官僚利権切らず消費増税主導の厚顔官僚出身議員 植草一秀の『知られざる真実』(2011.1.19)

 

植草一秀の『知られざる真実』 http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/ 

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2011年1月19日 (水)

官僚利権切らず消費増税主導の厚顔官僚出身議員

菅直人内閣が消費税大増税に突進を始めたが、民主主義、国民主権の根本原則に反する許されざる暴走である。
 
 菅直人政権を仕切っているのは財務省である。財務省に完全にコントロールされた菅政権には正統性のかけらも存在しない。
 
 大臣ポストを求めて変節を繰り返す老害自民党小選挙区落選議員の与謝野馨氏と財務省出身の藤井裕久氏が、2009年度の増税立法を根拠に2011年度中の増税案確定を主張し始めた。
 
 NHKを始めとするマスゴミは増税推進に向けて一斉に世論誘導活動を開始した。
 
 これらの動きの背景に「TPR」と呼ばれる財務省による情報工作活動があることに留意しなければならない。
 
「TPR」活動は1985年に始まった。TaxのPR活動を意味する当時の大蔵省の秘密プロジェクトである。大蔵省は政界・財界・学界3000人リストを作成し、幹部が全員を間接税増税説得に動いた。
 
 また、メディア各社に対して、接待饗応、各種ブラフを交えて情報統制を実施した。また、「TPRウィークリー」なる週刊取りまとめを作成し、間接税増税に反対する意見を提示した者をリストアップし、リストアップした問題人物にさまざまな圧力をかける手法を徹底採用した。
 
 私は当時、大蔵省内部で税制改革を実施した場合のマクロ経済に与える影響についての政府試算を行うことを命じられた。試算の課題は次のようなものだった。
 
 間接税(売上税)を導入するが、同時に法人税減税を実施する。増税額と減税額は同額とする。このときに経済成長率、個人消費、設備投資、住宅投資、外需(純輸出)にどのような影響を与えるのかについての政府見解を提示することが課題とされた。
 
 与えられた指示は、経済成長率を含めてすべての需要項目にプラスの影響が出る試算結果を導くことだった。純粋に試算を行って政府見解を示すのではない。結論は始めから決まっていて、その結論に見合う試算を「でっちあげよ」というのが与えられた指示だったのだ。
 
 マクロモデルの各構造方程式の係数を操作し、都合の悪い変数の数列にはダミー変数などを用いれば、試算をでっちあげることなどは容易である。いかさまの試算をでっち上げた。
 
 大蔵省はこのでっち上げ試算を政府試算として発表するために、経済企画庁で工作活動を展開した。経済企画庁には大蔵省から出向している職員がいる。これらの職員が大蔵省のスパイとして行動し、経済企画庁内部のさまざまな活動を牽制した。大蔵省から経済企画庁スパイに宛てた極秘文書を綴じた極秘文書ファイルを共産党が入手して国会で追及したこともあった。しかし、真相が広く知られることにはならなかった。
 
 1985年の売上税は挫折した。中曽根首相の「いわゆる投網をかけるような税を導入しない」との発言がネックとなり、売上税法案は廃案となった。
 
 その後、竹下政権が消費税を導入し、1997年度に税率引き上げが実行された。この97年度増税が日本経済を破壊したことは記憶に新しい。

 

このときも財務省は法律で増税を強行する手法を採用した。1994年2月、細川政権は国民福祉税構想を提示し、国民の反発を招いた。細川政権は総辞職に追い込まれ、連立政権は崩壊し、村山政権に移行した。村山政権は95年に所得税減税を実施したが、その財源として消費税増税を97年度に行うことを含んだ立法措置を取った。この立法をてこに、橋本政権は97年度増税を強行実施していったのである。
 
 この手法を今回も利用しようというのが菅政権の浅はかな考えである。提唱しているのは与謝野氏と藤井裕久氏である。二人とも霞が関官僚組織の利害を代表する人物である。
 
 しかし、この法律を制定したのはかつての自民党連立政権である。自民党は消費税増税の旗を掲げて2009年8月の総選挙を戦ったのである。
 
 これに対して民主党は2009年8月の総選挙に際して、2013年の衆議院任期満了までは消費税増税に動かないことを政権公約として総選挙を戦った。この総選挙で大勝を収めて政権を奪取したのは民主党である。
 
 さらに、2010年の参院選挙。菅直人氏は6月17日のマニフェスト発表会見で消費税増税を公約として示した。2010年度中に論議をまとめて、最速2012年秋に増税を実施することを提示した。
 
 しかし、この消費税増税公約が主権者国民の総スカンを食らった。菅直人民主党は参院選に大敗したのである。
 
 菅直人氏は選挙中にすでに白旗をあげた。消費税提案は公約でなく、単に論議を呼び掛けただけのものであることを明言した。さらに、消費税増税を決定する場合には、必ずその前に総選挙で国民の審判を仰ぐことを明言したのだ。
 
 これらの過程で、旧政権が制定した2011年度までに税制改革を決定するとの法律が現実の意味を失っていることは当然である。
 
 何よりも重要なことは、2009年の総選挙が、2013年までの消費税増税の是非が争点として戦われたという厳然たる事実が存在することである。この総選挙で、主権者国民は2013年までの消費税増税に反対の意思を明確に表明したのである。
 
 さらに、2010年の参院選では、より明確に消費税増税論議が争点として浮上した。この参院選で消費税増税を掲げた菅直人民主党が大敗した。
 
 主権者国民は消費税増税を論じる前に、官僚利権を根絶することを求めているのである。
 
 ところが、官僚利権の根絶は、まったく進んでいない。事業仕分けは実施されたが、無駄遣いの現実を公表しただけで、無駄遣いの排除はまったく行われていない。
 
 財務省は消費税増税を言う前に、典型的な天下り廃止を率先して実施すべきだと、私は15年間も言い続けているが、いまだに動く気配もない。
 
 財務省天下り御三家は、日本政策投資銀行、国際協力銀行、日本政策金融公庫である。これらの機関には優秀な職員が大卒で多数入社している。幹部職員はそれらの人材から登用するのが当然である。分かりやすい策として、まず、天下り御三家への天下りを廃止すべきだ。
 
 ところが、これらの官僚利権を切り込むことに対しては、指一本触れさせぬ姿勢を示している。与謝野氏も藤井氏も官僚OBで、官僚利権を切り込む考えを一切保持していない。このような人物が主導して、官僚利権を切り込まずに、一般庶民に重税を負わせるような行動に主権者国民が同意すると思ったら大間違いである。
 
 菅直人政権の行動は主権者国民の意思に弓を引くものである。正統性のかけらもない。一日も早く菅直人政権を倒し、主権者国民政権を再興しなければならない。

 

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