崩壊寸前の日本の議会民主政治── 「日本一新運動」の原点(40) 平野貞夫 The Journal(2011.2.9)

 

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「日本一新運動」の原点(40── 崩壊寸前の日本の議会民主政治

崩壊寸前の日本の議会民主政治

 1月31日(月)、検察審査会の2回にわたる起訴議決にもとづく「小沢一郎氏の起訴」が、指定弁護士によって行われた。政治資金規正法違反の虚偽記載と未記載の共犯で、陸山会の土地購入問題である。指定弁護士の一人は「有罪を確信したから起訴するのではなく、起訴議決がされたので職務として起訴した」と発言した。

 小沢氏は「何一つ、私自身やましいことはない。これからの裁判で、無実であることは自ずと明らかになる。引き続き民主党の国会議員として、誠心誠意取り組んでいく決意だ」と力強く語った。

 これに対して、菅首相は小沢氏の処分について検討していると発言。また、野党は小沢氏の証人喚問や議員辞職を要求し、またもや国会対策の駆け引きに利用するようである。小沢氏に近い弁護士政治家は、検察審査会の起訴と、検察による起訴との法的違いや、「無罪推定がより強く働く」と支援者たちに、法技術的なことを必死に説明している。

 「小沢問題」、すなわち政治家小沢一郎の「政治と金」の問題は、わが国の議会民主政治の根幹に関わる問題である。率直に言って、私自身が直接・間接に関わっていたことであり、まず私の真実の叫びを語らせてもらう。「検察審査会の議決にもとづく指定弁護士の起訴は、日本の議会民主政治を崩壊寸前に落とし入れた。小沢一郎が法に問われることは何一つない」。

 このことが日本国民に理解されないことが残念である。特にごく一部を除いて、ほとんどの国会議員がわかっていないことが、120年という歴史をもつわが国議会政治の悲劇といえる。週刊朝日編集長の山口氏が、「自分でさえ少し勉強したらわかることだから、国会議員も小沢問題の本質を知るべきだ」という趣旨をニコ動で語っていたが、まったく以て同感といわざるを得ない。

小沢問題の経緯

 小沢氏の「政治と金」が集中的に日本社会の批判の対象になったのは、平成21年3月3日の西松事件で大久保秘書逮捕からである。この時期、日本の政治状況は麻生太郎自公政権で、リーマンショック後の経済混乱で苦慮し、平成19年7月の参議院選挙で民主党が大勝し、与野党が逆転していた。次の衆議院選挙が行われると、小沢代表率いる民主党に政権が交代するとほとんどの日本人が考えていた。麻生首相は政権交代を阻止すべく、あらゆる工作を策していたのだ。

 結論から言って、大久保秘書逮捕から始まる「小沢問題」は、「麻生内閣による政治謀略」であった。その理由は、私自身が当時の森英介法務大臣から、政治謀略を類推できる発言を直接に浴びせられていたからである。大久保秘書逮捕2日前の3月1日、千葉市で小沢氏と私について次の趣旨の発言をした。「平成になって日本の政治をメチャクチャに崩したのは小沢一郎だ。小沢は悪人だが、もっと悪いのは、ここにいる平野だ」と面罵したのだ。これを聞いて、私は悪い冗談かと思ったが、同時に何か企みがあるのかと気になっていた。そして2日後の大久保秘書逮捕である。名目は政治資金規正法の虚偽記載で、こんなものは最初から犯罪行為を問えるものではなかった。

 ことの起こりは、小沢事務所の元秘書で、小沢氏を裏切り自民党政権の手先になった人物が、小沢氏の「政治と金」を情報として偽装し、マスコミを利用して虚偽の世論をつくったことが始まりだ。これを麻生政権が東京地検特捜部という国家権力を使って、小沢民主党代表を攻撃し、政権交代を阻止するためである。

 これが政治捜査であることは、数日後の漆間官房副長官のオフレコ記者懇談で証明された。小沢氏とまったく同じ方法で、西松建設から献金を受けていた数名の自民党国会議員たちについて、「自民党側には波及しない」と、本音をもらしたからである。事実、自民党国会議員たちには同じ問題で何のお咎めもなかった。その後大久保氏の裁判で岡崎元西松建設総務部長が、検事調書の証言を覆し、この事件での「大久保無罪」は確定的となった。

 しかし、マスメディアは徹底的に小沢代表を攻撃した。そのやり方は執拗かつ異常で、検察特捜がタレ流す情報を執拗に書きたて、総選挙を目前にした民主党に不利な状況をつくりだし、明らかに政権交代を行わせないようにする意図が表れていた。

 政権交代に政治生命を懸けていた小沢代表は、戦略的に代表を辞任し、政権交代への国民の声を盛り上げた。シナリオが狂った検察は、石井一副代表をターゲットとし、「郵政不正事件」をデッチあげ、村木厚労省局長を逮捕した。石井一氏の捜査立証のためであったが、同氏のアリバイが成立し、この企みはあっけなく頓挫した。一方、村木局長については裁判で無罪となっただけではなく、担当検事が証拠を改竄したことが判明し、検察史上あってはならない不祥事が明らかになった。

 平成21年8月30日の総選挙で、日本国民は民主党を圧勝させ、歴史的政権交代を実現させた。麻生政権の数々の妨害にもかかわらず、国民は新しい政治を求めたのだ。しかし、マスメディアは「旧さきがけ」の武村正義代表などを使って、鳩山民主党政権から小沢前代表の排除を繰り返してまくし立てた。その結果、「政策の協議と決定には関わらない幹事長」という、議院内閣制を否定するに等しい愚かな人事を断行した。民主党政権破綻の原因はここに始まる。

 日米にわたる既得権を持つ旧体制の人々は、政権交代した民主党を渋々ながらも容認せざるを得なかったが、小沢一郎が権力を握ることのない体制づくりが最重要テーマとなった。本格的な改革を実現することに恐怖したからである。そこで検察が着手したのが、「陸山会の土地購入問題」であった。例によって政治資金規正法の収支報告違反を種に、別件捜査で「水谷建設からのヤミ献金」を立案しようと企んだ。

 本稿執筆中に次の速報ニュースが入った。「石川議員の弁護側が承認申請した中堅ゼネコン「水谷建設」の水谷功元会長の採用が決まった。」と。これがどういう結果をもたらすのか、専門家なら予想がつこう。裁判のなりゆきを見たい。

 特捜部は、小沢氏を西松事件から始めて約一年半にわたり、約30億円といわれる税金を乱費して捜査したが、ヤミ献金は立件できず、秘書たちの政治資金規正法収支報告虚偽記載の共犯容疑についても、不起訴となった。

 ここまでの経過を総括すると、旧体制に支えられた政治権力が、あらゆる方法で既得権益を継続させるために、政治家小沢一郎を政界から葬ることが目的であったと断言できる。

検察審査会に政治が関与した疑いがある

 小沢氏が不起訴となったとき、特捜のある責任者は「まだ検察審査会がある」と、語ったといわれる。正体不明の人たちが小沢氏を検察審査会に「起訴すべし」と申し立てた。初めて政治家を審査することになった東京第五検察審査会は、平成22年4月27日「起訴相当」を全会一致で議決し、小沢氏を「絶対的独裁者」と、公文書にそぐわない言葉を理由書に記載した。平成16年に改正された検察審査会制度は、違憲といわれる「強制起訴権」を持ち、国会審議が十分行われておらず、きわめて杜撰なもので多くの問題がある。立法府たる国会に責任がある。

 同年6月8日に成立した菅内閣は、鳩山首相と小沢幹事長の辞任と引きかえに、挙党体制で参議院選挙に勝利することを願って成立したものであった。しかし、菅・仙谷政権は「小沢排除」を最大の政治目標とした。麻生自民党政権がマスメディアと検察権力を利用した方法を継承することになる。参議院選挙に惨敗した菅・仙谷政権は、この時期に始まった東京第五検察審査会の第2回目となった小沢氏の審査に、政権延命のためにも強い関心を持ったことは想像に難くない。

 この検察審査会の審査員の選び方、補佐弁護士の選任に正当性があるのか、審査会が適法に開かれたかどうか、適法に議決が行われたかどうか。議決日が代表選と同日で、発表が二十日後であった不自然さ、また議決内容の違法性など、審査会の活動全体について、菅・仙谷政権の関わりがあったという情報があり、その疑惑が究明されなければ、わが国は法治国家とはいえない。

新しいファシズムに組み入れられた国会

 「ファシズム」の教科書的定義は、「崩壊しそうな資本主義を守るため、権力が市民の民主的権利を踏みにじり、議会の機能を麻痺させ暴力的支配を行う」ということだ。現代のマスメディアは、第四権力ならぬ立法・行政・司法の三権を支配するスーパー権力という化物となった。「小沢問題」についていえば、マスメディアは「社会心理的暴力支配」を行ってきた。わが国では「新しいファシズム」が始まっているのだ。

 その証明として国会の機能麻痺を指摘できる。小沢氏の「政治と金」についていえば、小沢氏の国会での説明責任を与野党が主張するが、その根拠や理由が不明である。「小沢問題」は何度も説明したように、政権交代阻止のための政治謀略から始まり、検察の暴走、さらにこれらを促進したマスメディアの社会心理的暴力行為によって、政治の世界から小沢一郎を排除しようとしたものである。これを反対勢力が行うならまだしも、政権交代をともに闘い、勝利した同じ政党から集団リンチ的、かつ内ゲバ的に行われるのは異常事態である。世界の民主国家では想定できないことだ。

 小沢一郎という政治家を、国会の政倫審なり証人喚問で説明させるなら、その前提として「政治謀略」「政治捜査・検察暴走」「マスメディアによる検察ファッショ性」、「検察審査会の違憲性」「東京第五検察審査会への疑惑」などを、国会として究明してから、説明を求めるべきだ。国会でこういった議論を行う政治家はごく一部で、大多数がマスメディアの社会心理的暴力におののいて、小沢氏の政治家としての基本的人権を侵害していることに気がついていない。「明日は我が身」という感性がなく、国会が新しいファシズムに組み入れられたといえる。これはエジプトの政治とは別の意味で恐ろしいことだ。

 国会で最も大切なことは、国民の代表として選ばれた国会議員の憲法上の基本権を擁護することである。国会を構成する議員を、政治権力やポピュリズムから守ることである。マスメディアが社会心理的暴力性をあらわにした例は、2月2日の朝日新聞・ザコラム『墓穴を掘った国会証言の回避』である。「小沢排除」の原因と本質に眼をつぶり、新しいファシスト、菅首相と岡田幹事長の代弁者となっている。朝日新聞は、昭和ファシズムの先駆となった反省を忘れ、平成ファシズムの推進者として、わが国の議会政治を崩壊させ始めている。

 執筆者の若宮啓文氏に告ぐ。山口週刊朝日編集長の「小沢問題の本質を知るべきだ」との主張を、朝日新聞社の同僚として、どう思うか、是非にも意見を聞かせて欲しい。

      

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