在庫担いで何処行くの?




 今までにいろいろな業種の倉庫を見る機会があった。しかし、どの倉庫も関心するほどのものではない。第一印象として、「うわ〜在庫が少ないですねぇ」とか「在庫がたくさんあるわぁ〜」が普通である。逆に言えばそれ以上のことは言えないのである。それは、在庫の量は業種によって異なるうえ、その会社の業務形態(販売形態)によっても異なるからである。まず"在庫の正体"というものを考えてみよう。

 在庫には「倉庫在庫」「預け・預かり在庫」「現場在庫」などがある。その中から今回は純粋な倉庫在庫について考えてみよう。
 在庫と言うと「倉庫にあるもの」と考えるが、「倉庫に入ったけど出ていないもの」つまり「入庫と出庫の差」を在庫と考えるとよい。この在庫というものがあると、月次決算つまり月末に収支を見たい場合には、資産である在庫をそのときに調査しなくてはならなくなる。実際には"棚卸"という作業を行い月末の在庫量と金額を求めている。まれに優秀な会社で月末の在庫量はコンピュータに計算させ、その出てきた数字を月末の在庫量としている会社もある。このようにコンピュータの値を利用する場合、"在庫管理"がしっかり行われている必要がある。
 コンピュータを使わない場合でも、この"在庫管理"をしていない場合、時にはとんでもないことがおこる。月末に棚卸を行ったてみたら「とんでもなく在庫が増えていた」とか、「在庫がひとつも無くて明日から営業できない」なんてことがよくある。
 在庫の正体とは「棚卸をしたときになぜか増減する怪物」なのである。
この怪物をおとなしくさせるために使う方法に"在庫管理"というものがあるのだ。



●在庫管理ってなに?

 在庫の動きは、材料を発注するから入庫という手続きが発生し、顧客の注文に対応するために出庫という手続きが発生する。これを手書き伝票(入出庫台帳)やコンピュータを利用して数字を把握しているつもりだが、しだいに実際にある在庫量とこれらの帳簿が合わなくなってくる。「この2つの情報がなぜ合わないのか」「なぜ在庫が少なくなってしまったのか」「なぜ在庫が増えてしまったのか」、また「いったい今どれだけの在庫を持てばいいのか」を考えるのが在庫管理といえるだろう。でもこの程度のことはどこの会社でもやっているよな。でも、コンピュータを使って在庫管理をしてる会社は、「コンピュータの数字と実際の在庫量と合わない」といって、この数字だけを合わせようと必死に日常業務をこなしている。果たしてこの行為は正しいの?とあたしゃ言いたい。言いかえると、在庫があるがために在庫管理が必要になり、このように日常業務に余分な神経を使わなければならなくなる。じゃあ在庫は無くていいのか?というとそうでもない。と今は言っておこう。



●在庫の必要性

 100%売れるとわかっている商品の在庫は持っていてもよいが、売れるかどうかわからない在庫を持つことは危険だ。手元にある在庫が古くなったり品質が劣化した場合はどうだろうか。当然売れなくなり不良在庫という名で増加する。在庫があるということは、在庫の維持費(場所代、倉庫代、人件費、金利)が必要となる。だから在庫は少ない又は持たない方が望ましいのだ。

 しかし、在庫を持たないと商売できない業種もある。ショッピングセンターのような場所では在庫が無いと商売にはならない。と言うことは在庫は必要ということになる。この業界でもひとついえることは、どれだけの在庫を持つか(適正在庫)について考えなければならないということだ。

 ちょっと在庫のメリットやデメリットについて考えてみよう。

【在庫を持つメリット】
@ 顧客の需要にすぐ応えられる
A 安心して商売ができる(利益にはならない)

【在庫を多く持つデメリット】
@ 資金が固定して資金繰りの悪化につながる
A 陳腐化、品質悪化、価値の減少がおこる
B 在庫を保管するためのムダなスペースが必要となる
C 在庫管理費用が増える(人件費、場所代、金利など)

【在庫が少なすぎた場合のデメリット】
@ 品切れによる販売機会の損失と信用失落
A 納期遅れになりやすい

 ん?話しがゴチャゴチャしてわからなくなっただろ?ちょっと先に答えを書いておこう。

 コンビニやスーパーのような物の流通業界は適度な在庫を持て。そうでない業種(製造業など)は在庫を持つな。持ったとしても最低限だけにしろ。ということだ。

 たいていの物は、在庫に持った瞬間から陳腐化が始まりやがて価値がなくなる。食品の賞味期限がその証拠だ。
 あたしゃ刺身が好きだから刺身の例で話そう。
 朝一番で捌いた刺身を500円の値を付けて店頭に並べたとする。誰の目にもとまらず閉店間際まで残っていた場合はいったいいくらの価値になるだろう?刺身自身の価値はほとんど無いが、たぶん"半額引き"などのシールが付いて売られることになる。ホントにそれでいいのだろうか?



 刺身を陳列している棚はタダではないのでこれを償却する費用と、朝から晩まで刺身を冷やしておくための電気代もかかる。おまけに店舗の償却の費用も上乗せさせられるうえ、その刺身を並べ替えるための人件費も考えなければならない。ということは、刺身の値段に管理費用(在庫管理費用)を上乗せしないと割が合わないのである。この費用が100円(10時間並べた場合)かかったとすると、閉店時のさしみの値段は600円となる。
 このように閉店時にしなびた刺身を600円で買うバカはいないが、この値段で販売しない限り当初予定の利益を確保することはできないのである。でも実際のところはちょっと違う。

 500円で売られている刺身には原価がある。だいたい200円前後ではないだろうか。刺身を陳列することにより、この200円という原価に費用が上乗せされていくが、10時間後に100円プラスされても300円ということになり、これを500円で販売できれば利益は出るのである。まあ500円で売れるわけはないけどな。
 だから"半額引き"なんてシールが貼られているのだ。だが半額で販売するということは結局は赤字を示している。これは、少しでも損失を減らすための苦肉の策としてしか受け止められないのである。
 ただし、刺身のように定価(希望小売価格)が無い商品の場合には、コーナー長の胸ひとつで値段が決まるが、彼らはちゃんとこのことを計算に入れているから赤字になることはまずないだろう。
 がしかし、100%売れる物を陳列しないと利益は増えない。スーパーなどで生鮮食料品を扱う場合、"売れるもの"と"売れる量"を見極めることが大切なのである。

 今度は製造業の倉庫在庫でみてみよう。
 うちのように材木を例にとって考えた場合、1本50,000円の柱が運送会社のトラックに乗って倉庫に運ばれてきたとしよう。材木が到着した瞬間から材木自体の価値は下がり始め、逆に材木を在庫にするための費用が増えはじめる。「倉庫マンがフォークリフトに乗ってトラックから材料を降ろし…。」もう既に人件費とリフトの償却費と燃料代が加わっているではないか。翌日何かの都合でこの材料を返品したとしよう。またまた材木を倉庫から出すという費用が加算されるが、引き取るメーカーは50,000円しかくれないのである。まったくバカみたいな話しである。

 2つの例をあげたが、おわかりのように在庫は長期間置いておけば雪だるま式に費用が嵩み、仕入値よりもはるかに高い値段で売らなければならなくなる。
 しかし実際のところは、在庫にかかる費用は全て経費として別で管理されているため、長期間置いてあったからといって高く売るということはしていない。が、在庫があるということは、目に見えないだけで確実に利益を減らしていることは間違いない。
 本当に在庫は「金を食って膨張する怪物」なのだ。このことだけは理解してほしい。


 ではこの憎き怪物を倒すためにはどうしたらよいのだろう?
 


●まず在庫を無くそう!

 怪物を倒す一番簡単なことは、倉庫から在庫を全て消し去ればよいということだろう。そうすることにより、在庫にかかる費用が全て無くなり怪物は死滅する。在庫が消えて空になった倉庫は別の事業に利用すれば、倉庫の償却費は別の利益から出せることになる。
 ここは思いきって倉庫にある在庫を全部捨ててしまおう。

 さてと、倉庫から在庫が消えたからスッキリしたが、たちまち生産ができなくなってしまった。驚くほどのことではないしこれは当たり前のことだよな。材料がないんだから。

 ちょっとだけ工場の生産を止めて、冷静になって考えてみよう。
 まず、これから生産するものを見てどんな材料が必要かを洗い出してみよう。そして必要な材料を全て仕入先に発注する。全ての材料が入荷し終わった時が、その物を作り始めることができる日となる。この材料を発注してから入荷までの期間を"リードタイム"と言い、在庫管理では重要な言葉となる。このリードタイムは材料1つひとつによっても異なるうえ、同じ物であっても仕入先によって異なる。
 リードタイムはわかった。では次は何だ?それは"生産計画"である。生産計画がしっかり決まっていた場合、それぞれの材料がいつ必要になるかがわかる。それにリードタイムを引いた時間が材料の発注日となる。
 今は工場を止めてしまったが、生産計画に沿って発注していた場合は工場を止めなくてもよかったのだ。
 このように、生産計画が確定していてリードタイムがわかっている場合には、理屈の上では在庫は持つ必要がないといえるだろう。特に受注生産型の工場には、この理屈はバッチリ当てはまるのだ。
 だがまだ他にも問題が残っている。いざ生産を始めたとき、仕入れた材料が不良品だったり自分で不良品を作って材料が足りなくなった場合はどうだろう?
 
 例えば夜にラジオで野球放送を聴く場合に、その準備として昼の間に乾電池を購入するとしよう。野球観戦中に昼間購入した乾電池が欠陥品ですぐに電池が切れてしまった。その場合、すぐに乾電池の購入できる店(コンビニなどの24時間営業の店)へ電池を買いに行くだろう。なぜなら目的の物がそこにあり、すぐ購入(補充)できるからである。
 だが、我々の欲しい材料はコンビニには売ってはいない。仕入先に発注しても、大概の場合はきっちりリードタイム分だけ待たされることになる。
 またまた工場を止めてしまった。さて、どうする?


 とりあえず思いつくのはこの2つではないだろうか。
@ 必要なときにすぐ材料を補充してくれる業者をさがす
A せっかく在庫を無くしたけどもう一度在庫を持つ

ちょっと順番に考えてみよう。
 まず@についてだが、昼間なら以外と簡単かもしれないが夜間だとどうだろう?夜間作業で材料が足りなくなった場合、すぐ届けてくれる業者なんてないだろう。仮にあったとしても、電話で注文してから材料が到着するまでに数十分から数時間はかかる。これではまた工場を止めてしまうことになる。まあそんな場合は次の予定にある作業をるればいいことだが…。ただラインの場合にはそうはいかないけどな。
 ではAのように在庫を持ってみよう。材料が足りなくなった場合、倉庫に必要な材料があれば取りに行けばいい。その間の数分は工場が止まるが、たいして影響は出ないはずだ。さっきの話には矛盾するが、今度は在庫を持つという方向で考えてみよう。



●在庫をもってみよう

 今は倉庫に在庫がひとつも無い状態である。皆さんなら在庫に持つ材料と、確保する数量はどうやって決めるであろう?闇雲に在庫で持つ材料を決めるのは危険だ。以前のように怪物が丸々太っていくのが目に見えているからだ。
 まずはどの材料を在庫に持てばよいのか考えてみよう。ここではそうとうシビアなデータが必要となる。そこで登場するのが"ABC分析"である。
 この"ABC分析"って聞いたことあるだろぅ?そう!使用実績(数量)の多いものから順に並べてパーセントでランクを付けて、その中で一番上のAランクのものだけを管理しようってやつかな。簡単にいうと、材料全体の中で重要なものとそうでないものをわけることだ。まあだいたいこのAランクに絞って管理しておけば全体の80%程度の確立で品切れになることはないから、これだけで十分ではないだろうか。まあ、残りの20%でトラブルがあったときは事故ということで…。
 ちょっと注意しなければいけないのは、よくコンサルタントがやってきてこのABC分析を、「金額ベースでやってみよう!」なんていうけど、今回は倉庫の在庫数量について考えているので、必ず"数量ベース"でやる必要がある。

 ABC分析はできたぁ?表かグラフにまとめたら、その中からどこのラインまで管理するかを決める。まあ70〜80%のところでいいだろう。これだけだと全材料の2割程度の数で収まるんじゃないかな。これで在庫に持つ材料の一覧ができたな。
 次に決めなきゃならんことはそれぞれの材料に対して、どれだけ在庫を確保するかという在庫数量だ。
 ん?えっ何?"安全在庫を計算すればわかる"だって?まあそうだけど、
 「おぉ〜〜いいところに気がついたねぇ〜」なんてあたしゃホメてあげないよ。でも考え方次第ではこの安全在庫も使えるかな。



 安全在庫っていうやつは、"ある一定の期間内で材料や商品の需要変動がおこっても、品切れが一定の範囲に収まるようにするための在庫"というものだ。このある一定期間というのは、材料調達期間つまりリードタイムをさしている。要するにだ、材料を発注してから入荷(入庫)するまでの間に当然在庫は減っていくが、需要変動で通常より多く材料を消費したときに、この材料の品切れをおこす率を決めて在庫を持つということである。
 あたりまえにして品切れ率を0%にすれば在庫は多くなり、在庫を減らそうとすると逆に品切れ率が多くなる。まあどっちをとるかは在庫管理者に任せるとする。何しろ品切れ率が0%と10%では、0%の方が3倍以上在庫が多くなるからな。

 安全在庫=品切れ許容率(係数)×√リードタイム(週)×一週間の消費量の標準偏差 

 ちゃんと計算式を書いて説明したいとこだが、あたしの大嫌いな数学の分野なので遠慮させてもらうことにする。ただ品切れ許容率が0%の場合の係数は4ぐらいだ。

 ここでも冷静に考えてみよう。例えば材料Aのリードタイムが1週間だったとしよう。
この材料Aを1週間使い続けても、品切れ率が一定になるように持つ在庫を安全在庫というのはもういいよな。この"材料Aのリードタイムが1週間"というものは、長いと思うか短いと思うかは勝手だが、大事なことを見逃してはいないか?
 この安全在庫とかリードタイムというやつは、材料を発注する場合に"定量発注方式"を採用している場合に重要となるものだ。定量発注といっても適当に発注しているわけではなく、ちゃんと"経済的発注量"というもので数量は管理されている。おまけに"材料発注点"も決まっているから1週間というものは実際には短く感じるのではないだろうか。
 でもなんで定量発注するの?定量発注するということは、瞬間的には安全在庫+発注数量の分だけ在庫を持つことになるんだぞ。また怪物が発生しそうだ。

 じゃあこの"定量発注"をやめてしまった場合はどうだろう?MRP(材料所要量計算)を採用して、(生産予定日−リードタイム)の日に材料を発注するようにして、必要なら毎日でも発注すればどうだ?入庫したものはすぐに使われるわけだから、ほとんど在庫はいらないことになる。加工の失敗や入荷時の不良品を考慮しなければ、常時在庫はゼロでいいことになる。でも失敗や不良は必ずあるから、今までの状況から統計をとって一番酷かったときの数量を在庫に持つか、まあ平均をとっておけば在庫は少なくてすむ。といってもリードタイムが長い場合にはちょっと不利だ。まあリードタームが2、3日なら有効だろうな。でも在庫は持ちたくないから、あたしだったらもっと上流の"失敗と不良品"についての問題を考えるけどな。

 まあ理屈と実情とは一致しないから、最初は安全在庫を持ってみる方が安全だろう。


 安全在庫の他に"適正在庫"なんて言葉もあるが、生産が主の工場にはあまり必要ないことと、"在庫を持つ"という前提なので話しはやめる。



●置き場を決めるABC分析

 さきにやったABC分析は使用量(本、個など)で計算したが、今度はこれを使用回数でやってみよう。ようするに、在庫品を倉庫に何回取りに行ったかを数えてみて、同じように表はグラフにしてみよう!えっ?何するかって?
 倉庫から在庫がドンと減ったから、今度は在庫を置く場所を考えてみないか?使用回数の多いものから出しやすい場所に置けばいいよな。例えば工場に一番近いところに、一番使用回数の多いものを置いておけば大概効率が良くなるハズだよな。これを各材料置き場にラインを引いたり、棚を利用して番地付けを行うことを"ロケーション管理"という。
 ロケーション管理のメリットは、コンピュータを使った場合特に大きい。在庫台帳では材料の置き場がひとめでわかるし、出庫指示伝票では材料を何処からピッキングするかが指示できる。また、材料入庫時にも材料を格納する場所が指示できるからである。
 これは一言でいうと、材料を出したり格納したりする作業の単純化に繋がり、ミスの軽減や作業効率のアップに繋がるというものだ。
 あたしは個人的にも「これは絶対にやるべきだ」と思っている。



●コンピュータでの在庫管理
 まあ何でもコンピュータでやればいいかというとそうではないが、せっかくだからこの在庫管理をコンピュータでやってみよう。やると言っても大した作業は無い。スタート時の残高を登録して、日々の在庫の増減(入出庫の情報)を入力してやればいいだけだ。あと、1ヶ月たったらコンピュータの在庫数量を一覧表にして、実地棚卸の値と比べてみればいいだけである。当然100%コンピュータの値と実地棚卸の値が合っている…。
 わけないよな〜。合っている会社はすばらしい!!

 まあ、合わないのが普通である。指示や情報を管理するのは事務所であり、作業を行うのは現場だから、その間の情報伝達のルールをよほどしっかり決めておかないと、どうだろう?一致率は30〜40%程度にしかならないのではないだろうか。
 こんな状態が続くと「コンピュータは信用できない」という声が増えてきて、最後には誰もコンピュータを信用しなくなってしまう。
 この最悪な事態を防ぐために、ここでもルールの徹底(標準化)と作業の単純化を行う必要がある。


 でも何で合わないんだ?在庫だって金だぜ!まして、在庫の種類が何万種類もあるわけでもないし、1種類が1日に何万個も動くわけないんだから。でも月にいったいいくつ在庫間違えてんだ?ちょっと在庫についての考えが甘すぎやしないか?
 とくにうちの場合は材木だぜ。釘1本ずつ出してるわけじゃないのに、何で月末で数百本も在庫狂うんだ?どうも理解できない。
 まあどこも同じだろうけど、材料が落ちててもそんなに気にした様子は無いよな。でも金が落ちてたら拾うだろ?みんな毎日金を動かしてるんだぞ。もっと在庫管理に力入れる必要があるってことをわからなきゃダメだ!
 なんて怒ってるだけじゃダメだよな。ひとつずつ問題をつぶして行くことにしよう。

−コンピュータ(帳簿在庫数量)と実地棚卸数量が合わない理由−
まず一般的な問題を大まかに書いてみよう。
@ 各作業者が倉庫から勝手に材料を持ち出して報告しない
A 報告はしたが数量を勘違い(数え間違い)していた
B 事務所の指示と違うものを持ち出した
C 棚卸で材料を別名で拾ってしまった
D 残材(端材)を使用して報告をしない
E コンピュータに入力ミスをした
 あ〜全部問題は"人"じゃない。別の話にもあったが、また人がボトルネックになってるな。この問題を解決するのはちょっとシンドイので、考えられる解決策だけ書いておこう。
 まずは倉庫から出て行くところに注視してみよう。作業担当者が勝手に材料を持ち出すのはどうだろう?倉庫番がいないからこういうことになる。本来は、"入出庫依頼伝票"というものを倉庫番に渡し、倉庫番が伝票を見ながら材料を出すのが一番だろう。ほとんどの場合、倉庫番と呼ばれる人種は在庫管理に命をかけている。出す材料や数量などを間違うことはメッタにない。材料を出してもらう場合には、必ず"出庫依頼伝票"を提出させるようにして、この伝票が無い場合には絶対材料は出さない。倉庫番が材料を出した後で、倉庫番が預かった伝票を事務所に報告することで、上の@からBまではほぼ解決できる。
 倉庫番がいるにもかかわらず、作業者が勝手なことをする場合には、この倉庫部門を別会社にするとかして完全に独立させるとよい。あくまでも理想だが。

 余談だが別会社にした場合、今までのように勝手に材料を持ち出した場合、即"窃盗罪"が適用できる。他所の会社から材料を盗んだことになるからあたりまえだよな。


 まあ別会社なんてムリな話なので、人を雇ってでも倉庫番を一人専任として置くことが必要だろう。えっ?一人雇うと経費がかかるって?それは考え方次第である。
 ひと月に平均原価1,000円の材料が300本分差異が出たとしよう。だいたい在庫の差異というものは、帳簿在庫より実在庫の方が少ないもんだ。そう考えると月に30万円の損失が出るだろ。その分で倉庫番1人の人件費は出る。それに、材料を運ぶのがとりあえず1人だからリフトなんかも少なくてすむ。まだあるぞ。在庫差異は無くならないにしても、そうとう減るだろうから追跡調査に費やす時間も少なくなる。まだまだ利点はあるが後は自分で考えてくれ。

 続きをやろう。Cについてだが、倉庫番のようなエキスパートが棚卸をすれば、拾い間違いなんてほとんど無くなる。それでも心配なら、怪しい材料にはラベルを貼ることだ。ラベルに正しい情報が書かれていれば、別にエキスパートでなくても棚卸はできる。まあ書き間違えれば終わりだが…。

 Dについてだが、生産に使うつもりで出した材料を、残材でまかなってしまいあまったから、その場に放置したり黙って倉庫に戻したりするから起こるのである。これもルールと倉庫番で解決できる。余った材料(新品)は必ず"入庫依頼伝票"を付けて倉庫に戻す。あとは倉庫番が解決してくれるだろう。

 Eは厄介だ。こればっかりはどうしようもない。少しはシステム側でも簡単に入力できるように対応する必要があるが、でも間違いはおこるからな。

 ホントに人が絡む問題は難しい。あたしのように機械相手に仕事してる方が明らかに楽である。「在庫が合わない」と日々聞かされているが、絶対に人に問題があるのはわかっているだけに大変だ。在庫管理は全員でやらないと意味が無いのだ。
 特に在庫管理をしていない(上部だけはしている)ところにシステムを入れた場合、絶対に文句が出る。「めんどくさい!」とか、現場では「やる意味がわからない」などとよく言われる。現場の人にはなかなか理解してもらうことはできない。だからルールと決めてスタートするわけだがこれもできない。じゃあどうすればいいか。
 何処かのバカな議員の大勢いる国の議会みたいに"解散総選挙"すればいい。ルールがしっかり決められている会社に新入社員が来た場合はルール通りにやるだろ?だから解散総選挙っていうか、社員をそう入れ替えすればできると思う。

 そんなことは絶対にできないが、最後の手段としてはこれしかないだろう。



●確実に行う棚卸

 在庫管理のポイントのひとつでもある"棚卸"だが、棚卸と一言でいってもかなり奥が深い作業である。いくら日次のデータ入力を100%こなせたとしても、棚卸で調べた在庫数量が間違っていた場合も、絶対に帳簿在庫と実地棚卸の数量が一致するはずがない。1ヶ月間の作業が報われるかどうかも、最終的にはこの棚卸の制度で決まると言っても過言ではないだろう。それくらい棚卸という作業は重要なのである。
 そうそう、棚卸とういう作業は、倉庫などにある在庫全てに対して数量を数え、それぞれの金額を出すものだ。その他の作業としては、在庫の品質を確認したり、倉庫の整理を行うこともある。
 あたしもいろんな会社で棚卸作業をやってきたが、それらをブレンドした棚卸方法を書いてみよう。
 かなり原始的な方法だが、これが確実ではないだろうか。

−棚卸手順−
@ 2人1組のペアで調査するチームをつくる
A 調査した在庫を記入するための白紙の用紙を準備する(項目名と罫線のみ印刷)
B 在庫調査では1人が読み役で1人が書き役となり在庫を調査する
C できればA・Bについてはチームを変えて2回行うとよい
D もしCを行った場合は両チームの値が一致するまで調査する
E 書き方及び数え方が不明な在庫は直ちに専門の人が確認する
F コンピュータに即時入力をする
G コンピュータから差異のある在庫についての一覧表を印刷する
H その一覧にある在庫についてもう一度調査を行い差異の原因を追求する
I 最終段階で差異のあった在庫については関係者からの報告書を提出させる
 ※棚卸を行っている間は入出庫を行ってはならない。

 最近の会社ではコンピュータによる在庫管理が当たり前になってきているため、ここで書いているように白紙の用紙を使うところは少ない。親切にも在庫にありそうな材料名などが印刷されているキレイな紙を使う。これはロケーション管理ができている場合にはやっても良いが、そうでないところは白紙の紙を使え!もっとひどい会社になると、論理在庫(帳簿在庫)まで丁寧に印刷されている場合がある。あたしからすれば「アホ」としか言い様がない。人間の心理からして、そこにある物全てを数えるなんてことはやりたくないだろう。だからやっているうちにズルくなり、印刷してある数量を鵜呑みにして同じ数字を書くやつが出てくる。これが"みなし在庫"と呼ばれるやつだ。これは絶対に起こるから論理在庫なんて印字するなよ!
 あたしが白紙の紙にこだわるのは、棚卸の時点で「人間の目で判断できる在庫管理」を目的としているからだ。


 白紙にありのままの情報を書かせることにより、コンピュータに登録されている情報が正しいかがわかる。というのは、コンピュータには在庫の細かい情報まで記されているが、実際に現場では細かいところまでは判断できない場合がある。そうなると、実際のコンピュータの出庫指示と現場での出庫の情報が食違い、在庫の情報などが不正確なものになる。
 だから棚卸で白紙に書かれた情報が、「人間の目で判断できる」レベルなのである。このレベルでコンピュータを登録し直すことで、現場との情報交換が円滑に行えるようになるとあたしは考えている。
 どうしても細かい管理をしたいならば、全ての材料にラベルを貼るしかない。物にラベルが貼れない場合には、それを収納している棚などでもよい。棚卸ではこのラベルに記載されている情報と、その在庫の数量を調べればよいことになる。
 先にもあったが、ロケーション管理が確実に行われている場合、棚番と数量だけの調査でよいということは言うまでもないだろう。やはりロケーション管理は在庫管理にとって必要なものなのだ。



●在庫管理の未来

 いろいろ書いてはみたが、この在庫管理を確実に行うということはとても大変なことだということがわかったかと思う。しかし、やる内容についてはごく当たり前のことなのである。これを実現するには"やる気"と"根気"がかなり要求される。
 いくら倉庫でルール化をしたところで、現実的に作業量が増えるだけで仕事は楽にはならない。あたしたちのようなエンジニアの仕事としては、この増えた作業をいかに簡素化するかや簡略化するかが腕の見せ所である。
 旅館やホテルに設置してある冷蔵庫を思い出してほしい。飲み物やおつまみを冷蔵庫から抜き出した瞬間に在庫(この場合は冷蔵庫が倉庫)から引き落とされる。コンピュータが減った分の在庫を把握しているから、翌日にはその分の商品が補充されている。またこの情報は売上システムにも連動しているため、宿泊客への請求も一発で終了というものである。もっと言うならば、旅館の倉庫(バックヤード)にはこれらの商品が山のように置いてあるが、宿泊客が冷蔵庫から出す情報の累計から、倉庫に残っている在庫量も計算されている。誰かが倉庫からこっそり抜き取らない限り、絶対にコンピュータと実在庫が合っているハズである。これは流れ全体がシステムとなっており、非常に理想的な考えではないだろうか。
 うちでも同じことをやりたいが、扱っている物が違うだけに絶対に不可能である。できることがあるとすれば、在庫全てにバーコード(背番号)を付けて、倉庫と工場との境に関所をもうけ、ここを通過する材料全てをバーコードリーダーで読みとって管理する。といったことぐらいではないだろうか。これだけでも正確な材料の動きが見えてくる。棚卸についてもこのバーコードを利用することで、在庫の種類を読み間違えるなどのミスが無くなる。コンピュータを使う以上は正確な情報を入力しないと意味がないのだ。


 にしても在庫管理は大変な作業でムダな作業にほかならない。
 だから先にも書いたが、「コンビニやスーパーのような物の流通業界は適度な在庫を持て。そうでない業種(製造業など)は在庫を持つな。持ったとしても最低限だけにしろ。」ということが言えるだろう。
 在庫自体が少なければ、この管理に必要な時間や手間も少なくてすむ。倉庫の会話でよく「うちは在庫が1ヶ月あったが今は2週間になった」というものを聞く。これは倉庫全体の在庫量が約半分に減ったということを意味している。一般的な言葉に置きかえると、"在庫回転期間が2週間"ということになる。"在庫回転期間"というものは、在庫を補充しなかったと仮定して、在庫が無くなるまでの期間と覚えるとよいだろう。
 しかし、このような話しで出てくる在庫回転期間というものは、全在庫を金額ベースで計算したものが多い。経営者からすればこれでもいいが、やはり在庫を減らすという点から考えた場合に金額ベースではおかしい。
 あたしの考えるところ在庫回転期間というものは、個々の材料別に考える必要があり、最高の在庫回転期間はその材料のリードタイムと考えている。次の材料が入荷するまでに全ての材料を使いきる。これがベストではないだろうか。
 ただ現実的に管理ができるかどうかは別の問題だ。

在庫を減らして効率的な管理を行うために必要なことだけを書いておこう。
@ 倉庫に何が保管されているかを人間レベルで知る
A ロケーションを決めて在庫を置きかえる
B 保管されている物が何であるかをわかるようにする(在庫にラベルを貼る)
C 材料と伝票の入出庫時の流れを明確にしてルールを徹底する
D 各材料のリードタイムを確実につかむ
E MRPを利用できるように生産計画を確実に立てる
F 確実に納期を守る取引先を探す
G 材料を触る者全ての商品知識を統一する

 まずはこれだけに集中してみるとよいと思う。
あたしに言えることはこれだけである。問題はやる人間の意識になるけどな。

今の世の中、在庫を持つということは大変恐ろしいことである。なのに何も考えずに売れそうにない在庫を山のように保管している倉庫がある。経営者はその在庫の山を見て何を考えているのだろう?

また、このご時世そんなに多くの在庫を担いでいったい何処へ行こうというのだろうか?

せっかくだから在庫を減らそうぜ!絶対にメリットの方が多いから…。


2000/06/22 Katsuhiko Ogata


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