郵便事業の巨額赤字はなぜ仕込まれたか 『保坂展人のどこどこ日記(2011年2月24日付)(2011.3.2)』

 

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郵便事業の巨額赤字はなぜ仕込まれたか

 

かんぽの宿・郵政民営化 / 2011年02月24日

 

 世の中には、「小泉改革」「郵政民営化」信者がまだまだいる。あたかも、画期的改革に着手したのに、肝心のところで「政権交代」によって改革が止まってしまったと嘆いている人たちがいる。このところ、日本郵政グループが直面しているのは、ペリカン便との経営統合後、信じられないことに毎年1000億円の赤字を計上していくだろうという郵便事業会社の経営危機問題である。筆者も昨年春まで総務省顧問をつとめていて、「郵政民営化の闇」を徹底検証する作業を担った。原口総務大臣の下に、郵政ガバナンス検証委員会が設置されて、総務省のホームページに「最終報告書」がアップされている。この問題は、どのように報告されているだろうか。

〔引用開始〕

郵政ガバナンス調査専門委員会報告書 

JPEX事案

郵便事業会社と日本通運株式会社(以下、「日通」)の共同出資により、ゆうパック事業とペリカン便事業との統合をめざしてJPエクスプレス株式会社(以下、「JPEX」)が設立されたが、最終的にはゆうパック事業を郵便事業から切り離すことに関して総務省の認可が得られず、事業統合を断念、同社は清算することとなり多額の損失が発生した。その過程において以下のような事実があり、経営判断としての合理性を大きく逸脱していると認められる。


・両事業の統合については、西川社長において、日本郵政の三井住友銀行出身者に担当させる一方、所要の検討も行わせず、かつ、統合に慎重であった郵便事業会社首脳陣に知らせないまま、平成19年10月5日、日本郵政・日通間の基本合意書を締結した。


・その後、郵便事業会社首脳陣は、統合後のJPEXの事業収支が確定できず、また、いずれにしろ多額の赤字が予想されたことから、直ちに統合を行うことに反対したにもかかわらず、西川社長において、同反対を押し切り、平成20年4月25日、日本郵政・郵便事業会社・日通間の統合基本合意書を締結させた。


・ 上記締結により、同年6月2日にJPEXが設立されたが、その後も、郵便事業会社において算出したところでは、JPEXの事業収支は統合後5年度の全てが赤字で、累積にかかる赤字は単独806億円・連結943億円に上ったにも関わらず、西川社長において、郵便事業会社がそのような数字を算出したこと自体を叱責したことから、これを受けて郵便事業会社において統合後4年度目に黒字化するなどの
事業収支を提出することを余儀なくされ、その結果として、同年8月28日、郵便事業会社・日通間で統合のための最終契約である株主間契約書が締結された。


・ その後、ペリカン便事業については、平成21年4月1日、JPEXに分割承継されたものの、ゆうパック事業については、総務省において、統合による郵便事業への影響等が判断しがたいことなどにより、同事業のJPEXへの分割承継を認可しなかったことから、郵便事業会社は、同年11月26日以降、JPEX事業の見直しを決定し、現状、平成22年7月のJPEX解散、同会社資産の郵便事業会社への承継を予定しているが、同解散時点での累積損失額の合計は983億円(平成22年2月 平成22事業年度事業計画認可申請時点の見込み額)と見込まれ、今のところでは、そのうち900億円前後は郵便事業会社が負担することになると思わ
れる。


・ 上記株主間契約書締結についての日本郵政取締役会への報告の際の社外取締役の種々の有益な意見が執行側から無視された。

〔引用終了〕

何のために統合を急いだのか。西川社長(当時)の判断は理解に苦しむものであり、民間企業としての経営の効率性や収益の確保をふまえる慎重な姿勢の片鱗も見えない。このような経営判断がなぜ強引にされたのかを検証するための調査にも、西川氏らは協力しなかったと聞く。

 より詳しい「検証総括報告書」を読むと唖然とする内容が綴られている。

〔引用開始〕

JPEX事案

本事案は、郵便事業株式会社(以下、「郵便事業会社」という)と日本通運株式会社(以下、「日通」という)の共同出資により設立(平成20年6月2日)された宅配便事業会社であるJPエクスプレス株式会社(以下、「JPEX」という)に関する事案であるところ、検証の結果の概要は以下のとおりである。

 

@ 日本郵政・日通間の基本合意書(平成19年10月5日)の関係

 

* 注目すべき事実等

 

・ ゆうパック事業とペリカン便事業との統合(以下、「本件事業統合」という)は公社当時から日通との連携を図るべく両者間で話し合われ、同統合のために共同出資子会社を作る案も出ていたものであるところ、日本郵政(準備企画会社)の設立後、ゆうパック事業を行っている郵便事業担当の團宏明当時日本郵政副社長(民営化後は郵便事業会社社長・以下「團社長」という)と北村憲雄当時同取締役(民営化後は郵便事業会社会長・以下「北村会長」という)

は日通との連携に慎重であったにもかかわらず、西川社長は、平成19年4月以降(同4月以降、西川社長が公社総裁を兼務)、日通との連携問題は日本郵政で取り扱うことにし、これを日本郵政の専務執行役の一人(三井住友銀行出身・以下、「A専務」という)と経営企画部門企画部次長(三井住友銀行出身・以下、「B次長」という)らに担当させることとした。

 

同時に、西川社長は、一旦は郵便事業会社から宅配便事業を切り分けることの困難性を理由に共同出資子会社ではなく日通からペリカン便事業を譲り受けて郵便事業会社にいわる「片寄せ」をすることを日通に申し入れるように指示したが、その後、これを日通に断られると、公社当時の共同出資子会社案に立ち戻っての交渉をA専務らに行わせた。

 

・ その結果、日通も同案を承知するや、西川社長は同年7月に日通社長と会談し、その際の合意に基づいて、同年10月1日の郵政民営化の直後の同月5日に、日本郵政と日通は、日本郵政ないしは郵便事業会社と日通の共同出資による会社において本件事業統合を行うこと、当該会社の事業収支予測を平成20年3月を目処に作成し、同年4月を目処に同統合についての最終契約(以下、単に「最終契約」という)を締結すること、同年10月を目処として当該会社(以下、同会社のことをその後の社名に従って「JPEX」という)を設立することを内容とする基本合意書(以下、「基本合意書」という)を締結した。

 

しかして、本件事業統合は、シェアの拡大により郵便事業会社の宅配便事業の成長を図るものではあったが、当時、ゆうパック事業とペリカン便事業は共に赤字と見積もられていた(本検証により、日本郵政から提出された当時の検討資料等から、同各事業の当時の各赤字見積額は相応に把握されているが、本検証が日本郵政グループのガバナンスに関するものであることからすれば、いわば第三者と言える日通の事業に関わる事項であることなどにより、具体的な同各赤字見積額についての記述は省略する)。

 

したがって、そのような両事業を統合して黒字化させるのは容易ではないことは明らかで、そのこともあって郵便事業会社の北村会長、團社長が同統合に慎重だったのであり、かつ、上記のとおり平成19年7月の際に、西川社長が日通と会談した際に、日通側から、日本郵政側の希望する同統合につき改めて確認しているほどであるから、同統合については、その可

否、統合した場合の黒字化の見込の如何、さらには黒字化のための具体的方策等を十二分に検討することが必要であった。

 

ちなみに、当時、先に公社担当者において案出した共同出資子会社案が存在したが、同案はそれまで事業の収益性などとは縁遠かった公社担当者によるものであり、西川社長自身が上記のとおり同案の前提であるゆうパック事業の切り出しの困難性を認識していたものであるほか、民営化の趣旨に照らしても、日本郵政にあってはA専務らが自ら上記検討を十二分に行う必要があったことは明らかである。

 

しかるに、日本郵政にあっては、平成19年4月になっていわば初めて日通との問題に取り組むことになったA専務らにおいて、急遽、外資系証券会社と相談・打合せを行った程度で、事業統合の可否あるいは黒字化のための具体的な方策についての所要の検討を行わないまま、公社当時の上記共同出資子会社案を前提として、同年10月5日に基本合意書を締結したものである。

 

このようなことから、JPEXについては、事業統合後の事業収支が全く想定できず、したがって同収支が存在しないまま、基本合意書が締結されることとなった。

 

・また、郵便事業会社との関係を見ても、ゆうパック事業は郵政民営化までは日本郵政の郵便事業担当に係る事業であり、かつ、同民営化後の郵便事業会社にとっても同事業(宅配便事業)の行く末は同会社の郵便事業に大きな影響を及ぼすものであるにもかかわらず、基本合意書の締結に至るまでの間、日通との交渉等は日本郵政のA専務らが取り仕切り、郵便事業会社の北村会長と團社長(同両名とも郵政民営化前の郵便・宅配便事業担当)が同年10月5日の基本合意書締結を知らされたのは、その数日前であり、かつ、その段階でも同合意書の内容自体は教えられなかったものである。

 

* ガバナンス上の問題点

 

・以上のとおり、本件事業統合については、その成功の困難性が明らかであるにもかからず、その可否あるいは所要の検討を何ら行わず、したがって同統合後の事業収支も出されることなく、また、郵便事業会社(民営化前は公社)の事業に関することであるにもかかわらず、関係各担当者をいわば埒外に置いて持株会社の独断により基本合意書の締結に至ったものであり、その内容並びに経緯において、経営判断としての合理性を大きく逸脱したものであることは明らかである。

 

・西川社長らが平成19年4月以降に本件事業統合に向けて急いだのは、あるいは郵政民営化の成果を早期に示し、その評価を高めたいとの思惑があったためではないかとも思われるが、仮にそれが事実として、そのような思惑が、ことを合理化しうるものではないことは勿論である。

〔続く〕

 

http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/2ee7990d002d2ff11329c998370f91de 

郵便事業会社の巨大赤字はなぜ生まれたのか(続)

 

かんぽの宿・郵政民営化 / 2011年02月24日

 

 郵便事業会社の経営を根底から脅かしているペリカン便との統合問題の「経営判断」はどのようにして生まれたのか。続けて、

郵政ガバナンス検証委員会専門調査委員会報告書を見ていくとしよう。「検証総括書」から引用する。

 

〔引用開始〕

 

 

A 日本郵政・郵便事業会社・日通間の統合基本合意書(平成20年4月25日)の関係

 

* 注目すべき事実等 

 

・平成19年10月5日の基本合意書締結後、日本郵政・郵便事業会社と日通は、平成20年4月に予定されている本件事業統合についての最終契約に向けての所要の協議・検討を行うべく、事業統合検討委員会を設け、両者それぞれが国内証券会社をファイナンシャルアドバイザー(以下、「FA」という)とするなどした上、平成19年末までに、それぞれの宅配便事業についての年間の貸借対照表及び損益計算書を作成し、同作成に係る財務諸表を基にして、JPEXにおける事業統合後の1年間の事業収支を算出することに取り組んだ。

 

しかし、郵便事業会社・日通の両社ともそれまで宅配便事業のみの財務諸表を作成していなかったことなどから、作業は遅々として進まず、平成20年3月末の時点でも、日本郵政・郵便事業会社側算定のJPEXの上記事業収支と日通側算定のものはともに営業損失が発生する見通しであったが、両者は約65億円も相違しており、同年4月にJPEXの同事業収支を正確に予想するにはほど遠い状態であった。

 

・また、郵便事業会社にあっては、日本郵政の依頼による上記国内証券会社に飽き足らず、関係コンサルタント会社をFAとするなどして関係作業を進めた結果、同年4月10日の段階でJPEXの上記営業損失は約190億円となったものの郵便事業会社との連結(以下、「連結」は郵便事業会社との関係をいう)では約379億円の営業損失が見込まれるなどしたことから、北村会長・團社長は、直ちに本件事業統合を行うことは困難との結論に達し、設立後のJPEXにおいては、当面、事業統合は行わず、郵便事業会社並びに日通から貨物の集配を委託する程度にとどめ、その後、段階的に業務提携を拡大して行き、事業統合のメリット実現が見込まれた場合には同統合を行うとの案をまとめ、同月10日ころ、西川社長に同案を進言をした。

 

しかし、同社長は、FAである国内証券会社から聞いている内容とは違うとして、同案を拒否し、同4月中に事業統合についての契約を締結し、同統合をやり切るように決定した。

 

・その結果、日本郵政・郵便事業会社と日通は、JPEXの事業収支が確定していない状況下で事業統合についての最終契約を締結することはできないため、同契約は同年8月末日とする一方、同4月の25日には、同年6月1日に共同出資によりJPEXを設立すること、同年8月末日に最終契約を締結すること、同年10月1日にJPEXへのゆうパックとペリカン便の業務委託を開始し、平成21年4月1日には両宅配便事業を会社分割によりJPEXに承継させる(すなわち事業統合を実現させる)ことなどを内容とする日本郵政・郵便事業会社・日通の3者間の統合基本合意書(以下、「統合基本合意書」という)を締結することとし、現に同4月25日にそのことが実行された。

 

・なお、同年4月17日ころ、日本郵政は北村会長らにJPEX単独の事業収支が開業1年目に21億円の黒字となるなどとなっている資料を示したが、そのような数字は国内証券会社のそれまでまとめていた数字と余りにも相違した良好なものであったことから、郵便事業会社の担当部長において不審に思い、その後、同証券会社の担当者に同資料における数字の根拠を確認したところ、同担当者は、同数字は日本郵政の指示で作った数字であり、具体的な根拠に基づくものではないなどと説明した。

 

しかして、現状、その「日本郵政」というのが、具体的にどの人物であるのかが定かではないのであるが、いずれにしろ、西川社長は日本郵政の者から実現可能な数字として同資料を渡され、これを信じたことにより、北村会長らの提示した数字を真摯に検討することもなく、その場で上記のとおりの決定を行ったとも思われる。

 

しかし、その一方で、B次長は、同年4月3日、事業統合検討委員会で、同年3月末時点で日本郵政・郵便事業会社算定の事業収支が約295億円の営業損失となったことについて、「ほとんど改善の余地がないと思われる」旨発言し、また、その後、日通に対して、「JPEXが落ち着くまで相当の資金手当てをしなければならないので応分の負担を願いたい」などと発言

していることに照らすと、西川社長が、上記資料の数字を信じて上記のとおりに決定したというのも不自然であるようにも思われる。

 

* ガバナンス上の問題点

以上のとおり、西川社長があくまで事業統合を行うべく決定をするについて、上記の国内証券会社に係る資料を信じていたか否かについては、にわかに断定しがたいものがあるが、仮に信じていたとしても、北村会長らの提示した数字や案を真摯に検討することもなく一方的に排斥し、上記のとおりに決定して、結果、法的には郵便事業会社も当事者になることによって基本合意書よりも法的な意味の重い統合基本合意書の締結に至らしめたのは、経営判断として所要の検討が不十分であったと言えるし、また、B次長から西川社長に対し上記委員会における発言に応じた報告が上がっていなかったとすれば、当時の日本郵政における事務方の経営陣に対する情報等の伝達にガバナンス上の大きな問題があったと言わざるを得ない。

 

B 株主間契約(平成20年8月28日)の関係

 

* 注目すべき事実等

 

・平成20年4月25日の統合基本合意書締結後は、郵便事業会社に團社長を本部長とし、執行役員らをメンバーとする宅配便統合推進本部(以下、 「統合推進本部」という)が設置され、それまで日通と交渉を行っていた日本郵政に代わって、郵便事業会社の同統合推進本部が日通と打合せを行うようになり、以後、財務及び法務各デューデリジェンス(以下、「DD」という)などを実施するとともにJPEXの事業収支を詰めていったが、同年6月2日には統合基本合意書に基づき郵便事業会社と日通が各3億円を出資してJPEXが設立された。

 

・しかして、その後もJPEXの事業収支(正確には年間の同収支予測であるが、以下においても、単に「事業収支」という)については事業統合を是認するには未だ大きすぎる赤字額が見込まれていたが、同年8月7日の郵便事業会社の取締役打合せ(西川社長も社外取締役として出席)で示された事業収支は、連結では赤字185億円であって前月算定(赤字202億円)よりも若干改善されていたが、JPEX単体では赤字172億円となっていて前月算定(赤字57億円)よりも大幅に赤字が増えていた。

 

 

・また、開業5年度の見通しについても、JPEX単体で5年度すべてが赤字であり、その累計は806億円の赤字、連結では943億円の赤字というものであった。西川社長は、これに対して、「数字が信用できない」などと言って叱責し、また、それに平仄を合わせる形で他の一人の社外取締役も「3年単黒、5年累損解消が望ましく、その方向が見えるようにしてもらいたい」などと発言した。

 

    これを受けて、郵便事業会社の統合推進本部では事業収支を検討し直し、同月22日の取締役会には、開業4年度目にJPEX単体が黒字化するなどの事業収支を提出した上で、同月28日の取締役会において、最終契約である株主間契約(以下、「株主間契」という)締結を決議し、同日、日通との間で同株主間契約を締結した。

 

* ガバナンス上の問題点

 

・ 上記8月7日の取締役打合せで示された事業収支は、現に宅配便事業をおこなっている郵便事業会社の統合推進本部において相応の期間にわたって検討してきた中で算定されたものであるから、その当時においては最も信頼するに足る事業収支であったものと言えよう。

しかるに西川社長らが、上記のとおりの対応を行ったのは、本件事業統合を至上命題とし、そのための辻褄合わせをしょうとしたのではないかとすら考えられるのであって、経営判断のあり方としてガバナンス上極めて問題と思料される。

 

・また、同対応が郵便事業会社をして上記株主間契約の締結に至らしめ、それによって本件事業統合が確定し、結果、後記のとおりJPEXが平成22年7月に合計983億円もの累積損失が見込まれる状態で解散するなどの運びとなっていることを考えると、同対応の意味は重いと言わざるを得ない。

〔引用終了〕