【疑惑の濁流】政治献金めぐり議会で応酬 横浜・中田市長に放たれた「追及の矢」 『産経新聞』(2009.2.15)

 

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090215/crm0902151801012-n1.htm 

 

【疑惑の濁流】政治献金めぐり議会で応酬 横浜・中田市長に放たれた「追及の矢」

2009.2.15 18:00

 若さとクリーンさを掲げて約7年前に横浜市長の座を射止めた中田宏氏(44)が、公共事業とカネをめぐって一部市議と激しい応酬を続けている。中田市長が代表を務める政治団体が、横浜港開港150周年記念事業の契約先に決まった業者の社長夫妻から個人献金を受けていたことが判明し、複数の市議が「献金は賄賂」「契約は出来レース」などとかみ付いているのだ。市長は疑惑を否定した上で「言葉が不適切だ」「議会の品位が汚れる」などとやり返し、バトルは長期化の様相をみせている。華々しい開港記念事業をめぐって、一体何があったのか−。

 

ハマの象徴復活に地元大手業者が名乗り

 横浜市中区の山下公園付近にそびえる全長106メートルの横浜マリンタワー。

 「今も昔も港町ヨコハマの象徴に変わりないですよ」

 山下公園を散歩していた男性がそう誇りを口にするマリンタワーは、開港100年記念として昭和36年に開業。展望台の人気で一時は入場者が100万人を突破したこともあった。

 だが、周囲に高層ビルのランドマークタワーなどが出現して客足は次第に遠のき、運営会社の「氷川丸マリンタワー」は平成17年に営業終了を表明した。

 市民から保存と活用の要望を受けた市は翌18年2月、マリンタワーを取得する方針を表明し、民間活力による再生事業に乗り出す方針を打ち出した。具体的な事業内容は、建物と土地の取得費を含め計約31億円で再整備し、公募で選んだ民間業者に有料で貸し出す−というものだ。

 市は18年11月から19年2月まで運営事業者を募集。応募した4社について、大学教授ら識者など6人で構成される事業者選定委員会が各社の活性化案などを審議した結果、同年3月に最も評価の高かった横浜市中区の不動産業「リスト」(北見尚之社長)が「優先交渉権者」となった。これを受けて市は同年6月、リスト社と基本協定を結び、事業者に決定した。

 3年に設立された同社は、首都圏でも分譲マンションなどの積極的な事業展開で業績を伸ばし、「神奈川県内ではトップクラスの業者」(業界関係者)とされる。

 リスト社はほかの業者とともに、マリンタワー内部にレストランやFMサテライトスタジオ、イベントホールなどを新設し、20万人台だった年間来場者を30万人以上に伸ばすことを目指すという。

 

「贈賄」の表現めぐり応酬

 19年10月、横浜市議会決算第2特別委員会で、太田正孝市議(無所属クラブ)から尋常ではない発言が飛び出した。

 「はっきり言って、賄賂だと思われます」

 事業者決定から約4カ月後。中田市長とリスト社の関係が議会でクローズアップされたのである。

 同年9月に公開された政治団体中田ひろしを支える会」の政治資金収支報告書(18年分)の個人寄付欄には、リスト社の北見社長夫妻の名が連ねられていた。金額はそれぞれ150万円の計300万円。献金が行われたのは18年3月16日で、すでに再生事業の実施方針が打ち出されていたという。

 19年12月の定例会では、井上さくら市議(同)がさらに追及した。

 「リストにマリンタワーを取らせたのは、出来レースではないのか」

 「300万円は市長への贈賄であった可能性があるのではないか」

 これに対し、中田市長は選定委員会での審議の公平性を主張したあと、「贈賄という言葉を過大にお使いいただくのは何か不適切だと思う」と切り返した。

 こうした一部市議の発言をめぐっては、北見社長も議事録からの削除を求めて内容証明郵便を議会に送ったが、その後も質問は止まなかった。

 20年2月の定例会では、大貫憲夫市議(共産)が再生事業について「市長の何らかの関与があると考えざるを得ません」と問いただした。

中田市長は「どこかで聞いただけの話をこういうところで言うことは、議会の品位が汚れる」と答弁し、業者選定に介入しないことを「市長になってからの絶対に譲らないポリシー」と強調した。

 続きはまだある。

 昨年末に無所属クラブ(7人)が市長に対し、マリンタワー再生事業の業者選定を含む4項目について公開質問状を突き付けたのだ。

 中田市長は定例会見で、「特定の事業者を使いなさいとか、いわゆる鶴の一声はありません」と否定した。

 一部市議と市長のマリンタワー再生事業をめぐる応酬は議会内外で1年以上に及んでいるが、市議はさらに追及する構えをみせている。

 「一部の市議は市長就任当初から市長と敵対し、特に、まちづくりの進め方などをめぐって険悪になったとうわさされている。マリンタワー再生事業の件も攻撃材料の一つだろう」

 市関係者の一人は長期化の背景に、政争があるとの見方を示すが

 

献金は1度きり

 そもそも、なぜ今回の献金が攻撃材料になっているのか。

 献金があった時期は、中田市長が2期目の再選を目指して出馬した横浜市長選の告示期間中でもあった。

 神奈川県選挙管理委員会によると、政治資金規正法上、政治団体はいつでも献金を受けることが出来るといい、金額についても1人150万円が上限額のため形式上、問題はない。

 業者側から献金を受けた後、その業者に市の事業を委託することについてはどうか。

 マリンタワー再生事業を担当する市事業調整課は「応募資格には首長側への個人献金の有無を審査する項目はない」と説明。その上で「そもそも献金があったという事実も知らなかった」としている。

 だが、一部の市議は献金のタイミングに着目しているのだ。

 中田市長が初当選した14年分から、現在閲覧できる19年分までの県公報に掲載された「中田ひろしを支える会」の個人寄付者欄で、北見社長と妻の名前が確認できるのは18年3月の1件だけ。

 献金について追及してきた井上市議は「政治資金規正法の手続き上は問題ないが、たった1件の献金の時期と、再生事業委託の時期などを考え合わせると、どうしても疑問が残る」と納得がいかない様子だ。

 一方、リスト社を「優先交渉権者」に選んだ事業者選定委員会について、市事業調整課は「メンバーは観光やまちづくりの専門で、市民感覚を持っていると思われる方を総合的に課独自に選んだ。最終決裁は局長までで、市長の人選への関与はまったくない」としている。

 

改革派のホープに脇の甘さ?

 中田市長は、もとは国政で活躍する改革派の若手政治家として知られていた。

 横浜市のホームページなどによると、青山学院大卒業後、政治家など次世代のリーダー養成を目的に設立された松下政経塾に入塾。細川護煕元首相の秘書を務め、4年に日本新党(当時)の旗揚げにも参画。5年の衆院選で旧神奈川1区から出馬し、28歳の若さで初当選した。

 3期目途中の14年に「オール与党体制で批判勢力がない」として横浜市長選に挑み、政令指定都市の市長としては最年少の37歳で就任した。現在2期目だ。

 議会関係者からは「情報公開の徹底、民間活力の積極的な導入、市債発行の抑制などの行財政改革によく取り組んでいる」と評価する声も上がっているが、一方では「政治資金の関係では脇の甘さもうかがえる」との指摘もある。

 例えば、中田市長の支援団体が17年4月に主催した政治資金パーティーのチケット購入に当時の市消防局幹部らが関与し、市の消防団会計から代金が支払われた問題が表面化。中田市長はその後、「多大な心配をかけ、おわびしたい」と陳謝した。

 また、中田市長が代表を務める政治団体中田ひろし事務所」の18年分の収支報告書の中で、寄付金を1000万円多く記載していたことも判明している。

 

「数人と飲食したことはある」

 今回の疑惑について、当事者らはどう答えるか。

 リスト社の北見尚之社長は産経新聞の取材に、同社を通じて「市長選の時期だったので、横浜をよくしてくれるという期待を込めて、個人的に応援したいと考えて、妻と2人で政治資金規正法に則って献金した」と文書で回答。マリンタワー再生事業との関係については「まったく関係ありません。見返りなどという意図はまったくありません」と否定した。

 中田市長側への個人献金の回数については18年3月の「1回だけ」と説明。市長との飲食については「中田市長と2人で飲食をしたことはありません」としながらも、「数人の集まりで飲食を共にしたことはあります」と回答した。

 一方、市秘書部は「市長の代理の立場」とした上で、「いろいろな事業者選定で『業者を知っている』というような理由で選定はしない。献金とはまったく関係ない」とコメント。市長と北見社長の接点については「17年2月7日に庁内で面会している。内容は分からない」とした。

 中田市長は中田後援会事務所を通じ、「これまで議会などでお答えしており、これ以上お答えすることはありません」と回答した。