「意見広告の会」ニュース358(2006.10.1) (1)緊急 東京都教育委員会の控訴に対する反対署名 10月3日まで、(2)東京都と都教委が控訴 違憲判断の国旗国歌訴訟、(3)本日の東京都の控訴に対する声明 【原告・弁護団】、(4)日弁連の教育基本法改正法案についての意見書

 

 

 

「意見広告の会」ニュース358

 

** 目次 **

1 緊急 東京都教育委員会の控訴に対する反対署名

           10月3日まで

2 東京都と都教委が控訴 違憲判断の国旗国歌訴訟

       2006年 9月29日 (金) 18:32 共同通信ニュース

3.本日の東京都の控訴に対する声明 

       【原告・弁護団】

4 日弁連の教育基本法改正法案についての意見書

       日本弁護士連合会

 

 

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1 緊急 東京都教育委員会の控訴に対する反対署名

2006年9月30日

 

東京都教育委員会に対する緊急要請への賛同のお願い

                           

突然のお願いをさせていただきます。私たちはこのたび、東京都教育委員会に対し、後

掲のような緊急要請を行うことにしました。この要請にご賛同いただける方は、お名前

、所属を添えて、次のいずれかへE・メールでお知らせ下さるよう、お願いいたします

。賛同署名の期限は10月3日(火)22時とさせていただきます。

  shomei@zendaikyo.or.jp

  kinkyushomei@yahoo.co.jp

 

呼びかけ人

  石田米子(岡山大学名誉教授)

大西 広(全国大学高専教職員組合委員長)

勝野正章(東京大学教員)

小森陽一(東京大学教員)

近藤義臣(群馬大学教員)

斎藤貴男(ジャーナリスト)

酒井はるみ(茨城大学教員)

志水紀代子(追手門学院大学教員)

醍醐 聰(東京大学教員)

俵 義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)

浪本勝年(立正大学教員)

成嶋隆(新潟大学教員)

早川弘道(早稲田大学教員)

堀尾輝久(東京大学名誉教授)

 

2006年10月○日

東京都教育委員会 御中  

 

東京地裁判決(9月21日)を踏まえた緊急の要請書

 

 東京地方裁判所(難波孝一裁判長)は、2006年9月21日、東京都立高校などの教職員

らが、東京都教育委員会を相手取った訴訟で、国旗掲揚の際の起立や国歌斉唱の義務が

ないことを認め、東京都教育委員会の通達や校長の命令に従わなかったことを理由に教

職員を懲戒処分をしてはならない、という主旨の判決を言い渡しました。

 この判決は、憲法第19条と教育基本法第10条に基づく、二つの重要な法的判断を行っ

ています。

 一つは憲法19条に基づく判断で、判決は、「起立したくない教職員、斉唱したくない

教職員、ピアノ伴奏したくない教職員に対し、懲戒処分をしてまで起立させ、斉唱させ

ることは、いわば少数者の思想良心の自由を侵害し、行過ぎた措置である」と判示しま

した。つまり、東京都教育委員会の「10.23通達」とそれに基づく校長による職務命令

、そして懲戒処分という、行政が行なってきた一連の行為は、思想・良心の自由を保障

した憲法19条に違反すると明確に判断したわけです。

 もう一つは、教育基本法第10条に基づく判断です。判決は、国旗・国歌は国民に対し

強制するのではなく、自然のうちに国民の間に定着させるというのが国旗・国歌法の趣

旨であると判断しました。そのうえで判決は、最高裁学力テスト判決で示された憲法・

教育基本法解釈に従って、「10.23通達」に始まる東京都教育行政による、逸脱を許さ

ない国旗・国歌強制施策は教育基本法10条に違反する(不当な支配」に該当する)と認

定しました。

 ところが、東京都と都教育委員会は9月29日、この東京地裁判決の受け入れを拒み、

東京高裁に控訴しました。これに先立ち、石原慎太郎東京都知事は9月22日の記者会見

で、「当然控訴します」と開き直り、控訴の理由として、「通達に従って、指導要領で

指示されていることを先生が行わない限り、それは義務を怠ったことになるから」「処

分を受けて当たり前」と発言しました。

 しかし、判決はそもそも東京都教育委員会の通達も、それに基づく校長の職務命令も

違憲・違法と判断したわけですから、教職員にはそれらに従う義務がないことは明らか

です。この意味で石原都知事の発言は完全に論理破綻をしています。私たちは東京都と

都教育委員会がこのように正当な理由を示せないまま行った控訴に抗議し、すみやかに

東京地裁判決に従うよう、強く求めるものです。

以上のことをふまえ、私たちは東京都教育委員会に対し次の3点を要請します。

1)今回の東京地裁判決に基づき、「10・23通達」をはじめ、国旗・国歌強制をめぐる

、すべての通達とそれに基づくすべての職務命令をただちに撤回すること。

2)前記の諸通達と職務命令に違反したとしてなされた、すべての懲戒処分を取り消す

こと。

3)今回の東京地裁判決の重みを真摯に受け止め、教員の思想・良心の自由を保障し、

児童・生徒とともにのびのび学べる教育環境づくりを進めること。         

                      

以 上

 

2 東京都と都教委が控訴 違憲判断の国旗国歌訴訟

    2006年 9月29日 (金) 18:32 共同通信ニュース

 

 東京都と都教育委員会は29日、入学式や卒業式での国旗国歌の強制は違憲とした東

京地裁判決を不服として、東京高裁に控訴した。

 21日の判決は「教職員の意に反し懲戒処分してまで起立斉唱させるのは思想良心の

自由を侵害する」とし原告1人当たり3万円の賠償を命令した。判決後、石原慎太郎知

事は「処分は正当で当然控訴する」と表明。都教委は都立学校の校長に、従来通り指導

をしていく方針を示していた。

 一方、原告の教員らはこれまでの懲戒処分取り消しや控訴断念を都教委に再三申し入

れていた。

 

 

3.本日の東京都の控訴に対する声明 【原告・弁護団】

 

                 声 明

 東京地方裁判所が国歌斉唱義務不存在確認請求等訴訟について去る9月21目に言い

渡した判決(以下「本件判決」)に対し、東京都教育委員会及び東京都は、本日、控訴

手続きを収ったことを発表した。

 われわれ原告団・弁護団は、都教委及び都が!0.23通達及び処分の撤回を求めるわれ

われの要請を無視し、控訴したことに対し、強く抗議する.

 

 本件判決は、10.23通達とこれに関する一連の都教委の校長に対する指導が、卒業式

・入学式等での国旗掲揚、国歌斉唱の実施方法や、教職員に対する職務命令の発令等に

ついて、各学校の裁量の余地なく画一的に都教委の方針を強制するもので、教育の自主

性を侵害し、教基法10条の禁ずる「不当な支配」に該当するもので違法とした。

 

 また、教職員に対し懲戒処分などをしてまで一挙に起立・斉唱・ピアノ伴奏等の義務

を課しか10.23通達とこれに基づく職務命令は、憲法19条で保障された思想・良心の

自由を侵害し、違憲であるとして、起立・国歌斉唱・ピアノ伴奏義務等の不存在、懲戒

処分の禁止、慰謝料の支払いを認めた。

 都教委及び都が本件判決に対し控訴したことは、行政が司法判断を重く受け止めてそ

の姿勢を正す貴重な機会を自ら放棄したものである。

 

 本件判決には、学習指導要領のみを金科玉条のごとく振りかぎして強権的に処分を重

ね、憲法や教育基本法を一顧だにしなかった都教委の姿勢が法的に見ていかに誤ってい

.かが、明確に指摘されている。

 

 本件判決を受けてなおその誤りを正そうとしない都教委は、憲法尊重擁護義務(憲法

99条)に明白に違反しており、また教育に携わる者としての良識が全く欠けていると

いうほかない。

 それどころか、報道によれば、都教委は、判決翌日に臨時校長連絡会を開いて都立学

校の校長を招集し、本件判決によって違憲違法と判断された10.23通達に基づいて今後

も国旗国歌の指導を実施するよう指示した、とのことである。

 

 これは、都教委が、本件判決で教育の自主性を侵害する、と厳しく指摘された、校長

らに対する強権的手法を更に重ねていることにほかならない。

 

 都教委が、今後も卒業式等における国旗国歌の強制を繰り返せば、原告らは、そのた

びに、懲戒処分等の強制の下、自己のは念に従って職務命令を拒否するか従うかの岐路

に立だされるのである。しかも、原告らに対する懲戒処分は重くなり続けるのであるか

ら、そのことによる原告らの思想・良心の侵害は著しい。にもかかわらず、控訴を選択

した都教委の姿勢は、思想・良心の自由は権利侵害後の事後的救済にはなじまないとし

て国歌斉唱義務不存在および処分の差し止めを認めた本判決を全<無とするものであり

、断じて許されない。

 

 控訴審判決では、そのような都教委の無反省かつ強引な手法は、違憲違法性を認識し

ながらあえてこれを改めない一段と違法性の高い行為として非難されるであろう。

 

 われわれは、控訴審においても、本件判決が認めた、民主主義社会における思想・良

心の自由の保障の重要性、教育に対する行政権力の不当・不要な介入から教育の自主性

を守ることの重要性などを引き続き強く訴え、司法判断を確実なものにしていく所存で

ある。

 

2006年(平成18年)9月29日

国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟原告団・弁護団

 

 

4 日弁連の教育基本法改正法案についての意見書

 

教育基本法改正法案についての意見

2006年(平成18年)9月15日

日本弁護士連合会

 

当連合会は本年2月3日、準憲法的な性格を持ち国際条約との間の整合性をも確保する

必要性が高い教育基本法については、衆参両院に、教育基本法について広範かつ総合的

に調査研究討議を行う機関としての「教育基本法調査会」を設置し、同調査会のもとで

、その改正の要否をも含めた十分かつ慎重な調査と討議をすることを求める提言を行っ

た。

また、本年4月25日にも、同様の観点から、教育基本法改正法案の国会上程について

最大限の慎重な取扱いを求める旨の会長声明を発したが、本年4月28日政府案が上程

され、衆議院「教育基本法に関する特別委員会」にて継続審議となり、9月26日に召

集される臨時国会ではその成立を期する、とする政府方針が伝えられている。

しかしながら、政府案は以下に指摘するとおり、憲法に関わる重大な問題を含んでおり

、また法案を対象にした委員会における審議のみでは、教育基本法についての広範かつ

総合的な調査研究討議を行うには不十分である。

当連合会は、改めて、衆参両院に「教育基本法調査会」を設置し、同調査会のもとで、

教育基本法の改正の要否をも含めた十分かつ慎重な調査と討議を行うことを求めるとと

もに、提案されている内容でこのまま教育基本法を改正することには、強く

反対の意思を表明するものである。

 

1 現行教育基本法の立憲主義的性格

現行教育基本法は「日本国憲法の」理想の実現は、根本において教育の力に、(まつべ

きもの)とされ「日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、日本、の教育の基

本を確立するため、この法律を制定する」とされている(前文)。このよう

に、教育基本法は日本国憲法に密接に関連し、我が国の教育法体系の中での根本理念を

定める法律と位置づけられている。のみならず、教育基本法は、憲法と同様に、その基

本において名宛人は国家であり、教育の根本規範として、子どもが自由かつ独立の人格

として成長するために必要な理念と基本原則を明らかにしたものであって、教育を受け

る者との関係において「権力」を行使する立場にある者(国、地方公共団体、教育行政

機関、学校、教員)に対し、憲法の精神に則り「すべきこと」と「してはならないこと

」を命じる立憲主義的な性格を有している。

立憲主義とは、個人の尊厳と法の支配を指導理念とするものであって、ここで教育の権

力的側面を見据え、現行教育基本法制定の背景となった教育に対する国家的介入がもた

らした悲劇、一元的な価値観・一方的な観念を植えつける教育が過去に招い

た惨禍を想い起こすとき、教育基本法は、今後も、その立憲主義的性格を失ってはなら

ない。

ところが、政府案においては、以下のとおり、現行教育基本法が有する立憲主義的な性

格を形作る重要な部分が失われてしまうのではないかとの問題がある。

 

2 現行法10条「改正」の問題

教育は、教師と子どもとの直接の人格的な接触のなかで子どもの個性に応じ弾力的に行

われるものであることから、本来的に、教師の自由な創意と工夫が求められる。教育内

容に対する権力的介入を警戒しこれに対して抑制的態度をとることは、戦前の

教育における過度の国家的介入と統制を反省するとき、その重要性は極めて大きい。最

高裁判所旭川学力テスト事件大法廷判決が「教育に対する行、政権力の不当、不要の介

入は排除されるべきである」と述べているのも、このような教育の本質と歴

史からの教訓を背景にしたものとして理解されるべきものである。そもそも、個人の基

本的自由を認め、その人格の独立を国政上尊重すべきことを求める憲法の下において、

国家による教育内容への介入はできるだけ抑制的であるべきであり、子どもが自

由かつ独立の人格として成長することを妨げるような教育への国家的介入、例えば誤っ

た知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すことを強制するこ

とは許されない。この憲法上の要請を担保するものとして規定されたの

が現行教育基本法の10条である。

同条は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行

われるべきものである。」(第1項)、「教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的

を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。」(第2

項)と定め、教育に中立性・不偏不党性を求めるとともに、教育現場における自主性・

自律性を尊重すべきことを表明し、もって、国家による教育内容への介入はできるだけ

抑制的でなければならないとする憲法上の要請を担保するものとなっている。

しかし、これと対比されるべき政府案16条は、現行法10条1項の「教育は、不当な

支配に服することなく」との文言は残存させながらも、同項の「国民全体に対し直接に

責任を負って行われるべきものである」との表現については「この法律及び

他の法律の定めるところにより行われるべきものであ(る)」へと改変し、さらに、同

条2項の「教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整

備確立を目標として行われなければならない」との定めは削除している。

その結果、政府案においては、政党政治の下で多数決原則によってなされる国政上の意

思決定に教育を全面的に委ねることになりかねず、本来人間の内面的価値に関する文化

的営みとして、党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきではな

い教育の在り方を損なうことが強く懸念されるとともに、教育行政の名で必要な諸条件

の整備確立を超えて国家権力が教育内容に介入することも可能となり、これを抑制する

ための歯止めも失われることになる。

しかも、政府案の17条は、政府と地方公共団体が教育振興基本計画を定めることを規

定しているが、これにより「教育目標」の達成計画、達成度評価、効果的達成を促す予

算配分などを通して、教育に対する更なる国家的介入を招きかねない。立憲主義的性格

を有する教育基本法においては、教育現場の自主性・自律性を尊重し、教育における自

由な領域を確保することの重要性はいうまでもない。教育への国家的介入を抑制し教育

現場の自主性・自律性を尊重する要となる教育基本法10条の意味を失わせる政府案は

、立憲主義的観点から重大な問題がある。

 

3 精神的自由が侵される危険

政府案の2条は、教育の目的を実現するための目標として、個人の意志・意欲や内心に

かかわることがらを含む事項を5項目に分けて幅広く取り上げ、これを「教育の目標」

とし、これを達成すべく教育が行われることを規定している。現行法の2条

が、教育の目的を達成するにおいても「自発的精神を養い」、「自他の敬愛と協力」に

よることを教育の方針とし、これにより一方的に特定の価値観を押し付けることのない

ように配慮すべきことを規定しているのとは対照的ですらある。すなわち、政府案2条

が「教育の目標」として掲げる「徳目」は、本来、多様性をもつ多義的な概念であって

、もとより一義的に決定できないものである。しかし、これらが達成すべき「教育の目

標」として教育の根本規範である教育基本法に規定されるならば、教育の場においては

、国・地方公共団体によって一定の価値選択がなされ具体的な内容をもったものとして

一義的に決定され、その決定された一方的な観念が子ども達に植え付けられることにも

なりかねない。しかも、先に指摘したとおり、政府案16条では「この法律及び他の法

律により行われるべきもの」とし、法律によってこれらの「徳目」の内容がいかように

も決定される可能性をはらむに至ったことによって、この懸念は一層大きいものになる

また、この懸念については、次の2点を併せ考えるとき、その影響は更に大きなものと

なる。

まず、政府案2条の「教育の目標」は、義務教育(5条)をはじめ、大学(7条)や私

立学校(8条)も含む学校教育(6条)において、それが達成されるよう「体系的な教

育」が「組織的に行われ」ることになる。のみならず、家庭教育(10条)、

幼児期の教育(11条)及び社会教育(12条)並びに「学校、家庭及び地域住民等の

相互の連携協力(13条)などを通して社会の人々の生活全般」に及んでいくことも否

定できない。さらに、教育振興基本計画(17条)に基づき、政府・地方公共団体によ

り、「教育目標」の達成計画、達成度評価、効果的達成を促す予算配分などを通して、

多義的な「徳目」に一定の内容で具体化された「教育目標」の達成が、確実に図られる

よう促進することも可能となる。

以上のように、政府案2条が「教育の目標」として掲げる「徳目」については、多義的

であるが、教育の場においては、国や地方公共団体が一義的に決定することになりかね

ず、憲法の保障する精神的自由(憲法19条、20条、21条、23条)が

侵害される危険が大きくなる。

 

4 むすび

教育の現場や、子ども達が直面している教育をめぐる状況に深刻な問題があることは大

方の見解が一致するところと思われるが、このような状況を改善する処方箋として現行

教育基本法を改正するという方向を目指すことに対しては、子ども達の事件を日々担当

する実務法律家の立場からすると大きな疑問と違和感を抱かざるを得ない。

政府案は既に述べたとおり、重大な問題を含んでおり、また法案を対象にした委員会に

おける審議のみでは、教育基本法についての広範かつ総合的な調査研究討議を行うには

不十分である。

当連合会は、改めて、衆参両院に「教育基本法調査会」を設置し、同調査会のもとで、

教育基本法の改正の要否をも含めた十分かつ慎重な調査と討議を行うことを求めるとと

もに、提案されている内容でこのまま教育基本法を改正することには、強く反対の意思

を表明するものである。

 

以上