“悪質な隠蔽”露見: 共謀罪 “本家”米国は留保付き批准 『東京新聞』特報欄(2006.9.22)

 

 

共謀罪 “本家”米国は留保付き批准 法案創設の根拠 政府主張部分なのに… 日弁連などから猛反発の声 『東京新聞』特報欄(2006.9.22)

 

臨時国会で再び審議

「平成の治安維持法」と呼ばれ、国民の猛反発にあった「共謀罪創設法案」が、26日からの臨時国会でも審議される。自民党の安倍晋三新総裁が官房長官時代から「優先課題」と述べれば、野党も全面対決の方針。自民・公明VS野党・日本弁護士連合会のガチンコ対決の行方は――。(市川隆太)

 

 「政府、与党が導入を主張する共謀罪は、わが国の刑事法体系の基本原則に矛盾する。導入の根拠とされる国連越境組織犯罪防止条約の批准にも不可欠とは言い得ない。よって共謀罪の立法は認めることができない」。日弁連が二十日、法務省に提出した「共謀罪新設に関する意見書」はこんな強硬な調子だ。

 「無理もありませんよ。政府が、ある重要事実を隠していたことが露見したからです」。関係者の一人が声をひそめる。その種明かしは「意見書」の五ページに記されているという。

 「アメリカ合衆国は二〇〇五年十一月に条約を批准している。批准にあたり、国務長官が大統領あてに提出した批准の提案書によると、次のような理由で条約五条を留保していることが判明した。アメリカ州法は条約に規定されているすべての行為を犯罪化しているわけでなく、一部の州では極めて限定された共謀罪の法制しかない。アメリカは、州内で行われる行為についてまで犯罪化の義務を負わないという留保を行って条約を批准しているのである」

 

 「次の行為」と明記 要の「条約の5条」

 

 条約の五条とは、日本の国会審議や法律家間の論議でも、最も注目されたポイントの一つ。「条約締約国は次の行為を犯罪とするため、必要な立法、その他措置を取る」という条文。「次の行為」の中に共謀罪が含まれていたため、政府が国民にこれまで繰り返し訴えてきた「日本も共謀罪を創設しないと条約を批准できず、世界の孤児になる」という説明の一大根軌となっていた。

 

「よく分からない」押し通した外務省

 これに対し、野党各党は「日本の現行刑法などにより国際組織犯罪は取り締まれるから、五条を留保したうえで、条約を批准すればすむこと。共謀罪新設の必要はない」と主張。国会審議などでも「諸外国は条約にどう対応したかを明らかにしてもらいたい。本当は、一部を留保したうえで条約を批准した国もあるのではないか」などとただしたが、外務省側が「よく分からない」と押し通した経緯がある。

 「ところが、この夏、日弁連の国際室などが中心」となって各国の対応状況を調べた結果、なんと、国際組織犯罪取り締まりの旗振り役である米国が留保を実行していたことが判明。この事実を国会で明らかにせず「世界の孤児になってもいいのか」と言ってきた政府、とりわけ外務省への不信感が噴き出している」(関係者)という。

 保坂展人衆院議員(社民)も「国際組織犯罪対策なのに、なんで窃盗罪まで含めた六百余もの犯罪に共謀罪を新設しなきゃいけないのか。そんな素朴な疑問が正しかったことを、はからずも米国の留保が証明している」と指摘する。

 日弁連の意見書は「批准」についても「主権国家の一方的意思表明であり、そもそも国連による審査手続きは存在しない」とクギを刺している。

 来る臨時国会の衆院法務委で、政府・与党は共謀罪法案を最優先に出すのか。野党はこう牽制(けんせい)する。

 「法務省は信託法改正案や少年法改正案も抱えているのに、共謀罪を冒頭に持ってきたら、法務委は止まりますよ」 

 

(写真説明) 日弁連意見書を発端に臨時国会の与野党対決も沸騰しそうだ=21日、東京・霞が関の弁護士会館で