対日心理戦の凄みをうかがわせるM・グリーンの論評 永田町異聞(2010.7.21)

 

永田町異聞

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2010年07月21日(水)

対日心理戦の凄みをうかがわせるM・グリーンの論評

米国は民主党政権を、自民党に代わる傀儡とするために、日本官僚組織とのネットワークを使って世論工作を進めた。

 

米国の意に反する態度を示せば、政権はもたない。そういう恐怖感を民主党政権中枢が抱くようになれば、工作は成功したも同然だ。

 

いまの日本の政治状況は、そんな米国の思惑通りだろう。

 

鳩山政権を追い詰めた米国の心理作戦の凄まじさを間近に見た菅直人は、対米恐怖症に陥っているかに見える。

 

鳩山政権に対して、米国政府ならびに情報機関がマークしていたキーワードは主として「政治とカネ」、「普天間」だった。

 

日本のメディアが執着する世論調査。とりわけ内閣支持率、政党支持率を低く誘導するために、過去の経験からもっとも手っ取り早いのが「政治とカネ」だった。

 

それがいかなる形であれ問題化して、支持率が下降曲線を描けば、均質的な日本国民の心理は一斉にネガティブに向かう。単細胞で、弱者の味方を気取る金持ちのキャスターや司会者が毎日のように、落下へ向けてはやし立ててくれる。

 

米国はこれまでにも、日本の検察へのロッキード関係資料提供によって、日本独自の資源外交を進めようとした田中角栄の抹殺をはかった前歴がある。

 

米情報機関と検察との関係は深く、検察のお先棒を担ぐメディアとの連携で、たえず「政治とカネ」疑惑は、米側に都合よく利用されてきた。

 

メディアと米情報関係者の関係についていえば、戦前に駐日米大使をつとめたジョセフ・グルーら「ジャパンロビー」といわれる連中が、戦後も日米政財界のフィクサーとして、日本テレビ創設にもかかわり、この国のメディアに影響を与え続けたことが知られている。

 

早大大学院教授の有馬哲夫氏は著書「日本テレビとCIA」のなかで、「ポダム」というCIAの暗号名が付けられた読売新聞の正力松太郎が日本テレビを開局するまでの過程や、ジャパンロビー、CIAとの関係を詳述している。

 

有馬氏の下記の指摘は重要である。

 

「アメリカは占領を終結させながらも、アメリカ軍を駐留させることで、日本を軍事的に再占領した。そして、日本テレビを含めあらゆるメディアをコントロールして心理戦を遂行する体制を築くことによって、日本を心理的に再占領した。最後の仕上げが、保守合同による安定的な親米保守政権基盤の確立という政治戦による再占領だった」

 

米軍駐留、メディアコントロール、自民党政権という三つの「再占領」により、米国は日本をずっと支配してゆく基盤をつくったというわけだ。

 

自民党政権という「日本再占領」の一角が崩れた以上、民主党の「自民党化」は米国にとって至上命題であった。

 

そのためには、日本の旧体制の基盤であり、米国と人的交流を深めてきた官僚機構と手を結び、横並び報道でコントロールしやすいメディアを働かせて、民主党政権を心理的に追い込む必要があった。

 

その恫喝に「普天間移設問題」は恰好の材料だった。「普天間」を象徴とする日米の上下関係に従い、これまでどおり米国に恭順の意を表すか否か、その回答要求を鳩山政権の喉もとに突きつけたのである。

 

外務省、防衛省の官僚たちは、ハナから「辺野古」を動かす気はなく、国外、県外移設を指示する鳩山首相を無視してサボタージュを決め込んだ。

 

そして5月末と言う鳩山発言に乗じ、得意の「ロジ」(日程管理)の手法で時間切れ寸前に追い込み、自分たちの思い通り、すなわち米国の望み通りにコトを運んだといえる。

 

政治資金収支報告書の記載ていどの「政治とカネ」問題や、普天間をめぐる「日米危機」を煽りたてるマスメディアの嵐のような報道でついに刀折れ矢尽きた鳩山首相は退陣したが、米国側がより歓迎したのは小沢一郎という厄介な人物も同時に政権中枢から去ったことだろう。

 

こうした経過に恐れをなした菅直人は、政権の座に就くや素早く、「日米共同声明の踏襲」を宣言し、米国の歓心を買った。

 

鳩山から菅への政権移行、小沢幹事長の辞任に関連し、日本のメディアに最も重宝されているジャパンハンドの中心人物、マイケル・グリーンは、20日の日経新聞に「日本の現実路線に期待感」と題した論文を発表している。その一部を以下に抜粋する。

 

「米政府は鳩山政権がとった一連の行動に衝撃を受けた。最初のショックは鳩山氏が就任ほどなく新たな東アジア共同体構想を打ち出し、米国のアジアへの影響力に対抗する意図を示したこと。・・・次が、普天間基地移設問題である」

「普天間問題は日本の民主党政権初期におけるガバナンスの重大な欠陥を2つ表面化させた。第一は、民主党の過剰な反官僚姿勢である・・・官邸が政策立案の経験に乏しい評論家から過大な影響を受け、官僚を蚊帳の外に置くという事態だった。第2の欠陥は小沢一郎前幹事長の息のかかった影の政府が党内に存在したことである」

 

日本の外務、防衛官僚、マスメディア連合体と全く考えを共有する論評である。いかに日米安保マフィアの結束が固かったかという例証でもあろう。そして、菅直人新政権についてこう述べる。

 

「菅首相は就任後すぐに日米同盟が日本外交の基軸であることを再確認し、普天間問題については日米共同声明を踏襲すると確約した。また、小沢氏を遠ざけ、政策調査会を復活させて・・・。こうした最初の動きは、まことに心強い」

 

鳩山政権に対する態度と180度違う好意の示し方は、「対等な日米関係」の実質的進展をあきらめた菅首相の頭をなでて、さらに対米追従姿勢を強めるよう求めているようにさえ感じる。

 

マイケル・グリーンやリチャード・アーミテージが、史上最高の日米関係と賞賛しているのがブッシュと、ブッシュの戦争に加担した小泉純一郎の時代だが、戦争の根拠となったイラクの大量破壊兵器、サダム・フセインとアルカイダのつながりは、全くのでっち上げだったことは、いまや明らかである。

 

アーミテージ自身が、「対テロ」を旗印にチェイニーやラムズフェルドの主導した戦争に反対だったのだから、内心、どれほどブッシュ・小泉関係を評価しているかも、実際のところは疑わしい。

 

いずれにせよ史上最高の日米もたれあいの日々は、冷戦後の虚構に満ちた新たな戦いを生み出し、世界の平和を破壊した偏執狂的蜜月であったことを、つねに我々は肝に銘じておかねばならない。

 

新 恭  (ツイッターアカウント:aratakyo