「意見広告の会」ニュース346(2006.6.5) (1)教育基本法案の廃案を求める声明 教育法学会、(2)教育基本法「改正」法案に反対し、廃案を求めるアピール 奈良、(3)NHKへの抗議声明・続報、(4)都教育庁の電話

 

 

「意見広告の会」ニュース346

 

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** 目次 **

1−1 教育法学会:政府の改正案廃案に 国家統制の危険性訴え

       『毎日新聞』2006年5月28日付

1−2 教育基本法案の廃案を求める声明

       2006年5月27日  日本教育法学会 会長 伊藤 進

2−1 教育基本法改正:「改正案廃案を」県内文化人らがアピール

              『毎日新聞』奈良版 2006年6月1日付

2−2 教育基本法「改正」法案に反対し、廃案を求めるアピール

              5月31日

3 NHKへの抗議声明・続報

              NHK受信料支払い停止運動の会

       NHKにおける政治介入の問題を考える市民の広場

4 都教育庁の電話

        毎日新聞 記者ノート 2006.05.29 東京朝刊

 

***

1−1 教育法学会:政府の改正案廃案に 国家統制の危険性訴え

              『毎日新聞』2006年5月28日付

 

 教育学者らでつくる「日本教育法学会」(会長、伊藤進・駿河台大法科大学院教授)

は27日、名古屋市内で定期総会を開き、政府が今国会に提出している教育基本法改正

案について「現行法を全く異質な新法に置き換えるものだ」とし、廃案を求める緊急声

明を出すことを決めた。

 

 同学会が声明を出すのは1970年の発足以来、初めて。30日に東京都内での記者

会見で声明を出すほか、公開シンポジウムなどを重ねて法案の問題点を訴えていく。

 

 声明文は法案について、「自主的・自律的な人格形成の営みを保障している現行法を

、国家による教育の統制を正当化するものに転換させている」と指摘。

 

 愛国心など多くの徳に関する事項を「教育目標」に掲げて道徳規範を強制し、思想と

良心の自由を保障した憲法にも明らかに反するとしている。民主党案についても「同様

の問題を含んでいる」と反対している。【阿部浩之】

 

 

1−2 教育基本法案の廃案を求める声明

                           2006年5月27日

                        日本教育法学会 会長

                      伊藤 進(明治大学名誉教授・

                      駿河台大学法科大学院教授)

 

 政府は、今国会に教育基本法案を提出した。本法案は、現行教育基本法を全面改正す

ることにより、実質的に現行法を廃棄し、これとは全く異質な新法に置き換えるものと

なっている。そこには、以下のように看過することのできない重大な問題点が含まれて

いる。

 

 第1に、国民一人ひとりの自主的・自律的な人格形成の営みを保障している現行法を

、国家による教育の権力的統制を正当化する法へと転換させている点である。教育の自

主性を保障する現行10条1項を、「教育は、…この法律及び他の法律に定めるところに

より行われるべきもの」と変えた法案16条1項には、法律の力によって教育を統制しよ

うとする志向が明瞭にあらわれている。

 

 第2に、「愛国心」や「公共心」をはじめとする多くの徳目を「教育の目標」(法案2

条)として掲げ、「態度を養う」という文言を介して、道徳規範を強制的に内面化させ

る仕組みを導入したことである。法案2条の主要部分は告示にすぎない学習指導要領の

「道徳」の部分を法律規定に格上げすることにより、道徳律に強制力を与えるもの

であるが、これは思想及び良心の自由を保障する憲法19条に明らかに抵触する。

 

 第3に、教育に関する「総合的な」施策の策定・実施権限を国に与え(法案16条2項)

、政府に「教育振興基本計画」の策定権限を与えることにより(法案17条)、国が教育

内容の国家基準を設定し、その達成度の評価とそれに基づく財政配分を通して、教育内

容を統制する仕組みを盛り込んだ点である。この仕組みにより、すでに進行している競

争主義的な格差容認の教育「改革」がますます加速することになる。

 

 今回の法案は、国民的な議論を経ることなく、密室で作成された。提案に際して、現

行法を改正しなければならないことの説得的な理由は何ら示されていない。憲法と一体

のものとして教育のあるべき姿を定めた《教育の憲法》を改変するには、あまりにもず

さんな手続といわなければならない。

 

 政府案に対して提出された民主党の「日本国教育基本法案」は、政府案と同様の問題

点を含んでおり、また法案として一貫性・体系性を欠いている。

 

 日本教育法学会は、1970年の学会創設以来、教育の自由を研究の主軸に据えてきた。

また、教育基本法改正問題が現実の政治日程にのぼってきた2001年以降は、特別の研究

組織を設けてこの問題に取り組んできた。この研究の成果を踏まえ、本学会会長として

、内容的にも手続的にも多くの問題をはらむ政府法案はもとより、民主党対案について

も、その速やかな廃案を強く求めるものである。

 

 

2−1 教育基本法改正:「改正案廃案を」県内文化人らがアピール

              『毎日新聞』奈良版 2006年6月1日付

 

 政府・与党が今国会に提出している教育基本法改正案について、県関係の教

育研究者や文化人の有志ら10人が31日、法案廃案を求めるアピール文「教

育基本法『改正』法案に反対し、廃案を求めるアピール」を発表した。近く県

内の各政党や、市民団体に送付するほか、法案反対の集会などで配布するとい

う。

 

 奈良教育大の生田周二教授(人権教育)と山田昇・奈良女子大名誉教授(近

代教育史)がアピール文を作成して呼びかけ、大久保哲夫・奈良教育大名誉教

授(生涯教育)ら教育研究者のほか、佐伯快勝・真言律宗(西大寺)宗務長な

どの宗教者や弁護士、児童文学者が賛同した。

 

 アピール文は、現在の改正案について、国民に責任を求める意味合いが随所

にあり、戦前の教育勅語のような道徳的な性格を帯びている▽国や郷土などへ

の公共への奉仕の精神や、道徳心、愛国心を強調する内容になっている―など

と指摘して、廃案を求めている。【大森顕浩】

 

 

2−2 教育基本法「改正」法案に反対し、廃案を求めるアピール

              5月31日

                生田周二(奈良教育大学教授)

                岩井宏實(帝塚山大学名誉教授・前学長)

                梅村佳代(奈良教育大学教授)

                大久保哲夫(奈良教育大学名誉教授・前学長)

                佐伯快勝(真言律宗総本山西大寺宗務長)

                高見敏雄(日本キリスト教団牧師)

                中塚 明(奈良女子大学名誉教授)

                藤田 滋(弁護士)

                溝江玲子(児童文学者・作家)

                山田 昇(奈良女子大学名誉教授)

 

 奈良県にお住まいのみなさん。奈良県におつとめのみなさん。

 いま、教育基本法「改正」法案が提出され、政府・与党は今国会で可決成立をさせよ

うとしています。

 教育基本法は、子どもたちのすこやかに育む日本の教育と日本の将来にとって教育の

「憲法」ともいわれる非常に重みのある法律です。

 私たちは、教育基本法「改正」法案が、国民的な討論を経ないままに、短期間の審議

を経るだけで多数決により採択されることは絶対に認めるわけにはゆきません。私たち

は、今国会に提出されている教育基本法「改正」法案について、次の諸点で疑問を呈す

るとともに、廃案を求めるものです。

 第一の疑問は、教育基本法の位置づけが逆転し、戦前の教育勅語のような性格を持っ

ている点です。そもそも現行の教育基本法は、過去の過ちを反省して、新しい憲法のも

とで国が国民に対して行う教育の基本的な原則を定めたものです。これに対して、今回

の「改正」法案では、現行法の基本的な原則を曖昧にするとともに、国民の側に責任を

求める意味合いが随所に表れ、道徳的な性格を帯びています。

たとえば、「第六 学校教育」において「教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要

な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めること」と勉学に取

り組む姿勢が問われています。「第十 家庭教育」では「父母その他の保護者」の責任

、さらに「第十三 学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」では関係住民の「役

割と責任を自覚する」ことなどが説かれています。

 第二の疑問は、一人ひとりの個人が大切にされるというよりは、国や郷土などの「公

共への奉仕の精神」がくりかえし強調されていることです。現行法の前文では「普遍的

にしてしかも個性豊かな文化の創造」がうたわれ、個性の多様性と自発性が強調されて

いますが、「改正」案では、しきりに「態度を養う」という表現が登場しています。そ

して、「道徳心を培う」ことを強調し、一定の行動スタイルや枠にはめこもうとする意

図さえ感じさせられます。その延長線上にあるのが、「第二 教育の目標」の「伝統と

文化を尊重し」に見られる、いわゆる「我が国と郷土を愛する」「愛国心」の強調です

 第三の疑問は、教育行政が本来、積極的に行うべき教育条件整備への言及がなくなっ

たことです。「改正」案の「第十六 教育行政」では、教育は「この法律及び他の法律

の定めるところにより行われるべきもの」とすることで、行政機関が教育内容に関する

様々なことがらにこれまで以上に口出しできる枠組みを作ろうとしています。重大な問

題は、教育基本法第十条に定める「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対

して直接に責任を負って行われるべきものである」「2 教育行政は、この自覚のもと

に、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければなら

ない」という教育の自立性、教育行政のありかたを根本から変えようとしていることで

す。

 第四の疑問は、項目が増えたことで教育基本法というよりは、下位の法律の寄せ集め

的な性格が強まっている点です。改正法案では「生涯学習の理念」「大学」「私立学校

」「教員」「家庭教育」「幼児期の教育」「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協

力」「教育振興基本計画」が新しい項目として入り、「男女共学」が削除されました。

新設された項目を見ると、政府・与党が近年、関心をもって推進してきた施策が中心に

なっていると思われます。つまり、今回の改正法案は、長期的に21世紀の教育のあり方

を展望するというよりは、児童虐待、いじめ、学級崩壊、学ぶ意欲の低下など、現在の

子どもたちや日本社会が置かれている問題状況への「処方箋」としての位置づけを、教

育基本法の改正に期待しているものといえます。

 以上のような疑問の根本には、第一点目で述べたように、教育基本法の発想の逆転が

あると考えられます。国の教育行政の基本を明らかにした現行法の理念をないがしろに

し、現在の目先の問題状況に対応するために、国民に一定の価値観、行動様式をとるよ

うに強いる「責めたてる教育」観が中心になっています。このことは、民主的な国家・

社会の形成者としての個人の人格形成、主権者の教育といった、戦後、大切にしてきた

教育の基本を葬り去り、戦前への回帰をめざすものといえます。

 「公共の精神」「伝統と文化を尊重」「豊かな情操と道徳心を培う」「規律を重んじ

」などといった文言は、最近の問題状況を受けてあらためて登場してきた言葉ですが、

現行の教育基本法ではより具体的に、「実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬

愛と協力によって」(教育の方針)、「個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、

自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成」(教育の目的)という方針が規定さ

れています。現行法の表現は、より主体的、自主的に、実際生活を切り開いていく能力

を育成しようという意図が込められています。現行教育基本法の精神こそが、時代の変

化に柔軟に対応できるとともに、多文化化し、多様化する時代に沿った方向性を先取り

していると考えることができます。

 今回提出の「改正」法案は、個人の力の発現に期待するというよりは、それに枠をは

める危険性さえ伴った法案であり、廃案をつよく求めるとともに、現行の教育基本法を

生かした教育改革の推進を求めるものです。

 

2006年5月31日

 

 

3 NHKへの抗議声明・続報

                 NHK受信料支払い停止運動の会

         NHKにおける政治介入の問題を考える市民の広場

 

永田浩三、長井暁氏を番組制作部署からはずすというNHKの事実上の報復人事に抗議す

る声明への賛同を5月30日に野中章弘(アジアプレス・ネットワーク代表)と醍醐聰(

東京大学教員)の連名で呼びかけたところ、実質半日のうちに375名の方々(4団体を

含む)から賛同が寄せられました。

 

31日、呼びかけ人2名を含む4名で、16時過ぎにNHKの西口へ出向き、NHK広報と視

聴者センターの担当者に橋本会長宛で抗議声明と賛同者名簿を手渡しました。

なお、抗議声明と賛同者一覧は「NHK受信料支払い停止運動の会」のHP(ブログ版)に

掲載されています。

http://blog.goo.ne.jp/shiharaiteishi/

 

また、提出後にも25名の方々から賛同が寄せられています。その名簿は次のとおりです

(上記ブログに掲載)

 

マスコミはこの件についてほとんど報道していませんが、短期間にこれだけの賛同が寄

せられたことは政治におもね、真相解明に背を向け続けるNHKに対する批判が決して衰

えていないことを示すものと思われます。こうしたエネルギーを持続させ、実効性のあ

る運動に発展させる戦略を今後、各市民団体、メディア専門家の方々と相談し、迅速に

提起していきたいと考えています。

皆様のご支援に対するお礼を兼ねてひとまずのご報告をさせていただきます。

                           (文責:醍醐聰)

 

 

4 毎日新聞 記者ノート:都教育庁の電話

      5/29 

 某日午前。東京本社の教育取材班の電話が鳴った。相手は、東京都教育庁指導企画課

の職員。都教育庁と言えば、毎日新聞が報じた「職員会議での挙手・採決禁止通知」で

全国に勇名をはせた役所である。

 

 その日の朝刊には、別の問題で都内のある小学校校長の肉声を匿名で紙面に載せてい

た。電話の主は「この学校名を教えてくれませんか」。この問い合わせにはたまげた。

 

 「残念ながら教えられません」「せめて自治体名でも……」「何を言ってるんですか

。あなた方に知られないようにする目的で、匿名にしてるんじゃないですか」「だめで

すか」「お引き取り下さい」

 

 「取材源(ニュースソース)の秘匿」は、新人記者が最初に学ぶ大原則だ。記者に本

音をしゃべって我が身が危うくなるなら、取材に応じる者などいなくなる。絶対にない

がしろにできない。

 

 都庁官僚が「取材源の秘匿」を知らないはずはない。それでも電話をかけてくる都教

育庁。現場の先生たちのやむにやまれぬ問題提起をつぶそうとするのは、本当は現場か

らの告発が怖いのだろう。どこかの独裁者のようだ。【井上英介】