞々(みずみず)しい季節となりました」「新緑が目に染み入る季節となりました」といった書き出しと、名詞や形容詞の使い方などです。20年間、傍(そぱ)で米長氏の書く手紙を見続けてきた私には、懐かしい文体でした。

 結局、原宿署は米長氏と全国紙の将棋担当記者を容疑者として内偵捜査を始めたとの噂が立ちましたが、沙汰止みになりました。その後も怪文書は出続けましたが、米長氏が理事に当選した03年5月以降、1度もなくなりました。そして2年後の昨年5月には、米長氏は悲願だった会長に就任しました。

私の師匠である升田(ますだ)幸三実力制第四代名人の遺訓は、「米長は連盟を滅ぼす男だ」というものでした。私が理由を聞くと、「ウソばかりつく典型的な詐欺師だからだ」と言うのでした。同様に大山康晴十五世名人も生前、「米長だけは理事にしてはいけない」と言っていたと聞きます。大山・升田と並ぶ将棋界の重鎮であった原田泰夫九段は、米長氏から「私を理事にしてくれたら、あなたを名誉会長に推戴(すいたい)します」と頼まれ、「私は乾杯の挨拶役だけで結構」と断ったそうです。この3重鎮が逝った04年以降、米長氏の暴走が止まらなくなるのです。米長会長がいま起こしている名人戦移籍騒動も、97年以降に起こしてきた謀略の延長線上にある将棋界専横のための一手段にすぎないのです。

   *

 怪文書の件について、米長氏を直撃した。

――桐谷七段は米長会長が過去に怪文書を出し続け、将棋界を混乱させた可能性が濃厚だと証言しています。これは事実ですか?

「そんなことが本当なら、即刻懲戒処分にします」

――ご自分をですか?

「野間佐和子(講談社社長)をだ!」

 米長会長こそ名人戦騒動の責任を取って辞任すべきだろう。