「意見広告の会」ニュース414(2007.5.13) (1)不公正な改憲手続法案の(強行)不正採決に対する抗議声明、(2)採決粛々 あっけなく幕 国民投票法案 参院委可決 東京新聞、(3)『民主が暴走に手貸した』 共産・社民・国民新が批判 東京新聞

 

 

「意見広告の会」ニュース414(2007.5.13) (1)不公正な改憲手続法案の(強行)不正採決に対する抗議声明、(2)採決粛々 あっけなく幕 国民投票法案 参院委可決 東京新聞、(3)『民主が暴走に手貸した』 共産・社民・国民新が批判 東京新聞

 

2−1 不公正な改憲手続法案の(強行)不正採決に対する抗議声明

    ――日本憲政史を汚す歴史的暴挙の中止を要求する

 

強行・不正採決への動き

 

 与党は「国民投票法案」という名の改憲手続法案を、衆議院において4月11日(特別

委員会)、13日(本会議)に強行採決によって通過させ、今また参 議院における採決

・成立を強行しようとしている。参議院では異例の強行スケジュールで審議が進められ

、まだ中央公聴会すら開かれていないにもかかわら ず、与党側は5月11日(特別委員

会)・14日(本会議)という採決日程を提案し、今日これから「日本国憲法に関する

調査特別委員会」で(強行)採決を 行うと思われる。

 

 参議院での審議を通じて、この法案の問題点はますます明らかになってきているので

、このような審議と採決に私たちは厳重に抗議し、慎重審議を求める。

 

 「国民投票法案」は、私たちがすでに訴えてきたように、中立的なものではまったく

なく、有権者から改憲の是非を考え論じる機会を奪う不公正なやりかた で、改憲を強

行できるようにするための改憲促進法である。その内容には以下に挙げるように、数多

くの深刻な問題点がある。

 

法案の問題点

 

1.公務員・教員の運動が規制されること

 

 法案は公務員・教員の「地位利用による国民投票運動」を禁止している。何が地位利

用にあたるかは曖昧であり、この禁止条項において、公務員・教員の言 論・行動と教

育研究活動が大きく制約されるおそれがある。このことはまた、それらの活動に大きな

萎縮効果を持つことによって、公正な討議が社会において 広く行なわれることを妨げ

ることになる。

 

 学問の自由・言論の自由を脅かす、このような法案に対して、わたしたちは大学人と

して強く反対する。

 

2.組織的多数人買収・利害誘導罪が設けられていること

 

 法案は、市民団体・運動団体などを含め、組織による買収・利害誘導罪を設けている

。特に利害誘導については、何がこれにあたるかが曖昧であり、この罰 則規定により

、政党や労働組合・市民運動団体などの活動に対して、大きな萎縮効果が現れると懸念

される。

 

3.最低投票率の定めがないこと

 

 法案には最低投票率の定めがない。最高法規である憲法の変更が、有権者の過半数以

下の投票、場合によっては有権者の2割以下の賛成で可能となってしま うような国民

投票のありかたは許されない。十分な高さの最低投票率を定めるべきである。

 

4.過半数の賛成という改憲要件が異例な形で低く設定されていること

 

 法案では改憲には投票総数の過半数が必要と規定されているが、通常の「投票総数」

の考え方に反して、この法案ではそれが「賛成票+反対票」と規定され ている。だか

ら、白票など無効票が投票総数に入らず、これは「有効投票の過半数」という意味にな

っている。そもそも、硬性憲法の趣旨から言えば、「改憲 には有権者数の過半数が必

要」という規定もあり得るのに対し、これは明らかに改憲派に有利な規定である。

 

5.複数条文の改正についての一括投票が濫用可能であること

 

 法案の規定では、「内容において関連する事項ごとに区分して発議」することになっ

ているが、規定が漠然としているので、別々に投票すべきものが一括し て投票される

おそれがある。そこで、個別に投票すると整合性を欠く場合を除き、条文ごと、項目ご

とに投票することを明確に定めなければならない。

 

6.周知・熟慮期間が短すぎること

 

 法案は、発議後最短2か月で国民投票を行なうことを可能としている。このような短

い期間では、国民が憲法改正案についてよく知り、熟慮・討議(熟議)

することはできない。

 

7.有料広告の規制がないこと

 

 法案は、テレビ・ラジオにおける有料広告に、投票日前14日間の禁止以外なんらの規

制も課していない。有料広告が野放しとなれば、資金力の大きい勢力 にのみ一方的に

有利であり、きわめて不公正である。他方、投票日前14日間の広告の一律禁止にも放送

の自由の点で問題がある。

 

8.メディア規制が意図されていること

 

 法案は放送に「政治的公正性」を課しており、これによって、マスコミの報道に大き

く抑制してしまい、結果として有権者から改憲についてよく知り、考え る機会を奪っ

てしまう。

 

9.広報と無料広告の規定が不公正であること

 

 広報と無料広告については、法案は「広報協議会」が管理することとしている。この

協議会の構成は、国会内の各会派の議席数に応じることになっており、 改憲提案がわ

の議員が圧倒多数を占めることになる。このような協議会のもとでは、公正な広報が行

なわれないおそれが大きい。また、無料広告が政党もしく は政党推薦の団体にしか割

り当てられないことなど、問題点は多い。

 

 

憲法原理と憲政の原則からの背反性

 

 このように「国民投票法案」は、議会内多数派が、基本的人権を制限し主権者から公

正な判断を行なう機会と時間を奪って改憲を強行するための手段となっ てしまう。日

本国憲法は憲法改正要件を厳格に定めているから、改正手続きはそれに則したものでな

ければならない。それにもかかわらず、この法案はその要 請から著しく乖離している

。そして、この法案は、発言の自由を制約したり熟議を不可能にしたりする点で、自由

主義・民主主義という現行憲法の基本原理に 反する性格を有しているのである。

 

 そもそも、憲法改定の手続き法案の内容は国家の基本法の運命に大きく影響するので

、慎重の上にも慎重を期して議論がなされるべきである。そして、衆議 院通過の後で

法案の問題点がようやく広く知られ始めたため、参議院の審議はことに重要な意味を持

っている。だから、実質的な審議を回避しようとする拙速 で異常な審議方式は、厳し

く批判されなければならない。中央公聴会の開催すら行わないで採決を行うのは言語道

断であり、憲法改定手続き法制定の手続き自 体に重大な瑕疵がある。このような採決

は、日本憲政史上に残る歴史的暴挙と言わざるを得ない。

 

 憲法改定という最重要事についての手続き法の制定が、憲政の原則に反するような形

で行われるということは、この手続き法自体が日本国憲法の原理に背反 する側面を持

っていることを象徴的に示している。また、現在の国会がそれを正すことができずに参

議院が憲政の原則に反した採決を行うということは、「国 会自体が憲法の原則や憲政

の常道に反したものになっているのではないか」という疑念すら生じさせる。

 

 憲法改正の手続き法案は、憲法の精神に則して、憲政の原則(常道)に従って制定さ

れるべきである。私たちは、参議院特別委員会及び本会議における同法 案の(強行・

)不正採決に強く反対し、法案の廃案をあらためて要求する。

 

2007年5月11日

  改憲に反対する大学人ネットワーク

 「国民投票法案に反対する――大学人緊急院内集会」参加者一同

 

 

2−2 採決粛々 あっけなく幕 国民投票法案 参院委可決

              東京新聞 5/12

 

 参院憲法調査特別委員会で十一日夕、国民投票法案(憲法改正手続き法案)が可決さ

れ、成立が間近に迫った。怒号が飛び交った衆院とは裏腹に、法案の不備を埋める“約

束”を取り付けた最大野党が採決で沈黙し、あっけない幕切れに。「憲政史上の重大な

汚点」となお反発する少数野党に対し、与党は「理想的な国会の在り方」と胸を張った

。国会周辺では法案に反対する草の根の市民らが「平和を脅かす改憲の動きだ」と抗議

の声を上げ続けた。 

 

 「美しい国、そう言いながら非常にナショナリスティックに国を変えて基本的人権を

無視するんじゃないか、という誤解があると思いますので…」。質疑の一番バッターと

なった自民党の舛添要一議員は同党新憲法草案を一緒につくった安倍晋三首相を持ち上

げるかのようにタカ派イメージの払しょくに躍起だった。

 

 衆参の特別委を通じて初めて審議に出席した安倍首相も、これに応じて「日本が戦後

守ってきた法の支配、基本的な人権、自由、民主主義、この世界共通の基本的価値は守

っていく」などと答弁。テレビ中継を意識してかソフトイメージを演出した。

 

 これに対し、民主党の憲法調査会会長代理の簗瀬進議員が「与党とは信頼関係に基づ

く良好な議論を展開してきたが参院選の争点にして一変させたのは総理大臣、あなただ

」と首相を糾弾。野党席からも「そうだ」「A級戦犯!」とヤジが飛ぶ一幕もあった。

しかし、民主は、最低投票率やCM規制など同法案の不備を埋める付帯決議を交換条件

にこの日の採決に応じていたため、傍聴席から「アリバイだ」と批判の声が上がった。

共産、社民、国民新の三党は「もっと審議すべきだ」「強引なやり方だ」と追及したが

、関谷勝嗣委員長(自民)の「賛成多数」の声にかき消された。

 

 閉会後、関谷委員長は「やっと(国民投票ができるという)主権在民の権利を認めた

法律ができた。護憲派も改憲派も今まで縛られて、その権限がなかったわけで、大きな

前進だ」と胸を張った。舛添議員は「衆院のように強行採決も乱闘もせず、粛々と反対

者は反対意見を述べ、国会の在り方として理想的だった」と語った。

 

 簗瀬議員は「乱暴ざたなど混乱の中で大穴がたくさんあいた法律が世に出てしまうの

を防ぐのが、参院野党第一党としての良心だ」と強調した。

 

 反対討論を行った共産の仁比聡平議員は「安倍首相の改憲スケジュールに(同法案の

成立を)合わせるという与党側の狙いがはっきりした。憲政史上に残る汚点だ」と声を

荒らげた。社民の福島瑞穂党首は「むしろこれからの三年間が勝負。最短で三年二カ月

で憲法が変えられるかもしれない。海外で米軍と武力行使をするための憲法改悪と(改

憲手続きの)国民投票法の問題点を、一人でも多くの国民に知ってもらいたい」と訴え

た。

 

国民投票法案に反対し、記者会見をする「改憲に反対する大学人ネットワーク」の代表

ら=11日午後、東京・永田町の参院議員会館で

 

国会囲み抗議運動 『改憲前提おかしい』

 国民投票法案が参院憲法調査特別委で採決されたこの日、国会周辺では、同法案に反

対の市民グループらが集会や座り込みなどの抗議行動を展開した。

 

 東京・永田町の参院議員会館では、大学教職員らの「改憲に反対する大学人ネットワ

ーク」の約三十人が集会を開き、同法案について「国民の自由で民主的な意思の表明を

保障する憲法改正手続きとは言えない」と批判。「平和・人権・民主主義を脅かす危険

な改憲の動きだ」とする声明を発表した。

 

 ネットワークには護憲派、改憲派を問わず二百七十人余が賛同。清水竹人桜美林大教

授は「改憲を前提とした法案は問題で強く危惧(きぐ)する」。山根徹也横浜市立大准

教授は「教員の発言や行動も制限されかねず、言論への侵害は重い。改憲の発議をさせ

ないように活動を続ける」と危機感を募らせた。

 

 参院の議員面会所内では、市民団体「5・3 STOP!憲法集会」の約百人が集結

。「大変な局面を迎えたが、あきらめずに頑張ろう」と気勢を上げた。参加した僧侶(

53)は「中央公聴会も開かず、地方公聴会の意見も精査していない」と憤っていた。

 

 国会前では昼から、全国労働組合総連合(全労連)に加盟する約三十団体の二百人以

上が座り込み、採決に抗議した。全労連の今井文夫国民運動局長は「国民主権を無視し

たむちゃくちゃなやり方」と与党を非難。同特別委の終了後も「早急な採決に反対」と

シュプレヒコールを繰り返した。

 

 

2−3 『民主が暴走に手貸した』 共産・社民・国民新が批判

              東京新聞 5/12

 

 参院憲法調査特別委員会で十一日可決された国民投票法案(憲法改正手続き法案)に

関し、中央公聴会を開催しないまま採決することで自民党と合意した民主党に対し、共

産、社民、国民新の野党三党から不満の声が上がった。

 

 共産党の志位和夫委員長は記者団に「民主党は中央公聴会抜きの採決に反対と言って

いたのに、土壇場でひっくり返った。自民、公明両党の暴走に手を貸した責任は免れな

い」と批判。

 

 社民党の福島瑞穂党首は「本当に残念。民主党は野党第一党として、ひどい中身の法

案に(本来)もっともっと抵抗すべきだ」、国民新党の亀井久興幹事長も「各党が十分

納得して決めるべきものを、民主党だけが与党と話し合ってスケジュールを決めたのは

やり切れない」と苦言を呈した。

 

 これに対し、与党との折衝に当たった民主党の簗瀬進参院議員は、記者団に「(ほか

の野党と)まったく気持ちは同じだが、こちらが指摘した法案の不備を受け止めた付帯

決議を与党がほぼのんだ」などと、採決に応じた理由を説明した。