ニューヨークタイムズ報道、東京では学校が政治戦争の場に 保守政治家、戦前規範の教育を望む(2006.6.14)

 

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2006年06月14日

ニューヨークタイムズ報道、東京では学校が政治戦争の場に 保守政治家、戦前規範の教育を望む

杉並の教育を考えるみんなの会
 ●東京では学校が政治戦争の場に 保守政治家、戦前規範の教育を望む

外国の報道から

東京では学校が政治戦争の場に
保守政治家、戦前規範の教育を望む

ニューヨークタイムズ

原文はこちら

(東京 大西哲光)
2006.6.11

 ここ東京の新設公立校教員養成センターで、最近ある講師が22名の若い日本人に自己本位と利己主義に対して警告を発した。講師は彼らに、他人を思いやる人間になるよう奨励し、「これが児童の教育上最も重要なことだ」と述べて、時にお説教とも響く内容の要約を示した。後で同センターの校長から、センターの指導理念は、戦前の日本の「美徳」---「戦後日本の60年間の教育で失われたもの」 --- をとり戻すことだ、との説明があった。
 「日本は、ずいぶん利己的で、実力者的で、自己中心的になった」と元ソニーの取締役で校長の田宮健次氏は言う。「このことについては、ひとり教育のせいだけとは言わない。 私たちの社会の仕組みに悪い面が多々ある」「しかし、教育はこうした傾向を構成する一部だ」と同氏は言う。「それで、今日本中で相当反省がなされている」と。

 日本政府は、戦前の国家主義の復活を防ぐため米国の占領中1947年に起草された教育基本法の改定に向けて動いている。与党自民党が提案した改定案では、愛国心、伝統、道徳心が強調され、より強い学校支配が政治家の手にゆだねられるようだ。占領時代の教育基本法は、児童に国家と天皇のため犠牲になることを教えた教育勅語に取って代わるものだった。

 日本の保守政治家は長らく、1947年の法律は公共の福祉以上に個人の権利を強調し過ぎていて、コミュニティーの衰退から青少年犯罪の増加まで助長してきたと主張している。道徳心と愛国心の強調は、1990年代から、創造性と個人主義が賞美される世界市場で、日本をより競争力ある国にしようとする計画の一部として創造性と個人主義を奨励した教育に対する反動である。政治家と保護者の多くは今、学力水準、試験成績、規律の低下を、個人主義を強調したせいだとしている。

 こうした趨勢はまた、戦前のシンボルを再生させ軍国日本の過去を軽く扱っている教科書を使用させようとする保守側の、より大きな運動と連動している。さらに大きく見れば、教育基本法の改定は、日本に過去の過ちを繰り返させないという意味だった占領国米国の他の文書、平和憲法の改定という、よりデリケートな課題の先駆と見なされる。

 日本の公立校は長らく、リベラルな教員と保守政治家と官僚との間の激烈なカルチャー戦争の戦場だった。だが、過去10年で、左翼陣営の崩壊とあいまって、保守政治家が優勢となり、より強力に教育の造りなおしが可能となった。

 保守政治家の強さが最も感じられるのは、東京である。ここでは、右翼政治家石原慎太郎と、同じ思想の他の政治家が、リベラルな教員の影響を抑えた。教育の専門家は言う。1947年の法律を変えると、首都で始まったこの種の変化が全国に広がることになるだろう、と。

 東京では、過去3年間に教育委員会が、学校行事で愛国的でなかった350のケースで、教員を処罰した。処罰された教員たちは、国歌を歌い国旗の前に起立することを拒否したのである。 国歌も国旗も、国の内外の多くの人にとって以前の日本軍国主義と結びついているものだ。いままで東京の高校では、校長と教員がいっしょになって、学校関連事項を決定するのが常だった。しかし、都教委は1998年に教員をアドバイザーに降格させて、事実上すべての決定を校長にゆだねさせた。2ヶ月前にこんどは、都教委はミーティング(職員会議)で教員が挙手することを禁止して、教員が意見を述べられないようにしたのである。

 東京都の副知事で前教育長、横山洋吉氏は、1998年の方針に抵抗する学校があったので、この通知を出した、と言う。「戦後の時期を通じて、日教組の運動も含めて、校長の権威は失墜し、みせかけだけになってしまった」と述べた。だが批判者は、この方針は教員の意見、特に組合員の意見を抑圧する意図があると言う。「通知していることは、単に挙手や投票の禁止ではなく、討論の禁止です」と、池田幹子さんは言う。彼女は、学校行事で国歌の演奏を拒否して懲戒処分にされた音楽教員である。「今学校では、自分の意見を表明する人はほとんどいません」と。

 批判者は言う。こうした変化で、石原や、東京の中都市杉並区の区長山田宏のように彼に同調する政治家に、権力が効果的に集中したと。
 区長として2期目の山田は、保守的な教科書の採用推進に成功し、新しい教員養成センターも開いた。彼は若い成人のイベントで神風パイロットの遺言を読み上げたり、第2次世界大戦を右翼好みの用語の「大東亜戦争」と呼んだり、石原同様中国を、過去日本が占領中に使用した軽蔑語の「シナ」と呼んだりしている。山田は、この記事のインタービューに応じようとしなかった。
 
 杉並区の教育委員会は、教育方針を支配している。しかし、委員が選挙される米国の教育委員会と異なり、日本の教育委員会委は母地方自治体の長が任命する。
 「教育委員会は、公式に独立している」と、杉並の5人の教育委員会委員の1人大蔵雄之助(75歳)は言う。「しかし現実にはそうではない」と。「陰に陽に」と大倉は付け加える。「区の意向が実行されている」と。
 新任命委員が区長の見解に同調する中、同教育委員会は、昨年3対2の投票結果で、ナショナリストの「新しい教科書を作る会」が著述した歴史教科書を採択した。同会は、戦後教育では日本の過去の悪事を強調し過ぎていて、今の若者にはもっと愛国的教育が必要だと主張している。大蔵は言う。主流の歴史学者は、この教科書は日本の過去の軍国主義をいいかげんに扱っていると言い、全国でこの教科書を採択した教育委員会は少ないが、区教委は最良の教科書だと考えている、と。

 反対派の女性区議会議員・奥山たけお(ママ)をリーダーとする市民グループは、2人の教員がその教科書に対する否定的な報告を書き換えるよう上司に圧力をかけられ、一人の教員の報告が校長によって書き換えられたことを主張して区を告訴した。教員の一人、片山政志(57歳)は「校長は教育委員会と区長からの無言の圧力を感じていたと信じている」と語った。校長はインタビューを断った。

 杉並区の学校では、4月にこの教科書の使用を開始した。同時に新しい教員養成センターもオープンした。そして、同センターのこれからの卒業生にはこの区で教育業務につける保証が与えられた。

 井出隆安教育長は、区は「教員を私たち自身によって養成する」ためにセンターを始めたと言った。しかし批評家は、区長と彼の協力者は、片山氏のような教員をセンターの卒業生で入れ替えることを狙っていると告発している。(片山氏は彼の教科書報告書を書き換えるように圧力をかけられたことをメディアに告げた後、別の区の学校に異動させられた)

 提案された教育基本法改定案に批判的な人々は、もし承認されたら、全国の政治家が、杉並区長がしたように、地方の教育に影響を与えることができるようになるだろうと言う。

 改正案の支持者は、戦前の日本を牛耳っていた国家主義者の熱情の類を促進することなく、公共の義務や伝統の感覚を取りもどす助けになるだろうと言っている。

 しかし、東京の国際基督教大学の教育学教授藤田秀典氏は、改定すれば、全国の政治家に教育方針支配へのゴーサインが出て、さらにいっそう行き過ぎになると述べた。「もしそうなれば」と同氏は言う。「教員にとっても学童にとっても、困った事態になる」と。

戦前の「美徳」押し付け 教育基本法改悪案 NYタイムズ指摘

投稿者 管理者 : 20060614 00:00