「残留バブルと脅し」で揺れた将棋「女流棋士会」 『週刊新潮』2007年4月12日号(2007.4.12)

 

 

「残留バブルと脅し」で揺れた将棋「女流棋士会」 『週刊新潮』2007年4月12日号(2007.4.12)

 

 女流棋士会が日本将棋連盟から独立して、新法人を立ち上げる。ただし、参加するのは17名。連盟に36名の女流棋士を積み残しての船出だ。その陰には、連盟首脳たちの脅しに近い妨害工作と、それとは逆に、"残留バブル"をほのめかす甘い誘惑があった。

 

 将棋連盟からの独立を目指す女流棋士騒動が急展開。4月2日、女流の新法人設立準備委員会(中井広恵委員長)は、内部分裂しても独立すると明言したのだ。委員の石橋幸緒女流棋士が言う。

「少人数でのスタートとなります。でも、参加希望者は独立を強く望んでいた人ばかりですので、仲良く団結しながら運営します」

 分裂状態での独立事情を、ある男性プロ棋士は語る。

「女流の独立を真っ先に提言したのは、実は連盟の米長邦雄会長だったのです」

 咋年3月のことだった。

「中井と石橋を前に米長会長が"これからは女流専用の待機部屋も将棋の対局場も貸せなくなる。女流棋戦のスポンサー探しなど営業活動もしてやれなくなる。女流棋士会は連盟から独立して運営したらどうか"と勧めたのです」(同)

 女流棋士が誕生してからすでに30余年を数えていた。女流棋士会は、ここで独立の道を選ぶのだ。あるベテラン女流棋士が解説する。

「待遇改善を自らの手でやりたいと思ったのです。トップクラスの女流でも、優勝賞金と対局料を合わせた年収が約400万〜500万円。弱い者は年収30万円という残酷な世界なのです」

 しかし、昨年末にはほぼ全員が独立に賛成したのに、現在はたったの20名弱。連盟幹部たちによる独立希望者への妨害や、嫌がらせが功を奏したからだった。

 

 兵糧攻めに出た

 

 設立準備委員会の広報担当・古作登氏は言う。

「米長会長が一転して、女流の独立に難色を示し始めたのです。女子ゴルフ協会の成功例もあります。男性棋戦が女流人気に食われて、スポンサー離れが起きるとでも思ったのでしようか」

 女流もプロ棋士とはいえ、あくまでも「女流のプロ」であり、連盟の会員資格がないので給料は1銭も出ない。国民健康保険料が払えず、棋士を廃業した女性もいるほどだ。

 「米長会長や理事たちは、兵糧攻めに出たのです。彼女たちの将棋の師匠や保護者に連絡して、独立を断念するよう説得させました。それでも効果がないと知るや、今度は踏み絵を用意した」(将棋担当記者)

 回答期限を3月22日までとし、残留するか否かを女流棋士に迫ったのだ。しかも、その間には"独立派は除名だ"などという怪電話が、女流の自宅にジャンジャン掛かっている。連盟の西村一義専務理事は、

「嫁に出す以上は、安心したいのが親心というものです。本当に全員揃って独立したいのか、本心を聞いてみたかっただけでした」

 と言うが、これはどう見ても脅迫。連盟怖さで翻意した女流棋士も続出した。将棋ジャーナリストが言う。

「アメも用意していた。名人戦や衛星放送の解説役を、優先的に回すなどという条件をチラつかせたのです」

 こうした"残留バブル"と呼ばれる好条件を提示しても、残留希望者は過半数に届かない。連盟は期限を1週間延長して多数派工作を続けた。そして、残留派36、独立派17という数字をはじき出したのだ。

「独裁国家の選挙みたいでね。残留派が多くなるまで回答期限を何度でも延長したに違いありません」(同)

 弱い者いじめもほどほどにしてよネ、将棋連盟。

 

(写真説明)対決する米長会長と中井委員長