「意見広告の会」ニュース354 (1)シンポジウム 教育基本法「改正」推進勢力の分析と重要論点の検証、(2)3年目を迎えた国立大学法人−弱まる自律性と強まる行政への従属性(2006.7.27)

 

 

「意見広告の会」ニュース354

 

*当「ニュース」は例年の通り、あと1回程度発行ののち、夏休みに入ります。

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*ニュースの配布申し込み、投稿は、

  qahoujin at magellan.c.u-tokyo.ac.jp まで、お願い致します。

迷惑メール防止のため@atに書きかえています。アドレスは@に直して下さい。

 

 

** 目次 **

1 シンポジウム 教育基本法「改正」推進勢力の分析と重要論点の検証

          教育基本法「改正」情報センター

2−1 3年目を迎えた国立大学法人−弱まる自律性と強まる行政への従属性−

     藤本光一郎(東京学芸大学)・伊藤谷生(千葉大学)「国交労調査時報」より

2−2 目次 「国交労調査時報」 2006年7月号第523号

 

 

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1 シンポジウム 教育基本法「改正」推進勢力の分析と重要論点の検証

              教育基本法「改正」情報センター 8/12

 

 

教育基本法「改正」情報センターで下記の通り、秋の臨時国会における審議に向けての

シンポを開催いたします。多くの大学関係者の参加を呼びかけるものです。

 

 

シンポジウム

教育基本法「改正」推進勢力の分析と重要論点の検証

−臨時国会における「改正」法案審議に向けて−

 

日時 2006年8月12日(土) 12時30分〜18時(12時開場)

場所 東京大学教育学部156教室

主催 教育基本法「改正」情報センター

協力 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク

 

 教育基本法「改正」情報センターは、次の臨時国会における教育基本法「改正」法

案の廃案を実現するために、教育基本法「改正」を推進している諸勢力の配置図を明ら

かにし、先の国会において取り上げられなかった、あるいは、十分審議されなかった重

要論点を検証するシンポジウムを、8月12日(土)午後12時30分より、東京大学

教育学部156教室において開催することにしました

 周知の通り、先の164国会に提出された教育基本法「改正」法案は、衆議院「衆

議院教育基本法に関する特別委員会」における審議を終了することなく、継続審議とな

りました。報道によれば、与党は、9月29日に臨時国会を召集し、「改正」法案 を

最重要法案として位置付け、臨時国会における可決、成立を狙っているということです

 先の国会で設置された特別委における審議・論戦では、改正推進側からは、"GHQにパ

ージされた日本の伝統の復活"が改正の目的であるとの議論が繰り返し提出されました

。これに対して現行法を擁護する側からは、愛国心教育についての原理的批判を基 礎

に、その実態を厳しく追及する論陣がはられました。このなかで文科省も「行き過ぎ」

へのブレーキをかけざるを得ない状況が生みだされた訳です。これらの議論とその結果

については注目しておきたいと思います。

 しかし、教育基本法「改正」案に含まれている重要論点はこれらに限られるわけで

はありません。

 このシンポジウムでは、特に「教育の自由」、「学問の自由」という観点から見た

場合に浮上する重要問題ではありながら、しかし、先の国会の特別委での審議におい

て取り上げられなかった、あるいは、十分に検討されなかった以下の論点を取り上げ

て、検討することを目的としています。

・法案2条(教育の目標)に基づく、教科教育の道徳的再編

・法案9条(教員)に基づく、教師の地位の変質、教員養成制度の変容

・法案16条(教育行政)、17条(教育振興基本計画)に基づく、学力テストの実

施と学校評価の実行

・法案7条(大学)に基づく、大学の機能の"社会貢献"への一元化

 「改正」法案のもと問題の広がりと深さに対応した審議を臨時国会で実現するため

には、まずは市民・NGOが重要問題の全体像を把握し、それを国会にインプットして国

会を突き動かすという動きをつくることが不可欠です。8月12日のシンポをその第

一歩とすべく、多くの市民・NGOの方々の参加を心から呼びかけます。

 

連絡先 fleic@stop-ner.jp

 

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プログラム

 

開場     12時00分

 

第Tセッション(12時30分〜13時10分)

コーディネーター 世取山洋介(新潟大学)

教育基本法「改正」推進勢力の配置状況と、164国会における審議・論戦の特徴

 

第Uセッション(13時10分から14時10分)

コーディネーター 山科三郎(哲学者)

教科教育の道徳教育に基づく再編の動向と問題点−法案2条を批判する−

 

第Vセッション(14時15分から15時15分)

コーディネーター 植田建男(名古屋大学)

教師の地位、教師の研修・評価、養成と教育基本法「改正」−法案9条を批判する−

 

第Wセッション(15時20分から16時20分)

コーディネーター 進藤兵(名古屋大学)

学力テスト体制と教育における格差−東京都の事例に基づいて法案16条、17条を

批判する−

 

第Xセッション(16時25分から17時25分)

コーディネーター 藤本光一郎(東京学芸大学)

16時20分から17時20分

教育基本法「改正」の先行事例としての国立大学

 

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教育基本法「改正」情報センター

http://www.stop-ner.jp

fleic@stop-ner.jp

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2−1 3年目を迎えた国立大学法人−弱まる自律性と強まる行政への従属性−

      藤本光一郎(東京学芸大学)・伊藤谷生(千葉大学)

 

1.学長たちの肯定的な評価と、現場での絶望感

 

朝日新聞社発行の月刊誌「論座」編集部は、2006年3月から4月に国立大学全学長に対し

て法人化に関するアンケートを実施した。2006年6月号掲載の記事によると、回答した

学長83名のうち、「どちらかといえばプラスになった」(54名、65%)と「大いにプラス

になった」(7名、8%)を合わせて、実に4分の3の学長が法人化を肯定的に評価しており

、その主たる理由は「学長のリーダーシップの確立と意思決定の迅速化」と分析されて

いる。しかし、このような肯定的な評価は、大学で教育研究に携わる教員や職員の実感

とはかなりかけ離れている。現場では、仕事が増え、待遇は悪化し、個人の教育研究へ

の配分額が減るなど、法人化後の状況への絶望感が拡がっているからである。実は、現

場の実感と大きく隔たった「アンケート結果」の中に、法人化された国立大学の危機が

ひそんでいる。

 振り返ってみると、国立大学法人化の当初の目的は、行政改革のための単なる公務員

減数合わせと考える向きが大勢であった。それゆえに、多くの関係者は、形態が変わる

だけで実質はそれほど変わらないと、たかをくくっていたばかりか、法人化によって大

学の自律性が拡大するとの期待感さえあったのである。しかし法人化の議論が進むとと

もに形態にとどまらずに実質も変わるという不安が拡がっていった。そして、法人化以

降の2年間に、その最大のメリットと喧伝されていた自律性の拡大という謳い文句がい

かに虚偽に満ちたものであり、逆に行政への従属性が以前にも増して強まったことが誰

の目にも明らかになってきた。この経過を法人化の制度設計の時点にまで戻って概観し

てみたい。

 

2.国立大学法人法体制の成立

 

(1)本質を甘言で覆った調査検討会議(2002年3月)

 1999年9月に文科省が国立大学の法人化賛成へ大きく転換し、翌年7月に「国立大学等

の独立行政法人化に関する調査検討会議」を設置して国立大学を独立行政法人の枠組み

に適合させるための検討が進められた。その結果が、2002年3月26日に最終報告として

公表された『新しい「国立大学法人像」について』(以下、当時の通称としての『最終

報告』と略す)である。調査検討会議には国立大学の学長をメンバーとする国立大学協

会(以下、国大協)執行部も名を連ねている。文科省と国大協執行部の合作ともいえるこ

の『最終報告』に今日の状況をもたらす要因が内包されている。この検討中に遠山プラ

ンのような各国立大学を競わせる政策が打ち出されたこと、法人化を受け入れる前提条

件とされていた教職員の公務員身分保障が崩れたことも重要な出来事であった。

 『最終報告』においてはまず、「予算、組織、人事など様々な面で規制が大幅に緩和

され、大学の裁量が拡大する」、「国公私立大学を通じて、第三者評価に基づく重点投

資のシステムの導入など、適切な競争原理の導入や効率的運営を図りつつ、高等教育や

科学技術・学術研究に対する公的支援を拡充することが不可欠である」、「法人化は、

国立大学の多様化に途を拓くべきものである。公私立大学との使命や機能の分担にも十

分留意しつつ、法人化を契機に各国立大学の特色や個性を伸ばす観点から、大学独自の

工夫や方針を活かした柔軟な制度設計ができるだけ可能となるよう特に留意すべきであ

る」というような前提条件を設定している。

 前提条件に続いて、改革の視点として「各大学の枠を越えた再編・統合を大胆かつ積

極的に進める必要がある」、「大学運営に高い見識を持つ学外の専門家や有識者の参画

により、国民や社会の幅広い意見を個々の大学運営に適切に反映させつつ、(中略)、大

学の機能強化を図っていくことが重要である」、「厳正かつ客観的な第三者評価システ

ムを確立し、各国立大学及びその構成員の教育研究等の実績に対する検証を行うととも

に、評価結果に基づく重点的な資源配分の徹底を図るべきである」、「拡大する経営面

の権限を活用して、学部等の枠を越えて学内の資源配分を戦略的に見直し、機動的に決

定、実行し得るよう、経営面での学内体制を抜本的に強化するとともに、学内コンセン

サスの確保に留意しつつも、全学的な視点に立ったトップダウンによる意思決定の仕組

みを確立することが重要である」などが挙げられている。これらの、再編統合、第三者

評価による競争的原理の徹底化と資源配分、トップダウンの管理運営体制などが、政府

のいう改革を推進する手段であった。実は、裁量の拡大、公的支援の拡充や柔軟な制度

設計というような前提条件は甘言に過ぎず、この手段の強要こそ『最終報告』の本質で

あった。

 『最終報告』の目的は、政府や財界の示す国家目的の遂行のために、大学をいわば「

知の工場」化させる新自由主義的政策の推進であった。この点については小沢弘明氏が

詳しく展開しているのでそちらに譲る (1)。

 これに対して国大協は、同年4月19日の会長談話において、「今回まとめられた法人

像は、全体として見るとき、21世紀の国際的な競争環境下における国立大学の進べき方

向としておおむね同意できる。国立大学協会は、この最終報告の制度設計に沿って、法

人化の準備に入ることとしたい」とむしろ積極的に賛成している。今にしてみれば、戦

わずして白旗を掲げたと受けとめられても仕方がないであろう。

 

(2)満身創痍で成立した国立大学法人法(2003年7月)

 この『最終報告』を踏まえて2003年2月28日に国立大学法人法案が閣議決定され、国

会に提出された。遠山文科大臣(当時)は4月3日衆議院文部科学委員会での趣旨説明にお

いて、「知の時代とも言われる二十一世紀にあっては、知の拠点としての大学が学問や

文化の継承と創造を通じ社会に貢献していくことが大きく期待されております。今回提

出いたしました国立大学法人法案等の六法案は、このような状況を踏まえ、現在、国の

機関として位置づけられている国立大学や国立高等専門学校等を法人化し、自律的な環

境のもとで国立大学をより活性化し、すぐれた教育や特色ある研究に積極的に取り組む

、より個性豊かな魅力ある国立大学を実現することをねらいとするものであります」と

述べ、自律性の強化が立法の趣旨であることを強調している。国大協はこの法案に対し

て異議を唱えないばかりか、むしろ佐々木東京大学総長(当時)は参議院文教科学委員会

の参考人質疑で、基本的に法案賛成の立場から大学の自律性の増大を評価したのである

 しかしながら、国会審議の過程でこの法案についての様々な本質的問題点が指摘され

続けた。このため、「国立大学の法人化に当たっては、憲法で保障されている学問の自

由や大学の自治の理念を踏まえ、国立大学の教育研究の特性に十分配慮するとともに、

その活性化が図られるよう、自主的・自律的な運営を確保すること」と、改めて立法の

趣旨を守ることを参議院文教科学委員会で附帯決議しなければならないという異様な状

況が生じたのである。法案は、イラク参戦のための国会会期延長によって辛うじて7月

に成立したものの、衆議院10項目、参議院23項目もの附帯決議が付加されるという異例

の事態となった。この法案が本質的問題点を有していたことを示して余りあるといえよ

う(2)。こうして、満身創痍の国立大学法人法に基づいて2004年4月に国立大学法人は発

足した。

 

3.2年間で実証された国立大学法人法体制の無惨な実態

 

(1)運営費交付金の逓減

 法人化直後から財政的逼迫が各国立大学で深刻な問題となった。国立大学の基本的な

運営は国からの運営費交付金でまかなわれる。初年度の交付金額は国立大学時代の金額

を下回ることはなかったが、法人化移行のための費用(労働安全衛生法対応、監査法人

費、資産調査費用など)や法人化以降に新たに支出が必要となる費目(役員報酬、雇用保

険料、損害保険料など)については手当てされなかった。この金額は国立大学全体でお

よそ355億円と見積もられた。また、学長裁量経費の増額などが各大学の中期計画・中

期目標に書き込まれた。これらの費用を捻出するために、多くの大学で研究教育に使え

る教員一人あたりの予算が大幅に減らされたのである(3)。

 さらに、財務省の主張通り人件費が裁量的経費と位置づけられてシーリングの対象と

なり、運営費交付金の算定ルールとして運営効率化係数1%、経営改善係数2%というよう

な逓減方式の導入が明らかになった。国立大学法人化を行政改革に組み込む路線が強制

力を持って具体化したと言える。国大協は、「法人化前の公費投入額を踏まえ、従来以

上に各国立大学における教育研究が確実に実施されるに必要な所要額を確保するよう努

めること」という参議院文教科学委員会附帯決議に反するとして反発の姿勢を示したも

のの事態は変わらなかった。

 

(2)新たな運営費交付金削減策としての授業料値上げ

 また、2004年秋に授業料値上げ問題が浮上した。法人法案審議の中で文科大臣は授業

料値上げについて否定的な答弁をしていたが、その舌の根も乾かぬうちに値上げを迫っ

たのである。さらに国立大学関係者を驚かせたのは、各大学の授業料値上げによる収入

増に見合う分の運営費交付金削減という政府の姿勢であった。運営費交付金逓減の第三

の方式が発動されたのである。これに対しては、学長も含む多くの国立大学関係者から

怒りの声が上がり、学生や市民を巻き込んだ広範な反対運動とともに、国会での追及も

行われた。しかし、国大協は組織的な反対行動を起こさず、いくつかの大学が部分的据

え置きの措置をとったものの、ほとんどの大学が法人化1年目にして授業料の値上げを

余儀なくされた。国立大学時代には、授業料と入学料が毎年交互に値上げされてきたた

めに、 翌2006年度の入学料の扱いが注目されたが、前年の反対運動もあってか据え置

かれたことはひとつの成果といえよう。ただし、現在、財務省を中心に私立大学のよう

な施設整備費を新たに徴収するというプランも浮上していると伝えられており(4)、学

生院生のさらなる負担増は予断を許さない状況にある。

 

(3)財政制度に関わる根源的問題の浮上

 このように財政面での逼迫や破綻が国立大学法人の主要課題として浮かび上がってき

た。その原因のひとつは運営費交付金の性格が収支差額補填方式から総額管理方式へと

変化したからである。国立大学法人法案の審議段階では、運営費交付金は従来の交付金

制度を引き継いで「収支差額補填方式」が想定されていた。しかし、法案成立後、財務

省は強引に「総額管理・各種係数による逓減方式」を要求し、文科省はこれを受け入れ

たのである。このため、国立大学法人はひたすら経営重視に傾斜し、特に附属病院はそ

の半数で赤字転落が懸念されていることもあって、収支改善のために収益部門の重視と

混合診療の導入へと向かっている。

 一方、企業会計の導入によって自由度と透明度が増すというのが触れ込みであった。

しかし、非営利的な大学財務に利潤追求ための企業会計方式を接ぎ木したため

に、随所で不具合が発生している。その端的な実例の一つが、セグメント単位、法人単

位の硬直した財政運営である。しかも国立学校特別会計制度が廃止されたため年度や大

学を越えた調整装置がなくなり、かえって自由度は小さくなっているといえよう。加え

て財務諸表からでは大学財政の実態は浮かび上がりがたく、透明度のアップは実現され

ていない。

 

(4)人事院勧告準拠の賃金と人件費削減のための人員整理

 非公務員化された国立大学教職員の賃金は、本来は各大学における労使交渉で決めら

れるべきであるが、独立行政法人通則法などを根拠に依然として人事院勧告準拠が半ば

強要されている。また、退職金も、国家公務員の退職金規程に基づく金額が「特殊要因

」として運営費交付金の中に加算されることから、国家公務員準拠の大きな理由とされ

ている。賃金問題で多くの大学で労使交渉が行われたことは今後の組合運動への大きな

一歩となったものの、多少なりとも大学からの譲歩を引き出させたところは少ない。そ

ればかりか、厳しい財政状況の下で公務員並みの賃金水準を維持できない大学もあり、

大学間の給与に差ができつつある。また、運営費交付金の逓減の中で業務の外部委託化

や人員削減をせざるを得ない状況が既に多くの大学で生じている。

 

(5)行政改革推進の閣議決定に伴う人件費5%削減

 昨年12月に小泉構造改革の目玉として公務員数の5%削減が閣議決定された。国立大学

法人もその対象となり、人件費総額5%削減に見合うように中期計画・中期目標を修正す

るように文科省から情報提供という名の下に「指示」されたのである(5)。文科系の単

科大学や教員養成系大学など人件費率が80%を超えるような大学においては、運営費交

付金逓減に加えての人件費5%削減はいやおうなく教育研究の低下を招き、大学間の格差

はさらに広がるだろう。

 

(6)強まる行政権力への追従と皆無となりつつある自律的経営の可能性

 財政的、人事的な自律性の増大が法人化の最大の「売り」であるはずだった。しかし

、簡単に振り返ったように、この2年間の現実はそれとはまったく様相をことにしてい

る。

 財政面として、文科省は新しい教育研究ニーズを重点的に支援する特別教育経費の増

額によって運営費交付金の逓減を補償していると主張している。しかし、この原資は運

営費交付金の総枠の中から捻出したものであり、その配分を通じて大学への統制が強化

される仕組みになっている。

 また、各大学は、大学が作り文科省が認めた中期計画や中期目標を軸に文科省の国立

大学法人評価委員会で評価される。しかし、そこでの議論は公開されている議事録を見

る限り充分であるとは到底言いがたい(6)。そもそも自律性が最も発揮されるべき中期

計画や中期目標について、策定段階から文科省が深く関わったことは国立大学法人法の

審議の際に大きな問題となり、遠山文科大臣(当時)が陳謝したことはよく知られている

。このような体質は、先に述べた人件費削減への対応に見られるようにその後も変わっ

ておらず、国立大学の自律性には大きな疑問符がついている。

 さらに、かつての国立大学時代から、本省出身の官僚が学内の主要ポストにつくとい

う問題の弊害が指摘されていたが、法人化以降もその実体は続いていることが明らかに

されており(7)、「全国区異動」による文科省支配の構図も変わっていない。

 

 以上(1)から(6)まで述べてきたように、『最終報告』で謳われた「前提条件」という

甘言のメッキは2年を経て完全に剥げ落ち、手段である「改革の視点」が次々と実現し

ているのである。特に財政問題は深刻であり、冒頭で紹介した「学長アンケート」でも

、ほとんどの学長が法人化のマイナス面や国への要望事項として取り上げている。また

、 国立大学法人法の理論的,制度的な欠陥も指摘されている(8)。

 

4.行革2法と「改正」教育基本法によって新段階に入る国立大学法人体制

 

 164回通常国会で成立した行政改革関連法案で国立大学に大きな影響を与えるのは、

先ほど述べた人件費5%削減を法制化する行政改革推進法案と、公的セクターの一部の

市場化を強制する「市場化テスト」法案である。前者については先に触れたが、後者が

もし適用されるならば、教育研究現場が利潤追求のための市場化テスト対象として蚕食

され、業務の一体性が破壊されることは必至であろう。それは、教育・研究・診療等が

教員・職員の協働によって一体的かつ相補的に進められているという大学の在り方その

ものの解体と転覆に繋がる。

 さらに、現在大きな議論となっている教育基本法の政府改正案は、大学に関する条項

を新設して、「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深

く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより

、社会の発展に寄与するものとする」(第7条)と述べ、大学の目的を社会貢献として規

定している。法人化以降、文科省が陰に陽に国立大学に強要してきた社会貢献、産学連

携に法的根拠が与えられ、大学の変質に拍車をかけるものとなるだろう(9)。 行革2法

に続いて「改正」教育基本法が成立する事態となれば、既に国立大学法人法によって急

速に自律性を失いつつある国立大学は、新自由主義的な大学改革を目指す国家の直接的

な介入を受けることとなろう。それは国立大学法人体制が新たな段階にはいることを意

味する。文字通り、国立大学は大きな岐路に立っている。

 

5.終わりに

 

 いったいどうしてこうなってしまったのか、という思いをもつ大学教職員は多い。だ

がその理由を文科省や政府の施策にのみ求めるとしたら、それは歴史的経過に反してい

る。今日の状況を生みだした直接の要因は、調査検討会議の場で文科省と国大協執行部

が合作した『最終報告』にあるからである。戦わずして白旗を掲げ、あまつさえ国会の

場で国立大学法人法案に賛成の意向を表明した当時の国大協執行部の責任は重いと言わ

ざるをえない。一方で、そのような執行部を選出した、そしてそうした執行部を変革で

きなかった私達自身も、また深い内省が必要であろう。

 国立大学の独立行政法人化問題が浮上してからに限っても、国立大学は状況に真正面

から対峙することを避け、むしろ行政権力におもねってきた。冒頭で紹介した「学長ア

ンケート」で法人化への肯定的評価が多数を占めたということは、異議申し立てや不満

の表明が個々の大学とって不利になるという学長の「現実的判断」が作用したとみるこ

ともできるのではないか。さらには、肯定的評価の理由とされている「学長のリーダー

シップの確立と意思決定の迅速化」も、大学執行部のイニシアチブというよりは、文科

省の方針やそうせざるをえない状況に追い込まれているという側面が強い。そのような

萎縮し、倒錯した姿勢の中に今日の国立大学の危機的状況の深刻さが示されていないだ

ろうか。

 状況を打開するには、大学の教職員自らが、2年間の無惨な「実験結果」に対する科

学的分析を通じて今日の危機を生み出した要因を明らかにし、それを取り除く作業に取

りかからねばならない。一方、国会は自ら制定した法がもたらした結果を真摯に分析し

、広く国民の議論を巻き起こした上で新たな法体制を準備する責務があろう。これらは

、国家への従属を強化しようとする昨今の流れに抗して、多様な価値観を共有する自律

的な大学像を新たに構築するという歴史的事業の基礎となるに違いない。本小論もそう

した基礎作業の一部となれば幸いである。

 

謝辞:執筆の機会を与えてくださった国公労連独立行政法人対策部の飯塚徹氏、常日頃

議論をしている国立大学法人法反対首都圏ネットワークの事務局の諸氏に感謝する。

 

(1) 小沢弘明「新自由主義時代の大学改革」『歴史評論』658号、2005年、47-52

頁。

(2)法案の問題点については、『国立大学はどうなる』(東京大学職員組合・独立行政

法人反対首都圏ネットワーク編、花伝社、2003年)を参照。

(3) 国立大学の1年間の実態については、国立大学法人法反対首都圏ネットワーク主

催の「大学財政危機打開をめざす国会内ポスターセッション」を参照。

(http://www.shutoken-net.jp/2004/12/041208_1jimukyoku.html)

(4)  2005年12月12日の国大協臨時総会において文部科学省徳永審議官は、「入学料の

値上げは来年度は見送られるが、今後、私立大学と同様に入学時に施設整備費を徴

収するシステムを導入することが要求される可能性がある」と発言したと伝えられ

る。

(5) 国立大学法人法反対首都圏ネットワークのサイトの行政改革推進のトピックス

ページに詳しい情報が掲載されている。

(http://www.shutoken-net.jp/topics/2006gyokaku.html)

(6) 国立大学法人法反対首都圏ネットワークのサイトに詳しい評論がある。

(http://www.shutoken-net.jp/2006/03/060303_7jimukyoku.html)

(7) 2006年3月10日の衆議院文部科学委員会の質疑。会議録は

http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htmで閲覧可。

(8) 糟谷正彦「欠陥だらけの国立大学法人法」『内外教育』2006年5月30日付。

(9) 教育基本法「改正」情報センターの声明(2006年5月28日)参照。

(http://www.stop-ner.jp/)

 

    国交労調査時報,2006年7月号第523号,13-18.

 

 

2−2 目次 「国交労調査時報」 2006年7月号第523号

 

特集 今日の独立行政法人と国立大学法人

独立行政法人制度の5年間と独立行政法人労組の当面の課題

  国公労連独立行政法人対策部長 飯塚 徹

3年目を迎えた国立大学法人

 −−弱まる自律性と強まる行政への従属性−−

 藤本光一郎(東京学芸大学)・伊藤谷生(千葉大学)

独立行政法人会計基準の問題点

 東京大学教授 醍醐 聡

 

現場からのレポート

 ○研究機関=全経済・産業技術総合研究所労働組合、全通信研究機構支部、総理府労

連・航空宇宙技術研究所労働組合、全運輸運輸研究機関支部、土木研究所労働組合、全

厚生労働組合、文部職員労働組合

 ○検査・検定、教育訓練機関など=全運輸自動車検査独立行政法人労働組合、全運輸

航空大学校支部、全経済・製品評価技術基盤機構労働組合、総理府労連・統計センター

労働組合

 ○国立病院機構=全日本国立医療労働組合

 ○国立大学法人=東京大学職員組合執行委員会、新潟大学教職員組合