支離滅裂なことを語り始めた小泉首相 『森田実の言わねばならぬ』(2006.6.29)

 

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2006.6.29(その1)
森田実の言わねばならぬ[183]

支離滅裂なことを語り始めた小泉首相。常軌を逸し、理性を失い、第二次大戦期に日本軍国主義によって多大な被害を与えた中韓両国民を挑発する小泉首相――小泉首相よ、そんなに国際紛争を起こしたいのか。そんなに中韓両国と対立したいのか。愚かすぎる。悪すぎる。いい加減にしてもらいたい。

「善く戦う者は怒らず、善く戦に勝つ者は争わず」(老子)


 愚劣そのものだ、と言わざるを得ない発言を小泉首相が行った。
 カナダ訪問中の小泉首相は6月27日夜、オタワで同行記者団と懇談、自らの靖国参拝について「何回行こうが問題にならない。個人の自由だ」と述べた。これは、中韓両国政府と両国民に対するあからさまな挑発行為である。なんがなんでも中韓両国民を怒らせ、国際紛争を引き起こそうとする悪質な言動を言わざるを得ない。
 このような悪辣な挑発行為をまったく批判しないわが国のジャーナリズムは、どうかしている。批判精神を心底から失ったのか、と言いたくなる。
 民主党は、このような小泉首相の悪質な挑発行為に対し沈黙を守るのか。騒ぎを起こそうと挑発的発言を繰り返す“理性を失った”小泉首相を批判しないのか。
 自民党員は、この品位に欠けた紛争起こしを狙ったような低級な首相発言を誰も批判しないのか。自民党はオールイエスマンなのか。

 小泉首相のオタワ発言について、6月28日各紙夕刊は次のような見出しで報道した。
 朝日(3面トップ)《靖国神社「何回行こうが自由」首相、任期中参拝に含み》  
 毎日(1面中央上段)《小泉首相、靖国参拝否定せず、退陣前に、「総裁戦は9月20日」》
 読売(1面左上段)《首相、在任中の靖国参拝示唆、カナダで懇談、総裁選「争点にならぬ」》
 日経(1面中央上段)《靖国参拝、首相「何回行こうと自由」、任期中に含み、総裁選9月8日告示》
 東京(1面トップ)《靖国参拝「何回行こうが自由」、首相「任期中」に含み》

 五大紙夕刊の大見出しに見られるとおり、小泉首相のオタワ発言の核心は「何回行こうがオレの自由だ」ということである。繰り返すが、これは中韓両国の国民・政府に対する露骨な挑発行為である。一国の政治指導者のすることではない。
 小泉首相が、中国と韓国の国民と政府を怒らせ、紛争を起こそうとしているのは明らかだ。小泉首相には平和を守ろうとする意欲と倫理観がないのだろうか。
 こうした危険極まりない小泉首相の挑発的言動を、日本のことなら何でも口を出す米国政府が黙認しているのも大変おかしなことである。
 私は、米国政府内の「軍事帝国主義」派は、本心では、日中対立、日韓対立、日本とアジアの対立を望んでいるのではないかと分析している。米国政府内の日中対立・日韓対立期待派は、小泉首相や安倍晋三官房長官など反中国タカ派の政治家と組み、一部右翼ジャーナリズムを使って、靖国問題に敏感な中韓両国民の神経を逆撫でして挑発しようとしている。米国の軍事帝国主義派と日本の反中国右派が手を結んで、「新日中戦争」を起こそうと狙っている。
 小泉首相の言動は乱暴で挑発的で品がない。その上きわめて悪質である。こんな宰相はかつて日本にいなかった。

 ここでマスコミに一言物申す。
 マスコミの諸君よ、諸君は、このような小泉首相にゴマをすりつづけ、小泉首相を褒めたたえ、小泉首相を独裁的権力者に祭り上げてしまった。
 マスコミの諸君よ、諸君は、批判精神を失い、政治権力を監視するというジャーナリズムの最低限の義務、責務までも投げ捨てて、小泉政権の用心棒になり下がった。
 この結果、小泉首相は独裁者になった。たちの悪い挑発者になった。
 マスコミの諸君、諸君は、小泉首相が理性を失ってしまった今も、小泉首相にゴマをすりつづけるのか。これほど狂乱的な言動を認めるのか――報道機関としての説明責任を果たしてもらいたい。

 以下に二つの参考資料を紹介する。
 一つは、小泉首相のオタワ発言要旨である(五大紙のうち、毎日、読売、日経が小泉発言要旨を載せている)。以下に引用するのは、日経新聞6月28日夕刊の「首相懇談の要旨」(オタワ=犬童文良)である。
 《【自民党総裁選】9月8日告示の予定で進んでいる。3年前と同じ。候補者が主張を掲げてから、争点がどういうものになるか分かる。権力闘争はいつもきつい。今は心理戦だ。(福田康夫氏の出馬は)本人の自由だ。出たい人が出たらいい。
 【派閥】総裁選後はかつての派閥とは全く変わってくる。派閥が領袖を立てて総裁選をめざす機能は薄れていく。今の派閥とは機能が変わっていくのではないか、名前も、人も。私は(首相退任後は)どの派閥にも入らない。無派閥で一人でやっていく。辞めた後は出しゃばらず、控えめに新総裁を支援したい。
 【靖国神社参拝】総裁選の争点になるとは考えにくい。何回行こうと個人の自由だ。アジア外交は靖国だけじゃない。参拝してはいけないと言っている人たちは中国の言い分がいいと思っているのだろうが、それでいいのか。憲法の信教の自由をどう考えるのか。首相にその自由がないのはおかしい。(終戦記念日に参拝した場合の総裁選への影響は)それは分からない。
 【福井俊彦日銀総裁の進退】(職責を全うすべきだとの考えに変わりは)ありません。》

 ここで一言。小泉首相は靖国参拝に反対している人は「中国の言い分がいいと思っている」と言ったが、偏狭な考えもここまでくると救いがない。みな、第二次大戦のA級戦犯を小泉首相がどう考えているのかを問題にしている。小泉首相は議論のすり替えばかりしている。問われているのは、この小泉首相の強弁を日本国民が許すかどうか、だ。

 もう一つ、紹介する。毎日新聞6月28日夕刊9面に載った小さな記事「米元国防幹部/中韓と関係改善・日本外交に注文(ワシントン及川正也)」である。
 《29日の日米首脳会談を前に知日派のマイケル・グリーン前国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長とカート・キャンベル元国防次官補代理が27日、ワシントン市内で記者会見した。両氏とも小泉純一郎首相の靖国神社参拝で悪化した日中、日韓関係の改善が「ポスト小泉」の重要課題になるとの認識を示した。
 ブッシュ政権にいたグリーン氏は「次期首相は日中、日韓関係により注意を払うべきだ」と述べた。ただ、「米政府が日本に(解決を)強いるのは問題だ」と強調した。一方、クリントン政権にいたキャンベル氏は靖国参拝によって「アジアでの日本の勢いが失速している。米国は日本に問題を解決するよう働きかけるべきだ、という考えに同調する」と述べた。》

 ブッシュ大統領が小泉首相との日米首脳会談で靖国問題を取り上げる可能性は低いが、米国政府内では、小泉首相の靖国参拝への不満がくすぶっている。小泉首相の信用は米国でも崩れてきている。靖国参拝にこだわる小泉首相の歪んだ性格に多くの人が気づき始めた。

 第二次大戦期の日本軍国主義に傷つけられた中韓両国民を挑発し、怒らせ、「反日デモ」を引き起こさせようとしいている煽動者は、ほかならぬわが日本の内閣総理大臣小泉純一郎氏だということを、われわれ日本国民は知らなければならない。
 政治において最も大切なことは、平和を維持し、国民の生活を安寧にすることにある。
 小泉首相には、こうした政治に課せられた基本認識がまったくないのではないか。
 こういう政治家に独裁的権力を与えたのは、われわれ日本国民自身である。とくにマスコミである。そのことを自覚すると同時に、自民党・公明党の政治家、大企業経営者、官僚エリートの責任も、これから追及していかなければならない。