在庫管理奮闘記「システムとの闘い」
〜この闘いはいったいいつ終わるのか〜



 以前の話の中で、"在庫"というものについてと"在庫管理"というものは理解していただけたかと思う。今回の話は、自社で開発したプレカット工場向けの生産支援システム(以下:プレカットシステム)について、立ち上げから稼働までの業務改善に対するエピソードを話すことにする。


 うちの会社でもどれくらいの人が理解しているかは知らないが、社内にコンピュータシステム部門があるがゆえに、在庫管理のほとんどがコンピュータシステムで行われている。日々何気にコンピュータに向かっている社員の努力の甲斐があり、月末の在庫数量というものがコンピュータシステムから出力されてくる。
 「あ〜、ありがたや〜!ありがたや!」
 各部署の管理職の方は感謝の気持ちでイッパイだろう。
 「だがな、この数字あてにならね〜んだよ!」
 内情を知っている人間からすると、ついこんな罵声を発したくなるほど間違った内容となっている。
 実際に月末に棚卸作業を行ってみると、正直なところ2〜3割の信頼性しかない。これではコンピュータシステムを利用している意味が無くなってしまう。というのも、「この材料の在庫はいくつある?」と訊ねられたとき、その答えの5回に4回は間違っているということになる。そうなってくると、コンピュータシステムに在庫を訊くより、自分の足で倉庫を見に行った方が後々のことを考えた場合は楽になるのだ。それが当たり前になっていることも、コンピュータシステムで在庫管理ができない理由のひとつだろう。もう少し倉庫が遠いところにあればいいのにな。歩いて10分かかるところまでは誰も在庫を見に行こうとはしないだろうから。
 ん゛?でも倉庫が遠くにあってもコンピュータを使うとは限らんな。ではどうやってコンピュータを使わせるのが一番いいのか?



●強引矢の如し

 「おいおい、タイトルの字間違ってるぜ!」と指摘されるんですが、"強引"でいいんですよ。

 まずは今のままプレカットシステムを使ってもらうという作戦に出た。
 なぜかというと、あたしのシステムの思想が「あたりまえのことをやれば完了する」ことができるように、通常の流れ(正しい流れ)にそって作らなきゃいけないということだから、ムリにでも使わせれば何とかなるだろうと思った。この「強引矢の如し」とは、強引にかつ矢のように早くまっすぐにやらせることで流れを掴ませようというものだ。
 で、どこから攻めるか?
 その前に、在庫管理をするうえで必要なものは、"棚卸情報の入力""入庫情報の入力""出庫情報の入力"である。まず入庫情報の入力についてだが、考えてみれば入庫の前には必ず発注がある。当然のことながらあたしのシステムには発注管理も組み込まれているから、この発注情報を入力するところから始めることにしよう。

 次は出庫情報の入力だが、加工する前には必ず使用する材料は決まっているハズなので、この情報を予め入力させることで対応することにする。そうすれば材料の在庫引き当てもできるし、材料の欠品予測もできるというものだ。これぞ一石二鳥そのものだろう。そうそう、この使用材料については、CADの部材情報がフロッピーディスクでもらえるから特に入力は必要ない。ホントにラッキーじゃない!
 さてさて、残るは棚卸情報の入力か。まあこれは実地棚卸で拾った情報を入力するだけで、その時のコンピュータ内の在庫情報と比べて自動で差異が出ればいいだろう。

 さてと、これを強引に実行させるためにシステムの説明をしなきゃならん。
 ん〜、でもシステム全体の説明会をするにも規模が大きすぎる。また、そんなに担当者の時間を割かせるわけにもいかない。本来ならシステムを利用する人間全てが、システム全体のことを理解していてくれることが望ましいんだが、とりあえずシステムを5つのフェーズに分解して勉強会を開くことにする。
 各フェーズの内容は次の通りだ。

@ 見積関係
・ CADデータの取り込み方法とその仕組み
・ 見積データの入力方法
・ 見積明細の在庫確認
・ 見積明細の単価変更方法
・ 使用材料と社内在庫との関連付け方法
A 日程計画関係
・ スケジュール計算とその仕組み
・ 問い合わせ画面からのスケジュール作成方法
・ スケジュールの変更方法
・ 各スケジュールの確認方法
・ 部門及び設備の負荷の検索
・ 作業指示書発行
B 物件受注関係
・ 物件受注入力方法
・ 受注の検索と一覧表の印刷
・ 材料発注と荷受指示書印刷
・ 材料入庫入力方法
C 作業実績収集関係
・ 作業開始入力方法
・ 作業終了入力方法
・ 材料出庫実績入力方法
・ 発注状況及び入荷状況検索
・ 作業進行状況検索及び一覧表の印刷
D 物件終了とその他の業務
・ 受注別原価計算方法
・ 物件終了報告入力
・ 在庫引き落とし入力方法
・ 不足材自動発注方法
・ 在庫照会

 システムを利用する担当者には、この5つのフェーズで自分が関係する部分だけを受講してもらう。工場長以下全ての担当者が関係するフェーズをピックアップして、スケジュールを時間割表のように作成した。これを工場へ渡して都合の良い日を決めてもらった。

 よし!勉強会向けの資料もフェーズ毎に完成した。あとは勉強会をするのみだ。

 実際に勉強会をやった。5回ともほぼ全員参加で大満足。
 これからやってもらう業務(作業)内容にも多くの質問が出た。出された質問は、実機を使ってその場で説明・理解してもらった。これで明日からでもシステムフル稼働といけるぞ!
 本来コンピュータシステムを利用してもらう場合、その職場の中で適任者を選出してキーマンをつくる。キーマンはシステム全体を把握して、操作でわからない部分の説明や入力されたデータの監視役、システム改善への要望とりまとめといった作業も行う。だが今回の場合、システムを導入する部門が同一敷地内にあることと、日常業務多忙のためにキーマンはつくらなかった。

 とりあえず強引にGO!
 システムの運用が開始された。
 システムは毎日滞りなく動いている。
 ん…?
 見積機能以外は止まってんじゃん!?
 緊急会議じゃ〜〜〜!!



●第1次業務改善会議

 いきなり「こら〜〜〜!」とは言ってない。
 会議の席で担当者に確認をとった。やっぱり見積機能以外は使われていなかった。その反面、この見積機能はかなり重宝されている様子で、作成される見積は全て登録されていた。まあシステムの滑り出しとしてはこんなもんか。いや、妥協しちゃいかん。
 現状を全員に報告して会議を進める。
 どうしてシステムが止まっているのでしょう?
 「システムの使い方がよく分からない。」
 なぁに〜!?
 りんごをかじっていないのに思わず歯茎から血がでるところであったが、ここは大人?ぐっと我慢するのである。
 でも、見積機能はフルに使われているようですが…?
 「見積機能は、CADのデータが利用できるのでとても便利だ。簡単に見積書が作れるからね。」
 まぁそうだろう。
 見積機能にはCADのデータが利用できることの他に、単価をイッパツで変更できたり、材料をイッパツで変更できたりといった、通常の見積作成には欠かせない機能が盛り込まれている。
 やはり自分が楽にならないと使わないのか。
 あたしもそうだが、自分の仕事が楽になるか、よほど追い詰められているとき意外は他人のソフトは使わない。必要なものは自分で作る主義である。逆に言うと、「自分で作っていないものは必要ないもの」と言うことになる。
 この考えから当てはめると、担当者にしてみれば毎日ワープロで作っていた見積書だが、このシステムを利用することでもっと楽に簡単にできる。だからその部分はシステムを利用する。と言ったところであろう。逆に使われていない部分は、自分の仕事には関係が無いものと言うことになる。
 なるほどね。
 でも考え様によっては見積機能は優れているとも言えないか?営業マンが全員使っているんだからな。しかしここで自分を慰めている場合ではない。
 今回のテーマは在庫管理だ。これは絶対にやらなければならない。
 妥協は許されない。
 よし、業務の流れを変えてやる!
 まずは発注業務からだ。
 現状の発注方法を調査してみた。自社でワープロ印刷した紙に手書きで発注しているものと、発注先の専用用紙に書き込むものの2種類があった。
 自社のワープロフォームは変更可能だな。
 発注先の専用用紙は変えられないのだろうか?専用用紙での発注が変えられないのなら、発注先を変えるだけのことだが…。
 早速発注先に確認した。
 特に問題は無いようだった。
 では明日からでもやりましょう!
 発注業務と言っても別にムズカシイことは何もない。今まで手書きで発注書を作成していたものを、見積書と同様にシステムから出すだけだ。おまけに見積で作成した部材の情報からピックアップして、そのまま発注情報を作成する機能があるからな。いちいち手で入力する必要もないから、見積書を作成する感覚で入力してくれるだろう。

 もう一度発注業務について説明を行う。
 当然のことながら、発注情報を入力するということは発注残管理もできる。そのこともあり入荷処理についても説明した。これで発注と入荷(仕入)については完璧だ!
 とりあえず日次業務の中に発注を取り入れた。
 
 お〜データが入力されている。思ったより順調ではないか。
 ん?でも発注単価が入力されていないぞ?
 まあ単価が入力されていなくても発注はできるけど、システム的には発注単価がゼロ円ではマズだろう。
 発注するときには単価決まってないものなのか?この業界は。
 普通は決まってるだろう。でないと高く請求されても分からないからな。だから発注単価を入力させて、請求書が来た時点での合計金額を比べれば不正がわかる。そのためにも発注単価の入力はしてもらう必要があるのだ。
 なんとか入力してもらえないものか会議の席でお願いした。
 システムで自動的に発注単価の参照ができるようになっている。ただし、材料コードで識別されている明細のみだ。というのは、特殊な材料の場合にいちいち材料コードを登録しなくていもいいように、コードが無い状態で発注情報の作成ができるようになっている。いわゆる"諸口"という扱いである。その他の材料には全てコードが付いているから、ボタンひとつで発注単価が設定されることになる。
 これで発注単価の入力もしてもらえるようになった。
 見る限りでは発注は順調だ。

 発注ができるんだから入庫もできてるよな?
 って、できてないじゃん。なんでだ?
 発注情報はたくさん入力されているのに対して、入庫情報は4〜5割程度しか入力されていなかった。即座に原因を追求してみた。

 材料の発注がシステム経由になったため、今まで各営業担当が個々に発注していたものが全て事務担当に集中したため、処理のキャパがオーバーしてしまったのだ。
 そりゃそうだろう。



●第2次業務改善会議

 なぜ発注業務が集中してしまったのか?
 「今までなら電話やFAXで簡単に発注できたが、今は材料発注するだけなのにシステムに入力しなければいけない。面倒だしそんな時間がない。」
 これが殿方の言い分であった。
 なるほど。

 世間ではいま、ISOを取得するということが流行っている。例外ではなくうちの会社もISOを取得しようと日夜頑張っている。ISOというものはイヤでも記録を残さなければならない。この発注に関する記録も例外ではない。
 チャンスだ!
 まずは電話による材料の注文(発注)を禁止にした。
 当然文句は出たが流れをつくるうえでは仕方がないことだ。我慢してもらう。
 続いてはFAXによる注文だが、システムから出力される書式(発注書)以外では注文(発注)禁止にした。
 こちらも大ブーイングの嵐になると思われたが、意外とすんなり受け入れられた。
 が、ブーイングが少なかったかわりにまたまた事務担当の仕事量が増大した。このことは予想されていたことなので、即座に会議を開催した。

 「発注書は発注者が100%責任をとる」ということを前面に打ち出し、発注書の作成は必ず発注者(発注したい人)が行うことにした。当然発注単価の入力もね。
 決めたんだ!
 何か意見ある?
 誰も意見を言わない。勝訴だ!
 さすがに管理部を交えての会議は違うね。この会議はちょっと圧力をかける意味でも、本社から管理部の人間を招いていた。
 さあ実行だ〜!
 
 全ての発注とまではいかないものの、発注は発注者が入力しているようだった。ただ、発注を入力する時間が無い場合などは電話で注文して、後で発注情報を入力するといった者も現れた。電話注文は禁止にしてあるハズだが、まあ滑り出しということもあり目をつぶることにした。
 しかし時が経つにつれて電話注文は姿を消した。
 こうして発注される材料の情報は全てシステムに登録されるようになった。作戦成功といったところだろうか。

 あれ、単価がメチャクチャだぞ?それに発注単価がゼロ円のものがたくさんある。
 あれだけ発注単価の重要性を説いたのに、一部の担当者の単価が入力されていなかった。

 ここも強引に行こう。
 入庫情報(仕入情報)の入力を完璧にすることと、発注時の単価を完璧に入力させるための作戦をたてた。
 見えてきた原因は、発注単価は別にして部材の情報だけちゃんと入力されていれば、発注を行った担当者も困ることはなく、また、実際に加工を行う現場作業者も困ることはない。
 これだ!
 結局、材料を発注できて物だけ入荷すれば"誰も困らない"というところが問題なのだ。誰も困らないからそこで業務が完結してしまうのだ。
 よし、最後まで処理しないと困るように仕組みを変えてやる。
 またまた管理部を交えての会議が行われた。

 まず現状を再確認してみた。
@ 発注情報は各担当者が入力している。材料情報は100%入力されている。
A 発注された情報の中で、発注単価は50%程度しか入力されていなかった。
B 発注された材料の入庫情報(仕入情報)が50%程度しか入力されていなかった。
この次には必要な業務はない。
 これを全て100%にさせるためには、上記Bの次にも業務の流れを作る必要があった。そこで思いついたのは、このプレカットシステムから販売管理システムへデータを受け渡すことだった。
 工場で使用している販売管理システムも自社製である。プレカットシステムでは外部基幹システムへのデータ排出ができるようになっている。この機能を利用しない手は無い。そこで強引にプレカットシステムと販売管理システムを繋いだ。
 プレカットシステムの入庫情報を、ダイレクトで販売管理の仕入情報として扱うことで、伝票入力の2度打ちの手間の削減できる。まあこれは口実にすぎないのだが、この流れを定着させることができたらイヤでも入庫情報を入力しなければならなくなる。
 だが発注単価はどうするか?
 入庫時には入荷単価はわからない。だが販売管理システムへデータを転送する前までには入庫単価を入力する必要がある。
 ここはひとつ管理部直営の財務管理センターを巻き込むか…。

 作戦を成功させるために流れを変えることにした。
@ 発注情報を各担当者が入力する。
A 単価は必ず発注時には入力する。
B 材料が入庫したら即座に入庫情報を入力する。
C 財務センターで発注単価と納品書の単価を検査する。
D 発注単価と納品書の単価が違うものは発注者へ差し戻す。
E 差し戻された情報は、仕入先と協議のうえ上司の確認のもと単価を訂正する。
F 全ての単価訂正が終了したら販売管理システムへ仕入情報として転送する。
 というような流れだ。
 入庫情報を確実に入れないと、その次に待っている販売管理システムでは1ヶ月間の収支が出せなくなるからな。
 これでもう逃げられまい!

 会議の席では発注単価についてが一番問題となった。
 「単価はコロコロ変わるから、いちいちシステムのマスタを更新したり、発注時に調べて入力するのは大変だ。それにそんな時間も無い。」
 またまたこれが殿方の言い分だ。
 単価ってそんなに変わるのか?同じ仕入先でも毎回単価が変わるのか?
 この業界の単価は相場が基準ではあるが、毎回単価が変わるなどということは無いハズだよな。
 すると部長が口を開いた。
 「一部の仕入先を除いて3ヶ月は単価が変わらないだろ?それに毎回単価が変わることはない。」
 やっぱりそうだろう!
 いくら相場と言っても、魚屋じゃないんだから毎日は変わらないよな。
 これもただ単にやりたくないだけのようだった。
 しかし部長の一言で状況が変わった。現在登録されている単価を見直して、発注で使える単価に修正でき次第これを利用することになった。

 早速、最新の単価に変更した。
 お〜単価が入力されているぞ!

 あれ?若干入力漏れがあるじゃない。
 入力されていない発注をピックアップしてみた。よ〜く見ると規則性がある。と言うか、社内の発注のみが入力されていない。何か理由があるのだろう。
 早速調査してみた。
 殿方の言い分はこうだった。
 「社内の製品課からの単価は、物が納品されてくるまでは分からない。だから入荷してからしか単価が分からない。それに訊いても教えてくれない。」だった。
 本当にそうなのか?
 これも製品課に確認をとった。
 確かに現在は納品時に伝票を切って、その時に単価が決定しているようだった。
 これでは発注時に単価を確定させることができない。
 だが、単価を訊かれたらちゃんと答えるとは言っていた。
 お互いの言い分が違う。
 どうしたものか?

 財務管理センターに相談してみた。
 現在のままの処理を行った場合、発注時の単価がゼロで、入荷時に単価を入力するしかないため、発注単価と入荷単価が全て不一致になってしまい、財務管理センターでの単価確認処理ができない。この事態を重く見た財務管理センターが新たな流れを設定してくれた。
 発注情報をプレカット工場で作成し、製品課で発注書が確認された時点で製品課側でプレカットシステムをリーモート利用して、納品前に発注単価を入力するというものだった。
 これなら入荷前には発注単価が入力されているから、通常の流れに沿って事務処理ができることになる。
 製品課には申し訳無いが、早速これで行くことにした。

 製品課が頑張ってくれたので、思いのほかスムーズな流れ出しとなった。
 様子を見ている感じでは何も問題はなさそうだ。
 とりあえず満足と言ったところであろうか。



●忘れられた出庫作業

 材料の発注作業と入庫作業についてはほぼ完璧に行われる毎日である。

 が、やっているのは在庫管理である。
 材料の入庫に目を向けていた間、誰もが"出庫作業"というものを忘れてしまっていたのである。
 入庫作業が約100%できているのに対して、出庫作業は10%程度だった。
 確かに"入庫・入庫"と喚き散らしてはいたが、本来"出庫"とは入庫の裏返しであるため、入庫を完璧にする間に何度も説明は行っていた。なのに全然できていない。
 人間1つの事に集中するとこんなものなのか?
 いったい今どんな状況なのか?
 現状の調査をした。

 まず出庫作業に必要なものは次の通りだ。
@ 作業指示書(木出し指示書)を印刷するための日程計画
A 元となる見積情報(木出し情報の元)
B 木出しするための出庫材料情報(受注に対する使用材料情報)
 これだけだ。
 システムに登録されている情報を確認したところ、@の日程計画は存在していてAの見積も存在している。なのにBが無い。どういうことだ?
 すぐさま会議を開いた。
 まずは事情聴取だ!
 殿方の言い分はこうであった。
 「見積情報はあるが、加工前に変更が多くて最終的なものではないため木出しには使えない。」
 はぁ〜?
 じゃあお客に提出している見積書はどうやって作ってるの?
 それに加工機に入れる前の部材情報で木出し情報作ればいいんだけど、その部材情報って利用してないの?
 「加工機に入れる情報と見積は直前まで出てこない。だから間に合わない。」
 あ〜またかい。
 なんで直前なんだ。
 工場の運営って誰も管理してないのか?
 それにPFの勉強会で散々「前もって!」ってできるように教えてもらったろうに。
 


●第3次業務改善会議

 特にあたしたちが口を出すことはなかった。
 ここから先は工場内の問題だ。
 何しろ出庫情報が入力できるようにしてもらえればいい。

 作業の流れについては前もって工場で会議を行って決めてもらった。
@ 毎週2回の工程会議で加工日を決定する。(決定した日程は基本的には変えない)
A 最終的なCADの部材情報を取り込み木出し情報を作成する。(木取り票と同じ)
B 木取り票などで材料を出す。
C 全ての加工が終わったら木出し指示書で出庫情報を入力する。
D 取り合わせなどで変更になった物を修正する。
 という流れを作ってきた。
 それに、入庫情報は即日1時から入力を開始し、出庫情報は完了したものを3時から入力すると言うところまで決められていた。
 う〜ん。
 だがこれではリアルタイムではない!
 まあ入庫は良しとしよう。即日に入力されれば忘れることもないだろう。

 が、出庫に関しては「全ての加工が完了したもの」だ。ということは、材料が1本足らなくて加工に3日かかった物件に関しては、その物件が完了した3日後または4日後の入力になる。まあ、入力されないよりはマシだが、もし3日前に口頭で材料変更なんかした場合、その内容についてちゃんと覚えてるのか?それにシステムで在庫を確認したときに3日前の状態しか分からないことになる。
 ちょっとマズイな。
 しかし、まず情報入力を100%にすることが大切だ!
 ここは100歩譲ってこの流れでお願いすることにした。

 様子を見ている限り、やはり出庫処理は数日遅れてはいるが入力はされていた。
 お見事!!
 あたしたちが何も言っていないのに、工場だけの力で改善できている。
 納得できない点はあるが、このまま見守ることにした。



●棚卸の落とし穴

 当たり前だが毎月月末には棚卸という作業を行っている。
 倉庫にある材料の数量を数えたり、倉庫の整理を行ったりしている。
 この棚卸作業の後にシステムに登録されている帳簿在庫と、実際に手で拾われた実地棚卸在庫との比較を行っている。
 システムが稼働した時点で帳簿在庫と実地棚卸在庫を比較した結果、一致率はわずか19%程度しかなかった。あまりにも酷過ぎる。
 一般的な企業で在庫管理システムを稼働させた場合、初回の棚卸結果との一致率というものは少なくとも40%近くはあるはずだ。なのになぜだ?
 原因究明を急いだ。
 入庫や出庫の情報に誤りがあると誰もがそう思った。
 問題を一つずつ解析することにした。

 まずは入庫処理についてだ。
 1ヶ月間の入庫情報を全て確認した。この作業は先に作った流れの中で財務管理センターへ依頼した。結果は数パーセントの漏れはあったが大した影響は無かった。
 次に出庫処理だが、ここに若干の問題があった。
 システムで月末の締めを行う時点で、その締めに間に合わない情報が数十明細存在していた。だが、この明細がそれほど影響を及ぼすとは考えられない。
 とりあえず締め日での注意点を説明して様子をみることにした。
 そして1ヶ月が経過した。
 棚卸の結果と比べてみると、一致率は23%であった。
 思ったより良くはなっていない。
 システムに携わる担当者全てで登録されている情報を確認した。
 出庫情報の入力についての問題は改善されていた。
 が、入庫情報についても出庫情報についてもほぼ100%入力されていた。
 
 当然のことながらシステムの集計方法も疑われた。
 システムの集計方法を確認するうえで、入力されている情報を別のチェックプログラムで確認させた。全て合っていた。システムは間違っていない。
 もう一度入庫情報の確認を財務管理センターに依頼した。
 やはり合っている。
 出庫情報についてはあたしたちで確認してみた。
 木出し指示書の内容とは合っている。
 となると、疑うべきところは棚卸作業そのものだ。
 だがすでに棚卸を行ってから1週間が経過していた。もう調査のやり直しはできない。
 
 工場で原因を報告して会議を行った。
 工場のスタッフは「そんなことあり得ない」と言った感じであった。
 しかしそれを証明しなければならない。
 そこで考えられた方法は次のことであった。
 "入出庫作業を確実にするためと、棚卸作業を確実に行うために半月に1度棚卸を行う"というものであった。だが果たして半月に1度の棚卸などできるのであろうか?
 半月と言うと、棚卸から次の棚卸まで2週間しかない。今までのように棚卸の集計に1週間かけていたら、次の棚卸までに問題点の解決や対策を練る時間が無い。それに作業的にもかなりハードになる。
 しかし、この案件は工場ではすんなり受け入れられた。
 それにこうも決まった。
 "棚卸の仮集計は即日の5時までに行う"と。
 誰からも反対意見は出なかった。

 半月毎の棚卸を数回重ねたが一向に一致率が上がらない。良くて30%程度だ。
 入出庫処理には問題は無い。
 棚卸そのものの情報を分析してみた。
 システムに帳簿在庫と実地棚卸在庫との差異を計算させ、その差異の大きなものから順に印刷させた。
 なんじゃこれ?
 差異の最高は1000本!?
 当然即日会議を行った。
 全員で原因を分析した。
 棚卸ミスの原因は次のものが多かった。
@ 前回の棚卸と違う樹種や等級で拾った。
A 拾い忘れた材料がある。
B 不良材扱いの材料も拾ってしまった。
C メーカーを間違えて拾った。
D 本数の数え間違い。
 これらが大きな原因であった。
 特に@の場合、1種類のミスがあったとしたら、その裏返しになった材料が発生するから致命的である。
 AとDについては注意するしかない。
 よく考えた場合、材料の情報がハッキリしていないのが原因である。
 置かれている材料をハッキリさせる必要があるな。
 
 そこで次の対策を考えた。
@ 不良材は新たに場所を確保して1ヶ所に集める。
A 間違えそうな材料にはラベルを作成して貼りつける。
B システムでメーカーを管理しないようにする。
 とりあえずこの3点について直ちに実行した。
 2日掛りで不良材を移動して1ヶ所に集めた。
 材料に貼るためのラベルを作成して、よく間違えられる材料や、バンドルで入庫する材料に貼り付けた。
 システムからメーカー情報を消し、在庫情報を名寄せして新たにマスタを作成し直した。
 さあもう一度仕切り直しだ!
 
 棚卸の時が来た。
 いざ集計を開始してみると係った担当者全員が驚いた。
 一致率が60%程度までいっきに跳ね上がった。これは皆の努力の成果である。
 しばらくこのまま続けよう。
 それから数回の棚卸が行われた。
 一致率は下がることはなかった。
 しかし、その反面上がることもない。
 どうしたものか?
 もう少し棚卸作業を見直してみるか。
 棚卸で拾われた値を調査した結果、在庫の数え間違いがあることがわかった。
 人間が拾っているから間違いはしかたないが、こうも間違いがあると問題である。
 今まで1回の棚卸の中で1チームで拾っていた部分を、2チームで拾って照合してみることにした。
 2チームで結果が一致するまで数え直すのだ。
 その結果、1ブロックで2〜3種類の間違いがあることが分かった。
 2チームで照合された結果をシステムに入力したところ、一致率が80%程度に向上した。
 大成功である。
 しばらくこのまま続けるか。
 しばらく様子を見たが、一致率に変化は無い。
 しかし、差異に変化が現れている。
 一致率向上後に差異について会議を行った時の最大差異は数十本だったのに対して、現在の最大差異はほぼ一桁である。棚卸を確実に行えるようになったことにより、差異の値が一桁までに減った。
 これで棚卸は完璧と言えるだろう。
 しかし現在は一致率95%以上を目指している。まだ道のりは長い。
 システムに登録されている材料の種類も減らしているから、間違っている材料の種類は40種類程度である。しかも毎月間違っている材料は決まっている。今後これをつぶすことが大きな課題となる。



●終わることのない闘い

 これまでにも書いたが、現在のところ在庫情報の信頼性というものは80%程度である。と言っても棚卸を半月単位で行っての話だ。そう思われる方も多いことだろう。そこで試しに1ヶ月間での集計も行ってみた。この集計を行う前に予想されたのは、半月で20%間違うということは、1ヶ月では40%間違うと言うことになり、一致率は60%程度だろうということだ。
 実際に集計を行ったところ、一致率はナント75%であった。システムを担当する側も、実際に在庫管理をやってる側もこれには驚いた。「ちょと良すぎやしないか?」と誰もが結果を疑った。でもこれが事実だ。
 一部では手をタタイテ喜んだことだろう。
 そりゃあ皆が頑張った努力の賜物には間違いないからな。
 嬉しいだろ?
 やった甲斐があっただろ?
 人間やればできるんだよ。
 それをやらずにブーブー文句言ったり、適当にやって「できない」と言ったりしてるだけなんだよ。
 誰かが言っていたよな。
 「会社に対して不平不満を言っているうちは、会社に対する自分の努力が足りない証拠だ!」とね。
 しかしこの結果で、誰もが諦めかけていた在庫管理に光が見えたのは確かだ。
 これを誉めずにはいられないだろう。
 「本当によく頑張ってくれた。ありがとう!」

 しかし誰か気付いてくれよ。
 あたしゃ悲しいんだよ。
 ん?なんでかって。
 だって半月で20%間違えていて、残りの半月で5%しか間違えてないんだぜ。
 ってことは、1ヶ月間で同じ間違いを繰り返してるってことなんだぞ!
 この同じ間違いを無くさない限り、最終目標でもある一致率95%以上ってムリなんだ。
 誰もがそう思うだろう。
 だが、現状では一番差異の大きなやつでも1桁なんだよな。それに5本以上間違っているやつと言っても数種類しかないから、何処で間違っているかなんて集計後では絶対にわからない。
 日常業務の中で間違いを発見するしか手は無いのだ。
 というのも、毎回の棚卸作業ではほぼ100%在庫を把握することができる。たまに間違いはあるが、それはその場で確認して訂正できるレベルである。原因も全て分かっている。これをつぶす事も大切ではあるが、100%修正可能なら現時点では無視していいハズだ。
 それよりも日次の業務での間違いを先に訂正しないと、現在の80%というハードルを超えることはできないからな。


 さらに分析を進めた。
 現状では入庫情報の入力は100%と言われているが、財務管理センターの報告では若干の漏れが確認されている。それに、システムに入力されている入庫数量にも、やはり若干だがミスがある。
 当然この反面、出庫処理についても漏れやミスがあるハズだ。だが出庫処理については現場での作業担当者も関係してくるため、事務所やシステム側では判断しにくいという部分もある。
 この事については今後の業務改善で進めることにする。

 この1年でこれだけの事に集中してやってきた。その結果として"在庫管理の確立"という光がやっと見えてきたところだ。だがここからが正念場である。ここで気を抜いてしまったら、あっというまに1年前に逆戻りになるだろう。そうならないためにも業務に携わる担当者が、今までの苦労を忘れずに、この流れのまま日常業務をこなしていく必要がある。口で言うのは簡単だが、実際にやってる側にとっては大変なことだということは解っている。せっかくここまで出来たんだから続けてほしい。
 これがあたしたちシステム側からの願いである。
 それに1年前と今では、1ヶ月の在庫量は半分以下に削減されている。在庫回転率で見ても1ヶ月で2回転以上だ。これは棚卸作業の効率化を考えて、在庫置き場を見直し整理を行ったところ、全然動かない材料が見えてきた。その都度思いきって処分してきた。これを繰り返しているうちに、"いらない物は在庫に置かない"と"余分な物は仕入れない"ということが定着して、気がついたら在庫が減っていたというものだ。
 確かに倉庫を見る限り、1年前に比べると寂しいぐらい材料が無い。
 でもこれでいいのだ。
 これで毎日が回っているし、別に材料が欠品するという話も聞かない。
 それだけでも今までの業務改善が成功したと言えるのではないだろうか。

 あとは日常業務を100%確実にこなすルールの確立と、プレカットシステムに確実に情報を入力することで在庫管理が完成する。
 あたしたち、いや、このシステムに携わる全ての担当者は、その日が1日でも早くやってくるのを楽しみに待っていることだろう。


 最後にひとつだけ言わせてくれ。
 "システム"と言うものはコンピュータで利用するものではない。システムとは日常生活の中に存在し、会社で言うならば日常業務を円滑にこなすための流れを指す。この日常のシステムが正しいかどうかを判断するために、その日常システムの一部をコンピュータに載せて判断することになる。会社に存在するシステムを10個の業務の流れとした場合、コンピュータに載せられるのはせいぜい3つが限度である。残りの7つは人間の手でやらなければならない。
 と言うことは、日常の闘いとはほとんどが「人間との闘い」なのだ。
 先にも書いたが、コンピュータは日常システムの一部が正しく行われているかを判断する道具にすぎない。
 だからコンピュータがうまく利用できないと言うことは通らないのだ。
 まあ、コンピュータシステムが日常システムに合わない場合は別だけどな。

 この先コンピュータシステムと闘って勝利したとしても、その他に残った7つの日常業務とも闘わなければならない。そのことを肝に銘じてほしい。
 おまけに日常業務というシステムは、業務改善が日々行われていることもあり完結することがない。
 システムは生き物であり、常に進化を続けて行くものでもある。
 とすると、システムに勝利することはないとも言えるだろう。
 しかし、システムに闘いを挑み、システムを理解しているうちは決して敗れることもないだろう。
 だからこの闘いには終わりはないと言うことだ。


 この終わりのない闘いに挑み続けていく限り、会社は確実に成長していくことだろう。



2000/11/13 Katsuhiko Ogata


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